ドラゴンクエストⅥ 新訳幻の大地   作:ナタタク

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第4話 レイドック

「ふーむ、ライフコッドから来たのか」

レイドック城下町正門前で、番兵がレックの通行証を確認する。

そして、身なりをじろじろと確認した。

「よし、入っていいぞ。ここはライフコッドよりもにぎやかな街だ。だが騒ぎだけは起こさないでくれよ」

「はい、ありがとうございます」

番兵に礼を言い、街に入る。

ここまで来るのに1日かかった。

「ここが…レイドックの城下町…」

教会近くの椅子に座り、薬草で足にあるつぶれたまめを治療しながら周囲を見渡す。

ライフコッドでは一番大きかった村長の家と同じ大きさの家がたくさん建っていて、そこよりも良質な武具が数多く流通している。

そして、城下町の東西と南の端には兵舎があり、常に兵士が警備をしている。

レイドック、マルシェ、ライフコッドを領有している王国。

マルシェに集まった良質な材木や煉瓦によって民家や王宮が作られていて、特に良質なものは町を守る壁となっている。

過去は経済活動が行われるマルシェで生活する人が多く、城下町には一部の貴族のみが居住していたが、魔物の狂暴化により兵士からの庇護を受けやすい城下町に引っ越す人々が殺到している。

最近ではそれに便乗した犯罪者の侵入を防ぐため、城下町への人の受け入れを一部制限している。

また、この地を治めるレイドック王は有能で、何年も眠らずに国を治めており、更に武勇に優れていることから国民から眠らずの王と畏敬の念を込めて呼ばれている。

「おい…聞いたか?」

「うん…?」

教会から出てきた2人の若者がレックのそばで話をしている。

「レイドック王が再び魔王ムドーに戦いを挑むんだとよ…」

「ああ…。噂によれば、各地で見かける大陸の大穴はムドーの仕業らしいな…」

「半年前の戦いでは多くの兵士が戦死しちまったし、兵士長もその時の負傷が原因でソルディ兵士長に交代したって…」

「大穴…ムドー…?」

ムドーという言葉で、レックの脳裏にあの夢の光景が浮かぶ。

茶色いマントをつけた黒で2本の角のある竜と人が融合したかのような巨大な魔物。

あの魔物が本当にいるというのか?

そして、西の森で見たあの大穴を作ったのがムドーだという。

ある意味、奇妙な因果だ。

「もしかしたら…王様が何かを!!」

痛みがなくなったのを確認すると、レックは大急ぎで城下町の北へ走る。

レイドック城は町の北に置かれているのだ。

ソルディが着ていた鎧についていたエンブレムが描かれた旗が城門の左右に設置されている。

「何?王に会いたいだと?」

レックの言葉に番兵が怪訝な表情を浮かべる。

「何を言っている?王は今、兵士の募集とムドー討伐の作戦会議、そして治世に忙しいのだ!無理だ」

「1つだけ質問したいことがあるんです!それだけ聞けば引き上げますから…」

「駄目だ駄目だ!!さっさと町へ戻れ!!」

「そうだぜ!さっさと帰るんだな!!」

急に後ろから力強い声が聞こえる。

「え…?」

後ろを振り向くと、そこには紫色のモヒカン頭で日焼けと筋肉の多い肌を露出させたベストと皮の腰巻、そして短パン姿の男が立っている。

身長はレックよりも十数センチ高い。

「お前みたいな弱い奴にレイドック王が合う訳ないだろ!腕は細いし足腰も弱え!!」

「なんだよ、初対面に人間に!!それに俺はここらの魔物くらい軽く倒せる!!」

「はぁ?そんな体でできるわけねえだろ。さっさとどけ!!俺はここの兵士になるために来たんだ!」

大男のバカにした言葉にレックの中の闘争心が燃え上がる。

「お前がなれるんなら、俺だってなれる!!兵士にならば、王様に会えるんでしょう!?」

怒った表情で兵士に詰め寄ると、予想外の返事が返ってくる。

「おいおい、ちょっと待て!!兵士になれば確かに王との謁見は可能だ。兵士になるのはいいが、テストが必要だぞ?」

「「テ…テスト…!?」」

レックはともかく、兵士になるために来た筈の大男はなぜか知らなかった様子で目を丸くする。

 

「皆の者!よくぞ、レイドック兵士に志願してくれた!!」

城の2階にある広間で、レック達志願者が集まる。

レックと大男以外にも数人の志願者がいて、いずれも大男とは負けず劣らず体格がいい。

そして、志願兵に対して上の言葉を述べているのはあのソルディだ。

「しかし、すべての志願兵を兵士にするわけにはいかない。故に、君たちに南にある試練の塔へある宝を持ってきてほしい」

「宝…?」

「そうだ。その宝が何かは君たち自身で考え、これだと思ったものを私に見せてほしい。そして、試練の際には君たちの隣にいる志願兵と2人1組で行う」

「「え…?」」

レックと大男が互いの顔を見る。

今、彼ら以外に隣にいる志願兵がいない。

「「えーーーー!!?」」

「兵士は1人では戦えない。どんな者であろうと共闘できなければ、如何に強くとも真っ先に死んでしまうぞ。さあ行け!!試練の塔は今開かれた!!」

 

「…」

「…」

城を出たレックと大男は何も言わず、互いにそっぽを向いた状態で歩いている。

「おい、俺の足を引っ張るなよ?」

「お前こそ、俺は素人には負けない。力だけで戦えるなら苦労しないよ」

「んだとぉ…!?」

即席ペアであり、先ほどの喧嘩もあってなかなか両者の溝が埋まらない。

このままでは2人仲良く不合格確定だ。

「ああ…どうしましょう…」

「うん…?」

井戸の中を見ている中年女性が困った表情を見せている。

「あの…おばさん。何かあったんですか?」

放っておけず、レックは女性に声をかける。

「ああ…実は井戸の中に指輪を落としてしまって…」

「指輪を?」

「ええ…。亡くなった主人からもらった結婚指輪で…。でも、仕方ないわ。あの中には魔物がすみついたから…。水なら他の井戸から…」

「いけない!そんな大事な物を!!俺が取りに行ってくる!!」

「あ…ちょっと!!」

「何してんだ!?俺たちは…」

女性の制止を無視し、レックは井戸の中へ入っていく。

 

バシャリッ!!!

井戸に飛び込んだレックがほとんど態勢を崩すことなく着地する。

井戸の中は想像以上に広く、両足が完全に水につかっている。

「キキキキ…」

「お前がおばさんが言っていた魔物か!?」

姿かたちはシールド小僧に似ているが、魔物の体の色は茶色く、左手の剣が銅ではなく鉄でできている。

「キキキ、俺はこの井戸で一番えらーい王様、ダークホビットだー!」

魔物の左手の指を見ると、大きな宝石が付いた指輪がはめられている。

「それはおばさんの指輪だぞ、返せ!!」

「何言ってんだよー?この井戸の物は全部俺のものだー!」

ダークホビットがレックに向けて飛びかかる。

「おおお!!」

銅の剣を抜くと、ダークホビットに向けて大振りする。

しかし、悪魔の顔が描かれた楯で防がれてしまう。

「ハハハハ!!その程度の腕かよー?」

「う…腕が…!?」

右手がしびれ、剣を放してしまう。

ダークホビットの盾も鉄製で銅の剣よりも強度が高く、全くダメージを与えることができない。

「弱い弱い!!ヒャハハハ!!」

腕の感覚を失ったレックの腕や足にダークホビットの剣が襲い掛かる。

「くぅぅ…!!」

浅い切り傷が次々と出来上がる。

完全にあの魔物はレックを舐めていて、なぶり殺しにしようとしている。

「ホラホラホラ!!とっとと反撃しねえと死んじまうぞー?」

「くそぉ…!!」

「ヒャハハハ…ハ…?」

ダークホビットは冷や汗をかきながら、レックを見ている。

「え…?」

焦って盾を構えるが、突然盾が砕け散り、魔物は吹き飛んで壁にめり込む。

「え…な…なんで…?」

魔物を倒したのはあの大男だった。

「何やってんだよ、お前!!勝手なことをしやがって!!そんなんで試練にクリアできるか!!?」

すごい剣幕で大男が叱責する。

「ご…ごめん…」

「ふん。で、例の指輪はどこだよ?」

「指輪は…ああ!!」

楯を失ったダークホビットが剣をハッサンに向ける。

ものすごい腕力で殴られたためか、額や腹部から出血している。

「キキーーーー!!よくも俺に傷を負わせてくれたな、てめーーーー!!」

「く…そう!!」

背後からの奇襲に驚いた大男は防御することができない。

「キキーーー!!俺がこの井戸の王さ…」

突然、ダークホビットの額にナイフが刺さる。

脳を破壊された魔物は静かに落ち、装備品を残して消滅した。

「お前…」

「油断しすぎだよ、1人では戦えないってソルディ兵士長が言ってただろう?」

薬草で傷を治しながら、レックは投げたナイフとおばさんの指輪を回収する。

(ランドのナイフがここで役に立つなんて…)

 

「あーあ、すっかり遅くなっちゃったなぁ…」

城下町を出ると、番兵から他の志願兵はもう出発したことを伝えられた。

ここから試練の塔までは数時間必要で、到着すれば夕方になる。

「なあ…お前、バカだな」

「何!?」

急にバカと言われ、頭に来るレック。

そんな彼を気にすることなく、大男は話を進める。

「俺は剣を使ったことはねえが、これだけは分かる。下半身も使え。それに、今持っている銅の剣は軽いからな。もっと動き回って、敵の懐を狙うんだ」

「あ…ああ…」

急なアドバイスにびっくりしていると、大男が右手を差し出す。

「俺はハッサン。修行中の武闘家だ。お前のようなバカ、きらいじゃないぜ」

「…。俺はレック。頑張ろう」

「ああ…」

互いに握手を交わす。

ようやく互いの溝が埋まった感じがした。

 

2人は試練の塔へ向けて歩き始める。

その道中にはシールド小僧やオニオーン、リップスに加えて見たことのない魔物に遭遇した。

倒した魔物や冒険者の髑髏を武器にする赤い狐のような魔物、髑髏洗い。

ひょうきんな顔でマンドラゴラのような踊りをするピンク色の体の小さな魔物、テンツク。

武闘家として、レイドック周辺で先日から修行をしていたハッサンはこの2種類のモンスターをあらかじめ知っていて、特徴や弱点をいろいろ教わったこともあり、それほど苦戦することはなかった。

特に、鉄の盾を砕いたハッサンの腕力はレックにとっては大きな助けとなった。

そして、夕方になって2人は試練の塔に到着した。

試練の塔はレイドック建国当初からあると塔だ。

元々の目的は南方から来る海賊に対処するためのものだった。

しかし時代が流れ、海賊がいなくなると、兵士選抜試験のための塔として改修が施された。

また、地下にはマルシェやレイドックの人々すべてを収容できるほどのスペースがあり、仮にその2都市が陥落したとしてもこの塔へ避難することができる。

「おお、ようやく来たか!お前たちが最後だ。さあ、早く他の志願兵に追いつけよ」

「いよいよだな…」

「ああ…」

レックとハッサンは同時に試練の塔に入って行った。




ここでハッサン初登場です!
それにしても、何年も眠らずに国を治めるってすごいですよね。
ずっと眠らないって…下手したら死んじゃうよ…。
あ…世界が世界だし、大丈夫なのか。
ちなみに、ハッサンの詳細は文字数の関係上、まだ投稿できません。
もう少し話が進んでから投稿させていただきます。

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