「ふーむ、ホルストック王からの紹介状を持っているか」
フォーン城が管理する水門付近に泊まった神の船のすぐそばにいる監視用の戦艦のデッキの上で、こわもてな顔をした筋肉質な兵士がレックから受け取った書状を読み始める。
この書状は夢の世界のクリアベールを経由してホルストックへ戻ったレック達がホルテンに交渉して書いてもらったものだ。
目的地をフォーン城としている以上、より確実の水門を通過できるようにとミレーユに提案された。
ただの旅人と国からの許可状を受け取っている人間とではハードルの高さが違う。
書状を手にした兵士はジロリとにらむようにレック達を見た後で、書状をレックに返却する。
そして、船室から出てきた兵士から羽根ペンと紙を受け取る。
「通過の目的は?」
「フォーン城へ行くためです。カガミ姫を見に来ました」
「カガミ姫…またか」
「いやぁ、旅人の間では有名な話ですから」
これはアモスがクリアベールの酒場で収集した情報で、彼も旅の中で小耳にはさんでいた。
なんでも、鏡の中に封印された姫君がいることで有名となっており、先代の国王であるフォーン7世がそれを見世物にして観光による経済活性化に成功させたという。
ただ、その姫君がなぜ鏡に封印されているのか、そしてその鏡がいつからフォーン城に存在するのかはいまだにわかっていない。
「どこで宿泊する?」
「フォーン城内にある宿屋で泊まる予定です」
「大量の武器や防具、多額の金といった申告すべきものは持っていないか?」
「いいえ、それはありません」
「了解だ。よし、通っていいぞ。だが、カガミ姫は残念ながら今では公開されていない。1年前に即位した王が地下室に入れてしまったからな。水門を開けーーー!!」
兵士の命令により、神の船の正面にあるフォーンの国章となっている鏡に寄り添う獅子が大きく描かれた分厚い鋼鉄の扉が左右に開かれていく。
扉は神の船が通過できる程度に開いた状態で動きを止め、神の船はゆっくりと通過していった。
「ふうう…通過できてよかったぜ」
ハッサンはあの目つきの鋭い兵士を思い出し、フゥとため息をつく。
身長はハッサンと同じくらいで、顔つきが若干自分の父親に似ているように感じたためか、最初に見たときは一瞬震えてしまい、バーバラに笑われてしまった。
「それにしても、夢の世界のクリアベール、少し変化がありましたね」
「勇気のバッジのおかげだろうな」
レックはホルストックへ戻る途中、夢の世界のクリアベールに立ち寄ったときのことを思い出す。
そこにもあるジョンの墓にも勇気のバッジが供えられていた。
町人の話によるとレック達がバッジをジョンの墓に供えた同じころに、再びベッドが空を飛び、町の外へ行ってそのまま帰ってこなくなったという。
もしかしたら、空飛ぶベッドに乗ってどこへでも行けるようになったのかもしれない。
「そろそろフォーン港です。降りる準備をしてください」
「ああ…。ここでトム兵士長のことが聞けたら、御の字だけどな」
「どうでしょうか…。おそらくレイドック王は各地に捜索願を出しているはずで、国領内にそうした人物がいればその領土の王を介して伝えられるはずですが」
チャモロの予想では、トム兵士長が見つかったという知らせがない以上はどこの国の領土でもない、村や集落といった場所にいるかもしれないと考えている。
そういった場所は情報が広まりにくいため、仮にトム兵士長がいたとしても伝わらないことが多い。
また、もう1つ候補を上げるとしたらロンガデセオという街もある。
そこはサンマリーノの東にあるスラム街で、どこの国の領土でもないため、レイドックの兵士も立ち入らない。
大小さまざまな前科を持つ者たちが流れ着いた漂着物や付近の森林の木や岩石を使って不規則・無秩序に増築されて行っているらしい。
そこでは殺しはタブーとなっているものの、スリや婦女暴行、密売が横行している。
噂によれば、先日解任されたゲバンはロンガデセオに秘密裏に立ち行って裏稼業にも手を出していたらしい。
当然、そうした場所にトム兵士長が行ったとしてもレイドックに伝わることはないだろう。
もしかしたら、そこへも行かなければならないかもしれないことにチャモロは一抹の不安を抱えながら神の船をフォーン港へ移動させた。
赤いじゅうたんが敷かれ、薄暗い部屋の中、ガチャリと扉が開き、ランタンを手にした金色のおとなしい短めの髪ととび色の瞳をした青年が入ってくる。
フォーンの国章が刻まれた赤いマントと青と紫をベースで、胸に3つの勲章をつけた服と腰にさしてある小さないくつもの色の宝石で飾り付けられた長い儀礼用の剣。
部屋に入っていく青年に外で槍を構えて警備をしている兵士が一度頭を下げ、扉を閉じた。
地下室のためか、窓がなく、明かりは手に持っているランタンと外周に置かれているいくつものたいまつだけ。
青年は絨毯の上を歩き、部屋の一番奥に向かう。
そこの壁は赤く、分厚いカーテンで隠されていた。
「カガミ姫…また、来てしまいました」
青年はその壁の前にある台座に手を置く。
すると、カーテンが自動で開き、その中に隠されている巨大な悪魔の鏡というべき鏡が露となる。
そこには薄い金色の三つ編みで、青い瞳をした、青いドレス姿の若い女性が虚ろな表情を浮かべた状態で映っている。
鏡を見ながら青年はため息をついた。
この鏡を初めて見たのは10年前、まだ8歳の頃で、国史の勉強の一環として、今では大臣を務めている自分の教育係の男性が見せてくれたものだ。
その鏡を見たとき、初めて見るにもかかわらず、彼はなぜかカガミ姫のことをずっと昔から知っているように感じられた。
どうしてなのか尋ねたが、彼は首をかしげて、「これから調べてみて、もしわかったらお教えします」と言ったきり、今でも答えが返ってこない。
何でも知っている、頼りになるその男性が知らないと答えたのはこれが初めてのことだ。
その答えを知るために、今でも彼は何度もこうしてカガミ姫に会いに行き、国史の勉強を国王としての政務の傍ら行ってはいる。
「なぜ、私はあなたのことを知っているように思っているのでしょうか…?その答え、探しているのですが、いまだに答えが出せぬのです…」
過去に読んだ本の中で、青年は生まれ変わりに関する論文を呼んだことがある。
とある修行中の神父が書いたもので、海と陸地の割合が決まっているように、生物の魂の数もある法則で決まっているというものだ。
それを根拠に、とある種類の生物の数が増えると、それと引き換えに別の生物の数が減る、魔物が増えることで人間の数が減ると言った例を挙げており、それゆえに生物には転生というシステムも存在すると主張している。
誰もすべての種類の生物の数を数えて切っておらず、生物の定義をどこまでの範囲とするのか、花や草、木も生物だとしたら、それにも魂が存在することをどうやって証明するのかなどの多くの議論を招いたもので、哲学者の中でも有名な話だ。
ちなみに、その神父はこの論文を書き上げ、発表した翌年に突如発狂し、首の左後ろに星形の痣の有る一族と戦うなどとわけのわからないことを口にして教会を飛び出したきり、行方不明になったという。
もし、生まれ変わりの話が本当なら、前世に彼女と知り合ったからあやふやながら覚えているのだと結論付けることができるかもしれないが、生まれ変わりを証明できる人はだれもいない。
夢に見て、とある歴史上の人物の生まれ変わりだと主張して笑われるのと同じだ。
答えを得られぬことにため息をつき、そろそろ政務に戻らないと大臣に文句を言われるかもしれないと思い、青年はカガミ姫にあいさつをし、カーテンを閉じる。
これをあと何回繰り返せば、真実にたどり着くことができるのか自問自答をしながら、青年は扉を開く。
城の地下通路で、今いた部屋と比較すると手狭で松明が規則的に壁にかけられているため、部屋以上に明るい。
そこには王の間の警備を担当する兵士が立っていた。
「陛下、ラーの鏡を持つ旅人がフォーン城に…」
「何!?誠か!?」
「はい。既に大臣がこちらへ…」
「そうか…これで一つ前進できるか」
城の考古学者と共に鏡に関する古文書を呼んだ時のことを思い出す。
その古文書は例の鏡と一緒に見つかったもので、その書物の中にはラーの鏡についても書かれていた。
『ラーの鏡は真実を映し出す。囚われの姫君を取り放つ術を』
その記述が正しければ、ラーの鏡でカガミ姫の謎を解き、自分が抱える謎を解くことができるかもしれない。
だが、ラーの鏡は月鏡の塔の中に封印されており、そこへ入るための鏡の鍵も行方不明。
もしかしたら、ラーの鏡を持っているというのはただのホラかもしれない。
しかし、確かめるのは実際に自分の眼で見るのが一番だ。
数分経つと、兵士に連れられたレック達の姿が見えてくる。
フォーン王は大急ぎでレックの前まで走り、グイッと顔を近づける。
「な…!?」
「お前が旅人か!?ラーの鏡を持っているという…」
「は、はい…あなたは…?」
「失礼。私はフォーン8世。この国の王だ」
少し距離を置き、軽く咳払いをした後で身なりを整えたフォーン王はレック達に自己紹介をするが、既に彼からあまり威厳が感じられなかった。
ふとやかで親ばかなホルテンに続き、ちょっと変わった王様と出会ったことで、そうした王に縁があるような自分が感じられた。
「それで、本当なのだな…?そなたらがラーの鏡を持っているというのは」
「そうだよ、王様!これこれ!」
バーバラはラーの鏡を両手で持ち、それをフォーン王に見せる。
フォーン王はあの古文書にあったラーの鏡の絵を思い出す。
今、バーバラが持っているその鏡は絵の物とそっくりそのままだった。
「本物だ…これが、ラーの鏡…」
「ねー、王様。ラーの鏡がどうしたの?」
「実を言うと、これはあくまで私個人の問題だが、その解決のためにラーの鏡が必要なのだ。そこで…だ」
フォーン王は何かに気付いたように大臣と兵士たちに目を向ける。
何かに察した彼らは頭を下げた後でその場を後にする。
レック達以外に話を聞く人物がいないのを確認した後で、再びフォーン王は口を開く。
「君たちは知っているだろう?カガミ姫の伝説を」
「美しいお姫様がなぜか映っている鏡だろ?」
「そうだ。なぜ彼女が映るのか、いつからそのような状態なのか、更にはいつできたのかすら今でも分からない。だが…10年前に私が初めてあの鏡を見たとき、なぜか彼女のことを遠い昔から知っている…そんな気がした」
「うーん、不思議な話ですね。ロマンチックだ」
「おいおい、アモスさんよ。10年前っつたらこの王様、子供じゃねえか。ちょっと背伸びしてそう思っちまっただけじゃねえか?」
思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好。
これは決して珍しいことではない。
だが、8歳では思春期には達しておらず、ハッサンの考えはおそらくあたっていない。
仮に彼がその時10歳以上だったら、その疑いも十分かかったかもしれないが。
「そうだとしたら、それでいい。問題なのは…その疑問がこの10年、ずっと晴れず、消えないことだ。その謎を知りたくて、私はカガミ姫について考古学者と共に調べ続けた。そして…ラーの鏡にそのヒントがあることを突き止めた」
「カガミ姫とラーの鏡…あ、鏡ってところはつながってる!」
「おそらく、やるべきことはこのラーの鏡をカガミ姫にかざすことだろう。頼む、少しだけラーの鏡を貸してほしい」
初対面の旅人にこのような頼み事をするのは気が引けるが、謎を解くためにはそれにすがるしかない。
レック達も国王とはいえ、初めて会う人物にこのラーの鏡を貸してよいものか考える。
ラーの鏡は現実世界と夢の世界のつなぎ目を探すためには必ず必要で、それがないと行き来が難しくなる。
だが、ここでフォーン王にラーの鏡を貸し、彼の疑問解消に協力したら、トム兵士長の捜索が容易になるかもしれない。
しかし、レックはそれ以上に困っている彼を放っておく選択肢を持っていない。
「バーバラ、ラーの鏡を王様に」
「はーい!」
うなずいたバーバラはラーの鏡をフォーン王に手渡した。
「感謝する!さっそく、この鏡をカガミ姫に見せよう。ついてきてくれ」
フォーン王は先ほど自分が入った部屋のドアを開け、レック達と一緒に入る。
ここはカガミ姫をここに置いてからはずっと自分以外誰も入らないようにしていた。
亡き父がこれを観光資源として見世物にしていた反動だろう。
だが、レック達はラーの鏡を貸してくれた人物であり、その誠意に応えたいと思い、彼らを部屋に入れることにした。
フォーン王は再び台座に手を置き、再びカーテンの向こう側にある鏡を露わにする。
「おお、キレイなお姫様ですねー」
噂のカガミ姫を見たアモスはその美しさに驚きを見せる。
きっと、現実世界で彼女と出会ったなら、口説いていたかもしれない。
「きれいだけど、なんだかちょっと悲しそう…」
「これがカガミ姫…。私に大きな謎を与えている。だが、ラーの鏡なら…」
ラーの鏡を両手をにぎり、それをじっと見つめる。
鏡には緊張で顔を硬くする自分の顔が映っていた。
深呼吸をした後で、フォーン王はカガミ姫にラーの鏡をかざす。
ラーの鏡から淡い白の光が放たれ、それがカガミ姫の鏡に吸収されていく。
すると、徐々に彼女の背後に黒い影が現れていく。
「何!?何あれ!?」
「カガミ姫の後ろに誰かがいる!?」
同時に、憂い顔を見せていたカガミ姫の腕がその黒い影に掴まれ、引っ張られていく。
(た…す…け…て…)
「何だ…これは!?」
脳裏に女性の声が響くように聞こえ、フォーン王は引っ張られるカガミ姫を見る。
彼女は涙を流し、助けを求めるように右手をフォーン王に伸ばしていた。
(た…す…け…て…!エリック…!)
「…!?イリカ!!」
急に名前が脳裏に浮かび、フォーン王は大声で叫ぶ。
そして、黒い影は次第に紫色のローブへと変化していき、真っ白な仮面を仮面で顔を隠した男へと変化していった。
(エリック…貴様、見ているな!フフフ、見ているが、どうしようもできないか)
「ぐ、うう…!お前、は…!」
「フォーン王!」
どうやら鏡の中のローブの男とカガミ姫の声はフォーン王の脳裏にしか聞こえないようで、レック達は急に頭痛と共に具合を悪くして片膝をつくフォーン王に駆け寄る。
だんだん、ラーの鏡の光が弱まっていく。
(エリック、たとえ貴様が生まれ変わり、取り戻そうとも…決してかなわん。彼女は永遠に私のものだ!!)
「ミラ…ル、ゴぉ!!」
ラーの鏡の光が消え、鏡に映るものは元に戻る。
同時に、フォーン王の脳裏に響いた声も消え、頭痛も収まった。
「おいおい、どうしたんだよ。イリカとか、ミラルゴとか。わけわからねえぞ」
「はあ、はあ…すまない」
「ねえ、王様。あの鏡のお姫様って、イリカって名前なの?」
「それは…」
バーバラからの質問に、フォーン王は答えることができない。
なぜ、あの時にイリカの名前が頭に浮かんだのかは分からない。
カガミ姫の名前は古文書に残っておらず、今では突き止めることもかなわない。
「すまん…少し、頭を休めたい。後で王の間まで来てくれ。衛兵には話を通しておく…」
ハアハアと息を整え、ラーの鏡を返したフォーン王は先に部屋を後にする。
ラーの鏡は真実を映す鏡で、少なくとも鏡に映ったものに影響が出る。
しかし、鏡の光を浴びていないはずのフォーン王に影響が出るというのはどういうことかレック達にはわからなかった。
「ふうう…すまないな。ここまで来させてしまって」
王座に腰掛けるフォーン王はため息をつき、レック達に面倒をかけたことを詫びる。
王の間にはレック達を除くとフォーン王と大臣だけがいて、大臣はカガミ姫にかかわっていると思われる古文書を持っていた。
「イリ…いや、カガミ姫と…それからミラルゴについて、少し史料を調べてみた。その中で…ミラルゴについての記述がこの国の物語にある」
「物語に…?」
「そうだ。フォーン王国に古くから伝わる話だ。その中に仮面の魔術師ミラルゴの物語がある」
幼いころに聞かせてもらったその物語を思い出しながらレック達に話す。
とある国の王子が美しい姫君と恋に落ち、将来を誓い合った。
しかし、その2人の間を引き裂いたのがそのミラルゴだ。
仮面で顔を隠し、誰にも素顔を見せないものの、その国の王宮魔導士であり、国王からの信頼も厚かった。
だが、彼はその姫君に一目ぼれし、王子の手から奪い取りたいと思うようになった。
彼は姫君をさらい、鏡の中に封印した。
そして、その鏡を抱えて城の北側に見張り台として建設されていた塔に隠れた
更に王子に呪いをかけ、その容姿を醜いものへ変えたうえに老化のスピードを速め、塔と共に姿を消した。
それでも王子は姫を探し続けたが、結局ミラルゴも姫も見つけることができないまま、わずか5年で老衰によって命を落とした。
「かわいそう…結局取り戻せなかったなんて…」
「その王子の名前はエリック。私の本当の名前と同じだ。おそらく、偶然そうなっただけだろう。だが、問題なのはミラルゴが鏡の中に姫を封印したことだ。もし、それがカガミ姫なら…物語だけの存在のはずのミラルゴは…実在するということになる」
だとしたら、ミラルゴを見つけ出すことで答えを出すことを、そしてイリカを助けることができるのではないか。
そう思ったフォーン王だが、このような仮説をしゃべっている自分自身も信じることが難しかった。
「実在するが、物語になるほど長い時が流れている。おそらく、もうこの世には…」
「この世にいない…もしかしたら、生きている可能性もありますよ」
「生きている…?」
「はい、これは私が暮らしていたゲントの村で長老様から聞いた話ですが、禁呪法の中に寿命を無理やり伸ばすものが存在します。それであれば、千年だろうと生きることができるかもしれません」
その呪文はほかの生物の生命力を奪うものであり、神から授かった命に手を加えることから禁忌とされたもので、名前のみ伝わってそのやり方はチャモロもチャクラヴァも知らない。
禁呪法が指定されるようになったのは300年前で、おそらくミラルゴはそれよりも前の時代の人物。
それを使って生きていてもおかしくない。
また、レック達は口に出していないものの、夢の世界にいる可能性もあり得る。
夢の世界のジャミラスが幸せの国で現実世界の人々を眠り病で殺したように、夢の世界の動きが現実世界に影響を与えることは明らかで、その逆もしかりだ。
「仮にミラルゴが実在し、生きているという前提で動くとしたら、ミラルゴが立てこもった塔を見つける必要があります。その場所の手掛かりはありますか?」
「それかどうかわからないが…この城の北に古い塔の廃墟が見つかった。まだそれがミラルゴの塔と関係あるかははっきりしていないが…」
「なら、調べる価値があるかもしれません」
「ならば、調べに向かうとしよう。私も同行する」
「陛下!?」
「剣術の教えは受けている。足は引っ張らない。大臣、留守を頼む」
反対しようとした大臣だが、自分が行ったことは絶対に曲げない性格を彼が持っていることを長い付き合いで知っている。
それに、幼少期からずっと抱えてきた疑問を解き明かせるとなると居ても立っても居られないだろう。
だが、王として国を守る使命のある彼がどこの誰かも分からない旅人と同行して国を出るようなことを許すわけにはいかない。
「陛下、同行は認めますが、あくまで国領内のみです。それよりも外への調査が必要になった際は彼らに任せる。それをお認めになるのであれば、私からは何も申すことはありません」
「相変わらず心配性な男だな…いいだろう」
自分の身を案じて心配してくれていることは分かっているため、ここは彼の譲歩に応じることにした。
「そういうわけだ。少しの間だが世話になる。今回の件が解決したら、それ相応の礼をしよう。では、準備をしてくる。待っていてくれ」
フォーン王は大臣と共に玉座の後ろの壁際にある階段を上って自室へ向かう。
王の間にいるのが自分たちだけになり、ハッサンはため息をつく。
「…なんだか、また面倒なことに巻き込まれちまったな。で…ミラルゴって、本当にいるのかよ?」
「なんとも言えないけど、問題はあの世界にいる場合よ」
もし夢の世界にいたとしたら、それをフォーン王にどう説明するべきかだ。
彼があのまま城に残っていてくれたら、いろいろと言い訳できるが、ついてくるとなるとそれは難しくなる。
その塔がミラルゴに関係し、夢の世界にミラルゴがいたら、おそらくはラーの鏡で夢の世界のミラルゴのところへの道が開ける。
そうなると、おそらくはフォーン王を連れて行かなければならなくなる。
「でも、それでフォーン王から信頼を得ることができて、情報が手に入るかもしれない。難しいかもしれないけど、やる価値はある」
「ああ…そうであってほしいぜ」
骨折り損のくたびれ儲けにならないことを切に願いながら、ハッサンはレック達と共にフォーン王の到着を待った。