公爵家の片隅で   作:FTR

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第10話

 秋風が香る、穏やかな午後。

 御城下では収穫祭の準備が進んでいる、そんなケンの月のある日の事だった。

 

 

「いい香りね」

 

 私が淹れたお茶の香りを楽しみながら、カトレアお嬢様が目を細められている。

 

「拙い手前で恐縮です」

 

「あら、お世辞じゃなくてよ」

 

 カトレアお嬢様のお部屋に呼び出しを受けた私は、お部屋に入るなりお茶を淹れるよう仰せつかった。

 使用人の分際としては言われるままに指示に従うしかないのだが、専門ではなくお茶の手前に自信のない私としては毎度カトレアお嬢様のお茶の手配は神経を削られる。光栄な話ではあるのだが、どういう訳か最近カトレアお嬢様のお呼び出しを受けることが増えたように思う。私はいわゆる雑用メイドであってお嬢様付きのウェイティングメイドではないのだが、お茶の時間になるとメイド長を通じて呼び出しを受けるのだ。

 もっとも、その御用の向きはお茶を淹れることではないのだけど。

 

「それじゃ、今日は何を聞かせてもらえるのかしら」

 

「は、はい。では……」

 

 テーブルに構えるカトレアお嬢様からやや離れた丸椅子に座り、私は背筋を伸ばした。

 咳払いを一つして喉の調子を整え、静かに話し出した。

 

「むか~し、むかし。とある国の大きな都にある、とある領主の大きな大きな町屋敷に、クリザンテムという、それはそれは美しい娘がおりました」

 

 出だしの一文を話した時、ドアからノックの音がした。

 

「誰かしら?」

 

 首を傾げるカトレアお嬢様をおいて、私はドアに向かった。開けると、そこにルイズお嬢様がいた。脇目も振らず足早に部屋に入ってくるルイズお嬢様にカトレアお嬢様が微笑まれる。

 

「あらルイズ、どうしたの?」

 

「魔法の練習の休憩中よ。ちいねえさま、一緒にお茶飲みましょう」

 

「ちょうどいいわ。私もお茶をいただいているところよ」

 

「やった~……ん?」

 

 可愛らしく手を叩いて喜ぶルイズお嬢様が、壁際に立つ私に気づいて首を傾げた。

 

「ねえ、ちいねえさま、どうしてナミがいるの?」

 

「お茶を飲みながら、ナミにお話を聞かせてもらおうと思ったのよ」

 

 カトレアお嬢様の答えに、ルイズお嬢様の頬っぺたが膨らんだ。

 

「ちいねえさま、ずるい~!」

 

 大声を上げて憤慨されるルイズお嬢様。

 

「ナミのお話だったら私も聞きたいわ」

 

 こんな感じに、最近ルイズお嬢様だけでなく、カトレアお嬢様にもお茶の時間にちょっとしたお話をするように申し付けられることが増えたのだ。今まではルイズお嬢様がお時間ができると私をお呼び出しになって、無聊の慰みのようにお話を仰せつかることが多かったのだけど、それがカトレアお嬢様にも伝播したようだ。とはいえ、そこは御姉妹でも年齢や性格が違うこともあり、オーダーいただくお話も少し方向性が違っている。ルイズお嬢様はいわゆる普通のハッピーエンドなおとぎ話がお好きなのだが、カトレアお嬢様の好みは一味違うのだ。

 

「じゃあ、一緒に聞きましょう。ナミ、お茶をもう一つお願い」

 

 にっこり笑って私に言いながら、ルイズお嬢様に向かって膝を叩いて見せるカトレアお嬢様。それを見て満面の笑みを浮かべて膝に乗るルイズお嬢様。

 

「あの、よろしいのですか?」

 

 念のためカトレアお嬢様に訊いてみる。これからお話しするのはちょっとルイズお嬢様向けとは言い難いのだが。

 

「もちろんよ」

 

 あっさり頷かれるカトレアお嬢様なのだが、本当にいいのだろうか。

 そんなひっかかりを感じながら、私は新たにお茶を点てる作業に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「必死の命乞いも、無実の叫びも聞き届けてもらえず、哀れにも殺されてしまったクリザンテム。

 まるでそんなクリザンテムの死を悲しむかのように、都にはその日の晩からシトシト、シトシトと何日も雨が続きました。

 そんな長雨の続く、人も寝静まったある深夜、お酒が過ぎた領主が夜中に目を覚ますと、中庭の方から何やら妙な声が聞こえました。

 何事かと思って中庭に目を向けると、クリザンテムの遺骸を沈めた古井戸から、仄かな青白い光が見えました。

 音は、その深い井戸の底から、陰気な感じに聞こえてきます。

 聞きたくなくても聞こえてしまう、そんな不気味な不気味な声でした。

 耳をふさぐこともできず、領主は引き込まれるように耳を澄ましてしまいます。

 その耳に、魂が凍るような冷たい、女の声が微かに響きました。

 『いちむぁ~い、にむぁ~い……』」

 

 そこまで話した途端、ルイズお嬢様が凄まじい悲鳴をお上げになられた。

 

「ちょっと、これって怖い話じゃないの!」

 

 顔を真っ赤にして、凄まじい剣幕で怒鳴られるルイズお嬢様。

 

「そ、そうですけど……」

 

 そんなやり取りをする私たちを見ながら、カトレアお嬢様は涙を零さんばかりに笑っておられる。

 どういう訳か、カトレアお嬢様が私をお呼びになった時は、こういったお化けや幽霊が出る話を好んで注文される。『あまり怖くない範囲で、お化けが出てくるお話がいいわ』と言われることが多いのだが、どうも以前怖い話をお聞かせして以来、カトレアお嬢様は妙にそっち方面の嗜好に目覚めてしまったような気がしてならない。

 今回の『クリザンテムの皿』は、そんな意味ではあからさまに怖くない程度のお話だから程がいいと思ったのでルイズお嬢様でも大丈夫だろうと思ったのだが、ちょっと考えが甘かったようだ。

 でも、お嫌いな怖い話を聞いてしまった時のルイズお嬢様の怒った表情は、実はとても可愛らしい。恐らくカトレアお嬢様も、そんなルイズお嬢様のお怒りシーンを見たかったのだろう。

 

「何でそんな話を私に聞かせるのよ!」

 

「も、申し訳ありません」

 

 私のチョイスじゃなくてカトレアお嬢様のオーダーなのだが、ルイズお嬢様の中ではカトレアお嬢様に文句を言うという概念が存在しないのだろう。あたふたする私をよそに、自分には火の粉が降りかからない範囲でルイズお嬢様の表情を愛でるカトレアお嬢様。こっちの身にもなって欲しいと思ったりもする。

 

「まったくもう。やり直しよ、やり直し! 他のお話にしなさい、他のに!」

 

「は、はい。あの、カトレアお嬢様、いかがいたしましょう?」

 

 ひとしきり笑って満足したのか、眦をぬぐいながらカトレアお嬢様が頷いた。

 

「しょうがないわ。今日はルイズの要望を聞いてあげて。ルイズはどんなお話が聞きたいの?」

 

「そうね」

 

 ほっぺたに人差し指を当てながら、宙を仰いで考え込むルイズお嬢様。

 

「なら、ちょっと秋っぽいお話がいいわ」

 

 秋っぽいお話。今度は私が天井を見上げて考え込む番だ。

 秋かあ……秋と言えば、あれかな。ちょうど時期的にも今頃だし、ちょうどいいだろう。

 

「では、秋らしく、月にまつわるお話を」

 

「月?」

 

 

 お話としてはそうややこしいお話ではない。

 ある老人が竹を摂りに山に入り、その際に竹の中から不思議な女の子が出てくるおとぎ話だ。

 老人夫婦に育てられ、やがて美しく成長した女の子は数多の貴族から求婚され、ついには王様にまで見初められるのだが、それらをいずれも袖にしてしまう。そして自身が実は月の世界の姫なのだと育ててくれた老人夫婦に告げ、不老長寿の魔法薬を残して月に帰ってしまう。そして、老人夫婦はその薬に手を付けることなく、そっと焼いてしまうという、ちょっとだけ寂しいお話だ。

 

 そんなお話を語り終えた後、ルイズお嬢様のカトレアお嬢様も不思議そうな顔をしていた。

 

「ふ~ん、そのカグヤっていうのは、月のお姫様なのね?」

 

 小首を傾げながらカトレアお嬢様が言う。

 

「はい」

 

「でも、月のお話と秋とどういう関係があるのかしら? 確かに『狩猟月』とはいうくらい月は明るいけど」

 

 これにはルイズお嬢様の同意するように頷く。狩猟月と言うのは、ケンの月に二つの月が満月になる夜の事を言う。月明かりの下で狩りをするという古い風習を起源にすると聞いたけど、詳しいことは私もよく知らない。この他にも、毎月の満月には萌芽月や寒月、狼月と言うようにそれぞれ名前がついていて、確かに月がそのまま秋をイメージするものとは言いがたい。ここにヴァリエール地方と王都との文化の違いがある。

 

「実は、王都の辺りでは、狩猟月の夜に月を見ながら宴会をする『お月見』というのがありまして」

 

「『お月見』?」

 

「ヴァリエール地方ではあまり馴染みがないようですけど、もともとは名月を肴にお酒を飲みたい人たちが、勝手に始めたちょっとしたお祭りみたいなもので、皆で屋外で月を見ながら宴会をするというものなんです。大人はお酒を飲んだり、子供はおやつを食べたりします」

 

 まだ若い風習なのだそうで、その発祥はタルブ地方と言う説もあるけど、嘘か本当か私のおじいちゃんが王都に広めたという説もある。

 

「あら、面白そうね。月夜のお茶会という感じ?」

 

 お茶会、というよりは宴会と言った方がいいかも知れないけど、まあそう外れてはいないだろう。

 

「はい。私たち子供はその時に出てくるお菓子が楽しみで、毎年秋になると心待ちにしてるイベントです」

 

 その時振る舞われるお菓子は、月をイメージしたものがメインだ。小麦粉を練って甘くしたお団子や、まん丸のビスケットとか。おばあちゃんがこの手のお菓子作りは非常に上手だった。

 我が家ではこの手のイベントは毎年欠かさず5人で出掛けて行っていた。お菓子や飲み物をバスケットに詰めて街の広場に行くと、ご近所のお店やご町内の主だった方々が集まって自然発生的に宴会が始まるのが常だった。毎年定番のイベントなので、たいていの場合は屋台が出たり、町内会主催の催しものがあったりもする。

 おじいちゃんやお父さんはスカロンおじさんやピエモンおじさんたちといった街の主だった方々と楽しそうに騒ぎ、私は私で街の同年代の子たちとゲームをやって遊んだり、ようやく歩き出したばかりのスカロンおじさんのところのジェシカの相手をしたりしながら楽しく過ごしていた。懐かしいなあ。御奉公に出てからは参加してないや。

 

「ふ~ん」

 

 私の説明に、お二人が興味深そうに唸られる。

 トリステインはあまり大きな国ではないけど、地域によって風習が違うのが残念だ。ああいう素敵なイベントなら国全体に広まって欲しいと思うんだけど。

 

 そんな事をしていると、ドアがノックされた。

 私が応じて出てみると、ルイズお嬢様付きの先輩が立ってた。職種はナースメイド。年齢的にまだルイズお嬢様にはウェイティングメイドは付いていないのだ。

 

「ルイズお嬢様、お時間でございます」

 

 物静かながらも凛とした口調で先輩がルイズお嬢様に告げる。

 

「もうそんな時間なのね」

 

 やや名残惜しそうに、ルイズお嬢様は席を立った。

 

「魔法の練習の続き?」

 

 カトレアお嬢様の質問に、ルイズお嬢様はやや困った表情を浮かべて頷いた。

 

「今日からちょっとやり方を変えて特訓中なの」

 

「そう。頑張ってね」

 

「うん、頑張る」

 

 それだけ言うと、気合を入れた面持ちでルイズお嬢様は部屋を出て行かれた。

 その横顔に、私はしばし目を奪われてしまった。歳に似合わない、確固たる何かがそこにあるような気がした。

 ルイズお嬢様の後姿を見送ってドアを閉めると、カトレアお嬢様が小さく呟かれた。

 

「頑張っているわよね、あの子。本当に。まだ6つなのに」

 

「はい。たゆまぬ努力を積まれておられます」

 

「何とか、報われてくれるといいんだけど」

 

 そう言って窓の外を眺めて、カトレアお嬢様は一つため息をつかれた。

 

 

 

 

 

「6歳の頃?」

 

 翌日のお茶配りの途中で、私は昨日のことを思い浮かべてシンシアに訊いてみた。

 

「うん。私は6歳の頃って、魔法の練習とか勉強とかすごく嫌だったんだ。でも、ルイズお嬢様はすごく頑張っているじゃない。だから、シンシアはどうだったのかな、って」

 

 ルイズお嬢様の御年は6歳。生まれてからまだ6年しか経っていない、私のちょうど半分の年齢。

 振り返ってみれば、自分の6歳の頃はどうだっただろうか。読み書きを習い、ちょっとずつ難しい本も読めるようになり始めた頃だっただろうか。単語の書き取りが妙に苦痛だったのは、今でも鮮明に覚えている。小さな石板にチョークでひたすら単語を書いて覚えるあれだけど、本当に退屈で嫌だった。妙に手厳しいお母さんの教育から泣きべそかいて逃げ出しておばあちゃんの元に駆け込むと、今でも何をされたのかよく判らない不思議な詐術に嵌められて知らぬ間にきっちり一日の課題をやらされてたり、おじいちゃんのところに逃げ込んだら私を連れて一緒になって街に逃げ出して、遊び倒した後で夕方に家に帰ったらおじいちゃんと二人でおばあちゃんとお母さんに怒られたりしたこともあった。

 私がそうであったように、何だかんだで子供はやっぱり遊びたいものだと思うし、前向きに手習いと向き合うことは普通は難しいことだと思う。6歳と言う年齢は、そんな年頃のはずだ。

 でも、ルイズお嬢様は手習いについては率先してお受けになられる。決していつも笑顔という訳でもないし、たまにへこむことはあるけど、難しい顔こそしても滅多なことでは嫌な顔をしない。

 もしかしたら、貴族と言うのはそういう人たちばかりなのかと思い身近な貴族であるシンシアに訊いてみたんだけど、その質問にシンシアはちょっとだけ複雑そうな顔をした。

 

「う~ん、私は選択肢全くなかったから」

 

「選択肢?」

 

「うん。無理でも何でも、とにかく魔法を身に付けないといけない状況に追い込まれていたというか……」

 

 珍しく返事の歯切れが悪い。それとなく訊いた質問のつもりだったけど、それが知らぬ間に彼女の中のちょっと踏み込んではいけないエリアに踏み込んでいたことを悟り、私は慌てて手を振った。

 

「あんまり真剣に考えなくていいよ。ちょっと言ってみただけなんだから」

 

 気まずい雰囲気を笑い飛ばす空気に置き換えようと言葉を畳み掛けた時だった。

 

 覚えているのは、轟音。

 出し抜けに襲って来たすぐ脇の植え込みが消し飛ぶようなすごい爆発に、私たちは悲鳴を上げる暇もなく吹っ飛ばされた。

 目まぐるしく回る世界の中、一瞬だけ呆然とした表情のルイズお嬢様が見えた気がした。

 

 

 

 

 

「痛たたた、ちょっとタンマ。この薬痛い、沁みる!」

 

「こら、じっとしていろ」

 

 ホールに運び込まれた私にソフィーが薬を塗ってくれているけど、何が入っているのか、拷問にでも使うんじゃないかと思うくらいやけに傷口に厳しい薬だった。

 シンシアと二人、埃まみれで傷だらけ。未だに耳鳴りがする。多分5メイルくらいは宙を飛んだんじゃないかしら。

 

「い、生きてるって素晴らしいわ」

 

 隣で放心したように宙を眺めているシンシアの顔には生の喜びが溢れてる。鼻の頭の絆創膏が、ちょっと可愛い。確かに、至近距離であの爆発では命があっただけでもめっけものだろう。

 

「それにしても災難だったな」

 

 救急箱を閉めながらソフィーがため息をついた。それにつられるように私たちも深くため息をついてしまう。

 今回の爆発については、原因は判っている。

 ルイズお嬢様の魔法の練習の現場に、私たちが不用意に近づいてしまったからだ。私たちを狙ったわけではないのだろうけど、直撃じゃなくてもこの威力だ。まともに食らったら命にかかわる惨事だったことだろう。

 

「ルイズお嬢様の失敗魔法は強烈だからな。しばらく休んでいていいとメイド長が言っていたから、小一時間は安静にしておけ」

 

「お茶配りは?」

 

「代わりが対応しているから気にしなくていいそうだ」

 

「うう、申し訳ない」

 

「好き好んでこんな目に遭ったわけではなかろう」

 

「それはそうだけどさ」

 

 メイドの数と言うのは基本的に必要十分なレベルだ。誰かがトラぶれば誰かがフォローに回る体制ではあるけれど、そういうシワ寄せはないに越したことはない。

 そんな話をしていると、先輩のメイド数名がホールに戻ってきた。

 

「やっほ~、大丈夫ナミ?」

 

「お茶配り、終わったわよ」

 

 気さくに話しかけてくれるあたりが余計に申し訳なさを助長する。

 

「すみません、面倒かけちゃいまして」

 

「いいのよ。あんたも犠牲者でしょ」

 

 笑って言ってくれているけど、話が事件の原因に移ると先輩は一つ大きく嘆息して言った。

 

「それにしても、ルイズお嬢様も困ったものよね。もう6歳でしょ? それなのに、コモンマジックの一つも満足に使えないってのは……」

 

 その言葉に、他の先輩方も次々に口を滑らせ始めた。

 

「そうよね。ちょっと困ったものよね」

 

「エレオノール様もカトレア様も、あんなに凄くお出来になるのにねえ」

 

「先行き不安よね~」

 

 溢れ出るように、ルイズお嬢様に対する耳に心地よくない言葉がホールに満ちていく。

 メイジは魔法をその精神の根幹となす。

 貴族様の間では、そのように言われている。それだけにその魔法が使えないとなると、当然だけどメイジはその立場を失う。特に公爵家という立派な家の令嬢ともなると、その瑕疵は人々の間では恰好の噂話のネタになってしまう。

 先輩方に、それほどの悪意がある訳ではないのは知っている。困ったいたずらっ子を話題にする時と同じような感覚なのだと思う。でも、それはルイズお嬢様にとって笑って受け止めることのできないものだということを私は知っている。

 

「あの、でもルイズお嬢様も努力しておられるんです」

 

 するりと私の喉を滑り出た言葉に場が静まり返り、皆の視線が私を捉える。何を言っているのこの子、というような棘のある視線だ。

 

「その努力の結果であんたはそんな目に遭ったんでしょ?」

 

「それはそうですけど、でも、頑張っている人をそんなふうに言うのはないんじゃないでしょうか」

 

 確かにルイズお嬢様は魔法がお上手ではない。でも、その取り組む姿勢はどこに出しても胸を張れる真摯なものだ。

 それを知っているだけに、先輩たちの言葉を聞き流すことができなかった。毎回大きな爆発を起こして周囲に迷惑をかけるとは言え、日々歯を食いしばって頑張っている6歳の女の子の努力を揶揄するような言葉を黙って聞いていられなかったのだ。

 

「でも、普通は6歳ならコモンマジックくらい使えるようになっているでしょ。あんただって6歳の頃にはもう魔法使えてたんでしょ?」

 

「それは、使えましたけど……」

 

「努力は認めるけど、結果が伴わないんじゃねえ」

 

 私なりに棘のないレベルで反論をするけれど、先輩たちの言葉はどこまでも冷たい。私が最初にコモンマジックを使えるようなったのは5歳の時だし、決して優秀ではない私の尺度に当てはめても確かにルイズお嬢様の魔法習得はペースとしては遅い。でも、成長が遅いことでその人のことを悪く言うのはやっぱりおかしいと思う。拳を握りを、大きく息を吸い込み、先輩方に更に異論を述べようと思った時だった。

 

「控えなさい、貴方たち」

 

 静かな凛とした声は、私の隣から響いた。振り向くと、シンシアが静まり返る先輩たちを見つめていた。冬の湖のような、静謐な視線だった。

 

「魔法が使えぬとは言え、ルイズお嬢様はお仕えする家の姫君でしょう。禄を食みながらのその雑言、己の立場を弁えているものと言えるでしょうか」

 

 言葉を荒げるでもなく、ただ穏やかに意見を述べているシンシア。でも、その言葉には、抗いがたい重圧が感じられた。よく『相手に呑まれる』と言うけれど、今の先輩方はまさにそれだった。そこにいるのは貴族としてのシンシア。家名も出自も語ろうとはしないシンシアだけど、その身にまとった圧倒的な覇気が大貴族のものにも劣らないほどの迫力をもってこの場を支配しているのが私にも判った。

 他愛もない女の子たちの陰口披露の場がシンシアの支配下に落ちて数秒、危うさをはらみかけた場への救いの手は外部から差し伸べられた。

 

「無駄話はそこまでになさい」

 

 聞きなれた声が聞こえるや、先輩方は救いを求めるかのようにその声の出どころに向かって振り向くと、メイド長が腰を手に立っていた。

 

「まだ仕事の途中でしょう。皆、早く持ち場に戻りなさい」

 

「も、申し訳ありません」

 

 そこに活路を得たかのように慌てて先輩方の一人が頭を下げると、それに倣って他の先輩方も頭を下げ、それぞれの持ち場に散って行った。何となく気まずい雰囲気を引きずりながら先輩方に合わせて、私たちも席を立とうとした時だった。

 

「ナミとシンシアは少し休んでいなさい」

 

「もう大丈夫ですけど」

 

「無理をして途中で倒れられた方が困るのです。休むのも仕事の内ですよ」

 

「は、はい……」

 

「シフトは修正しているので気兼ねは無用です。でも……」

 

 そこまで言ってメイド長は表情を少しだけ和らげた。

 

「ナミ。もし、あなたが何かしたいのなら、あなたが適任の仕事が一つあるはずですよ?」

 

「私の仕事?」

 

「今日の件でルイズお嬢様は、かなりきつく奥様の叱責を受けておいででした。そうなると、あなたのなすべきことがあるはずですよ」

 

 

 

 

 誰かが誰かを評価するとき、その基準が人によって異なることは私も知っている。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 ヴァリエールの名を持つその女の子が、世の中でどういう評価を受けているかは私も知っている。

 先輩方のような使用人の間だけではない。貴族様の間でも、ルイズお嬢様が魔法が使えないことはしばしば冷笑の対象となっているらしい。上のお二人と比べられ、時には本当にヴァリエールの血を引いているのだろうかと言うような命知らずな事を言う人もいるらしい。

 噂と言うのは恐ろしい。噂には噂の対象者の心を傷つけ、時には命すらを脅かす力がある。しかも、流行り病のように噂に毒された人たちもまた熱に浮かされたように噂の対象になった人を悪く言うようになってしまう。

 悲しいことだけど、先輩方も、そんな毒気に中てられてしまったのだろうと思う。もしかしたら、何も知らなかったら私も同じ毒にやられていたかも知れない。

 でも、私はルイズお嬢様の人となりを知っている。明るくて、おしゃまで、家族思いで。そして誰よりも真面目に魔法に取り組んでいることも。それだけに、あからさまにルイズお嬢様の事を嗤うような言葉を聞くと辛い。その言葉の刃が、あの天真爛漫なルイズお嬢様の心にどれほど傷をつけるかと思うと、その心痛は察するに余りある。

 いつもと違い、負傷者まで出してしまった今回の事でも、きっといろんなことをいろんな人から言われたのだと思う。

 そんなルイズお嬢様にどうやって声をおかけしようかと悩みながら、私は中庭を歩いた。

 

 

 中庭の池に行くと、案の定小舟が僅かに動いていた。微かに聞こえてくるのは鼻をすするような音。

 私はルーンを唱えて、静かに船に降りた。

 私が口を開くより先に、硬質な声が飛んできた。

 

「笑いに来たの?」

 

「違いますよ」

 

「じゃあ、文句を言いに?」

 

「それも違います」

 

 私の答えに、ルイズお嬢様が顔を上げた。真っ赤な目で私を睨むように見つめる。

 

「どうしてよ。あんたにそんな怪我させたのよ、私」

 

 私の手や頭に着いた包帯やガーゼを見ながらルイズお嬢様がちょっとだけ捨て鉢っぽく言葉を紡がれる。今日は殊の外、傷つかれているらしい。

 

「これは私の不注意でもありますから。ルイズお嬢様が気になさらなくてもいいのです」

 

 そう答えると、ルイズお嬢様は再び顔を伏せてしまった。

 そのまま落ち着くまで数分。

 

「ねえ、ナミ」

 

「はい」

 

 顔を上げ、睨むように鋭い視線を向けてくるルイズお嬢様。そして飛び出した質問は、私の予想を超えたものだった。

 

「私には、いつになったら春が来るの?」

 

「ルイズお嬢様?」

 

「今まで、私はずっと頑張って来たわ。それなのに、ちっとも魔法が上手くならない。どうして?」

 

 一気に噴き出してくる感情に、気圧されそうになった。

 

「辛い冬の後には春が来る、ってあんたのおとぎ話は言っているわ。でも、私にはちっとも春が来ないわ。そんな気配もない。ねえ、どうしてなの? 私の何が悪いの? いろんな人から馬鹿にされて、父様や母様にも迷惑をかけて、いつまで我慢しなくちゃいけないの?」

 

 涙を滲ませて私に食って掛かるルイズお嬢様。感情の箍が外れたかのように、鋭い言葉を並べ立て、私に叩きつけてくる。

 その舌鋒の鋭さより、これほどの内圧がこの小さな姫君の裡に充満していたことに私は驚いた。私も世間と没交渉と言う訳ではないので、子供のころから子供なりに周囲との軋轢に晒されることはあった。でも、ルイズお嬢様が抱えるような、まるで大人が味わうような容赦のない外圧に晒されることはなかった。

 貯め込まれた感情そのままに、私を問い詰めるルイズお嬢様。でも、その問いに対する答えは、私にはない。ルイズお嬢様を慰めるたびに気休めばかりを紡いで、事の本質から目を逸らし続けてきたツケが一気にのしかかってきた気がした。必死に思考を巡らせても、返す言葉が見当たらない。ただ、唇を噛みしめるしかない自分が情けない。

 

 正直に、『それは、私にも判りかねます』と答えようとした時、そんな私に対する救いの声は、私の背後からかけられた。

 

「それはきっと、神様にしか判らないことよ、ルイズ」

 

 振り向くと、そこにカトレアお嬢様がいた。靡くストールが、まるで女神が纏う薄物のよう見えた。ふわりした動きで艫の方に降り立ってにこやかにルイズお嬢様に微笑みかけられ、静かに言葉を続けられる。

 

「ねえ、ルイズ。私は、体が丈夫ではないわよね?」

 

「うん」

 

「できれば私も元気になりたいと思うわ。いろんなところに行ったり、いろんなことをして楽しんだり。学校に行っても見たいし、王都に行ってもみたい。でも、それは難しいの」

 

 カトレアお嬢様が語られる、自らのこと。真摯なその言葉に、ルイズお嬢様のみならず、私もまた引き込まれた。

 

「診察を受けていると、たまに治療士の先生に訊きたくなるわ。この治療に意味はあるんですか、って。私の体が、この治療でよくなるのですか、ってね」

 

 静かに紡がれる言葉には、微塵もごまかしの気配はなかった。どこかで聞いたような他人の言葉を持ち出す私とは違う、恐らくはカトレアお嬢様の本心からの言葉なのだと私は思った。

 

「でもね、治療士の先生だって訊かれても答えられないのよ。私の病気は、誰も判らない病気だから。だから、治療士の先生も試行錯誤なの。それを私がどうしてと問い詰めたら、治療士の先生も困ってしまうわ」

 

 そこまで言われて、カトレアお嬢様が何を言いたいのかを察したようにルイズお嬢様は顔を伏せた。

 

「だからね、私の病気が治るかどうかは、神様だけがご存知だと思うことにしているの。私が言いたいこと、判ってくれるわよね?」

 

 静かに、ルイズお嬢様は頷かれた。

 

「ならば、ナミに当たってはいけないわ」

 

 諭すように言うカトレアお嬢様の言葉にルイズお嬢様の目に涙が盛り上がり、泣き崩れるルイズお嬢様を受け止めるカトレアお嬢様。

 ルイズお嬢様の髪を撫でながら、カトレアお嬢様が視線を私の方に向けられた。

 微かに頷くカトレアお嬢様の意を察して私は一礼して、静かにその場を離れた。今この場において、カトレアお嬢様にすべてをお任せするのが最善だと思ったからだ。

 

 

 

 

 母屋のホールに戻ると、メイド長が書類仕事をしていた。

 

「ご苦労様でした。ルイズお嬢様はいかがでしたか?」

 

「カトレアお嬢様が対応して下さいました」

 

 私の言葉に、メイド長が意外とでも言いたげに顔を上げた。

 

「カトレアお嬢様が?」

 

「はい。私が出る幕ではありませんでした」

 

「そうですか」

 

 ならば安心、という感じでメイド長は一つ息を吐いた。

 

「結構です。では、貴方には別の仕事をお願いします」

 

「はい、何をすれば?」

 

 そう問う私に、メイド長が今しがた書いていた紙を差し出してきた。

 

「先ほどカトレアお嬢様からいただいた特命です」

 

「特命、って……何事ですか?」

 

 首を傾げる私に、メイド長が悪戯っぽく笑う。同性ながら、いつもクールな感じのメイド長が子供っぽい顔で笑うのを見ると心臓の鼓動が乱れる。その度にこの人はイメージよりずっと可愛い人なんだと偉そうに思ったりする。 

 

「カトレアお嬢様主催の催しと言うか、ある意味ルイズお嬢様の激励会みたいなものかしらね」

 

 その言葉にざっとメモに目を走らせ、私はカトレアお嬢様の意図を理解した。そして驚いた。昨日の今日で、ここまで話を煮詰めてしまうとは。

 なるほど、これはいいアイディアだ。これならばルイズお嬢様も元気になってくれるだろう。

 

「判りました。これは腕が鳴りますね」

 

「あなたにはお菓子の監修担当をお願いします。必要な数など、詳しいことはそこに書いておきました。催しは今夜の予定です。急なことですから、忙しいですよ」

 

 

 

 

「ま~た変わったものを作らせるわね」

 

 キッチンに行って仔細を話すと、ジャンヌが呆れたようにため息をついた。

 

「いつもごめんね」

 

「まあ、他ならぬカトレアお嬢様のお望みとあらば、いっちょ協力しましょう」

 

 そう言ってキッチンに私を入れてくれた。

 

「それで、まず小麦粉からだっけ?」

 

 小麦粉に水を注いで、ボールの中で手際よくこねる。やがて粘り気を帯び、耳たぶくらいの柔らかさの生地になってくれば作業の第一段階は終了。これを一口サイズに丸めていき、出来上がったらそれを蒸し器に入れて蒸しあげる。

 

「これでいいの?」

 

 ほかほかと出来上がったお団子は、白く輝いていた。

 

「あとはこれに蜂蜜をかけて食べるんだけど……」

 

「どれどれ」

 

 ジャンヌが蜂蜜の壺を持ってきてとろりと垂らし、試食とばかりに一個口に入れた。もぐもぐと食べながらも味や食感を確かめているのだろう。その眼は料理人らしく真剣そのものだ。

 

「食べられないことはないけど、ちょっと味気ないわね」

 

「そりゃそうだよ、平民のおやつだもの」

 

 所詮は簡単にできる庶民のお菓子だ。それこそ、母親のお手伝いと言うことで子供が作っても格好がつくものだし。貴族の食卓に出すには大雑把すぎる。

 

「中にフルーツを入れたりしてもいいんだけど」

 

「それもいいわね。生地にも一工夫がいると思うし」

 

 そんな話をしていると、ドスドスと足音を響かせてマイヨールさんがキッチンに入ってきた。

 

「おう、やってるな」

 

「すみません、お邪魔してます」

 

「いいってことよ。今しがた、ヴァネッサばあさんに呼ばれて行って来たんだが、カトレアお嬢様のなさることに協力するように仰せつかったんだ」

 

「女史が?」

 

 カトレアお嬢様、どこまで話が大きくしているんだろう。ちょっとびっくりだ。

 

「おうよ。お、これがそのイベント用の菓子か?」

 

「まだ試作品です」

 

 ジャンヌの言葉に眉を顰め、お団子を一つ摘まんで口にぽいと放り込むマイヨールさん。もぐもぐしながら難しい顔をする。

 

「う~む、このままじゃお出しできたもんじゃねえが、シンプルなだけにベースとしちゃ悪くねえ。おい野郎ども!」

 

 大声で控室の方に怒鳴ると、キッチンのスタッフたちがぞろぞろとやって来た。こうなってくると私が立ち入る余地はない。料理のプロたちがお団子を試食しながら、あれこれ議論を交わし始めた。

 そんな喧騒をよそに、ジャンヌが訊いてくる。

 

「あとは何かないの?」

 

「丸くて美味しいものなら何でもいいのよ。クッキーとかでも」

 

「あら、それなら得意よ。任せておいて」

 

 そう言ってジャンヌは笑い、スタッフの会話の中に溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 ヴァリエールのお城は、少しだけいつもとは違った時間が流れた。夕食のお給仕はやめるわけにはいかないけど、私を含めたそれ以外の手すきのスタッフ数名はお庭と母屋を行ったり来たりだ。

 ロケーションの確認やテーブルのセッティング、配膳などなど。

 そんな私たちの準備が整った頃、ちょうど御一家揃っての夕食の後に、カトレアお嬢様が立ち上がって仰った。

 

「父様、母様、この後、ちょっとお時間をいただけないかしら? ルイズもいい?」

 

 怪訝な表情をする公爵様ご夫妻と、ちょっとだけびっくりしているルイズお嬢様。そんな様子を意にも介さず、皆様を中庭に案内するカトレアお嬢様。

 中庭に出てみると、そこに設えられた宴の席。テーブルの上には、幾種類ものお菓子や飲み物が並ぶ。

 中央に据えられたのは、四角錐の形に積まれた白いお団子。かかっている甘いソースは料理長の特製だ。お団子に限らず、並ぶお菓子はどれも月のように丸いものばかり。お月見の時のお約束だ。

 微笑みながらカトレアお嬢様はテーブルの前で御一家を振り返り、ちょっとだけお芝居がかった所作で仰った。

 

「ようこそ、私の『お月見』の宴へ。皆様を心より歓迎いたします」

 

 そんなカトレアお嬢様に、一瞬だけ呆気に取られた公爵様ご夫妻が微笑む。ルイズお嬢様もまた、戸惑いながら笑った。

 

 御一家の着席に合わせ、傍らに控えていた楽師たちが、月夜に相応しい柔らかい音色の調べを奏で始める。

 見上げれば、双月がそれぞれに美しく輝く夜。

 お茶やお酒を傾けながら、この時だけは御一家は肩書とはかかわりのない、ごく普通の家族のように会話を交わされていた。公爵ご夫妻からのルイズお嬢様へのお説教もない。今日のホストはカトレアお嬢様。その彼女の考えているこの席の趣旨を、公爵様ご夫妻も理解されておられるのだろう。

 そんな柔らかい空気の中、最初はどこかくすんで見えたルイズお嬢様の表情も、徐々に本来の輝きを取り戻して来た。

 ルイズお嬢様は気づいていないのだろうと思う。でも、近くで見ている人には判ったのではないだろうか。

 公爵様ご夫妻の時折ルイズお嬢様に向けられる視線の、何と優しいことか。公爵様は言うに及ばず、目元がきつい奥方様も、その瞳には優しい光が満ちている。

 明るくて、おしゃまで、家族思いで、でも、ちょっとだけ魔法が苦手なルイズお嬢様のことを、この方々もとても大切にされておられるのだと私は改めて理解した。

 確かにルイズお嬢様は魔法がお上手ではない。でも、そんな事が何ら影を落とさない優しい何かが、二つに月に照らしだされたここにはある。

 それは、私は実家でおじいちゃんやおばあちゃん、そしてお父さんやお母さんから惜しみなく与えてもらっていたものだ。多分、それは親からもらえる最高の贈り物で、でも、子供の身では幾ら頑張っても親には返せないもので。だから、いつか自分が人の親になった時に、自分の子に同じように与えてあげるべきもの。

 そうやって紡がれていくものが、きっと愛情と言うものなのだろうとおぼろげながらに思った。 

 

 そんなことを考えながら、ふとカトレアお嬢様に視線を向けると、カトレアお嬢様の視線と私の視線がぶつかった。微笑みを浮かべ、手にしたお茶のカップを私に掲げてみせるカトレアお嬢様。その目の中に、まるで共犯者とハイタッチを交わすいたずらっ子のような輝きを感じて私は笑った。

 目礼を返すと、その視線のやり取りに割り込むようにルイズお嬢様が私に手を伸ばしてきた。

 

「ナミ、見なさい」

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべたルイズお嬢様が手にしたクッキーを差し出してきた。

 

「ほら、三日月」

 

 

 ルイズお嬢様の手にあったのは、可愛い歯形が丸く抉った、甘い三日月。

 

 

 

 そんな秋の一日。


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