ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第43話 ホルストックへ

「船の整備は終わっています。いつでも出港どうぞ」

「ありがとうございます。では」

船員に礼を言ったチャモロは錨をあげ、神の船がアークボルトのドックを出発する、

ひょうたん島をカルカドの住民に預けたレック達は現実世界へ戻り、アークボルトまで戻ってきた。

船を預けるには代金はかからないが、期限が設定されているため、カルカドに戻ったころには期限が迫っていた。

そのため、アークボルトへ戻らざるを得なかった。

「んで、これからどうすんだよー?どこへ行けばいいかわからねーぞ」

船上から外の景色を眺めながら、ハッサンは尋ねる。

レックは地図を広げ、まだ行っていない場所でなおかつ今でも停泊できる場所を調べる。

「ここから南西のホルストック…そこへ行ってみる?」

「ホルストックですか。確か、農業が盛んな国でしたね…」

アークボルトで購入したモンスターチェスをミレーユとともに遊んでいるアモスが思い出すようにつぶやく。

これは最近流行になりつつあるチェスであり、一説によると兵士を骨抜きにする力があるという。

兵士のスライムと騎士のドラキー、僧正のひくいどり、城兵のゴーレム、女王のスライムクイーンと王のキングスライムで構成された、スライムに偏向しすぎな感じのチェスで、ルールは従来のものとは何も変わらない。

これらの駒のモンスターはいずれもどの年代でもなじむようにデフォルメされており、それが小さい子供もチェスに興味を持つきっかけになっている。

なお、ミレーユは修行の息抜きとしてグランマーズや順番待ちの占い客を相手に何度かチェスをしたことがあり、それに対してアモスは全くの初心者であるためか、ルールブックを片手に駒を動かしていた。

「これで、チェックメイトよ」

「あうう…」

ミレーユの宣言とともに、なすすべを失ったアモスは力尽きる。

やはり、経験者であるミレーユに軍配が上がった。

「でも、びっくりしたー。ミレーユってこういう遊びが好きなんだねー」

「遊び人の影響かしら…なんだか、こういうのもいいなって思えてきちゃって…」

ムドーを倒すまでのミレーユはこういう娯楽とは程遠い、悪く言えば堅苦しい女性だった。

しかし、ムドーを倒したことで少し心に余裕が生まれたのか、笑う回数が増えてきて、おまけにこうした遊びにも付き合い始めている。

(心を自由に解き放ち、枠を自分の手で作り上げる…。なんだか、その意味が少し鼓得てきた気がする)

これは遊び人の修行をする中で、ダーマの書で見つけた一説だ。

修行といっても遊びに関するものばかりで、とても強くなれるとは思えないもののオンパレードだ。

別の修業をしようと考え始めたその時にその一説を見つけ、ミレーユは遊び人を極めてみようと思った。

 

「へえ…アークボルト程じゃねえけど、なかなかいい装備をしてんだな」

船を預け、再び馬車で移動をするハッサンは関所を通り、そこで警備をしている兵士たちを見る。

魔法戦士をスタンダードにしているアークボルトと比較すると、ここの兵士の装備は重装備であり、かなり無骨なイメージがある。

しかし、いずれも機能性を重視した設計となっており、おまけに加工の難しい玉鋼を素材としたものを標準装備されている。

「確か、フォーン王国が隣にありましたよね。食料を輸出し、フォーンから武具を輸入することで手に入れているのでしょう。確か、フォーンは良質な鉱石が採れる鉱山を所有しているうえに、加工技術も高いですからね」

フォーンとホルストックが貿易を行う理由は二百年前に起こった戦争にある。

フォーンは鉱山を所有しているとはいえ、土地がやせていることから食料の確保が難しい。

人口が少ない時期はさほど問題にならなかったが、その時期になると国内では背負いきれないほど人口が増加していた。

そのため、ひとたび飢饉が起きると餓死者が出た。

そのため、豊富な食料を生産できるホルストックの土地を求めて軍事侵攻を引き起こした。

ホルストックの場合は武器や防具の加工技術が未熟であり、採れる鉄も粗悪な質のものでしなく、当初はフォーンに連戦連敗を重ねており、一時は城を包囲されることもあった。

しかし、レイドックとアークボルトがフォーンの一方的な侵略を国際法に違反しているとして非難し、ホルストック側で参戦した。

その結果、形勢が逆転し、ホルストック側の勝利に終わった。

その後、行われた講和条約によってフォーンは多額の賠償金を支払うことになったが、長年の課題となっている食料についてはホルストックから輸入する代わりに当時は王令によって禁止されていた武具の輸出を解禁することとなった。

この王令はその戦争よりもはるか昔にできた慣習法のようなもので、その当時は世界各地で戦争が起こっていて、フォーンが死の商人となっていたことへの償いとしてできたものらしい。

その結果、ホルストックはこのようにフォーンから輸入した良質な装備を手にすることができている。

隣国であることから、輸送費が対してかからない点も大きい。

「なぁ、大丈夫なのかよ?王家の試練」

交代のために移動している兵士たちの話声がハッサンの耳に入る。

「大丈夫な気がしねえだ。なんてったって、ホルス王子はスケベなうえに臆病だべ」

田舎臭いしゃべり方をする兵士が数日前に城の東にある農村、ホルコッタでホルスを見つけたときのことを思い出す。

納屋にあるタルの中でプルプル震えながら隠れており、隠れた理由を尋ねてみると、剣の稽古が嫌で城を飛び出してきたとのこと。

ホルス王子は城でも農村でも評判が悪く、夜更かしする上に勉強もさぼり、しまいには王の部屋にあったムフフ本『ピチピチ☆バニー』まで盗む始末。

さすがにそれについては教育係の老人に雷を落とされた。

ちなみに、『ピチピチ☆バニー』は世界各地の成人男性をいやすために作られた数多くのムフフ本の中でも名作として評判であり、コレクターの間で高値で取引されているとのこと。

ちなみに去年、国家予算の中でごく少額であるがよくわからない支出があった模様。

「だなぁ。だが、王家の試練を制覇しないと、正式に王位継承者として認められないぞ」

「こりゃあ、いつになるかわからない次のご子息が生まれるのを待つしかないのか…?」

「レイドックの王子さまの爪の垢さ飲ませたくなるだ」

「何か問題を抱えてるって点では、どこもおんなじだな」

兵士たちが通り過ぎると、ハッサンはあまりにも平和なこの国の問題をそう評した。

レイドックでは先日まで王と王妃が昏睡状態となり、ゲバンにより圧政が行われており、今では行方不明となった王子とトム兵士長のことが問題となっている。

アークボルトでも魔物の一件でひと悶着あったことを考えると、どうしてもそう言いたくなる。

王位継承にかかわることであるとはわかっているが、どうしてもこれらの問題と比較するとかわいく感じてしまう。

「案外、王家の試練の手伝いをしてくれって頼まれたりするかも…」

「やめてくれよ。面倒事は御免だぜ…」

ハァー、とため息をつきながら、ファルシオンを前へ進ませる。

旅を始めてからというもの、そういう面倒事に巻き込まれるのがもはや日常となってしまっている。

せめて、こののどかな田舎の国ではのんびり休みたいと思ったが、先ほどの兵士たちの会話を聞いてしまったこともあり、やっぱり面倒事に巻き込まれるかもしれないなと予想するようになってしまった。

 

「旅の者よ!そなたらの力を見込んで、頼みがある!」

「…やっぱりな」

ホルストック城の王の間で、少し太った体で白髪の生えた、赤いマントを羽織っている国王のホルテンの話に嫌な予感が的中したと思いながらハッサンは小さな声をつぶやく。

レック達はホルストック城に到着すると、納屋の警備をしていた兵士にジロジロと顔を見られた後で、ここまで連れてこられた。

そして、王の前に行くと、旅での経験について少し話した後で、ホルテンに上記のセリフを言われた。

もちろん、ムドーやジャミラスと戦ったこと、そして夢の大地のことについては伏せている。

「実を言うと…ワシの息子であるホルスが先日、15歳の誕生日を迎えた。これまでの慣例では、15歳になるとここの南にある洗礼の洞窟で試練を受けることになる。そして、その試練を成し遂げることで、初めて王位継承者として認められる…。じゃが、ホルスは少々臆病でな…剣や乗馬の稽古もろくにできておらん。それに、最近は洗礼の洞窟に凶暴な魔物が住むようになってのぉ…」

「凶暴な魔物…。ムドーを倒せば、万事解決と行かないんですね?」

「そうじゃろうなぁ。活性化した魔物によって一度作り替えられてしまった生態系を元に戻すのは一筋縄ではいかん。おそらく、長い時間がかかるじゃろう。まぁ、その話は置いておいて、そこで…おぬしらにホルスの護衛をしてもらいたいのじゃ。無論、タダでやれとは言わん。報酬としてパテキアの根っこをプレゼントしよう」

報酬の話を聞いたレック達はよいのか悪いのかよくわからない報酬に内心微妙かな感じが否めなかった。

確かにパテキアは特殊な酵素が含まれた土でなければ育たないが、種をまくとわずか数日で収穫が可能になるまで成長する。

現在、パテキアを育てることができる土があるのはホルストックだけで、それの根っこには生命力が詰まっており、煎じて飲むことで万病に効くため、高値で取引されている。

しかし、パテキアが必要になるほどの難病を抱えたことのないレック達にとってはあまり魅力的ではない。

「どうじゃ…!?引き受けて、もらえるか!?」

急に立ち上がり、レックの目の前まで来たホルテンが間近でじーっと見ながら念を押すように言ってくる。

瞬きせず、いつまでも見つめてくる彼に驚き、うっかり首を縦に振ってしまう。

「うむ!!そうじゃろうそうじゃろう!!ワシとあの兵士の眼に狂いはなかったということじゃな!!」

色の良い返事がもらえたことで満足したのか、嬉しそうにホルテンは王座まで戻っていく。

「レック…面倒事は御免だって言っただろう??」

「いや、だってさ…」

「レックー、あたし、なんだかすっごく嫌な予感がするー…」

「実を言うと…僕もです」

面倒事に巻き込まれ、テンションが駄々下がりする仲間たちにレックは非常に申し訳なく思った。

だが、彼はもはや引き受けたと思って張り切っており、周りの兵士や大臣も安心した様子を見せていることから、もはや断れる空気ではなくなっていた。

(こんなので、大丈夫なのか?俺たち…)


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