ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第13話 月鏡の塔

「ウヒヒヒヒ!!開いてる開いてる!」

「開いてるねぇ、開いてるねぇ」

「いるかなぁ?いるかなぁ?」

レイドック北西部にある百メートル近くの高さのある2つの塔を東西につけているレンガ造りの建物の前に3人組がいる。

黄色い髪で紫色に変色した肉体、そしてボロボロな緑色の服。

作られてから一度も開いていなかった扉は既に開いている。

「なぁなぁ、ここで俺ら、何すればいいんだ?」

「ん…?ああ…?なんだっけぇ?」

「ここに入った3人組を殺せだよぉ。忘れたかぁ。そいつらは…ええっと…」

「まぁいいじゃん。中にいる人間全員ぶち殺したらいいだけだからよぉ」

「そだなぁ、ウヒヒヒヒヒ!!」

「ポイズンゾンビ3兄弟、レッツゴーーー!ウヒヒヒヒヒ!」

3体のポイズンゾンビが扉に入ろうとする。

「ウヘェ…ップ」

そんな中最後尾にいた1体が近くの草に紫色の痰を吐き、そのまま進む。

痰がかかった草は一瞬で溶け、そこには小さな毒の水滴ができた。

 

「うわぁ…こんなに高いんだ」

一方、塔の入り口のある階層に到達したレックは東西にある2つの塔の高さに驚きを隠せずにいる。

2つの塔の間は厚い雲で隠れていて、そこから先に何があるのか見えない。

「うへぇ…試練の塔よりもきついじゃねぇか」

「魔物の姿があったわ…。ここから二手に分かれるにも人手も足りない」

「なら、まずはどちらの塔を…」

「…!!ヒャド!」

急にミレーユがハッサンの影目がけてヒャドを放つ。

「な…ミレーユ、まさかメダパニに…」

「良く見て、レック。ハッサン」

ミレーユの目を見るが、目の色に変化がなく、今のように言動もしっかりしている。

混乱していないことは分かったがなぜこのような行動をとったのかわからないまま2人は言うとおりにする。

「な…嘘だろぉ!?」

「影が…影が凍っている!!?」

羽のある悪魔のような形の影がヒャドによって氷結している。

「まさか、魔物??」

「ええ、シャドーよ。相手の影の中から両腕の爪で奇襲をかける狡猾な魔物よ」

「影ってことは、普通の攻撃じゃあ倒せねえってことか??」

「ええ。けれど、こうして氷漬けにして砕けば問題なく倒せるわ。ハッサン、お願いできるかしら?」

「ああ!!けどこういう魔物はギズモだけにしてほしいぜ…」

自分の武闘家としての力が通用しない魔物がこれ以上登場しては自分の存在価値の問題となる。

ぼやきながら、ハッサンは力一杯氷漬けのシャドーを砕いた。

氷と共に砕けたシャドーは青い粒子となって消滅した。

「まずは東の塔から入ろう」

「分かったわ。進みましょう」

「今度はシャドーもギズモも出るなよー…」

3人は東の塔へ進んでいく。

その10分後、入れ替わるようにポイズンゾンビ達がレック達がいた場所まで来た。

「ウヒヒヒ!!どっちへ進んだ?どっちへ進んだ?」

「分からねえ、分からねえ。ウヒヒヒ!」

「なら、こっちの塔だぁ」

「賛成賛成」

「ウヒヒヒヒ!!」

気持ちの悪い笑い声を出しながら、ポイズンゾンビ達は西の塔へ向かった。

大切なのでもう1度いう。

西の塔へ…。

 

「うへぇ…鏡、鏡。この塔は鏡でいっぱいだなぁ」

ハッサンの言うとおり、塔の中の壁はすべて鏡になっている。

また床や階段の一部も鏡になっていて、どこからでも自分たちの姿を見ることができる。

「天井にも鏡があるわ。きっと、鏡を利用することで太陽の光を塔の中全体にいきわたらせることで明るくしていたのね」

「この塔を作った人は考えたんだな。あ…」

レックは自分たちの半分くらいの大きさの鏡を見つける。

紫色のガラスでできた鏡で、なぜか悪魔の腕と頭と思われる飾りがある。

「まさか、こいつがラーの鏡なのか?」

「形がまるで違う。それに、こんな色の鏡は…」

「その鏡に近づいちゃダメ!!」

急にレックの目の前を小さな火球が横切る。

「うわぁ!!」

驚きと同時にレックは後方へ下がると、もう1つの火球が鏡に直撃する。

炎によって鏡と装飾がドロドロに溶けていった。

「あれって、ギズモが使ってたメラじゃねえか」

「でも、誰が…」

「危なかったぁ。あの鏡は悪魔の鏡で、鏡に映った物になんでも変身できる魔物よ」

赤色の髪で赤いマントのついた麻色のワンピースを装備した少女がレック達の駆け寄る。

「君が…メラで俺を…」

「うん!!無事でよかったぁ…ってええ!!?私が見えるの!!!???」

「見えるって…まさか!!」

すぐにレックは周囲の鏡を見る。

鏡にはレックとハッサン、ミレーユの姿はあるが赤髪の少女の姿は映っていない。

「ということは…君も上の世界からここに??」

「上の世界…??うーん、分からないなぁ。私、1年くらい前から気が付いたらここにいて、その前まで何をしていたのか何も覚えてないの」

「かわいそうね…。きっと、落ちたときにショックよ。それに、実体がないおかげで飲食なしに、そして呪文の才能のおかげで魔物の餌食にされることなくここまで生きていけたんだわ」

扉を開く前にその少女がここにいたということは、おそらく塔から出られなかったということだろう。

仮にレックとハッサンが同じ状況下にあったならば、どうなっていただろうか。

「でも嬉しいなー。初めて人間にあったわ!!私はバーバラ!!あなたたちは?」

笑顔でピースをしながら挨拶をする。

「俺はハッサン」

「私はミレーユよ」

「俺はレック。さっそくだけどバーバラ、ラーの鏡は見たことある?」

「ラーの鏡…?それってどういう鏡なの?」

「こういう形の鏡なんだ」

レイドックから持ち出した本にあるラーの鏡の絵をバーバラに見せる。

「見たことないよ?けど、もしかしたらあるかもしれないって心当たりはあるけど…」

「心当たり…?」

 

一方、もう片方の塔では…。

「ウヒヒヒ!!人間どこだぁ?」

「出てこい出てこい」

「俺たちが腐らせてやるからよぉ…ウヒヒヒ!!」

3体の死体がレック達を探し続けている。

既に4階まで行っているが、レック達のいる塔はそこではないため、ただ登っているだけになっている。

「いつまでも出てこねーなー…ウヒヒヒ!!」

「ならならー、もっと上へ行こうぜーおお??」

ボイズンゾンビの1体が悪魔の鏡を見つける。

「ウヒヒ…そーだ。いいこと思いついたぜー」

「何か思いついたのかーー?」

「なあ、この鏡をもっと集めようぜぇー?それで俺たちの分身を作るんだぁー」

「なるほどなるほどー、じゃあ俺は先に行ってるから、お前らで分身づくり頼むぜぇー?」

1体が上へ昇っていく中、残り2体はせっせと悪魔の鏡を集め始めた。

 

「ここよここ。私の勘だと、あそこにラーの鏡がある気がするの!」

バーバラに案内されて着いた小部屋は屋上の1つしたにある小部屋で、そこには大きな鏡と紫色の水晶が1つ置かれている。

そして、窓からは一番下から見えた厚い雲の中にあるものがはっきり見えた。

それはレックの自宅くらいの大きさで煉瓦造りの建造物だった。

「雲の中にこんな建物を隠すなんて…それに、建物をこんな場所へ」

「魔物の手に渡らねえように、こういう手の込んだことをしたんだろうな」

「問題はその建物にどうやって入るかね…」

それは2つの塔の間にあるは、人間の跳躍では届かない距離にある。

そして、この高さでもし失敗した場合は命はない。

「それだけじゃないわ!私が怪しいと思うのは…これ!!」

バーバラが指を差した紫色の水晶にミレーユが近づく。

「この水晶から古い時代の呪文による魔力を感じるわ…」

「でもその水晶をどうすりゃあいいんだ?」

「…ちょっと待って」

水晶とそれを映している鏡を交互に見る。

そしてミレーユは袋から真っ白な液体の入った瓶を取り出し、それを鏡と水晶にかけた。

グランマーズから教わって作り出した魔法水で、色によってかけた物体の魔力を調べることができる。

鏡と水晶にかかった水は同じ黄土色に変色する。

「これは…鏡に映っている間だけ水晶が実体化しているわね」

「鏡に映っている間だけ…?なんだか妙な魔法があるんだな」

「ということは、この水晶を動かせば…」

「じゃあさ、早く動かそうよぉ!」

レックが水晶を動かし始める。

中が空洞になっているためか、大きさの割には軽い。

鏡の外に出ると、水晶はまるで最初からなかったかのように消滅した。

「水晶が消えた!!」

「おい、外を見ろ!!」

ハッサンの言葉を受け、3人が窓から外を見る。

浮遊している建物を支えていると思われる電撃が消失したのだ。

電撃は東西の塔から放たれていて、西側のそれはまだ維持している。

「こりゃあ…あっちの塔にもこれと同じ仕組みがあるってことか?」

「そういうことになるわね…」

ここまで登った時の苦労を思い出し、4人はそろってため息をした。

 

「いないいなーい…グヘヘヘ!」

西の塔の屋上の1つ下に設置されている水晶の部屋に到着した2体のポイズンゾンビが笑いながら休んでいる。

ゾンビでも、生命がある以上疲れるようだ。

「にしてもよぉ…あいつ、早く来ねえかな?グヘヘ…」

「さあなさあな?お…来た来た」

「あれあれ??あいつが1匹2匹3匹…」

部屋に1匹ずつポイズンゾンビが入ってくる。

1匹2匹、3匹、4匹…。

最終的に、30匹のポイズンゾンビが入ってきた。

ちなみに、その30匹はみんな同じ体格で同じ顔だ。

「うわあ…仲間がいっぱいいるぜー」

「グヘヘ…これなら楽にあいつらを倒せるぜー」

「よーし、早くあいつらを…おっとっと…」

ポイズンゾンビが大きく背伸びをすると、バランスを崩す。

そして、偶然水晶に頭部をぶつける。

その拍子で水晶が動き、鏡に映らなくなると消えてしまった。

「うわあ…消えたきえたぁ」

「消えたなぁ…消えたなぁ…」

 

「はあはあはあ…やーーっと、一番下まで下りれたぜ…」

「これからよ、ハッサン。次は西の塔へ…ってあれ…?」

東の塔から武士に出られた4人の視界にまだ浮遊しているはずの建物が入る。

もうすでに、空からあるべき場所に落下済みだ。

「なんで…何があったんだ…?」

「西の塔の電撃はもう消えてるわ…」

なぜそうなったのかわからず、首をかしげる。

「で…でも西の塔を上る手間が省けたんだから、早くラーの鏡を取りに行こ!」

「そう…ね…」

西の塔で何があったか知らないまま、4人は建物の中に入った。

 

部屋の中央の台座には規則的に青い魔石が円状に埋め込まれていて、緑と金の金属の鏡が安置されている。

「うわあ…これがラーの鏡なのね!!見て!!あたしが映ってる!!」

透明のはずのバーバラの姿をその鏡が映し出している。

それだけでその鏡がただの鏡ではないということがよくわかる。

「けど残念。映りはするけど、あたし…透明人間のままだし…」

「それについては心配いらないわ」

ミレーユが懐から夢見の雫が入った瓶を取り出す。

グランマーズの元から去るとき、彼女からレック達と同じ境遇の人物と出会ったら使うようにと言われた。

「うわあ…きれいな水…」

「ちょっと冷たいと思うけど、我慢してね」

夢見の雫をバーバラに振り掛ける。

すると、みるみるうちにバーバラが実体化していく。

「わあ…すごいすごい!!」

壁になっている鏡にもバーバラの姿が映っている。

「みんなありがとー!じゃあ、私は行くね!!」

嬉しそうに外へ出ようとするが、扉の前で停止する。

「…って…あたし、これからどこへ行けばいいのかな?」

「知らねーよ」

「そうだ!!しばらく、あなた達と一緒に行ってもいい?悪い人じゃなさそうだし!」

「ついてくるのかよ…レック、どうする?」

「うーん…このまま1人で行かせるわけにはいかないし…それに仲間は多いほうがいいから」

「ま、まあ…お前がそう言うなら…」

「これからよろしくね、バーバラ」

「うん!!みんな、よろしくー!」

嬉しそうにバーバラがピースをした。

 

「グヘヘヘ…あいつらどこだー?」

「あいつらーあいつらどこだー??」

1時間後、他のポイズンゾンビもどきを西の塔に残し、3匹のポイズンゾンビが出てくる。

「グヘヘヘ…あれあれー?この建物、あったっけー?」

そのうちの1匹がラーの鏡があった建物を見る。

しかしゾンビ系の悲しき宿命、記憶力の無さから気にすることはなかった。

「グヘヘヘ…さあ、次はこっちの塔を探そうぜー?」

「おーー!」

3匹のポイズンゾンビが東の塔に入っていく。

レック達がラーの鏡を持って、もうすでに月鏡の塔から出てしまったことを知らずに…。


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