ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第38話 北へ

「いろいろと、お世話になりました」

出発の準備を整え、正門前にファルシオンを待たせたチャモロが見送りに来たブラストに礼を言う。

馬車の中にはアークボルトで調達した食料や改修された武具が積まれている。

「その…装備の修理だけじゃなくて、強化まで…」

「大したことはしていない。あくまで、これは私がお前たちを気に入ったからに過ぎない」

そういいながら、ブラストは西に目を向ける。

そろそろ約束した時間にあり、レックたちが合流するのを待っているのだ。

なお、アークボルトにおける宿泊費及び装備の修理代や強化代についてはすべてブラストのポケットマネーで賄われた。

「それで、お前たちはこれからどこへ行く?」

「そうですね。まずは北へ向かおうと思っています」

「北へ…?だが、あそこには農村があるだけで、見るものはないぞ?」

先日、工事が完了したことで北へとつながる道が開通し、農村との行き来が可能となった。

食料については、城内においても栽培がおこなわれているものの、それだけでは当然限界がある。

そのため、山を越えた北にある平地の開墾がアークボルト主導で行われた。

それにより、食料自給率の上昇に成功したものの、逆にいうと北の農村からの食糧供給に依存する状態になってしまった。

そんな状態で発生したのが魔物による北への道の封鎖だ。

早期に魔物が倒されたことで、城で食糧難が発生することはなかったのが幸いだ。

今後は2度とこのようなことにならないように、北への道の補強へ予算を回すことが決まっている。

「あ…!来た!!」

ファルシオンを撫でていたバーバラが大喜びで手を振る。

西の道から、レックたち3人の姿が見えたからだ。

それが見えたレックもまた、答えるように手を振っている。

3人の手にはそれぞれが愛用する武器が布に包まれた状態で握られていた。

 

合流を果たした6人はアークボルトを離れ、西にある洞窟へと入る。

途中、魔物が住みかとしていたところへつながる道があったが、そこは兵士が封鎖していた。

話によると、青い剣士は洞窟内にいる魔物をすべて切り殺したとのことで、それだけでは飽き足らず、そこにあった魔物の卵まで破壊したそうだ。

兵士の話を聞き、改めて彼の恐ろしさを感じながら、6人を乗せた馬車は洞窟を抜け、外へ出た。

現在はハッサンとアモスが御者台にいて、周囲の警戒をしている。

「ねーねー、闘気…だっけ?それって使いこなせるようになったのー?」

「ほんの少しだけ、だけど。でも…初めて使ったときはびっくりしたよ」

初めて闘気を使った時の感触を思い出しながら、バーバラの質問に答える。

今までの、悪く言えば力任せに振り回すのと段違いの攻撃力で、苦戦していたストーンビーストを当たり所がよければ一撃で破壊できるくらいに一時的にはなることができた。

ただ、呼吸のやり方は分かったものの、2代目ロン・ベルクとの特訓中は息切れや焦りなどから、やや呼吸が乱れることがあり、そのせいで闘気を十分に発揮できなくなることがあった。

戦闘中も闘気の呼吸を維持する、それがレックにとっては今後の課題となった。

「みなさん、魔物です!!」

ファルシオンが足を止めると同時に、アモスの声が馬車の中で響く。

それを聞いたレック達は即座に武器を手にし、馬車から飛び出した。

外では6本足の魔獣の骸骨の上に忍者の様なものなのが乗っているモンスター、スカルライダー数匹がまるで暴走族のように激しい音を立てながら高速でレック達に迫っている。

また、夢の世界のレイドック周辺で出没するテンツクそっくりだが、体の色が黄色くなっていて、相手の魔力を奪う不思議な踊りを習得したスーパーテンツクや雲の巨人、ラリホーンにデビルアーマーといった魔物の姿も見受けられる。

「こいつら…!直線的なんだよぉ!!」

炎の爪にメラミ並みの炎を宿したハッサンはそれを密集して接近するスカルライダーに向けて投げつけた。

先頭のスカルライダーに命中すると同時にその炎は炸裂し、その炎に巻き込まれたスカルライダーやスーパーテンツクが焼き尽くされていく。

魔獣の骸骨が破壊されるだけで済んだスカルライダーも、素早さがそれに依存していたためか、動きは大したことがなく、バーバラのベギラマやチャモロのバギマの餌食となった。

「でえええいいい!!」

アモスエッジを手にしたアモスは闘気によってそれの刀身に光を宿られ、それを体を軸にして回転させながらラリホーンを攻撃する。

闘気で強度と切断力が増したアモスエッジの猛攻はラリホーンの分厚い皮膚を骨ごと切り裂いていき、魔力の源であり、彼らの力の象徴と言える角をも破壊していく。

また、上空にいる雲の巨人に対してはかまいたちを放って葬り去った。

「アモスさん、すごいな…」

「あははは、これぞ、亀の甲よりも年の功ってやつですよ!」

そういうレックも、まだまだ呼吸の粗さが感じられる部分があるものの、それでもデビルアーマーの斧を一太刀で切り裂き、更に鎧も正面から切り裂くだけの威力を発揮している。

ダーマの職業の修行、そして闘気の修行の成果が、確実に身につきつつある。

30分経つと、数多く存在した魔物のほとんどが青い粒子となって消滅し、生き残った魔物も怖気づいて逃亡していた。

「ふうう…。疲れましたねー」

「ええっと…そういえば、ミレーユ…言いにくいんだけど…」

「え…?どうかしたの??」

「その、どうして戦闘中に化粧直しを…?」

「???」

ミレーユ自身、なんのことだかさっぱりわからないようで首をかしげている。

実を言うと、ミレーユはこの戦闘の間、なぜか急に化粧直しをしたり歌ったりすることがあり、たまにだが、それが魔物を困惑させる原因ともなっている。

「ね、ねえ…ミレーユ。踊り子の修行は終わったって言ってたよねー。それで、次に選んだ職業って…」

バーバラが不安げに尋ねると、全員の目線がミレーユに向けられていく。

恥ずかしさに負けたミレーユは急いで背を向ける。

「…人」

「え…?」

「あ…人、よ」

「聞こえねーぞ。はっきり言ってくれよ、ミレーユ」

「遊び人よ!!」

大声で白状したミレーユの意外な職業選択に一同は一瞬凍りつく。

確かに、ダーマの書には遊び人という職業がある。

だが、最初のページに描かれているピエロのように、戦闘中はなぜか遊びだしてしまうという困った性質を修行中はなぜか得てしまい、それ故に役立たずと見なされることが多い。

そんな職業をまさかミレーユが選ぶとはだれも予想できなかっただろう。

「ねえ、どうして…選んだの?それ」

「その…踊り子と遊び人の経験を積めば、スーパースターになれて、身体能力と魔力の両方を伸ばせるか持って…。ごめんなさい」

「ううん、別に謝らなくても…そういうことなら…」

なぜ遊び人が職業となるのか?

曲芸などをするのであれば、芸人でもよいではないのか??

そんなことを考えながら、レック達はダーマの書を思い浮かべた。

 

北へ半日進み、農村に到着した。

アークボルトよりも若干寒冷なこの地域では、コンニャクイモや葉タバコ、ビールの原料となるホップなどの作物が大規模な田畑で栽培されている。

先ほど、レック達とすれ違う形で農作物を積んだ馬車が護衛の兵士3人とともに出発した。

この馬車が無事に城に到着したら、あの魔物の騒動が完全に解決したといえるだろう。

「え…?西に大きな魔法陣があるんですか?」

食糧調達と共に、情報収集していたレックが年寄りの農夫の発言に驚いた。

「そうじゃ。わしの爺さんが言うておったが、この村の西には魔法陣があって、それは4人の勇者が来るべき時のために各地に刻んだそうじゃ」

「4人の勇者…それは…」

「詳しいことは爺さんも分からかった。じゃが、その4人の勇者は世界を破滅へ導く邪悪を退けた。そして、その邪悪が再びこの世界を攻撃してきたときに備えて、それぞれが各地に魔法陣を刻み、そして伝説の武具を封印したのじゃ。名前は確か…ラミアス、オルゴー、スフィーダ、そしてセバスじゃったかのぉ…」

「ラミアス…オルゴー…スフィーダ…セバス…」

反復するように、4人の勇者の名前を口にする。

彼らの名前は農村を出た後もずっと、レックの脳裏から離れることがなかった。


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