ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第19話 修行中の僧侶

レイドックにて、目覚めた王と王妃から現実世界のムドーの居場所を知ったレック達。

城の北にある関所を抜けてから1日半が経ち、険しい山道を進んでいた。

「ねーねーレックー。あとどれくらいしたらこの山道を抜けるのー?」

御者台に乗っているレックに退屈そうにしているバーバラが質問する。

「あと半日かな。それにしても、足場が悪い…ファルシオン、大丈夫?」

「ヒヒーン!」

「半日!?ううー退屈だよぉ」

ここの山道は記録によると、20年近く前に発生した山火事が原因でほとんどの木が焼失して禿山となってしまったという。

現在はゲントの村民や僧侶による植林作業が行われていて、ところどころには苗木が見えているものの完全にこの山道を元に戻すにはまだ数十年かかるという。

そのため、どれだけ進んでも山道を抜けない限りはほとんど同じ景色で、それがバーバラを退屈させる。

「レック、まだ足場の悪い道が続くわ。あと2時間すすんだら1度ファルシオンを休ませましょう」

「うん。そのつも…!!?ファルシオン!」

急に大声を出してファルシオンの足を止めさせる。

「どうした!?」

「みんな、魔物だ!!」

御者台から降り、剣を抜くと同時に魔物たちが馬車を襲う。

火炎草を好物としているオレンジ色の体毛のファーラット、ケダモンは体内に爆発物を宿していて、それを体に負担がかからない程度に爆発させることで素早く動くエネルギーを獲得し、時には自爆をも可能としている。

火山ガスを魔力で疑似的に生命体に変化させた、火の息だけでなくギラをも使いこなすヒートギズモ。

鋼でできたポッドに命の石が埋め込まれたエビルポッドは体内に大量のヒートギズモを飼っている。

命の石を埋め込まれた紫色の鎧と兜で、左腕部分が金色の穂先となっている槍、右腕部分が中央に緑色の宝石を埋め込み、その周囲を金で飾った丸楯となっている抜け殻兵による集団での素早い動きは単独で旅をする人間には厄介だ。

更には以前に戦った死の奴隷がまだ腐敗しきっていない脳を持っているためか集団戦闘などの統率のとれた動きができる状態になっている魔物であり、区別のためか寒色系の服を着ている奴隷兵士。

その奴隷兵士をコントロール、もしくは生み出しているのが紫色のローブで身を包み、右手には大きな鎌、頭部を白いターバンでつつんだ妖術師は人間でありながら力への欲望か、それとも恐怖したためか、魔王に魂を売って魔物に改造された魔法使いだ。

メラを越える火力を誇る中級火炎呪文、メラミを放ち、危険な存在だ。

ターバンの下に隠されている角や変形した耳、そして口にある牙からもう既に彼が人間をやめていることがわかる。

他にもフェアリードラゴンやヘルボックル、玉ねぎマンやダークホビットといった過去に戦ったことのある魔物も存在する。

「くう…!!」

レックはインパスでヒートギズモを実体化させ、剣で切断する。

しかし、その間にも妖術師が邪悪な魔法で地中に眠る死体を死の奴隷や奴隷兵士にしてレックを攻撃させる。

また、フェアリードラゴンがマヌーサによってレックに幻影を見せようとする。

「くそぉ!!数が多すぎる!」

エビルポッドや妖術師のような増援を次々と生み出す魔物によって、レックが窮地に陥っていく。

ハッサン達が武器を持って馬車から飛び出したころには魔物の5割近くが奴隷兵士とヒートギズモとなっていて、数はおよそ30近く。

ミレーユがヒャドでヒートギズモを氷像にし、バーバラのギラが奴隷兵士を火葬するがそれでも焼け石に水。

「ハッサンはエビルポッドを!ミレーユとバーバラは俺の援護をしてくれ!」

「任せろ!」

レックが自身の傍にいたエビルポッドを柄頭で殴って動揺させ、ハッサンの拳が鋼鉄の装甲を貫く。

そして、ミレーユのスカラで守備力を高めたレックが妖術師に向けて突撃する。

そんな彼に向けて、妖術師は鎌で攻撃しようとするが…。

「レックは攻撃させない!メラ!!!」

バーバラのメラによって妖術師の鎌の刀身が溶け、やむなく彼はメラミを放とうとする。

しかし、ゾンビたちを蘇らせるために魔法を何度も使用したためか、魔力を失っていて何もできない。

妖術師の肉体はレックの剣によって両断され、ハッサンが残りのエビルポッドを撃破した。

「くそ…!!もう数は増えねえけど、多すぎるぜ!!」

「私の魔力でどこまで…」

「うーーー、もう疲れたよぉ」

あまりの数の多さによってレック達は疲労し、あとどれだけ戦えるのかわからない。

(くそ…!このままじゃ!!)

全滅の二文字が頭に浮かぶ。

しかし、その文字は魔物と共にすぐに吹き飛ばされることになる。

「バギ!!!」

風の動きに変化を与え、小規模の竜巻を生み出して敵を切断する真空呪文バギが奴隷兵士やケダモン達を切断していく。

メラやギラ、ヒャドのような直線的なものや一点に威力を発揮するものではなく、面を制圧するその呪文はより多くの魔物を撃破することができる。

その呪文によって、10数体の魔物がほうむられた。

「今の呪文は誰が…!?」

「けど、これで何とかなるかもしれない!」

数が減ったことで、戦力的にレック達が有利になる。

レックは救援してくれた姿の見えない味方に感謝しつつ、魔物と戦う。

 

「はあはあはあ…」

「ううう、もう限界ー…」

「くそ、ここの魔物…地底魔城の奴らよりも厄介じゃねえか?」

魔物を倒し切ったレック達は武器をしまい、その場に座り込む。

ミレーユとレックによって回復が行われるものの、それよりも厄介なのが疲労だ。

傷を癒すホイミでも疲労を回復させることはできない。

「大丈夫ですか?」

レック達の下へ1人の少年が歩いてくる。

胴体の左半分の部分に紫色の布が重ね着されている黄色い厚手の袈裟を身に着け、ケモノ耳のような2本のとんがりが特徴的な袈裟と同じ色の帽子をつけた、メガネの少年。

身長はバーバラよりも少し低い程度だろう。

「お前がバギで俺たちを助けてくれたのか?」

「ええ、私はチャモロ。ゲントの村の僧です」

「ゲントの村の…??」

馬車ではあと半日かかる距離をその少年はろくに荷物を持たずにここにいることにミレーユは驚いた。

装備している杖は先端に鏡をつけ、黄色い布と青い布で持ち手部分がつつまれている無地で質素なもので、とても武器として使えるものではない。

「私は修行中の身です。その一環として週に1度村からここまで歩いて移動するのです」

そう言うと、チャモロは道端にある土を手で掘り、浅い穴を作る。

そして、袈裟の内側にあるポケットから花の種をだしてその穴の中に入れる。

「山火事の時、昼であったために多くの参拝者や僧侶がこの町を歩いていて、多くは逃げることができましたが…逃げ遅れた人もいたと長老様はおっしゃっておられました…。妖術師をご覧になられましたね?」

種をまき終えたチャモロは立ち上がると静かに手を合わせる。

「ああ…。確か、メラミを…」

「妖術師やヒートギズモ…その魔物たちがその山火事の原因です」

魔物によって引き起こされた災害。

それは珍しいことではないものの、大規模な災害が彼らによって引き起こされることはめったにない。

魔物たちにとっても住む土地を失うことになってしまうからだ。

このような災害が起こったのはきっとムドーのせいかもしれない。

そう考えると、ムドーはずっと前から密かに活動をしていたことになる。

(ムドー…)

レックの脳裏に夢の世界で戦ったムドーの姿が浮かぶ。

そして、その時に感じた並々ならぬ恐怖も…。

「レック?」

彼の変化を感じたのか、バーバラがレックを見つめる。

その視線に気づいたのかレックはすぐに考えるのをやめた。

「おっと、俺たちの紹介がまだだったよな?俺はハッサン」

「私はミレーユ、この女の子がバーバラで、青い髪の彼はレックよ」

「レックさんにハッサンさん、ミレーユさん…ですね。ゲントの村まではまだ長い。よろしければ、私も同行しましょう。旅人の手伝いをするのも、僧侶の役目です」

静かに、まるで自分から手伝わしてくれとお願いするように頭を下げる。

「お、おう。あのバギを使えるくらいのお前が手伝ってくれるとありがたいぜ」

「うんうん、よろしくね!チャモロさん!」

「こちらこそ。それから私のことはチャモロで構いません」

もう1度お辞儀をしたチャモロをミレーユとハッサンが馬車へ連れて行く。

戦闘とチャモロとの会話によって、ファルシオンもかなり休むことができたようで、むしろ早く動きたいという思いでいっぱいのようで、レックをじっと見る。

「ヒヒーン!」

「そろそろ出発しないとね。レック、早く行こー!」

バーバラに手を握られ、引っ張られるように馬車へ連れて行かれる。

引っ張られながらも、レックはこの禿山の景色を目に焼き付ける。

(怖い…。けれど、絶対に勝たないとこんな景色がまた増えてしまう…!)




今回はかなり短くなってしまいました…。
遅い!!と思っている人…大変申し訳ありません。

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