ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第27話 王の願い

レイドックの旗がついた船と神の船が鎖で固定される。

レック達はレイドックの船に移り、兵士の案内で中に入ると、甲板から1つ階段を下りた場所にある食堂についた。

「陛下、お連れしました」

「うむ…」

食堂にはレイドック王が椅子に座って待っていた。

レック達を連れてきた兵士に手で合図をすると、彼は一礼してからその場を後にした。

「陛下、どうしてここへ??」

「グランマーズ殿の占いに導かれてな…留守をシェーラに任せてここまで来た。まだレイドックにはお前たちのことを快く思わない者たちもおるからな」

「快く思わない…ですか」

レックにはそれについて心当たりがあった。

偽王子騒動だ。

成り行きと誤解があったとはいえ、その騒動の結果、トムが追放され、話によるとゲバンの専制が強まってしまったのは事実だ。

ムドーを倒したとはいえ、それで子の一件に対するけじめをつけたとは言えない。

「こうしてここに来ていることは一部のものしか知らぬ。表向きはサンマリーノの視察ということで、事実を作るためにも、これからサンマリーノへ向かう」

「そこまでして、どうして僕たちを…?」

偽王子騒動について、チャモロはムドーの島へ向かう途中にレックからある程度聞かされている。

ゲバンは権力を失ったとはいえ、彼から利益を得ていた一部の貴族や軍人の中には彼の復権を求める動きがある可能性がある。

仮に今回、秘密裏に犯罪者であるレック達と接触しているということがばれると、それをネタに王を追い落とそうとするだろう。

また、以前にレイドック城で王がレック達と話したということはほとんど知られておらず、目撃した兵士には固く口止めしている。

本題に入るため、王は懐から書状が入った筒を出す。

丈夫な布でできた筒にはレイドックの国旗と王の署名がある。

その筒をレック達に差し出す。

「これは…?」

「王の権限として、トムの兵士長復帰を許可する書状じゃ。彼を見つけて、この書状を渡してほしい」

「トム兵士長に…?」

「そうじゃ、ゲバンはあやつを追放したというが、実を言うと…トムはそこへ向かう途中に脱走し、今も行方がつかめぬ。おそらく、本物の王子を探すために…。だから、お主らにはトムと本物の私たちの息子を探し出してほしい。そうすることで、以前の一件のことを不問にできる。…すまぬな、私がしっかりと説得できれば」

筒を受け取ったレックを申し訳なさそうに見つめる。

彼らは操られていた自分を救ってくれただけでなく、本物のムドーを倒して世界を救った英雄。

本来ならば、きちんと城で迎えたかったが、結局はこういう秘密裏の形でしか接触できなかった。

「…はい、トム兵士長のことについては俺が悪いですから。償う機会をいただけたこと、感謝します」

「ありがとう…。それから、神の船についてだが、チャクラヴァとは話をつけておる。トム兵士長と王子捜索のため、引き続きお主らが使ってよいとのことだ。その間に、チャモロはきちんと外の世界について見分を深めてほしい、と」

「おじいさまが…」

過去にチャクラヴァはこういう話をしていたことをチャモロは思い出す。

神の船は使命を全うしたとき、自動でゲントの村へ戻っていくと。

ムドーを倒したことで、それを果たしたかと思ったが、今もこうしてムドーの島にあるということは、きっとまだまだ使命を全うしていないということだろう。

チャモロ自身も、もう少しレック達と一緒に旅をしたいと思っていたこともあり、今回のことは歓迎できる事案だ。

「次の目的地についてじゃが、それはゆっくり考えてほしい。その間に、食料や物資の補給をしておこう」

 

レック達が神の船に戻り、船室で目的地を決めるための話し合いを始める。

兵士や水夫たちは協力して、神の船へ水や食料の入ったタルや木箱を運ぶ。

一方、食堂に一人残ったレイドック王は静かに背後に現れた2人の人物に対して語り掛ける。

「愛弟子に声をかけなくてよかったのですかな?」

「かまわぬ。ここで顔を見せると、里心をつけてしまう。それに…儂自身も耐えられなくなる…」

「夢占いで、近いうちにまた会えると出ましたからのぉ。今あったとしても、今の儂にできることはない」

「そうですか…チャクラヴァ、グランマーズ殿…」

「堅苦しい物言いはなしじゃ、アキレス。今夜は飲まぬか?」

「ふぅ…その名前で呼ばれるのは久しぶりじゃな」

古い友人同士が語り合うのをよそに、グランマーズは窓から神の船を見つめる。

そして、両手を固め、静かにミレーユ達の無事を祈った。

 

「水夫のおっさんの話だと、ゲントの村の東にはモンストルの街とアークボルトって国があるってよ。ここからだと、モンストルが近いぜ」

「モンストル…今の物資ならそこまで持つわね」

地図をもとに、移動距離と移動時間をミレーユが計算する。

補給を受けることができたとはいえ、秘密裏である都合上、それほど多く得ることはできない。

もって2週間分で、アークボルトへ向かうには少し足りない。

となると、モンストルで水と食料を補給してから向かうのが一番良いだろう。

幸い、2本のアサシンダガーや風の帽子、鉄兜やみかわしの服といった装備品をある程度もらうことができた。

特に魔法の盾は鉄の盾を失ったレックにとってはうれしいものだ。

これらはレイドックだけでなく、ゲントの村から調達したものもある。

「じゃあ、行く先が決まったということでー…」

話し合いが終わると、すぐにバーバラがダーマの本を手に取る。

「これからみんなでダーマの本を読んで、修行をしよー!あたし、ずーっと待ってたから早く体を動かしたいもん!」

そういいながら、バーバラは本を持ったまま外へ飛び出した。

そんなバーバラを見て、クスリと笑った後でミレーユも続く、レックとチャモロもついていく。

「ふぃー…やーっと1人になれたぜ」

全員が出て行ったのを見た後で、ハッサンは紙とペン、そしてインクを机の上に用意する。

そして、何かを考えながらペン先のインクをつけ始めた。

(ああ、くそ…!いざ書こうとすると、何を書けばいいのか思いつかなくなる!)

宿屋の台帳や船の乗客名簿に名前を書くくらいしかペンを握ったことのないハッサンにはこれからやることはとても頭を使うことだ。

元々あまりないと自覚している脳をフルで回転させながら、ゆっくりと頭に浮かんだものを文章にし始めるも、さっそく1行目で字を間違えてしまう。

「くっそーー!!駄目だ駄目だ!!」

もったいないため、ナイフで間違えた行の部分を切って、再び一から書き始める。

(急いで書かねえと間に合わねえ…!!)




今回はかなり短めですが、モンストルに目的地が定まりました。
ゲームではもう1人のレックを探す目的で旅を続けることになってましたが、それだとまだまだ目的不足ではないか、それにあのレイドックの兵士たちの歓迎についてもちょっとん?と思える部分があったので、こんな感じになりました。

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