『ターニア、元気にしている?ちゃんと寝てる?毎日ご飯食べてる?俺は元気だ。レイドックの兵士になってから1週間が経った。初任務は西の森の暴れ馬を捕まえる任務だった。森の近くに来た旅人と商人を襲ったといってたけど、捕まえたらすぐに大人しくなったよ。一緒に試練を乗り越えた仲間であるハッサンがその馬にファルシオンって名前を付けたよ。そのあとやっていることは偵察と訓練だけだ。まだまだ続きを書きたいけど、訓練で疲れて眠いからここまでにするよ。また手紙を書くから。 レック』
清書した手紙を封筒に入れる。
「レック、手紙の準備はできたか?」
「はい、お願いします」
城門の前で、手紙をライフコッドへ偵察へ向かう先輩兵士に渡す。
魔物の狂暴化は人と物の流れを断ってしまう。
特に辺境の村の場合は完全な孤立化が心配される。
そのため、近年では偵察範囲が拡大され、ライフコッドも含まれることになった。
また、兵士は偵察へ赴く町や村へ手紙や小包を運ぶことも仕事の1つとなっている。
「ライフコッドのターニアさんだな。任せておけ」
先輩兵士は手紙や城下町の人々から預かった物品を袋に入れ、馬に乗って他の兵士と共に城を出て行った。
「おーい、レックー!」
訓練を終えたハッサンがレックに駆け寄る。
「どうしたんだ?ハッサン」
「王様が呼んでるぜ。俺たちに任務があるってよ」
「任務…?」
レイドック城3階の王の間。
レイドック国旗がいくつもあり、王座には赤い座布団がある。
王座の前で、白いひげを生やし、黒い毛皮の服を着た恰幅の良い男性とソルディ、そして数十名の兵士が待機している。
あの男性はこの国の大臣で、40年間王家につかえている。
西側にある扉が開く。
すると、そこから金色の長髪で、金色の鎧を身に着け、腰に鋼の剣を差している若い男性が出てきた。
大臣と兵士長を含め、全員がその男にひざまずく。
「あの人が…レイドック王…」
眠らずに国を治めているとは聞いているが、あまりにも整った顔立ちと髪型、健康的な肌からそのような印象を少しも感じない。
「皆の者、魔王ムドーは今この瞬間にも力を増幅させ、世界を滅ぼそうとしている。その前に、我々は真実のみを映し出す鏡、ラーの鏡が必要なのだ。兵士長、大臣」
「ははっ!!」
「は…」
2人が王の両側に立ち、レック達を見る。
「ラーの鏡とは失われた呪文、古代呪文によって作られた鏡」
「我々は何度もムドーと戦ってきた。しかし、常にあと少しで討伐できるというところで幻術によって姿を消してしまう」
「ラーの鏡があれば、ムドーの正体を暴けるはずなのだ!!皆の者にはラーの鏡を手に入れ、持ち帰ってほしい。君たちの働き、大いに期待する!では行け、我が国の兵士たちよ!!」
兵士たちが立ち上がり、東側にある階段から王の間を出ていく。
「ん…?レック、どうしたんだよ?出ないのか?」
他の兵士とともに出ようとしたハッサンだが、出ようとしないレックを見て足を止める。
「陛下…」
「うん?」
「一つだけ質問したいことがあります」
「ほう…それは?」
「幻の大地についてです」
「幻の大地か…。大臣、例の物を…」
「はっ、直ちに」
大臣が西側の扉から出ていく。
そして、1冊の緑色の書物を持って戻ってきた。
「幻の大地は我が国の研究者たちが祖父の代より研究している。彼らはその世界は一種の平行世界、パラレルワールドと仮定している」
「パラレル…ワールド…?」
「ある世界から分岐し、並行して存在する世界のことだ。もしかしたら、ラーの鏡はその世界にあるのかもしれんな…」
「ラーの鏡が…そこに…?」
「そうだ。これまで、我々はこの世界の西半分全域を調査してきた。しかし、ラーの鏡の手掛かりを得ることはできなかった。そうだな…では君と君と共に試練を乗り越えた者には幻の大地へ向かう術を探ってもらおう」
「…えーーーー!!?」
「ま…マジか!?」
「陛下!恐れながら、かの者たちは兵士となってから日が浅すぎます。そのような者たちに…」
「彼らは試練を突破し、今ここにいる。それだけで十分にこの任を与える資格を有している」
「は…はぁ…」
王の言葉に大臣は沈黙する。
そして、王はゆっくり立ち上がり、レックの目を見る。
「ふむ…良い目をしている。名前は?」
「レ…レックです」
「レックか…では、君の仲間の名前は?」
「ハッサンです…」
「レックとハッサンか…覚えておこう。君たちに神のご加護のあらんことを」
王は微笑みながら、そう告げると静かに立ち去って行った。
「しっかしすげえよな、お前…」
「すごいって?」
「だって、初対面の王にいきなり声をかけるって、並みの奴にはできないぜ?」
「幻の大地について知りたくて、村を出たからな…」
「なるほどなぁ…」
城を出て、街で旅の準備を終えた2人は北東へ進んでいく。
レックのプロテクターのラックには新たに支給された地面に刺さった長剣のレリーフが彫られたカイトシールドが置かれている。
「片手剣を使うのであれば、盾もある程度扱えるようになれ…か…」
「ソルディ兵士長に言われたんだろ?それにしても、こんなに金をくれるなんてな…」
ハッサンの腰にあるもう1つの麻袋には王から支給された多額の資金が入っている。
「それほど、俺たちのことを期待してくれているんだろうな」
「なら、絶対に幻の大地ってやつへ行く方法を見つけようぜ。そろそろ見えてきたな…」
岩山と岩山の間のわずかな隙間に作られた関所が見えてくる。
分厚い石でできた巨大な門の前には数人の兵士が待機している。
「君たちが王から命令を受けた兵士だな…」
「はい」
「とおってよいぞ。だが、ここから先は我が国の統治外。十分気をつけよ。門を開けろ!!」
4人の兵士が力を合わせ、門のそばにあるレバーを動かす。
すると、ゆっくりとその巨大な門が開かれた。
「おっし!!行こうぜ、レック!」
「ああ!」
2人は関所を走り抜ける。
そして、細い道を抜けるとすぐにこれからの旅路を暗示する光景を見ることになった。
背中に蝙蝠の羽根をつけ、弓矢を持って集団で襲ってくる犬型の魔物、アロードックが数匹。
1つ目のペンギンのような青い鳥型モンスターのガンコ鳥が2匹。
数時間で人を死に至らしめるほどの毒が混ざった半液体状の体を持つバブルスライムが5匹。
魔力のこもった灰色の雲で、火炎呪文メラを放ち、普通の物理攻撃が通用しないギズモが10匹。
頭の花びらを生やした魔物で、老木が魔王の呪いによって変化したものと考えられている森爺。
更に前に戦ったことがある髑髏洗いやシールド小僧なども集団行動している。
「これは…」
「十分、気を付けるべきだな…」
「うわあああ!!!」
モンスター軍団とレック達の命がけの鬼ごっこが始まる。
「うわあーーー!!熱つつ…」
まずはあいさつ代わりのメラがハッサンの尻を軽くローストする。
そして、アロードックの矢が数本レックの髪をかすめる。
ガンコ鳥の嘴がハッサンの頭をつつく。
更に行く先々でバブルスライムが毒の液体を吐いて攻撃してくる。
そして5時間が経過し…。
「はあはあはあ…」
「こ…こんなんで幻の大地に行けるのか…はあ…はあ…」
すっかりボロボロになった2人は森の中にある小屋に入った。
2人は薬草で負傷箇所の手当てを始める。
「それにしても、ここに小屋があってよかったよ。これで、あのモンスターたちをやり過ごせ…」
「何者じゃ!?お主らは!!」
急にレック達の目の前に一人の老人が姿を現す。
カブトムシを模した帽子をかぶり、真っ白な髭で川の腰巻と長ズボン姿。
身長はレックよりも低い。
「あ…すみません。実は魔物に…」
「儂の家に勝手に入ってくるとは…もしかして、この森の精霊様か!?」
「え…いや、俺たちは…」
「精霊様なら儂の頼みを聞いてくれるか!?」
「爺さん、だからお…」
「儂の頼みを聞いてくれるか!?」
「…」
全く話を聞こうとしない。
最初の一歩でけつまずくとはこのようなことを言うのだろうか。
「ええっと、この木材が柱になって、この石が…」
「おーいレックーー、なんでこんな頼みを引き受けたんだよー?」
石に座ってあくびをするハッサンが木材を見るレックに質問する。
結局、2人は話を聞いてもらえないどころか小屋を1軒建ててほしいという老人からの頼みを引き受けてしまった。
「だって、あのおじいさんが建ててくれたらラーの鏡について教えてくれるって言うから…」
「本当にあの爺さん、知ってんのか?ラーの鏡のことを…」
「それは分からないけど、今は何が何でも情報が欲しいし…痛っ!!」
トンカチが指に当たり、激痛が起こる。
引き受けはしたものの、小屋作りのノウハウは全くないため、4時間たっても全く進まない。
「…。あーーーもう!!おれがやる!!お前は寝てろ!!」
「え…ええ!?」
急にトンカチを取り上げられ、呆然とするレック。
そんな彼をよそに、ハッサンは慣れた手つきで小屋を建て始めた。
木材を平らにし、組み立てるための四角い穴を作り、煙突を作るために石を点検する。
そして、10数時間後…。
「よし、こんなものだな」
「す…すごい…」
小さいながらも、耐震性があり完成度の高い小屋が完成した。
「おおーーー!!さすが精霊様じゃ!1日で完成しおった!!」
「さあ…約束通り、ラーの鏡について、話してくれ…」
「そ…そのことじゃが、その鏡のことは存じ上げないのじゃ」
「な…何ーーーー!?」
まさかの言葉にハッサンの怒りが爆発する。
そして、手に持っていたトンカチで殴ろうとするがレックに抑えられる。
「落ち着け、ハッサン!!」
「落ち着けるかよ!?武闘家には似合わないんだぜ、大工の仕事なんてよぉ!!」
「ラ…ラーの鏡のことは知らぬが、ダーマ神殿については聞いたことがありますじゃ」
「ダーマ…」
「神殿?」
聞いたことのない神殿の名前に2人は頭をかしげる。
「ここから東にある海底洞窟を通ると行ける大陸、そこにダーマ神殿がありますじゃ。そこには世界各地に関する書物がすべて収められておりますじゃ…」
「世界各地の知識…もしかして、その中にラーの鏡が?」
「おそらくは…。では、小屋を建てていただいたお礼として、一晩お泊りくださいじゃ…」
完成したのは夜。
ここからの地理を知らない以上、強行するのは危険だ。
「…泊まっていくか?」
「…ああ…」
その日、レック達は老人から茶とイノシシ料理でもてなされ、温かいベッドで眠りについた。
「それにしても、どうしてこんなに早く小屋が作れたんだ?」
「それがよぉ、やり始めると勝手に体が動いちまうんだ。どこで学んだかもわからないのによぉ」
「へえ…不思議なこともあるものなんだな」
翌朝、2人は老人が言っていた海底洞窟から東の大陸を目指す。
そこにも当然のごとくさまざまなモンスターが潜んでいる。
おばけなめくじが催眠効果のある草を主食とすることで体が灰色となり、催眠ガスを吐くことができるようになった種のテールイーター。
それに加えてオニオーンやバブルスライムなどの見たことのあるモンスターが数多く存在する。
昨日見た大群よりも数が少なかったおかげで、2人だけで何とかなった。
もちろん、剣や拳では倒せないギズモを除いてだが。
「げ…こいつは…!?」
「ま…また!?」
洞窟を抜けて、2人を出迎えたのは神殿ではなくレックがあの時見た巨大な穴だった。
「どうなってんだ、こいつは…穴の中に大陸が…空が…海があるだと!?」
「ハッサン、君にも見えるのか!?」
「お前もか、レック!今、俺たちが見ているのが幻の大地なのか!?目の錯覚じゃないよな…?」
確認のため、ギリギリのところまで近づき、目をこすって注視する。
「おい、そんなところにいたら…」
落ちるぞと言おうとしたレック。
しかし、急にレックとハッサンの背に強い追い風が発生する。
その強さは尋常ではなく、ハッサン程の巨体でも動いてしまうほどだ。
「すごい風だ…うわああ!!」
「な…なんだよこのか…うぎゃあ!!」
飛ばされたレックがハッサンの背に激突する。
そして、2人は足場から離れてしまった。
「お…おーい、レックくーん…これって…もしかして…」
「ああ、落ちてる。俺たち落ちてるな…」
「ハハハ…」
「アハハハ…」
「「うわあああああ!!」」
落ちる、落ちる。
重力に逆らえず、太陽で蝋燭と鳥の羽根で作った翼が溶かされて墜落したというイカロスのように穴の中の世界へ落ちていく。
「うわあああ!!神様、仏様、山の精霊様、ターニアーーーー!!」
「俺たちまだ死にたくないーーーー!!」
男たちの断末魔に似た声が響く。
しかし、その声を聞くものはどこにもいなかった。
哀れ、兵士となったばかりの2人が仲良く穴の中へ落ちていく。
それからかなり早いですけど、アンケートを募集したいと思います。
これからある段階で、レックとハッサン、そしてこれから加入するメンバーが職業を得ます。
そこで、最初の職をどうしようか今迷っています。
なので、皆さんにこのキャラはこの職業がいいという希望を聞きたいのです。
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