ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第23話 ムドーの島その2

火炎放射がレック達に襲い掛かる。

この熱気に満ちた空間ではヒャドでその炎に対抗することはできない。

レック達は2体目のアーリーキラーマシンから離れる。

「なんだよコイツ!?あんな機械、見たことねえぞ!?」

「火山の中でも行動できるということは…耐熱性は相当なものみたいね」

「レック、後ろです!!」

チャモロの言葉ではっとしたレックが急いで振り返り、盾を構える。

すると、1体目のアーリーキラーマシンのメイスが盾に命中する。

「う…ぐぅ!!」

受け止めたにもかかわらず、左腕に骨折と思える激しい痛みが襲い掛かる。

元々メイスは戦士のような鎧で身を固めた敵に対抗するため、打撃武器として生まれたものだ。

鎧ごと相手を撲殺するというコンセプトであり、レックのように盾で受け止めた場合に腕に襲うダメージは大きい。

「レック!!」

痛みで身動きを止めたレックの首をアーリーキラーマシンが太刀で切り裂こうとする。

その前にチャモロが放ったバギによってレックは吹き飛ばされたことで難を逃れた。

しかし、バギの影響で体の各所の切り傷ができている。

「喰らいやがれ!!」

レックに気を取られていた1体目の背後に来たハッサンが拳で走行を貫こうとする。

しかし、強靭な装甲のアーリーキラーマシンに生半可な拳は通用しない。

拳が接触するのと同時にハッサンの指の骨のひびが入ってしまう。

「くっそぉ!!」

「ハッサン、離れて!!」

今度は左拳で攻撃しようと試みるのと同時に、2体目がハッサン目掛けて矢を放つ。

「く…うううう!!」

ハッサンの傍まで走ってきたレックが盾で矢を弾く。

骨折の影響か、左手の指を動かすことはできないものの肩は動くため、盾で矢を弾くことくらいはできる。

ただし、メイスの一撃によって盾にひびが入っており、これ以上防御できない可能性が高い。

「ミレーユ!僕が気を引きます!!」

「チャモロ、無茶よ!?」

ミレーユの制止を無視し、チャモロはバギをアーリーキラーマシンに向けて放つ。

バギは確かに命中しているが、アーリーキラーマシンの装甲を切り裂くことができない。

しかし、2体の目をチャモロに向けることだけはできる。

「こっちです!!」

ゲントの杖をミレーユに投げ渡し、自身は少しずつ後退していく。

獲物がチャモロと定めた2体はレック達に目を向けることなく追跡を開始した。

弱い相手から狙うという戦いの定石に基づいた行動なのか、それとも今のままのレック達ならば簡単に倒せるという慢心からなのかは定かではない。

「チャモロ…」

チャモロが消えて言った方向に目を向けるミレーユだが、このままのレックとハッサンを放置するわけにはいかない。

特にレックの骨折した左腕は早く直さなければベホイミでも治療できなくなる。

チャモロが置いていったゲントの杖を左手で持って、それをハッサンの手にかざし、右手ではベホイミを唱えてレックの腕に向けて放つ。

「う、うう…!」

「動いてはだめよ。骨折となると、ベホマでないとすぐに回復できないのよ」

深い傷であっても数秒で治すことのできるベホイミでも、レックの骨の修復がゆっくりとしか進まない。

片手だけで放っているものの、左手のゲントの杖は自身の魔力を使っていないため、全力で放っている点については変化はない。

なお、ハッサンの指の治療は6秒程度で終えることができた。

「すまねえ、ミレーユ!」

指を動かして、異常がなくなったのを確認したハッサンは立ち上がり、チャモロを追いかけようとする。

「待って!ハッサンの拳でも壊せない程の硬さの魔物よ。どうやって戦うつもりなの!?」

「壊せるさ…地底魔城でのアレをもう1度やることができりゃあ…」

「あれ…?」

「思い出してくれよ、ストーンビーストを一撃でぶっ壊したときのことを。その時はなぜかストーンビーストに光る部分が見えて、それに拳を全力で叩き込んだら、ああなっちまったんだ」

「光る部分…??」

確かにその時、一撃で倒したということは分かるものの、その光る部分については首をかしげる。

乱戦だったためか、彼女はその光を見たことがない。

レックかバーバラが見たなら、すぐに伝わるはずだ。

「あれをもう1度やりゃあ…あの魔物を倒せる!!」

ハッサンはチャモロとアーリーキラーマシンが行った方向に向けて走って行く。

「ハッサン…」

彼女もすぐに追いかけたいが、レックの治療を中断するわけにはいかなかった。

左手に持っているゲントの杖をレックに向け、疑似的にベホイミの重ね掛けを行う。

これで少しは治療のスピードが速まるだろう。

(ハッサン…チャモロ…!!)

 

「ハア、ハア、ハア…」

傷と火傷を抱えながら走るチャモロが石でできた階段を上る。

メガネの左目部分には縦のヒビが入っており、左腕には矢をかすめたことでできたと思われる切傷ができている。

「ここは…!?」

階段を上り終えたチャモロの目に飛び込んだのは溶岩あふれた下の洞窟とは明らかに対照的な冷たい青色の石と水に満ちた洞窟だった。

周囲を確認しても、アーリーキラーマシンの姿はない。

(まずは…少なくともこの傷を…!)

左腕のできた切傷は深く、放置していると破傷風にかかってしまう。

幸いこの洞窟に流れている水はゲントの村付近にある小川以上に澄んでいる。

チャモロは水で傷を洗ってからベホイミをかけた。

ホイミのような傷を癒す呪文では病気を治すことができず、更には傷口から砂やゴミといった異物を除去できないためだ。

そのため、戦闘中はやむを得ないとしても、適切な治療を行う際はこうして消毒や除菌を行ってからこうして回復呪文をかける。

解毒呪文であるケアリーを使うための魔力を節約するという点でも良い。

「よし…」

アーリーキラーマシンの姿が見えないということはもしかするとまくことができたのかもしれない。

そうなった以上はレック達と合流するのが賢明だ。

立ち上がろうとした瞬間…。

ウィーン、ウィーン…。

「な…!?」

機械が動く音が聞こえる。

洞窟の中であるためか、音が反響していて、それだけでいる方向を知ることができない。

「どこに!!?」

キョロキョロと周囲を見渡す。

近くにある岩は小さく、あの魔物が隠れるには不十分であることからそれだけでも見えると思っていた。

しかし、魔物の姿はない。

「ま、まさか…!!」

ゆっくりと上を見上げる。

そこには吸盤のように四本の足を天井に付着させて態勢を保っている2体のアーリーキラーマシンがいた。

そして、既に矢の発射準備を整えている。

(やられる…!!)

動くよりも前に矢が放たれる。

バギであれば軌道を変えることができるが、あまりに急な事態であり、唱える暇がない。

また、ゲントの杖をミレーユのために置いてきたことが仇となり、それで身を守ることもできない。

これまでか…とあきらめかけたが…。

「チャモロ!!」

走ってきたハッサンがチャモロの服を掴み、そのまま自分の傍まで引っ張る。

その結果、矢はチャモロに当たることなく床となっている石に当たった。

「ハッサン!!」

「オトリなんて無茶なことしやがって…本当にレックとバーバラよりも年下かよ、お前はよぉ…」

居場所がばれたい以上、ここからの奇襲は不可能と判断したアーリーキラーマシンはそこから飛び降り、ハッサンとチャモロを見る。

そして、1機目が前に出てその後ろに2機目がいるという形に変化する。

(くっそう…近距離に特化した奴と遠距離に特化した奴での連携かよ!!)

魔物は知能の低い種類の場合は一部を除き、このように連携を取るという行いがたとえ同じ種類の間もの同士であってもできない。

だが、知能の高い魔物の場合はたとえ別の種類の魔物であったとしても、連携を取ることが可能。

ただ、そのような魔物はめったに存在しないのが現実だ。

1機目が太刀を振り上げて前進し、2機目が矢を放ちながら援護を始める。

「矢の軌道を変えます!!」

チャモロはバギを放って矢の軌道を変えていく。

何本も放たれるが、結果は同じで、一部の矢についてはバラバラになっている。

バギは1機目を巻き込んでいるものの、ひるまずに進み、ハッサンを切ろうとする。

(くそ…!!ここで避けたら!!)

ハッサンの思考が背後にいるチャモロに向けられる。

ここで避けたら、チャモロが斬られる。

ハッサンの前に出た1機目の太刀が振り下ろされる。

「ウオラァ!!!」

額に当たるギリギリのところで白刃どりをする。

「チャモロ!!急いで離れ…!!?」

この時、ハッサンはとても重要なことを忘れていた。

1機目の左手に握られているメイスがハッサンの横腹に当たる。

「ゴハァ!!」

「ハッサン!!」

吹き飛ばされ、岩壁にめり込んだハッサンの口から血が流れる。

何本もろっ骨やあばら骨が砕けていて、激痛が彼を襲う。

骨が内臓に刺さっていないだけでも奇跡だ。

「急いで回復…を…!?」

急いで駆け寄ろうとするが、急に足の力が抜けてしまい、その場で倒れてしまう。

「な、なん…で…??」

腕はわずかに動くものの、足はまるで動かない。

おとりとして走り回っている間にたまっていた疲れに気付いておらず、それが急に彼に襲い掛かったのだ。

わずか10数メートル向こうにいるハッサンに手を伸ばすが、当然ベホイミをかけることはできない。

1機目がチャモロの前に立ち、左手のメイスの先を額に当てる。

「あ…ああ…」

メイスに内蔵されているパイルバンカーが射出されるとどうなるか…。

その後の光景が脳裏に浮かんだハッサンはゆっくりと立ち上がる。

「チャモロ…やめろぉ…!!」

激痛で力がわかない。

全力で拳を叩き込んでも装甲を貫けなかった。

今の拳で攻撃しても結果は同じだ。

「うおおおおおおおお!!!!」

無力感からか、大声を出してしまう。

すると、急に頭の中がキーンと冷える感覚を覚えた。

「ああ…!!」

ハッサンの目にあの時の光が見える。

カメラの真下、そしてメイスの持ち手部分、太刀の刃の中央、クロスボウのついているマニピュレーターの左関節部分に火炎放射器の真上部分。

これが今光っている箇所だ。

「うおおおおお!!」

内臓がつぶれることもいとわず、ハッサンは走る。

そして、パイルバンカーが射出される少し前にカメラの真下に拳を叩き込んだ。

拳はまるで紙のように装甲を貫き、1機目は動きを止めた。

「ハ、ハッサン…??」

「や、やったぜ…もう1度、マグレだけどできたぜ…ぐぅ!!」

やはり一撃が限界だったのか、その場に倒れ込む。

2機目がハッサンとチャモロに向けて何本も矢を放つ。

肩や足、腕やわき腹などを矢が掠めていく。

「や、野郎!!なぶり殺しにする気かよ…!?」

体に受けた多大なダメージによって、もうハッサンは先ほどのように攻撃することはできない。

だが、彼はチャモロを背にし、立つ。

「だ、駄目です…ハッサン!!そんなことをしたら…」

「チャモロ…。今のうちに回復、しとけよ…。きっとレック達が来てくれる。それまでは…俺が盾になってやる!!」

矢を撃ち尽くしたアーリーキラーマシンは今度は火炎放射器でハッサンを焼き始める。

肉の焦げるにおいと熱さに苦しみながらも、彼は立ち続けた。

「ハッサン!!」

「こんなんで負けるかよぉぉぉ!!」

「ヒャド!!」

急にアーリーキラーマシンの足元に氷の塊ができ、その魔物のみ動きを封じ込める。

「ヒャド…ってことは…」

「ハッサン!!」

回復したレックがアーリーキラーマシンに向かって走って突っ込んでいく。

低温の洞窟であり、冷たい水の多いこの場所で威力を増したヒャドを放ったとしても、アーリーキラーマシンに大したダメージを与えることはできないが、足の動きを止めることだけはできる。

(この盾はもう使えない…けど!!)

メイスの一撃で大きなひびが入った鉄の盾を投げつける。

盾はアーリーキラーマシンのカメラに接触し、一時的にその魔物の視界を封じる。

同時に盾は粉々に砕け散った。

それでも、その魔物は盾が飛んできた方向に向けて火炎放射器を攻撃する。

そのことを見越したレックは高く跳躍してかわす。

そして、装甲の隙間、カメラが露出している穴に向けて剣を突き刺した。

刃によって内部の回路が破壊され、アーリーキラーマシンは機能を停止させた。

「や、やったぜ…」

アーリーキラーマシンが倒されたことに安堵したハッサンは静かに意識を手放していった。

「ハッサン、しっかりしてください!!」

「チャモロ、急いでハッサンにゲントの杖の光を当てて!!」

「ここから少し奥に休むことのできる場所がある!そこまで俺が運ぶ!!」

3人のあわただしい声を聞きながら…。


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