ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第37話 森の中の鍛冶屋

カコーン!カコーン!!

青い作務衣姿で、黒が混じった白いロングヘアーをした、皺の数からみると40代程度の年齢であろう男性がナタで薪を両断していく。

両断したそれは瓦屋根と4本の柱でできた薪小屋に投げ込まれていく。

切り終わると、タオルで額の汗をふき取り、そのあとで柄杓を手に取って外に置かれている酒壺から酒を掬う。

それを飲みながら、彼は馬車の車輪の音が聞こえた方向に目を向ける。

「…久しぶりの客人か」

酒を飲み終えた彼は自宅に近づいてくる馬車をじっと見た。

 

「…なるほど、ブラストが私にな」

馬車に乗っていたレックたちを家に迎え入れ、馬車とファルシオンを自宅のそばにある納屋に入れると、レックから受け取った手紙を読み始める。

「こんなところで、ずっと1人で暮らしてるのか?2代目ロン・ベルクさんよ」

部屋の中を見ながら、ハッサンは男に尋ねる。

台所や家具、包丁などの料理器具など、大工の修行をしていたハッサンから見ると、本業ほどではないが大した出来になっている。

また、大工は自分が作ったことを証明するため、建物のどこかに印をつけるのだが、この家にはそのような印が見当たらない。

「ああ。すべて私と師匠が作った。魔物に注意をすることを忘れなければ、不自由ない」

「師匠って…初代ロン・ベルクのことですか?」

「そうだ。師匠は数年前にロンガデセオに行った。友人の遺言で、そこの子供が自立できるようになるまで、世話をしてほしいと。だが…今は私の身の上はどうでもよいだろう?それよりも…」

読み終えた手紙を懐にしまうと、2代目ロン・ベルクは髪を束ね、壁に飾ってある剣と爪を手に取る。

「ここには強くなるために来たのだろう?なら、早く戦いの準備をして表に出ろ」

 

「はあ、はあ、はあ…」

「ゼイ、ゼイ…」

「どうした…?もう終わりか?」

30数分後、外には疲れと傷のせいで、その場で座り込むレックとハッサンの姿があった。

目の前には右手に剣を握り、左手に爪をつけた2代目ロン・ベルクがいて、彼は全くの無傷なうえ、息も乱れていない。

しかも、装備している武器は破邪の剣や炎の爪のような特別な武器ではない。

自作とはいえ、鋼を素材に作っただけの、シンプルなどこにでもある武器だ。

「めちゃくちゃ強い…」

「ただの鍛冶屋じゃなかったってことですね…」

表情を崩していないものの、驚いたチャモロの頬に一筋の汗が流れる。

「師匠は常に言っていた。強い武器とそれに見合う実力を持った担い手、この二つが合わさってこそ、武器の真価が発揮すると。今のお前たちは優れた武器に振り回されているだけ、真に使いこなしているとは言えんな」

武器を置いた2代目ロン・ベルクはフウウ、と呼吸を始める。

そんな彼を見て、疲れ果てたレックは何かを感じた。

(なんだ…?今、空気が揺れた感じが…)

「さあ、どうした?今なら一本とれるかもしれないぞ?」

「丸腰でやるってのかよ!?なめやがって!!」

彼の態度を挑発と受け取ったハッサンが燃え盛る炎の爪で切り裂こうとする。

「ええ!?」

「嘘…」

「な…!?」

炎の爪を振り下ろした瞬間、全員が驚きを隠せなかった。

2代目ロン・ベルクが炎の爪を素手でつかみ、受け止めていたからだ。

しかも、腕周りはハッサンよりも細いはずなのに、しっかりと受け止めていて、さらに握っている手にはやけども傷もない。

「あ、あんた…その手は…!?」

「攻撃してきたお前には見えているな?私の手に宿る青い光が。これが闘気、戦士と武闘家が特殊な呼吸で操ることができる生命エネルギーの力だ」

そういうと、2代目ロン・ベルクは左手にも青い光を宿し、ハッサンをつかんだ。

そして、自分よりも大きい彼の体を左手だけで振り回し、レックに向かって投げつけた。

猛スピードで投げられたために、回避できなかったレックはそのままハッサンに下敷きにされる。

「レ、レック!?大丈夫か!?」

「あ、ああ…」

すぐにハッサンがどいてくれたこと、そして戦士の修行によって守備力を高めることができたおかげで、レックっは大きなダメージを受けずに済んでいた。

(ハッサンを片手で投げることができるだけじゃなくて、刃物や炎に耐えることができる…。あれが闘気…)

「これからお前たちに闘気の使い方を教える。そこにいるお前にもだ!」

「え、えええ!?私にもですか!?」

ミレーユたちとともに観戦をしていたアモスが自分に指をさしながらびっくりする。

「まぁ…アモスさんは武闘家ですし…」

「あたしたちは戦士でも武闘家でもないから…」

「頑張って、アモスさん」

「ええーーーー!?!?」

アモスの情けない声が森中に響き渡った。

 

翌日になり、家から2代目ロン・ベルクと口元の部分が改造された鉄仮面を装備したレック、ハッサン、アモスが出てくる。

ミレーユら、これからの修行に関係のないメンバーはファルシオンと共にアークボルトに帰されている。

「ううー、なんか妙な感じだぜ」

「妙、とは?」

「なんか、風邪ひいたときにつける薄いマスクを何個も付けたような感覚で、息がしづれー…」

「しかも、この鉄仮面の中…とっても熱いですよ。このままでは顔だけ熱中症ってことになりそうです」

ハッサンとアモスの言う言葉にも一理あり、現にレック自身も顔じゅうに暑さを感じ、更には息苦しさも覚えている。

「食事の時間を除いて、四六時中この鉄仮面は身に着けてもらう。これで、少なくとも2,3日で闘気を発生させる呼吸のやり方を体が覚える」

「でもよー、それなら口元だけのものにして、装備すりゃあいいじゃねーかー」

「ある程度悪い環境下でも、その呼吸法を維持する必要があるからな」

そういって、レック達に木こりが使用する斧を1本ずつ渡す。

そして、自身も同じ斧をもって、森の中へ入っていく。

「まずは薪と木材が必要になる。木の伐採に手を貸してもらうぞ」

「ええーーー!?普通なら、修行とかじゃあ」

「ただで休める場所と飯を出すんだ。宿代及び修行代の代わりにしっかり働いてもらう」

そういって、ついてくる3人に例の手紙を見せる。

手紙の内容は、しばらくレック達の修行をしてほしいこと、そしてその謝礼は彼らから肉体労働で受け取るように、とのことだった。

「まずは…この木だな。これを切ってもらう」

周辺にある期と比較すると、やや太めの木に右手で触れる。

そして、再び彼は闘気の呼吸を始める。

「私はこのまま木が倒れる方向を調整する。心配せずにやってくれ」

「心配せずにって…とても危ないじゃないですか」

ハッサンを投げ飛ばすほどの怪力を闘気で生み出すことのできる2代目ロン・ベルクだが、この巨木の重量は推定だとハッサンの何倍もある。

いくら彼でも、彼に向けて倒れるとどうなるかわからない。

それに、このまま木を倒すとしたら、どうしても彼の正面から斧を入れなければならない。

となると、倒れるのは確実に彼に向けて、ということになる。

「いいから早くやれ。日が暮れると、強力な魔物が出てきて、面倒なことになる」

「はあ…わかりました。ロン・ベルクさん」

動けないハッサンとアモスの代わりに、レックが立ち位置を決め、斧を構える。

(ライフコッドにいたころは、何度も木を切りに行ったし、この太さの木は何本も切ったことがある。できないことはないはずだ)

そう思いつつ、レックは斧を木に向けて横にふるう。

「な…!?!?」

斧の刃と木がぶつかり合った瞬間、レックの手を激しい痺れが襲う。

あまりのしびれに、斧を地面に落としてしまうほどだ。

「感じたか?これが昨日、お前の仲間が受けたのと同じ感覚だ。すでに分かっていると思うが、俺は闘気でこの木の強度を上げている。普通に斧を振り回すだけでは、倒すころには日が暮れているぞ」

「ということは…こちらも闘気を使わないといけない、ってことですか?」

「察しがいいな」

「ああ、じゃあいろいろと呼吸をしなければ…スーハースーハー、スパーハー!!」

「…実戦では動き回りながら呼吸を維持することになるぞ?」

 

「うーん、こうじゃない…」

一方、アークボルトに戻ったバーバラ達も、ただ待つわけにはいかないと修行を行っていた。

バーバラは最近覚えたばかりの呪文を使い、チャモロは精神統一のための瞑想、ミレーユは踊りの練習をしている。

特にチャモロはアークボルトでの試験が良い刺激となったのか、人一倍修行に打ち込んでいる。

「あー疲れたー。ねー、そろそろご飯食べよーよー」

「先に食べていてください。もう少しだけやっています」

「えー!!そんなに根を詰めていたら、体調崩しちゃうよー?」

「大丈夫です。村ではもっと疲れるくらいの修行をしていましたから」

(チャモロって…本当にあたしよりも年下…?)

本当の年齢はわからないものの、レックたちは少なくともバーバラが17歳くらいだろうと予想している。

チャモロは15歳で、背丈もバーバラよりも低いため、現段階ではメンバー最年少といえるだろう。

しかし、ゲントで次期長老としての教育と修行をしてきたためか、かなり大人びていて、アモスがボケや軽口の多い男性であることも手伝って、彼がメンバー最年長ではないかと錯覚を覚えてしまうほどだ。

(チャモロ、ちょっとだけでもいいから、羽目を外してくれればいいのに…)

「おっと、そろそろ時間ですね?」

「ん…?時間??」

どういう意味か聞こうとするが、その前にチャモロは瞑想をやめて、近くにある小川に向かう。

途中で馬車により、モンストルで購入した釣り竿を魚かごを手にして。

「つ、釣り…?」

ついてきたバーバラは意外そうに釣り糸を垂らすチャモロに話しかける。

「話しかけないでください!!」

「ええっ!?」

「釣りは魚と釣り人による1対1の勝負!そして、精神を落ち着かせるための修行にもなります!!それに水を差さないでください!!」

「ご、ごめん…」

「1時間したらご飯に戻ります!ミレーユさんにはそう伝えておいてください!」

そういうと、チャモロは釣りを再開する。

チャモロの意外な一面を見たことで、ちょっとだけ安心したバーバラは城へ戻っていった。

なお、チャモロはそのあと結局8時間近く釣りを続けたという。


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