ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第9話 過去の呪縛

「姉さん…姉さーーーん!!」

ミレーユの耳に、懐かしい声が聞こえる。

聞こえる方向に目を向けると、そこには金髪の美しい少女をつれていく隻眼で筋肉質な肉体の荒くれと2人を追いかける銀髪の少年がいる。

太陽は沈み、人々は既に寝静まっている。

(また…この夢を…)

度々、彼女はこのような夢を見る。

夢の意味が分かっている分、とてもつらい。

「ギンドロ組め、姉さんを返せーーー!!」

「返せだと!?お前の爺さんと婆さんが税金払えねえからな、こいつでチャラにしてやろうとしてんだよ!ありがたく思え!!」

「俺らに逆らうことは陛下に逆らうこと…分かってんのかぼけがぁ!!」

銀髪の少年の腹部に兵士の拳がめり込む。

「あ…ああ…」

「全く、面倒なガキだぜ」

「二度と逆らえねえようにしないとな!!」

兵士が仲間や他の荒くれを呼び、あまりの痛みを気を失った少年をリンチにかける。

そして、それをあえてその少女に見えるようにした。

「や…やめて…」

「ん?なんだ?」

「やめて…お願い、テリーを…弟を傷つけないで…なんでもするから…」

涙を流しながら懇願する少女。

それを見た荒くれは笑みを浮かべる。

「そうだぜ?そういう態度がいい。お前が逆らわない限り、俺たちは何もしない。お前の弟を傷つけることも、お前らを育ててくれたあの老いぼれ達を殺すことも…」

そういうと、荒くれは彼女を布で目隠しし、更に猿轡をつけた。

(…忘れられない。忘れることはできないわ…)

ミレーユは涙を流しながら、静かにそう口にした。

やせた土地と鉱山の国、ガンディーノ。

そこでは農耕がほとんどできず、鉱石を輸出することが食料調達の手段だった。

現在では賢王ガンディーノ3世の政策により、ある程度食料自給率が増加し、世界一自由と平等がうたわれる国となっているが、先代の2世の時代は違う。

国民に重税を課し、それで自分にこびへつらう貴族と共に贅沢を満喫していた。

税を払えない国民は娘を王に献上することでしか生き長らえる手がなかった。

ギンドロ組は犯罪集団で、上記のように人身売買や逆らう国民の殺害など、汚れ仕事を担当していた。

それに対して彼らが不満を持っているのかというとそうではなく、それをする度に王から大量の報酬が与えられ、あろうことか組のリーダーは貴族の身分まで与えられた。

そして、このようにして連れ去れらた娘がどうなったかというと…。

「おー…今回はすばらしい娘ではないか」

「へへへ…そうでございましょう?それに、彼女はまだ13。当然、まだまだ生娘です」

「見事であったぞ。これが今回の報酬だ」

「ハハー!ありがたき幸せ」

金貨袋を懐に納め、荒くれは王座から出ていく。

白いカツラを頭に着け、様々な金色の装飾が付いた服を着た肥満体の男が王冠を机に置き、彼女に近づく。

「ほほう…これは楽しめそうな娘じゃ…」

布を取り、猿轡を取るとガンディーノ2世は興奮しながら彼女の頬をなでる。

「ふふふ…明日の朝の世話は頼むぞ?今日からそなたは余の妾じゃ」

高笑いしながら、男は寝室へ向かう。

そしておびえる少女を兵士たちがどこかへ連れて行った。

 

城に連れて行かれてから3週間が経った。

「…」

暗い地下の独房の中で、少女は生気の失った目でただじっと扉を見ている。

破れた部分が多い粗末な服装で、足には拘束具が付けられている。

外からは兵士と荒くれ達の楽しむ声と女性の悲鳴が聞こえる。

その頃、彼女はここで彼らの接待を強制されていた。

これは同じく地下牢へ入れられた女性から聞いた話ではあるが、これは王妃が行ったという。

彼女はかなり嫉妬深い人物であり、自分より美しい女性が存在することを許せなかった。

そのため、王がそのような女性を妾にしたとき、王妃は彼女に冤罪をかけることで王の許可の元、接待役に転落させたのだ。

そして、高笑いしながら専用の部屋で女性たちの苦しむさまを見続けた。

そこは地獄に等しい空間で、女性たちは多くの男の接待を強制され、自我を失っていった。

少女もすでに多くの男の世話をさせられた。

眠るたびにその時の苦痛などがフラッシュバックする。

扉が開くのは接待の時間か食事の時間のみ。

だが、彼女が生気を失った理由はそれだけではない。

 

それはあの時テリーをリンチした兵士の世話をさせられたときの話だ。

奇しくも、それは初めての接待だった。

「よお…かわいそうになぁ。こんな接待役にさせられてな」

少女からの接待を受けながら、その男は衝撃的な言葉を口にする。

「脱走したいのなら、やめた方がいいぜ?あの銀髪の小僧、テリーだっけ?あいつあの後死んじまってな。それに、あの老いぼれも流行病でポックリだ」

独房に戻ると、初めて感じた凄まじい苦痛と共に哀しみが襲い掛かる。

もう自分を大切に思ってくれる人はいない。

それが彼女から生きる希望を根こそぎ奪っていく。

血の通った心を持つ人間から、ただ生きるだけの人形に変えていった。

 

(テリー…いつになったらあなたに会えるの…?)

自殺も許されず、病にかかるとすぐに医者によって治療される。

彼女の唯一の願いは死んで弟に会いに行くことだけだった。

そう願うたびに、扉が開き、接待の時間が来た。

 

「…」

独房へ入れられ、1年が経過する。

扉を見る気力も、自殺する気力もすでに失った彼女はただひたすら眠っていた。

最初はフラッシュバックに悩まされていたが、その頃は既にそれもなくなっていた。

そんなとき、彼女の耳ではなく脳に何者かの言葉が聞こえた。

(あなたは生きなければなりません。やがて訪れるであろう危機から世界を救うために…)

「…。なんで…私には何もないわ…。大切な人も、何も…」

(大丈夫。もうすぐ、あなたを想ってくれる人が現れます。約束の証をここに…)

彼女の右手に突然金色の光が発生する。

その光は徐々に小さくなっていき、最終的にはオカリナとなった。

「オカリナ…?」

(約束は時に世界を変えるほどの力を発する。そのことを忘れないでください…ミレーユ…)

「世界を…変える…?」

声が聞こえなくなると同時にすさまじい揺れが発生する。

「大変だ!!民衆が大砲を盗んで、城に攻撃してきたぞ!!」

「なんだと!?急げ、はやく鎮圧するんだ!!」

「攻撃…?」

「うわあああ!!」

兵士の1人が民衆の剣で切り捨てられる。

そして、彼は死体から鍵を奪い、女性たちを牢から次々と解放していく。

「大丈夫か!?早くここを出るんだ!!」

「え…?」

「急げ!!もう君たちは自由なんだ!!」

彼は剣で彼女の拘束具を破壊する。

そして、彼女は何もわからないまま他の女性たちと共に城を出た。

 

城の外では民衆と兵士たちが交戦している。

戦うすべのない貴族たちは右往左往し、一部の兵士はすでに逃亡していた。

訓練を受けた兵士であっても、この圧倒的な人数の民衆にかなわず、討ち取られていった。

そして、城の屋上に血染めの王冠を持った男が現れる。

「魔王ガンディーノ2世を討ち取ったぞーーー!!」

その声を聞いた兵士は戦意を喪失させ、民衆は魔王の死を祝う。

これが俗にいうガンディーノの反乱だ。

この反乱で、王妃は自分の目の前で王が殺されたことで発狂し、幽閉されることになり、貴族たちは路頭を迷うこととなった。

また死んだガンディーノ2世の後釜として民衆は彼の遠縁で、西の孤島へ追放されていた貴族のミラジオ卿を迎え入れ、ガンディーノ3世として即位させた。

彼はガンディーノ2世の蛮行を公然と批判したために追放されていた。

しかし、自由になった当時のミレーユにとってはどうでもいいことだった。

身寄りもなく、住む場所もない彼女にとっては…。

「おやおや、占い通り、ここにいたのかえ」

「え…?」

声がする方向に目を向ける。

そこにはグランマーズがいた。

「占いでここにオカリナを持つ金髪の少女がいるとでてのぉ…」

「おばあちゃん…あなたは…?」

「儂はグランマーズ。しがない占い師じゃよ。ミレーユ」

これがミレーユとグランマーズの出会いだった。

 

「う…ん…」

「ミレーユ、気が付いたんだ」

目を覚ましたミレーユ。

気が付くとそこは寝袋の中で、空には無数の星が輝いている。

ミレーユが眠った後、レック達は無事に洞窟を出ることができた。

しかしその時は既に夜だったため、付近の草原で野営することになった。

「レック…。ハッサンは…?」

「水を汲みに行ったよ。どうかした?寝てるとき、泣いてたけど…」

「なんでもないわ…。きっと、目に砂が入ったのよ」

「ふーん…」

あまり深く詮索しないことにしたレックは薪を火にくべる。

(自分の過去のことを夢で見ることってあるのね…)

空を見ながら、先ほど見た夢に思いを巡らせる。

グランマーズに会った後、ミレーユは彼女の元で修行をすることになった。

そして、修行の中で魔王の存在を知り、世界の危機について知った。

あの時オカリナをくれたあの声の正体は今でもわからない。

しかしその声が言うとおり、グランマーズという師匠であり、ある意味では母親のような人物と出会えた。

ミレーユにはそれが声の導きであるとしか思えなかった。

(ムドー…倒して見せるわ。今度こそ…)

 

「…。ちっ!嫌な夢を見たぜ…」

どこかの森の中で、銀髪の少年が目を覚ます。

青い帽子と服、鉄の胸当てを装備し、腰には2本の剣をさしている。

「どこにあるんだ…?世界一強い剣は…」

懐から地図を取り出そうとすると、背後から魔物の足音が聞こえる。

足音の主は金色の体毛を持つ、沈黙の羊と同じ体格の魔物であるダークホーン。

封印呪文マホトーンで呪文を封じ、鋭利で相手を串刺しにすることを好む。

「ちょうどいい。あの後味の悪い夢を忘れさせてくれ」

2本の剣を手にし、少年はダークホーンに立ち向かった。




今回は彼女の過去についての話になりました。
強引な点あり、少し危険な描写もあり。
その点については…申し訳ありません!!!
ミレーユファンの方々にボコボコにされるかも…。

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