ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第5話 兵士への試練

「うわあ…こいつはあとから来てよかったなぁ…」

「うん…」

2階の宝箱の前に、気絶にとどまる程度の量を調整された土嚢の下敷きになって気を失った志願兵が2組いる。

天井が一部はずれているところから、おそらく宝箱につられてきた結果、このような結果となったのだろう。

そして、宝箱の中身は…。

「や…薬草かぁー…」

「ある意味、得した感じだな」

麻袋に薬草を入れ、次の階段を上る。

「やべえ…こいつはやべえよ…」

「な…なんで強さだ!出直せーー!!」

腕や足などに傷を負った1組が階段を駆け下りてくる。

「おいおい、ここまでやるのか?」

「厳しい試練になるな…」

階段の上から魔物の咆哮が聞こえる。

「なあ…レック、薬草は十分あるか?」

「うん。念のため、マルシェのバザーで買っておいたものもあるから…」

「よし…いくぜーーー!」

「おーー!!」

一斉に階段を駆け上る。

3階で待っていたのは6本足で蝙蝠の羽根を持つ赤い眼のライオン、ライオンヘッドがいた。

「なんでここにライオンヘッドがいるんだよ!?」

「きっと、試験のために捕まえていたんだ。ハッサン、ライオンヘッドと戦ったことは!?」

「あるっちゃああるが…強すぎて、砂で目つぶしして逃げただけだぜ!!」

「そんな…!!」

「グオオオオ!!」

ライオンヘッドの口から高熱の閃光が放たれる。

「避けろ、レック!!」

「うわああ!!」

辛くも両者は閃光を回避する。

しかし、閃光の熱が凄まじいせいか方に火傷を負った。

「何!?さっきのはブレス??」

「いや、こいつはベギラマ、閃光系の中級呪文だ!!」

炎ではなく、高熱の閃光で敵を攻撃する呪文、ベギラマ。

炎が活動するのに必要な酸素が薄い環境でも放てる厄介な呪文だ。

「ベギラマ…初めて見た!!」

「感心してる場合かよ!?あのベギラマを受けたら、銅の剣なんて軽く溶けるぞ!!」

ライオンヘッドが素早い動きでレックを押さえつける。

「うわああ!!」

「くっそぅ!!待ってろ、レック!!」

レックに食らいつこうとしたライオンヘッドをハッサンがショルダーアタックで突き飛ばす。

レックを取り逃がしたライオンヘッドは空を飛び、そこからベギラマを放つ。

「くっそう!!これじゃあ攻撃できねえ!!」

今いる空間は障害物になる物はなく、壁にもよじ登れるように凸凹がない。

高熱の閃光が何度も何度の2人に襲い掛かる。

「このままだとなぶり殺しだ!!」

「跳べ、レック!!」

「えっ…?」

急な発言に動揺する。

ベギラマによって、左腕は火傷しているが右腕と両足は無事だ。

「いいから跳べ!すぐに!!」

「何言ってるんだ!?ここから飛んでも、ライオンヘッドには届かない!!」

この3階の天井は2階までのそれよりも高い位置にある。

7,8メートル上に飛んでいるライオンヘッドに人間の跳躍が届くはずがない。

「俺を信じろ!!」

「!!」

まっすぐな目でレックを見る。

このまま上空からのベギラマをどれだけ避けられるかはわからない。

自分が跳ぶことで、突破口が開くのか?

疑問に思うところはあるが、ハッサンを彼は信じてみようと思った。

なぜ、あって間もない彼を信じようと思ったのかは当の本人にも分らないが…。

「うおおお!!」

レックは全力で跳ぶ。

しかし、当然のことながらライオンヘッドに届くはずがなく、そのまま着地しそうになる。

すると、ハッサンは右拳をレックの両足にぶつける。

「な…!?」

「飛んでけぇ、レックゥ!!」

右拳に全力を注ぎこむ。

ハッサンが右拳を振り切り、レックが猛スピードで跳ぶ。

一体どれだけの力を込めたのだろうか。

突然のことに驚くライオンヘッドの左前脚にレックがしがみついた。

「やった!!」

「グオワアアアア!!」

ライオンヘッドはレックを振り下ろそうと、壁へ向かう。

「させるかぁ!!」

壁に接触するまであと20数秒。

ライオンヘッドの行動を阻止するため、レックは可能な限りよじ登る。

そして、よじ登ったレックにライオンヘッドの頭部が肉薄する。

「おおおお!!」

レックの銅の剣がライオンヘッドの左目に突き刺さる。

突然の攻撃により、大きなダメージを受けたライオンヘッドがもがきながら床に転落していく。

このままではレックも道連れにたたきつけられてしまう。

「ハッサン!!」

「おう!!」

レックは右足で蹴りつけ、ライオンヘッドから離れる。

そして、落ちてくるレックをハッサンが両手をがっしりと受け止めた。

ライオンヘッドは頭から床に激突し、そのまま息絶え、消滅した。

「よし…!!」

「ふうう…今回ばかりは疲れたな…ん?」

ライオンヘッドの死体があった場所を見ると、そこには金でできた特に飾りのない指輪が落ちている。

「金の指輪…?」

「もしかしたら、こいつが兵士長が言っていたものじゃないか?」

「どうだろう…?」

兵士長は宝について、詳しいことは言わなかった。

そして、高さから考えるとここから塔の屋上まではあと4回くらい階段を上る必要がある。

レックにはまだまだ中盤あたりのここで宝が出るとは思えなかった。

「けどよぉ、ここは行き止まりだぜ?さらに上へ行く階段は…」

「この部屋をもう少し調べてみよう」

ハッサンがくたびれている間、レックは広間の中を捜索する。

「これは…?」

「ん?何か見つけたか?」

「これを見てくれ」

階段とは反対側に位置する壁をじっと見る。

すると、そこには先ほど手にした指輪が入るくらいのかなり小さなくぼみが存在する。

「おい、ということは…」

「きっとこうすれば…」

金の指輪をくぼみにはめる。

すると、そのすぐ右の壁が動き、上への階段が現れた。

「よっしゃあ!!これで上へ行けるな!!」

「やっぱりこの指輪じゃなかったんだ。行こう!」

指輪をくぼみから外すと、ハッサンと共に階段を上る。

階段を上り終えると、動いた壁は元に戻った。

 

「ふう…まだ志願兵はここへ来んのか…」

屋上の小さな倉庫の前で、厚い鋼でできた地味な鎧を着た茶色い白髭と禿げ頭の男がキセルを咥えながら居間にも沈みそうな夕陽を見ている。

「おそらく、3階のライオンヘッドにてこずっているか4階以降の迷路で迷子になっているのだろうな。それでも、弛んでおるなぁ最近の若者は。儂が志願兵のころは5時間で突破したというに…。ふう…」

夕日を見ながら、その時一緒に試練を受けた同年代の元同僚を思い出す。

彼が兵士をやめてからは、何度も彼の家に訪問したいと思ったが、激務故に叶わず、彼の妻からの手紙で彼の死を知った。

「友よ、こんなに早く死ぬとは思わなかったぞ…」

「はあ…はあ…はあ…」

「む?」

前の階段から、荒い息と足音が聞こえる。

「ようやく来たか…。さて…」

キセルの火を消し、椅子代わりに使っていた鋼の大剣を手に取る。

「はあ…はあ…はあ…」

「やっと…屋上だぜ…」

疲れ果てたレックとハッサンが昇り終えると、その場に座り込む。

「何をしておる?まだ試練はおわっとらんぞ」

「へ…?」

「まだあるのかよ…?」

大剣を手に取り、2本の角が付いた鋼製でフルフェイスの兜をかぶる。

そして、わずかにレックへ目を向ける。

「(あの小僧…あいつに似ておる…)儂はネルソン。試験長で、最後の壁じゃ」

「勘弁してくれよ…4階からここまでずっと走りっぱなしだったんだぜ…?」

「やめるならばそれでも良い。その場合は左側にある階段を使え。一気に外へ出られるぞ?」

「そ…そいつはもっと勘弁してほしいぜ!!」

外へ出ること、それは当たり前のことだが振出しに戻ると同じだ。

ライオンヘッドと迷路のこともあり、一度出れば、今度またここで来れるかどうかすら定かではない。

「やるしか…ないか…」

疲れている自分の体に鞭を打ち、レックはゆっくり立ち上がる。

「安心せい、最後の試練はあきれるほど単純。人によっては一瞬で終わる」

「え…?」

「どういうことだよ?」

「最後の試練は儂に一太刀与えることじゃ。ライオンヘッドを倒したお前たちなら簡単なこと」

「なるほどな…なら、もうひと踏ん張りだ!!」

ハッサンも立ち上がる。

太陽は既に沈み、徐々に暗くなってきている。

監督する兵士たちは松明に火をつけ、塔周辺を明るくする。

「さあ、来い。儂はこれでも先代兵士長。並大抵の攻撃が通用すると思わんことじゃ」

「無理すんなよ?爺さん!いくぜ、レック!」

「ああ!!」

両者は一斉にネルソンにとびかかる。

「猪突猛進なのは良いことでもあり、悪いことでもある!」

今の2人の動きはネルソンにとっては単調なものでしかない。

「うぐぅ…!!」

「うわあ!!?」

次の瞬間、ハッサンは腹部を抱えながら倒れこみ、レックの剣が宙を舞う。

「甘い。確かに儂はじじいだが、数分間の間の勝負ならばだれにも負けん」

「く…そう…!!」

「あれが…先代兵士長の動き??」

ネルソンの先ほどの動きは以下の通りだ。

まずはハッサンとレックの攻撃のタイムラグを3秒と見積もる。

そして、拳で襲い掛かるハッサンの腹部を柄で強打。

レックの上段からの攻撃はそのまま下から大剣を振り、剣自体を彼の手元から離れさせる。

「どうした?まだ立てんか?本当に最近の若者はだらしないのぉ…」

「な…めんな!!」

痛みに耐えながら、ハッサンは立ち上がり、ネルソンへ向かって突進する。

(ふう…儂も若いころはこういう無謀な動きをして、よく叱られたものじゃ)

若いころの自分を思い出しながら、ネルソンは低い体勢で足払いをする。

突然の足払いで、ハッサンは大きく転倒する。

「甘い甘い…そういう動きでは駄目じゃな!!」

「うわあ!!」

そして、後ろから切りかかろうとしていたレックの横腹をまるで読んでいたかのように裏拳で吹き飛ばす。

更に立ち上がると、起き上がろうとしたハッサンの首には大剣を突きつける。

「い…痛い…」

「めちゃくちゃ強え…」

「どうした?老いぼれにここまでやられて悔しくないのか?」

ハッサンは動けない。

動けばどうなるかを大剣が何も言わずに伝えている。

試練でこのようなことをするとは思えない。

しかし、ネルソンの兜の隙間から見える目は本気で、そうしかねない凄味のようなものを感じられる。

(どうしよう…?このままじゃ動けない…)

(くっそう…!うん…?)

動けないハッサンは先ほど起き上がったときのネルソンの動きを思い出した。

立ち上がるとき、ネルソンはなぜか左足をかばうかのような動きになっていた。

そして、足払いした際の軸足は右。

転倒はしたが、足はあまり痛んでいない。

(もしかしたら…奴の左足は…)

推測が正しければ、このまま彼を転倒させ、攻撃のチャンスが生まれるかもしれない。

幸い、大剣は自分の首の左側にある。

「うおおおお!!」

ハッサンはネルソンの左足にヘッドバットを浴びせる。

「な…何!?」

グリーブで守られているにもかかわらず、ネルソンが大きく態勢を崩す。

倒れそうになった大剣をハッサンは左手で抑えた。

「いけ、レック!!」

「ハッサン!!はああああ!!」

ハッサンが自由になり、隙だらけになったネルソンに突っ込む。

そして、銅の刃はあおむけに倒れたネルソンの首に突きつけられた。

「終わりです、ネルソンさん…」

「ネルソン試験長と呼べ、まったく…左足がこれでなければなあ…」

ため息をつきながら、左足のグリーブを外す。

「…!!?」

「やっぱりなぁ…」

ネルソンの左足は革でできた義足になっていた。

「これだけではない。右足の指が一本無く、そして左耳は聞こえない。これは魔王との戦いで追った名誉の負傷じゃ。なぜ気づいた?」

「足払いの時と立ち上がった時だな。鋼をつけた脚なら、もっと痛えはずだぜ?」

「ふん…。今度の義足は鋼製にしたいのお…」

レックの剣をどかせ、倉庫の扉の横に座ると、再びキセルを吸う。

「この大男に救われたな…レック」

「え…!?なんで俺の名前を…!?」

「お前の父親は元レイドック兵士、そして儂はその同僚じゃ。手紙でお前のことは聞いた…」

「そうだったんですか…」

「あ…あのよお、ネルソン試験長。一つだけ質問があるんだが…」

「なんじゃ?」

敬語がなっていないためか、ネルソンは鋭い眼でハッサンを見る。

「ええっと…さっき、俺の首に剣を突きつけてたが…本気で殺す気だったのか?」

「当たり前じゃ。儂程度で殺されるようでは兵士にしてもものの数か月で死ぬだろうからのぉ。ハハハハ!!」

大笑いしているネルソン。

だが、ハッサンの顔は青く染まり、冷や汗で全身がぬれていた。

「さあ…奴らの結果はどうなんじゃ?ソルディ!」

「え…?」

「お疲れ様です。ネルソン先輩」

倉庫の扉が開き、そこから2つのプロテクターと一振りの鉄でできた細い刀身となっている下級兵士用の剣、そして1組の鉄製のアームガードを持ったソルディが現れる。

プロテクターの正面にはレイドックの国旗が刻まれている。

「ソルディ兵士長!?なんでここに…」

「試験の慣例でな、正しい宝を手にした者をここで待っている。そして、誤った宝を持った志願兵は今は城にいる私の影武者にそれを見せているだろう」

「で…でも、いつからそこへ…?」

「実はな…」

ソルディはレック達を倉庫へ招き入れる。

すると、倉庫の反対側にも扉があり、その扉から出ると、長い梯子があった。

「ええ…!!?」

「実はここからでも屋上まで行けるのだ。倉庫と言っても、この中には試験のとき以外何もいれていないからな」

「け…けどよぉ、ソルディ兵士長。その正しい宝ってのは…?」

「もう十分見せてもらった。強いて言えば…お前たちの隣にいる人間だな」

「隣…?」

レックとハッサンは互いの目を見る。

「ど…どういうこと??」

「さあ…?」

互いに見るが、未だにソルディが何を言っているのかわからないようだ。

「まあ良い。合格おめでとう。今日からお前たちはレイドックの兵士だ。まずはこれらを受け取ってほしい」

「は…はい。ありがとうございます」

「良くは分からねえが、やったな!レック!!」

2人は受け取ったプロテクターを身に着ける。

そしてレックは兵士の剣を、ハッサンは鉄のアームガードを装備した。

 

「ふう…まさかここに奴のガキが来るとはなあ…」

レックとハッサンが塔を出て行ったあと、他の志願兵を待ったが、結局誰もたどり着かなかった。

「お疲れ様でした。ネルソン先輩」

ソルディがワインの入った樽をネルソンのそばに起き、樽の形をしたコップを2つ取りだす。

「ふん…爺に酒を勧めるなんてなあ」

「爺とは…あなたはまだ54歳ではありませんか」

「こういう酒はお前のような若い奴が飲んでおけばいいんじゃよ」

「お言葉ですが、私はもう47。若くはありません」

「ま、今日だけが思いっきり飲ませてもらおうか」

ワインをコップですくうと、そのまま一気に飲み干す。

「ふう…うまい…。おいソルディ。もう1つコップはないか?」

「もう1つ?いえ、ありませんが…」

「気の利かない後輩じゃのぉ、…たく」

ソルディを睨みながら、ネルソンは自分の兜にワインを入れ、自分の前に置く。

「これはお前のワインじゃ、友よ…」

「ああ…ディアス先輩のコップが欲しかったのですね。しかし、なぜ急に…」

「気まぐれじゃ」

「はあ…」

もう7杯目を飲み始めたネルソンにため息をつく。

また気まぐれか。

彼が現役の兵士長だったころはよく自分を含めてその日非番となっている兵士たちと不定期に酒を飲み歩いたものだ。

若いころはたくさん飲んだが、今では制限がかけられてしまった。

ソルディは昔のことを懐かしく思いながら、2杯目のワインを口にした。




今回も大幅アレンジしました。
あと、ライオンヘッドはドラクエ3のモンスターです。
6には出てきません。
さて、兵士となったレックとハッサンはこれからどうなっていくのでしょうか…?
ちょっと強引な運び方になっている点はごめんなさい。

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