ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第34話 アークボルトと青い剣士 その3

「はー、はー、はー…」

ミレーユとバーバラ、そしてレックの3人がかりで行った治療により、2時間以上かかったものの、ガルシアは回復した。

といっても、まだまだあのときの衝撃を体が覚えており、もう少し時間がたたなければ戦えないだろう。

「ええっと、すみませんでした。勝つためとはいえ…男として大事な部分に…」

「い、いや…。別にいい。重要なのは、勝利したことだからな…」

「その通り。1つ目の試験はこれで通過だ」

ガルシアの言葉に同意しつつ、1人の男が部屋の北側にある階段から降りてくる。

アークボルト兵共通の服の上にヤシの実を模した勲章が左胸についたプロテクターを装備した、禿頭でフルフェイスの黒い髭の男で、身長はハッサンと比べるとわずかに低い程度だ。

背中には愛用している槍をさしている。

「ブ…ブラスト兵士長!!な…情けない姿をさらしてしまい、申し訳ありません!!」

ブラストの登場に驚いたガルシアは彼の前に立ち、頭を下げる。

そんな彼にブラストは何も言わずに左肩を右手で軽くたたくと、じっとレック達を見る。

「ふむ。ガルシアは俺を除いて、アークボルト内でも1、2を争う実力がある。そんな彼を倒すとは…なかなか見所がありそうだ」

「い、いやぁ…それほどでもぉ!」

照れくさそうに笑いつつ、後頭部をかくアモスを見て苦笑すると、再び階段へ向かう。

「第2の試験はこの城の屋上で行う。用意ができたなら、そこに行くがいい。お前たちがあの洞窟の魔物を倒すだけの力を持つ人物かどうか…楽しみでならんな」

ハッハッハッと大声で笑いながら、ブラストはその場を後にする。

その場に残されたガルシアを除く5人はじっと、彼がいたところを見た。

「さっきの言葉が正しければ、彼がアークボルト最強ということになりますね?まぁ…兵士長ですから、当然といえば当然ですが…」

「あたりまえだ。あのお方はあの青い剣士に敗れるまで、一度も敗北したことがなかった男だ」

「負けたにしては、かなり上機嫌だよな…?」

ハッサンのいう通り、敗北したのに上機嫌だというのはどうも違和感が感じられる。

とても、先ほどのブラストが数時間前に敗北した戦士には見えなかった。

「それはそうだろうな。あの剣士と戦った後、あの人は久々に対等に戦える男と会えたって嬉しがっていた。くそっ、試験官でなければ、俺も観戦したのに…!」

 

少し時間が経った、アークボルト城屋上。

アモスの回復を終え、疲れをとったレック達は玉座のある部屋の扉の前にある広場に来た。

扉の前には、赤い制服で大剣を持つ金髪ショートの戦士と右手のメイス、左手にタワーシールドを持つ、こちらは今までの兵士とは違って青い鎧を身に着けた銀髪ロングの戦士が待っていた。

「あのガルシアを倒したのか…やるなぁ、あんたら」

「…」

「まさか俺たちの出番が来るとは思わなかった…って言ってるぞ、こいつ」

そういいながら、金髪の男が銀髪の男を右手親指で刺す。

「自己紹介はまだだったな、俺はスコット、で銀髪の方はホリディだ」

「…」

ホリディは何も言わず、レック達に対してお辞儀をする。

「ねえ、この人しゃべらないの…?おーい、おーい…」

変だなと思ったバーバラが何度もホリディに声をかける。

しかし、何度やっても彼は沈黙したままだった。

「…」

「大丈夫、ちゃんと聞こえてるって言ってるぞ。ちなみに、こいつはしゃべらないんじゃない。しゃべれないんだ」

「しゃべれないって…」

どうしてかと尋ねようとしたレックをスコットが右手を出して制止させる。

そして、ホリディは静かに自分の喉元に指を刺した。

そこにはうっすらとだが、切り傷の痕が残っている。

「魔物との戦いが原因で、声が出せなくなってな。まぁ…あいつがいいたいことは、大体顔を見ればわかる。本当なら、筆談の方がいいけど、生憎手元になくて…」

「…」

「え?それよりも早く試合をするぞだって?まったく、いつもはおとなしいくせに…」

既に構えているホリディを見て、呆れてため息をついたスコットも武器を構える。

「今回の試合は障害物無しで2VS2だ。そっちからは誰と誰が出る?」

「2人一組での試合ですか…」

「んじゃあ、俺とチャモロで出る。いいか?」

話し合いをする間もなく、ハッサンが提案する。

いきなりのことに、ほかの5人はびっくりしてしまう。

「えーー!?ちょっと話をしたあとでも…」

「特に大した理由はねえよ。アモスさんは一度戦っていて、もしかしたら対策を取られてるかもしれねえ。それに、俺とレックが一緒に出たところで回復薬がいねえから、長時間は無理だ。ここは回復ができて、魔物マスターとしての技術を持っているチャモロが一番だ」

「…」

「んだよ、別の案があるのか??」

ハッサンの話を聞き、黙り込んでしまった全員を見て、違和感を感じたハッサンがいう。

そして、数秒たつと最初にレックが口を開く。

「いや…ハッサンがそこまで考えることができるんだなーって思って、意外だと…」

「別に意外じゃあねえだろ??」

「だって、ハッサンって一番あたしたちの中で賢さが低いって…」

「それにあまり考えて行動しないような印象もありますよね??」

「それは正解よ。前にムドーと戦った時…」

「おい…泣いていいか??」

レック達の自分の理性に対する本音の評価を思わぬ形で聞くことになったハッサンが複雑な表情を浮かべる。

 

数分後、レック達は後ろに下がり、ハッサンとチャモロだけがスコット、ホリディと対峙する。

「さぁ…この試験をクリアすれば、ブラスト兵士長は目の前だ!存分にやれ!」

「言われなくても、そうするぜ!!」

4人が同時に武器を抜き、王の間がある建物の屋上の監督官の兵士が4人を見る。

そして、それぞれにイカサマとなるようなものが存在しないのを確認すると、試合の始まりを告げるゴングを鳴らす。

「まずは呪文を封じさせてもらいます!マホトーン!!」

即座にチャモロが印を切り、マホトーンを唱える。

彼が切った印から発せられる波紋がタワーシールドを装備しているがゆえに動きの遅いホリディを襲う。

「…!」

すると、ホリディがメイスを握ったまま印を切り、マホトーンを放つ。

同じ呪文の波紋が正面からぶつかり合い、衝撃波を起こして消滅する。

「うわああ!!」

衝撃波は前に出ていたハッサンにダメージを与えるものの、スコットはホリディの後ろにいて、ホリディもタワーシールドで衝撃波を受け止めていたため、無傷だった。

「しゃべれねえくせに、呪文は使えるのかよ!?」

「…」

「しゃべれない人間を馬鹿にするな、と言ってるぞ。呪文ってのは訓練すれば、印を切るだけで使える。相手に悟られないようにな!!」

「…まずい!ハッサン、下がってください!!バギマ!!」

「うおおお!?」

チャモロの声に反応し、すぐに後ろに下がった彼の目の前で爆発が発生し、チャモロは反撃としてバギマを放つ。

「おっと、そう問屋は降ろさんぞ!!」

ホリディが構えたタワーシールドを足場にして跳躍したスコットがバギマを避け、チャモロを肉薄する。

そして、持っている大剣でチャモロを斬ろうとする。

「く…!」

やむなくチャモロはゲントの杖で受け止めるが、やはり僧と戦士では鍛え方が違う。

だんだん刃がチャモロの額に近づいていき、皮の帽子が斬れて床に落ち、更に杖にもひびが入る。

「チャモロ!!」

急いでハッサンが救援に向かい、スコットを両腕でつかみ、そのまま後ろへ投げようとする。

しかし、急に足元で爆発が起こり、バランスを崩してしまった。

「また爆発…!?イオかよ!?」

「仕方ありません…!」

やむなく、チャモロは杖を手放して後ろに下がる。

杖はそのままスコットによって真っ二つに折られてしまった。

「すごい…スコットさんとホリディさんの動き。互いの確実にフォローし合っているわ」

「あのハッサンとチャモロが手玉に取られるなんて…」

ハッサンもチャモロも、ムドーとの戦いを潜り抜けており、更にダーマの書物の知識を基に修行をしているため、彼らが言う普通の旅人とは一線を画す実力がある。

にもかかわらず、このように攻撃がことごとくかわされ、逆にダメージを受けている。

互いをフォローしあい、互いが攻撃できる絶好の状況を作っていく。

これが第2の試験官であるスコットとホリディの戦術だ。

「うおおおお!!」

しかし、このままで終わるつもりはないハッサンが倒れた体勢から腕を軸に回転し、足払いをする。

「うおっと!!」

足払いを受け、わずかに体勢を崩したのを見て、ハッサンはすぐに起き上がってスコットを殴り飛ばして、チャモロの前に立つ。

「大丈夫ですか、ハッサン!」

「治療たのむぜ、チャモロ。イオのせいで少し足が…」

「わかりました…!」

軽い傷であるため、ゲントの杖の光を少し当てれば直すことができる。

しかし、先ほどのスコットによる攻撃で杖が壊されてしまった以上は、ホイミで回復させるしかない。

「…」

「そんな雀の涙程度の回復でいいのか!?…ってホリディが言ってるぞ!」

スコットが全身の筋肉の運動性を一時的に高め、攻撃力を高める倍化呪文、バイキルトを自らに唱え、スコットはスカラの効果を味方全体に広げた範囲障壁呪文、スクルトを唱えて攻防の準備を固める。

そして、ハッサンの傷が回復したのと同時にスコットが突っ込んでくる。

「突っ込んできたな!なら…!」

ただ単に突っ込んでくるだけの攻撃なら、ハッサンにとっては都合がいい。

深呼吸をし、集中力を高めたハッサンは正拳突きの構えを見せる。

光は左胸あたりに見える。

「ホリディ!!」

「…!」

わずかにうなずいたホリディが急に走りはじめ、スコットの前に立つ。

「な…!?重装備でこんなスピードがぁ!?」

「まさか、ピオラ!?」

ミレーユはグランマーズから聞いた呪文の1つを思い出す。

ピオラは風をまとうことで肉体の動きを滑らかにし、動くスピードを速める加速呪文だ。

しかし、呪文を唱え、風が体を包むまでにタイムラグが発生し、すぐに効果を発揮することのできない、少し扱いづらい呪文だ。

そのためか、この呪文を覚えることができる僧侶のほとんどが敬遠しているため、マイナーな呪文として扱われている。

しかし、ピオラの効果そのものは注目されており、噂によると装備することで常時その力を発揮できる腕輪があるという。

「く…!」

やむを得ず、ハッサンはホリディへ攻撃対象を変更し、彼が持つ左胸当たりの光に向けて拳を叩き込もうとする。

しかし、タワーシールドに阻まれ、正拳突きは失敗する。

「よくやった、ホリディ!!」

ホリディの肩を利用して跳躍したスコットがチャモロの後ろで着地する。

「くっそぉ…挟み撃ちかよ…!!」

「強い…」

スコットとホリディの連携に翻弄されるハッサンとチャモロ。

2人は背中合わせとなり、突破口を模索する。


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