ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第47話 ホルストックと臆病王子 その5

マウントホーンが拳を地面にたたきつける。

その魔物の周囲の雪が宙を舞い、激しい揺れにレック達は立つこともままならず、膝をついてしまう。

レック達が動けないうちにマウントホーンはホルスに目を向ける。

そして、彼に向けて口から吹雪を吐き出した。

「まずい、ホルス!!」

どうにか立ち上がったハッサンはホルスをかばおうとするが、吹雪が先にホルスに到達する。

ホルスは目を閉じ、両腕で吹雪から身を守ろうとする。

しかし、襲ってくるはずの前からの強い冷気がいつまでたっても来ることがなかった。

むしろ両手から暖かな熱を感じる。

目を開くと、襲ってくる吹雪がホルスの前で消滅していた。

正確に言うと、両手で握っている剣の前であり、剣からオレンジ色の光を発している。

その剣を見たマウントホーンの目が大きく開き、同時に背中に高熱を受け、大きな火傷を負ってしまう。

「背中ががら空きよ、大きな羊さん!」

ホルスに完全に狙いを定めていたマウントホーンはすっかりベギラマを放ったバーバラをはじめとした面々への注意を怠っていた。

おまけにマウントホーンは雪山での活動に特化した魔物であることから、炎などの熱を苦手としている。

上空に飛んだ雪はチャモロのバギマによって吹き飛ばされていた。

「いけ、破邪の剣!!」

叫びと共に振るった破邪の剣から炎が出て、その炎がバーバラのベギラマで焼けたマウントホーンの肉体をさらに焼いていく。

連続で受けた炎によるダメージに悲鳴を上げ、肉の焼けた匂いは寒さで鈍ったレック達の嗅覚に伝わることはなかった。

「このまま一気に攻めますよ!」

さらに追い打ちと言わんばかりに、アモスエッジを手にしたアモスはハッサンの拳を踏み台にする形で高く跳躍し、重力に従って落下していき、アモスエッジの厚い刀身でマウントホーンの右腕を切り裂いた。

雪が吹き飛んだことで露出した無機質な黒い地面がマウントホーンの傷口から噴き出る赤い鮮血によって汚れ、巨体は地面に倒れ、激痛から激しく体を震わせる。

「ハッサン!!」

「ああ、ふぅぅぅ…」

腰を深く落とし、拳に力を込めたハッサンは目を閉じ、ゆっくりと呼吸する。

拳が闘気の光に包まれ、眼をあけたハッサンの視界にはマウントホーンの額あたりに宿る光が確かに見えていた。

強い寒さで集中力が普段よりも早く消耗しており、今見えている光が徐々にかすんでいく。

「うおおおおおお!!」

見えなくなる前に叩き込まんと、ハッサンは一直線に駆け、額に光の拳を叩き込む。

正拳突きの直撃を受けたマウントホーンはけいれんを起こすと、眼を閉じ、力尽きた。

「ハア、ハア、ハア…ふぅ…」

倒したマウントホーンが青い粒子となって消滅するのを見ながら、ハッサンは疲れでその場に座り込む。

魔物が倒された影響か、吹雪が収まった。

「さすがに…2つの試練をほぼ休みなしってのはきついぜ…」

「確かにそうだね…。あたしも、MP回復したいし…」

火山の中のような高熱の場所と極寒の雪山。

極端な環境とそれに合わせたような強敵との戦いで疲弊しており、このまま第3の試練へ向かうとどうなるかは火を見るより明らかだ。

「だったらよぉ、休める場所があるけど…どうだ?」

ホルスは自分が隠れていた場所に指をさした。

 

「ああ…こんだけ広くて、ちょうどいい温度なら、充分休めるぜ…」

寝袋やテントがないため、ぐっすり眠れるような場所ではないが、贅沢は言っていられない。

ハッサンは拳をレックにホイミで回復してもらい、横になった。

レックやアモスは自分の武器を砥石で手入れをし、ミレーユとバーバラ、チャモロは魔法の聖水を飲んでMPの回復に専念する。

「そういえば、その…レーヴァテインでしたっけ?ここで見つけたんですよね?」

「ああ。なんでここにあったんだろうな…?失われたって話…嘘じゃねえか」

ホルスは物の試しにもう1度レーヴァテインを抜こうとするが、やはり抜くことができない。

「抜けませんね…何か条件があるのでしょうか?」

「条件…っていうか、王としての素質を理解できてねーんだとさ。だから、剣を抜くことができねえと」

「抜くことができない剣か…」

レックは深呼吸をした後で、レーヴァテインを見る。

レーヴァテインには破邪の剣のように、武器そのものに魔力の反応がある。

強力な魔剣であっても、鞘に収まった状態では真価を発揮することができない。

しかし、レーヴァテインの場合は鞘に収まった状態であっても、持っているホルスを吹雪から守っていたことから、その魔力には底知れないものがある。

仮にそれを抜くことができたら、きっとマウントホーンを倒すのも容易だったかもしれない。

「ああ、みなさん。そろそろご飯を食べませんか?腹が減っては戦はできぬ、って言葉もありますし」

「そうだねー。あたし、おなかすいちゃったし!」

バーバラは背中に背負っているリュックサックからサンドイッチを出す。

大きなパンにレタスやトマト、玉ねぎを挟んでおり、ホルストックで調達した食材で昨晩に作ったものだ。

食材の保存については威力を調整したヒャドで冷凍しておけば、長時間可能であり、解凍や加熱についてはメラやギラでできる。

そうすれば、火山のような高温の地域を除いて、食料の保存については困ることはない。

チャモロは野菜だけのサンドイッチを口にしながらその部屋の中央にある木箱を見る。

「この中に…その剣があったのですね。ふぅむ…」

「ああ。おっかしいよなぁ、レーヴァテインなんて大昔の武器なのによぉ…ん…?」

そばに置いていたレーヴァテインが淡いオレンジ色の光を放ち始め、この部屋の床も同じ色の光を放ち始める。

「おいおいホルス!?何かしたのか??」

「何もしてねえよ!勝手に光ったんだよ!!」

この部屋に入ってから、座って干し肉を食べる以外に何もしていない。

レーヴァテインも自分のそばに置いていて、食べて休憩している間触っていない。

床と剣の光が消えると、急に自分たちのいる部屋の床がゆっくりと下へ降りていく。

「おいおい、まさかとは思うがよ…このまま第3の試練へご案内じゃあねえだろうな!?」

「えーーー!?もうちょっと休ませてくれてもいいじゃん!?ねえ、レック!」

問答無用で次の試練へ向かわせるこの祠の設計にバーバラは腹を立てる。

そんな場所であれば、ホルテンがホルスに腕に覚えのある護衛と同行させるのもうなずける。

3分後には床の動きが止まり、北側にまっすぐな廊下が見えた。

その先にはこれまでの試練の部屋に入るための扉がある。

「あの扉を開けるまでは試練を受けなくていいなら、もう少し準備してもいいかもしれませんね」

水を飲んだアモスは研ぎ終えたアモスエッジを振り、次の試練のための準備運動をする。

アモスの言う通り、この2度の試練で扉を開けるよう急かされたことはない。

そのため、可能な限り準備をした後で試練の望むのが最善だろう。

そう考えていると、部屋の中央にオレンジ色の光の柱が出現し、急なことにレック達は飛び上がり、じっとその柱を見る。

柱からはオレンジ色の人型の幻影が出て来て、それがレーヴァテインを抱くホルスを見る。

(…なるほど、ホルテンの息子か。時がたつのは早いな…)

「はぁ…?なんで親父のことを知ってんだよ。っていうか、誰だよ、あんた」

父親のことを知っているかのような口調の彼に疑問を抱く。

しかし、彼は何も言わずにじっと彼の手にあるレーヴァテインを見る。

「懐かしい剣だ。それを決して手放すな。最後の試練の鍵となるのだからな」

「最後の試練…次の試練で使うってことか?」

ホルスが質問するが、その幻影は何も答えない。

ただ、レーヴァテインに手をかざしていた。

「紅蓮の魔剣よ、ホルストックの王族と民に安息をもたらしたまえ。そして、未来の王に王の真の意味を教えたまえ…」

「おい、質問の答えになってねえぞ!?」

抗議するホルスを無視するかのように、幻影は消滅した。

そして、光の柱も幻影と共に消滅してしまった。

「消えた…」

「ちっ…自分の言いたいことだけ言いやがって…」

悪態をつくホルスだが、なぜかその声が今まで聞いたことのあるような声のような気がして仕方がなかった。

既に死んでいる人も含めて、思い出せる限りでその声の主をどうにか思い出そうとするが、なぜか思い出すことができなかった。

「ま、その意味は…あの扉の先で知ることができるのかもな」

ある程度体力が戻ったハッサンは第3の試練に続くと思われるトビラがある通路に目を向ける。

先ほどの男の言っている言葉の意味はこの場の誰にもわからない。

それを知るためには、ここから先に進むしかない。

「体力も戻ってきたし…大丈夫!」

空腹を満たし、MPも回復したバーバラは立ち上がり、両手を握る。

「だったら…」

「ええ。行きましょう、ホルス王子」

「ちっ…もうちょっと休ませろって…」

チャモロの言葉に憎まれ口を叩くホルスだが、まんざらでもないように立ち上がる。

試練をクリアしたいという思いはだれにも負けないと思っているのだろう。

6人は壁に掛けられたいくつものたいまつの明かりで照らされた通路を通り、扉の前に立つ。

「汝、ホルストックの血を継ぐ者。汝の名前を伝えるのだ」

「…ホルスだ、覚えておけ」

「汝、第3の試練を受け、王の眼を知れ」

扉が開き、第3の試練の間がレック達の前に姿を現す。

そこは先ほど休憩したあの広い部屋と似たデザインの部屋であり、その中央には淡い緑色の光を放つランタンが置かれていた。

「んだよ…なにもねえじゃねえか」

「いいえ、おそらくは…あのランタンが試練の鍵でしょう…」

部屋に入ったチャモロはそのランタンに目を向ける。

手を近づけると、それからは熱が感じられず、その光は魔力によって生み出されたもののように思えて仕方がなかった。

6人全員が入ると同時に扉が閉まる。

「試練を突破しないと出られない…同じだ」

「でも、どういう試練なんだろう?王の眼を知れって言ってたけど…」

「さあな。こいつをとりゃあいいんじゃねーか?」

ホルスは軽い気持ちでそのランタンをとる。

その瞬間、周囲の壁に掛けられていた松明の火が消え、ホルスが持っているランタン以外の明かりがなくなってしまった。

「な…な…!?!?」

「どうなってんだよこりゃあ!!」

明かりが消え、レックたちはランタンの光を中心に集まる。

同時に、ゴゴゴと壁が動き出す音が聞こえた。


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