遊戯王世界でばら色人生   作:りるぱ

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第13話 進化した炎で2回焼こう

 久々のデュエルだ。シチュエーションは夜の森。相手はブルーの女子。

 なかなかお目にかかれない状況ではないだろうか。

 

「わたくしが先攻のようですわね~」

 

 ふむ、後攻か。

 

「それでは、わたくしのターン。ドローですわ~」

 

 

◇◆◆◆

 

「ねえジュンコ、ももえのデッキの強さってどれくらいのものなの?

 弱くはないとは思うけど……」

 

 女子寮前の雑木林をわずかなデュエルディスクの明かりが照らす中、明日香は眼前のデュエルに視線向けたまま、隣りにいるジュンコに声をかけた。

 

「明日香さんは知らないんでしたっけ?」

 

 ああ、そう言えば――。

 ジュンコは今更ながら、尊敬する明日香が自分達のメインデッキを知らないことに気がつき、少し顔をうつむかせる。

 

「その……見ていればすぐに分りますけど、あの子のデッキは何て言うか……かなりいやらしいんです。

 アタシ自身あのデッキとは……その……あまり戦いたいとは思えなくて……」

 

 少し言い難そう言葉を吐き出し、ジュンコはゆっくりと顔を上げ、再び眼前のデュエルに目を向ける。

 

「あら……、ふふ……それは楽しみね」

 

 ――デュエルが始まる。

 

 

◆◆◆◇

 

 いつも一緒にいるのにデッキ内容知らないんかい。

 でもまぁ、よくよく考えてみればそれも仕方がないのかもしれない。

 ここデュエルアカデミアのデュエル実習では毎回練習用のデッキが配られ、それを使ってプレイングを覚えていくことになる。友人の個人用デッキを知らないのも、そんなに不思議ではないだろう。

 

「わたくしは魔法カード、【封印の黄金櫃】を発動しますわ~。

 デッキからカードを一枚除外し、自分のターンで数えて2ターン後に手札にそれを戻します。

 デッキから【黒蛇病】を除外しますわ~」

 

 明日香たちの会話に意識を向けている間にもデュエルは進行していく。

 さて、【封印の黄金櫃】を使ってサーチしたと言う事は、あれはキーカード。

 【黒蛇病】……ってことはバーンデッキか?

 

「【巨大ねずみ】を守備表示で召喚いたします。

 そしてカードを1枚セットして、ターン終了ですわ~」

 

 その名の通り、毛むくじゃらの大鼠(おおねずみ)が召喚される。

 世の中、これが生理的に苦手だという方もいらっしゃるようだが、野良ねずみのいない都会育ちの俺は特になんとも思わない。

 

◇◇

 

 さて、ちゃんとした自分のデッキを使うのは久々だな……。よし!

 

「俺のターン、ドロー」

 

 いきなり今のデュエルとあまり関係のない話なのだが、この世界において、デュエルとはショービジネスである。デュエリストには見栄えの良いショーが求められる。

 その為、プロアマにかかわらず、デュエリストはリバース効果のあるモンスター以外をセット状態で出す事はあまりない。これはもう骨の髄まで染み込んでいる条件反射みたいなもので、ももえが【巨大ねずみ】を表向き守備表示で召喚したのもそれが理由だ。

 

 いつもならそれに付き合ってやるのも吝かではないのだが……今回は覗きの汚名を被るかどうかの瀬戸際である。

 悪いが、平常運転で行かせてもらおう。

 

「モンスターカードを1枚セット、

 さらに魔法・トラップゾーンにもカードを2枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

(ももえの場にはリクルーター1体に伏せカードが1枚。そして【封印の黄金櫃】で未来サーチしている。所謂一つの理想的なスタートね。

 対して神君は、あの防御デッキを活用するための基本的な戦術をとっている……といったところかしら) 

 

◇◇

 

「わたくしのターンですわね~。ドローいたしますわ」

 

 ももえはのんびりとした動きでドローカードを確認し、それを手札に入れた。続けて、視線を拓実の伏せたモンスターカードに向ける。

 

「その伏せモンスター、少し気になりますわね~。

 巨大ねずみを攻撃表示にして、攻撃いたしますわ」

 

「ももえ、だめ!」

 

 先日の【アステカの石像】に特攻した【ゴブリン突撃部隊】――あるいは【ゲート・ディフェンダー】に突っ込んだ【おじゃまイエロー】――が脳裏にフラッシュバックしたのだろう。明日香の叫び声が闇夜の林に響く。

 

「さて、永続トラップカード、【追い剥ぎゴブリン】発動。

 ……そして伏せモンスターは【首領・ザルーグ】。守備力は1500だ」

 

 片目に眼帯をつけた盗賊ファッションの男がセットカードより現れる。

 男は素早い身のこなしで【巨大ネズミ】の突進を躱し、右手に持ったナイフで無防備となったその背中を切りつけた。

 

「攻撃力1400の巨大ねずみで攻撃してきたんだ。100の反射ダメージを受けてもらうよ」

 

ももえLP 4000 → 3900

 

 

(高守備力モンスターじゃない?

 と言う事は……あの時とは違うデッキ?)

 

 

「これくらい、たいしたことありませんわ~。

 ですが、そのトラップカードは確か……」

 

「そうだね。【追い剥ぎゴブリン】の効果発動。

 相手に戦闘ダメージを与えた時、相手はランダムに手札を1枚捨てる。

 そしてこれは知らなかったみたいだけど、【首領・ザルーグ】の効果も発動。

 【首領・ザルーグ】が相手にダメージを与えた時、相手はランダムに手札を1枚捨てる。

 全部で合計2枚、手札を捨ててもらうよ」

 

「そんな……困りますわ~」

 

 ももえは手札を裏にしてシャッフルし、上から2枚を墓地に捨てた。

 破壊され、墓地へと送られたカードは【プリンセス人魚】と【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】の2枚。

 それを見て、拓実はほくそ笑む。

 

「なかなかいいものを捨ててもらったな。

 【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】がなければ、しばらくはロックできないだろう」

 

 

「そんな~。グラヴィティ・バインドが捨てさせられちゃった。前にももえとデュエルした時、あれに大分苦労させられたのに」

 

「レベル4以上のモンスターの攻撃を禁止する永続トラップね。

 ――あんな戦術の要となりそうなカードを手札破壊されて……あの子、大丈夫かしら……?」

 

 

「なくなってしまったものは、もう仕方がありませんわ」

 

 そう、ももえはあっけらかんと言い放つ。

 きっと神経が相当太いのだろう。

 その態度から、彼女が外野よりもショックを受けていないことが伺える。

 

「それでは、手札に残ったカード1枚をセットして、ターンエンドですわ~」

 

 

◆◆◆◇

 

「それじゃ、俺のターンだ。ドロー」

 

 どうする? 今手札に高攻撃力のモンスターはない。

 【首領・ザルーグ】の攻撃力は【巨大ねずみ】と同じ1400だが、今俺の場に伏せてあるカードはモンスターの攻撃力を半分にする【収縮】。

 確かにこれを使えば、【巨大ねずみ】は倒せる。

 しかし、【巨大ねずみ】は戦闘破壊されると、デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスターを特殊召喚できるリクルーターモンスターだ。それでキーカードを出されても困る。

 

 【巨大ねずみ】の後ろに伏せられた2枚のカードに視線を移す。

 

 彼女が手札を全て伏せたのは十中八九【追い剥ぎゴブリン】対策だろう。

 ……気のせいかも知れないが、まるで今すぐにでも【巨大ねずみ】を破壊して欲しいように見える。

 それなら、ここは攻撃せずにこちらの本命が来るまで待つか――。

 

「カードを1枚セット。

 そのままターンエンドだ」

 

 

◇◆◆◆

 

「それでは、わたくしのターンです。ドローいたしますわ~」

 

(やはり攻撃をしてくださいませんでしたわね。それに、今伏せたカードは多分――)

 

「このターンに【封印の黄金櫃】の効果で除外された【黒蛇病】を手札に入れますわ。

 さらに今ドローしたカード、【強欲な壺】を発動いたします。手札を2枚補充しますわ~」

 

 ももえはドローした2枚のカードを眺め、わずかに口元をほころばせた後、少し眉を寄せた。あまりにもかすかな表情の変化の為、この場でそれに気がついたのは付き合いの長いジュンコだけであった。

 

(揃ったのね、ももえ。やっちゃえ!)

 

 ジュンコは無言で友人にエールを送る。

 

(さて、これでロックの準備は整いましたわ。

 後は、どちらを消されますか…………賭けですわね!)

 

「手札から永続魔法、【レベル制限B地区】を発動いたしますわ~。

 【レベル制限B地区】の効果により、全てのレベル4以上のモンスターは守備表示になります」

 

 ももえのフィールド上に存在する【巨大ねずみ】は身体を丸め、表示形式を守備へと変える。

 

(さぁ、どういたますの?)

 

「くっ、【サイクロン】発動! 【レベル制限B地区】を破壊する」

 

 

「そんな……どうしよう……ロックカードがまた」

 

 ももえのデッキの要であるキーカードがまた1枚破壊されたことになる。

 思わず弱音を漏らすジュンコ。

 

「でも、ももえには想定済みのようよ?」

 

「え?」

 

 

◆◆◆◇

 

「やはり、そのカードは【サイクロン】でしたのね――。

 ――賭けは…………わたくしの勝ちですわ!」

 

 ……へ?

 

「わたくしは手札から【レスキューキャット】を召喚し、効果を発動いたしますわ」

 

 安全ヘルメットをかぶった猫が登場する。

 猫は「にゃ~」と一声あげて、キラキラ光る星粒へとその身を変えた。

 

「自身を生贄にし、デッキからレベル3以下の獣族モンスターを2体特殊召喚いたします。

 【デス・ウォンバット】と【素早いモモンガ】を攻撃表示で特殊召喚いたしますわ~」

 

 げっ! ウォンバットさん出てきやがった!

 でも【レスキューキャット】で特殊召喚したこいつは、ターンエンドには自壊するはずだ。

 

 【デス・ウォンバット】。

 姿形はそのままウォンバットである。ウォンバットを知らない方のために説明するのなら、ネズミとコアラをくっ付けたような見た目というのが一番近い。大きさは小型犬くらいあるだろうか。――まぁ、コイツは大型犬サイズはあるようだが。

 そしてもう一匹の【素早いモモンガ】。

 こちらは完全にどこからどう見てもただのモモンガである。攻撃力は1000だ。

 

「【デス・ウォンバット】の攻撃力は1600。

 バトルフェイズへと入り、守備力1500の【首領・ザルーグ】に攻撃いたしますわ」

 

「速攻魔法【収縮】を発動!

 【デス・ウォンバット】の攻撃力を半分にする!」

 

「トラップカード【キャトルミューティレーション】を発動いたしますわ!

 獣族モンスターを1体手札に戻し、それと同じレベル・種族のモンスターを手札より特殊召喚いたします。わたくしは【デス・ウォンバット】を手札に戻し、【デス・ウォンバット】を守備表示で特殊召喚いたしますわ~」

 

 

「やるじゃん、ももえ! 【収縮】を回避できたわ!」

 

「それに、【レスキューキャット】で特殊召喚したモンスターはターン終了時には自壊してしまう――。

 【デス・ウォンバット】を再召喚したことで、ターンエンド時の破壊も免れたわけね」

 

「でも、なんでももえは攻撃表示で【デス・ウォンバット】を再召喚しなかったの?

 そうすれば、戦闘で【首領・ザルーグ】を倒せたのに……」

 

「ももえとしては、【デス・ウォンバット】を守備表示で再召喚するのが本命だったのじゃないかしら? 【首領・ザルーグ】に攻撃したのは……まぁ、倒せたらラッキーくらいに思っていた。そんなところじゃない?」

 

 

「バトルを終了いたします。

 わたくしは【デス・ウォンバット】に装備魔法、【ミスト・ボディ】を装備いたしますわ~。

 そしてこのターン【封印の黄金櫃】によって手札に入れた永続魔法、【黒蛇病】を発動いたします。これでロックの完成ですわ~!」

 

 げげっ! 待て待て! これはマジでやばいって!

 ていうかこの子、明日香より強くない!?

 

「ここでフィールドに伏せた魔法カード、【マジック・ガードナー】を発動いたします。

 選択した魔法カードにカウンターを1枚乗せ、そのカードが破壊される時、替わりにカウンターを取り除く事で破壊を免れますわ~。

 対象は……迷いますけど……【ミスト・ボディ】を選択いたしますわ~」

 

 【マジック・ガードナー】の効果により、装備魔法、【ミスト・ボディ】はバリアーの様な(まく)に包まれる。これで一度の破壊耐性を付加することができたわけか。

 

「わたくしはこれでターンを終了いたします。

 そしてターンの終了時、【レスキューキャット】の効果で特殊召喚した【素早いモモンガ】は

【レスキューキャット】の効果により破壊されますわ~」

 

 【素早いモモンガ】はターン終了と同時に、ガラスのごとく砕け散った。

 

 

「【黒蛇病】……ももえも珍しいカードを使うのね。

 確か自分のスタンバイフェイズごとに自分と相手、両方にダメージを与える効果……だったかしら?」

 

「それも毎ターンダメージが倍化していくんです。

 あれと【デス・ウォンバット】を同時に使うのがももえの好きな戦術なんですよ」

 

「【デス・ウォンバット】もあまり見ないモンスターよね……。どんな効果を持っているの?」

 

「【デス・ウォンバット】は自分が受ける効果ダメージを全て0にするんです。【黒蛇病】と一緒に使えば、相手だけが一方的にダメージを受けることになります。

 そこを【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】や【レベル制限B地区】でロックするのがいつものももえのやり方なんですけど……」

 

「今回は【デス・ウォンバット】に【ミスト・ボディ】を装備させることでその代用としたわけね」

 

 

「俺のターン」

 

 大嵐来い、大嵐来い、魔導戦士ブレイカーでもいいから来い! 今ならまだ間に合う。

 

「ドロー」

 

 って今来んなーーーー! 【強者の苦痛】!

 相手には攻撃力とか関係ないんだぞ!

 

 【ミスト・ボディ】は装備したモンスターに戦闘破壊耐性をつける装備カードだ。

 簡単に言えば、【ミスト・ボディ】を装備したモンスターは戦闘で破壊されなくなる。つまり、戦闘では守備表示の【デス・ウォンバット】を破壊する事も、ダメージを与える事も出来ないという訳だ。

 

 ――仕方がない。今はひたすら待ちの一手だ。

 

「このままターンエンド」

 

◇◇

 

「わたくしのターン、ドローいたしますわ~。

 スタンバイフェイズに【黒蛇病】の効果が発動いたします。お互いプレイヤーに200の効果ダメージを与えますわ。

 わたくしは【デス・ウォンバット】の効果により、自分への効果ダメージを0にしますわ~」

 

 神LP 4000 → 3800

 

「カードを一枚セットして、ターンを終了いたしますわ~」

 

◇◇

 

「俺のターンだ、ドロー」

 

 【魂を削る死霊】か……。

 あまり意味はないけど、出すだけ出しとくか。

 

「【魂を削る死霊】を守備表示で召喚! そしてターンエンドだ」

 

 両手に大鎌を持ち、紫色のローブを身に纏った骸骨が召喚される。

 戦闘破壊耐性を持ったモンスターである。

 召喚しといてなんだが、多分このデュエルで活躍することはないだろう。

 

◇◇

 

「わたくしのターンですわ。ドロー。

 【黒蛇病】の効果受けていただきます。ダメージは2倍に増えて、400ですわ~」

 

 神LP 3800 → 3400

 

「そしてわたくしは手札から魔法カード、【マジック・ガードナー】を【黒蛇病】に対し発動しますわ。【黒蛇病】を護るバリアーを張り、ターン終了ですわ~」

 

 

◇◆◆◆

 

「これでももえの護りは完璧ね。この状況をひっくり返すのは簡単じゃないわ」

 

「あ~あ~、かわいそうに。もうあ~なっちゃったらどうしようもないわよ」

 

 両手で頭の後ろを抱えながら、そうつぶやくジュンコ。

 過去のももえとのデュエルを思い出したのだろうか。頼れる友人の戦術に心強さを感じると同時に、あきらめにも似た感情が脳裏をよぎり、ジュンコはほんの少しだけ表情を曇らせた。

 

 

◆◆◆◇

 あれ? これ詰んでね?

 よし。もう大嵐はいらない。

 ……頼むからモンスター破壊系のカードをば!

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 ……【アームズ・ホール】。

 違う、今欲しいカードじゃない……。

 

「ターンエンド……」

 

◇◇

 

「わたくしのターン、ドローですわ~。

 【黒蛇病】のダメージはさらに前のターンの2倍に増え、800となりますわ」

 

 神LP 3400 → 2600

 

「そして手札から【プリンセス人魚】を攻撃表示で召喚いたします。

 これでターンを終了しますわ~」

 

 キラキラと光るティアラを付けた人魚が召喚される。

 攻撃力は1500。これで回復ソースも確保ってとこか。

 

◇◇

 

「俺のターン」

 

 ――もう、残りチャンスは少ない。

 

 

 

「神君に残されたチャンスは後2ターンね」

 

「もう終わりよ、終わり。ももえの護りは完璧。これ以上どうするって言うのよ」

 

 

 そういう事言うのやめて~。このままじゃマジで終わりそうだから~。

 

「ドロー」

 

 カードを見て喜ぶ。

 よっしゃ、きたー!

 これでどうにかなる!

 

「俺は今ドローしたカード、【ライトニング・ボルテックス】を発動!

 手札を一枚捨て、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!!」

 

「速攻魔法、【我が身を盾に】を発動しますわ!

 1500のライフを払い、モンスターを破壊する効果のカードの発動を無効にいたしますわ~」

 

ももえLP 3900 → 2400

 

「ええ~!?」

 

 

「だからももえの護りは完璧だっていったのよ」

 

「すごいわね、あの子。

 こんな備えまでしてあったなんて」

 

 

 つぶされた……、ちくしょう……。

 

 【プリンセス人魚】に勝てるモンスターも手札にないし……。

 

「タ……ターンエンドだ」

 

◇◇

 

「それでは、わたくしのターン。ドローいたしますわ。

 このターンで【黒蛇病】のダメージは前のターンの更に2倍、1600となりますわ~」

 

「くっ……」

 

 神LP 2600 → 1000

 

「そして【プリンセス人魚】の効果発動!

 スタンバイフェイズにライフを800回復しますわ~」

 

 ももえLP 2400 → 3200

 

「それでは、わたくしはこれでターン終了。

 …………最後のターンですわね……」

 

 

「もう終わりね。

 ん~~、これでやっと帰って寝れる~」

 

「まだ最後のターンが残っているわよ? 最後まで見ていてあげましょ」

 

 

 この状況を打開できるカードは一種類ある。そしてそれはこのデッキのコンセプトであり、戦術の要でもあるカード…………3枚入ってるはずなのにさっぱり出ないな。

 

 よし!

 中二っぽくてあまり言いたくはないけど……ここは気合を込めて!

 

「……このドローに全てをかける! 俺の最後のターン、ドロー!!」

 

 あやべ~、自分で最後のターンとか言っちゃった。

 

「ドローしたカードは……状況を打破できるカードじゃないけど、その可能性を高めてくれるカードだ!」

 

 これで出てくれよ!

 

「【強欲で謙虚な壺】発動!

 デッキからカードを3枚めくり、1枚手札に入れ、残りをデッキに戻しシャッフルする」

 

 【死者蘇生】【魔導戦士ブレイカー】【逆巻く炎の精霊】。

 や、やっと来たーー!!

 よし、これで――。

 

「俺の……勝ちだ!」

 

 

◇◆◆◆

 

 拓実の自信に満ちた表情に驚愕する明日香。彼女には、拓実がこの最悪な局面をどうにかできるとどうしても想像できなかった。

 

「本当に……? あの3枚の中にこの状況を打破できるカードがあるって言うの?」

 

 

 

◆◆◆◇

 

「俺は【逆巻く炎の精霊】を選択! 手札に入れ、そして召喚!」

 

『イェーイ!』

 

 薄い炎に包まれた男の子が現れる。

 三角帽子を頭にかぶった……所謂伝統的な精霊の服装を身に纏っている。

 ニンマリとした表情であちこち見渡し、いかにもいたずら小僧というイメージだ。

 

「【逆巻く炎の精霊】の攻撃力は100しかないが、相手に直接攻撃できる」

 

「と言う事は、装備カードで強化するのでしょうか?

 わたくしのライフポイントはあと3200残っています。あなたはその子の攻撃力を3100ポイントもお上げにならなければなりませんわ」

 

「そこはぜひ見てくれとしか言えないね!

 手札から装備魔法、【進化する人類】を【逆巻く炎の精霊】に装備」

 

「あら……? 始めて見るカードですわね~」

 

「【進化する人類】の効果発動!

 自分のライフが相手より下の時、装備したモンスターの元々の攻撃力は2400となる。またライフが相手より上の時、装備モンスターの元々の攻撃力は1000となる。今俺のライフはきみより低い1000、よって【逆巻く炎の精霊】の元々の攻撃力は2400となる」

 

 【逆巻く炎の精霊】の身に纏う炎が凝縮され、赤から青へと変わる。パワーアップしている姿がとても分かりやすい。

 

「でもそれだけではわたくしのライフを0にできません。でしたら――」

 

 【逆巻く炎の精霊】に向けていた視線を俺に向け直すももえ。

 

「それだけではない……ということですわね?」

 

「……ああ! もちろんだ!

 俺はさらに手札を一枚捨て、装備魔法【閃光の双剣-トライス-】を【逆巻く炎の精霊】に装備!」

 

 【逆巻く炎の精霊】は豪奢な飾りの付いた双剣を両手に一本ずつ持つ。

 

「【閃光の双剣-トライス-】の効果発動! 装備モンスターの攻撃力は500ダウンする。

 【逆巻く炎の精霊】の攻撃力は1900」

 

 ももえは少し眉をひそめ、不可解な表情をする。

 

「それじゃあ、いくぞ! 【逆巻く炎の精霊】でプレイヤーにダイレクトアタック!」

 

『いっけー』

 

 【逆巻く炎の精霊】は右手に持った剣を振り抜き、青の炎弾を撃ち出す。解き放たれた炎弾はももえに着弾すると同時に大爆発を起こす。

 

「う……。これは、なかなか効きますわ~」

 

 ももえLP 3200 → 1300

 

「それで、お次はどういたしますの?」

 

「【逆巻く炎の精霊】の効果発動!

 このカードがダイレクトアタックで相手にダメージを与える事に成功した時、このカードの攻撃力は1000アップする。【逆巻く炎の精霊】の攻撃力は2900となる!」

 

 【逆巻く炎の精霊】の身に纏う炎はさらに凝縮され、青から白へと変化する。

 

「そして、

 【閃光の双剣-トライス-】を装備したモンスターは1ターンに2回攻撃できるようになる」

 

「……と言う事は」

 

「【逆巻く炎の精霊】、プレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

『ヤァー!!』

 

 【逆巻く炎の精霊】左手に持った剣を振り抜き、白く光る炎弾をももえに飛ばす。

 そして、炎弾による爆風の中から――。

 

「わたくしの……」

 

 デュエルの決着を告げる、冷静な声が――。

 

「負けですわね」

 

 激しい爆発音と共に、辺りに、妙に響いた。

 

 

 ももえLP 1300 → 0

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あんた、すごいじゃない。あの状況からひっくり返すなんて」

 

「本当だわ。

 私も後半、もうダメだと思ってたもの」

 

 明日香はふふふと笑う。正直俺もそう思ってました、はい。

 

「ももえも惜しかったわね。

 それにしても私、ももえがこんなに強かったなんて知らなかったわよ」

 

「わたくし、これでもあまり負けた事がありませんの。それから――」

 

 そう言ってももえはこちらに顔を向ける。

 

「あなたのお名前、教えていただけますかしら?」

 

「神拓実だよ。そういえば言ってなかったね」

 

「たくみ様ですわね。

 改めまして、わたくしの名前は浜口ももえと申しますわ」

 

「あたしは枕田ジュンコよ。よろしくね!」

 

「よろしくお願いしますわ~」

 

「ああ、よろしくな」

 

 皆にこやかに微笑み合う。デュエルしたら分かり合えて仲良くなるって、この世界独特の現象だよね。男同士が河原で殴りあったらなぜか仲良くなる……みたいな。

 

「それで、もう帰っても良いのかな?」

 

「いいわよ。本当は私が神くんとデュエルしたかったから、その口実が欲しかっただけだったしね。結局ももえに取られちゃったけど……」

 

 ははは……。知ってたけど、なんっちゅう迷惑な。

 

「なんっちゅう迷惑な」

 

「なんですって?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 でも、今後もこういう事やらかされるのは心臓に悪い。ちゃんと今お話しておきますか。

 

「あのさ」

 

「何よ」

 

「デュエルしたかったら直接言ってよ。時間があれば相手するからさ。

 わざわざこんなことする必要ないって」

 

「そう? 私は今夜がちょうどいいチャンスだと思ったんだけど。

 それに大丈夫よ。神君が負けても、そのまま返してあげてたわよ」

 

 それ、今さら言われたって……。

 

「最初に言ったら、拘束力失っちゃうじゃない」

 

 まぁそうですね。

 

「そうよ」

 

 何でまた心読まれてますか……。

 

「顔に出てるのよ」

 

 さいですか……。

 

「はぁ~、それじゃあ今日はもう帰るよ」

 

「うん、じゃね~」

 

「バイバイ」

 

「あの、たくみ様~」

 

 解散宣言をし、いざ帰ろうとした時。浜口ももえがしずしずと前に出る。

 どうしたんだろ?

 

「あの~たくみ様。

 もしよろしければわたくし、たくみ様とはこれからもっと仲良くなりたいと思ってますの~」

 

 え?

 

「また声をおかけ致しますので……もしよろしければ、その時はお付き合いください」

 

「なっ、なんでまた……」

 

「あら、デュエルが強いことは素敵な殿方の最低条件ですわ~。

 それに、たくみ様はお顔の方も条件を満たしていらっしゃいますしね」

 

 ……。

 はは……。

 あ~、まぁ~、その~なんだ~。

 

 明日香とジュンコの唖然とした顔を横目で見つつ、返事を返すことにした。

 

 

「これからも、よろしくお願いします」

 

 

 

 ――――なにかのフラグの建つ音が、聞こえたような気がした。


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