「いいな、アクティベートしたと同時にあの建物にダッシュだぞ!」
「了解!」
洞窟のようなトンネルをぬけ、やっとの思いで第二層最初の街にたどり着いた二人は転移門の前であらかじめ決めていたごく単純な作戦の確認をした。
了解 とすんだ声でいうリナツの顔を見てキリトはトンネルでのブルーカウというモンスターを倒したモンスターを倒したリナツの姿を思い浮かべ苦笑いを浮かべた。(プロローグ参照)
「なに、想像してんの?」
「いや、何でもない。」
と、いうと同時にキリトは全力ダッシュで建物の方へと向かっていった。
リナツはしばらくキョトンとしていたが、ようやく事を理解した。
転移門に青色の光が巻き起こったからだ。つまり、アクティベートされた、
「ば、バカキリトーー!!!」
少し遅れてリナツもキリトについていった。
1年と半年がたった・・・・・・・・。
二人はその後、第50層までタッグを組みつづけた。アスナとは10層で解散した。が、そこからさきは別々。
ソロで攻略やレベリングをしていった。
なぜ、そうなったかは第26層でのある事件がきっかけであった。
第26層(最前線50層) とある地底湖で。
キリトとリナツはある情報屋の情報で最前線から遥か下層の26層で激レアクエストを発見したということを聞いた。
教会の祭壇にいたNPCが提示したクエスト内容はレベルが近い男女のプレイヤーが地底湖にすむヌシを倒し、そこに封じられている二本の剣でお互いを切り付けるというのだった。
もちろん二人はこのクエストを聞いたときためらった。
しかし、そのクエストのNPCの話を聞く限り、剣が封じられているのは圏内でお互いにダメージはない。
ただ、その剣に仲間の血を吸わせ、渡してほしいということだった。
主旨はわからないが報酬が70層クラスの武器が貰えるということだった。それも、自分の好きなジャンルの武器を。
こんな低レベル層にも関わらず、70層クラスの武器を貰えるとは、にわかには信じがたい事だが誰もクリアしたことがない。
なんでも、50層への扉を開けた時に出現したクエストらしい。
地底湖もそのみち乗りもさして強い敵も出ない。が、湖にはなにもいない。
つまり、最新の更新されたクエストなのだ。
ソードアートオンラインというこのゲームの全てを制御しているのはカーディナルシステムという自分の不具合も自分で処理し、クエストや地形をも完全に操作する最高のプログラムだった。
そのカーディナルプログラムがクエストを更新したとしても、さして問題はない。むしろ正常なのだ。
二人はクエストに警戒しつつも、武器欲しさに受けた。
危険であればやめればいいのだから。
地底湖への道のりは情報通り、50層で戦っている二人には辛くもなかった。
「なぁ。ほんとに70層クラスの武器なんて貰えるのか?」
「さぁ、でも、やって損は時間の浪費くらいでしょ。」
「ああ、そうだな。」
地底湖は差し渡し100メートル近くある巨大なものだった。
深さも10メートルは軽く超えている。
しかし、やはりヌシとおぼしきモンスターは見当たらなかった。
「ねぇ、もしかして、これって、、、湖のなかなんじゃないの?」
リナツの突拍子のない発言にキリトは目を見開いた。
「それしかないよ。いこ。」
そういうとリナツは装備を解除しはじめた。
ポンポンとリズミカルな音と同時に防具類が消えてストレージへと戻る。
「な、なにやってんだよ!こんなところで、って・・・・」
装備を解除した、正確には防具類のみを外し下着のみのはずが水着らしき装備をつけていた。剣は腰から背中に場所がかわっている。
「なに期待してるの。。。」
キリトは小さくため息を漏らした。
その後キリトも水着、というより短パンに近い装備をした。
「さて、行きますか!」
「おおー!」
二人だけの掛け声が響いた。そしてその音をかき消すように水しぶきとともに、湖に飛び込む音が響き渡った。
湖の水はそこまでつめたくなかった。
リナツはふと湖の底に祭壇のようなものがあるのに気づいた。そして、洞窟のような大穴があるのにも。
リナツはキリトに手で軽く合図をし、共に祭壇へと泳いでいった。
もちろん、ゲームの中なので呼吸は必要がない。
近くで見ると祭壇らしきものは台座でそこに二本の剣がXの字を描くようにささっていた。
二人はそれが今回のクエストのキーアイテムの剣であることを理解した。
そして、その剣を抜こうとしたときだった。先ほどみた洞窟のような大穴から大量の泡が吹き上がった。
その中を巨大な影が通ると同時に二人の索敵スキルにモンスターの反応が示された。
「キリト!」
水の中でくぐもっている声で叫んだ。
「ギュギャャャャ!!」
甲高いモンスターの叫び声で周りの泡が吹き飛びモンスターの姿を現した。
全身を覆う黒いうろこ、鋭い爪、鋭い牙。それはドラゴンの翼のみをとり背ビレをつけたような推定30メートルはあるか、というくらい巨大な水竜であった。
《The Lake Disaster》
「湖の災害・・・・・」
敵の強さはだいたい、名前で判断できる。
Theという名をモンスターはボス級とこのゲームでは決まっている。
つまり、このモンスターの強さはボスと同じ。さらに二人から見るこのモンスターのカーソルは黒に程近い赤。普通の敵は赤だが、強ければ強いほど黒に近くなる。
「おそらくこのモンスターは最前線のフロアボスと同じかそれ以上の強さだ。リナツ、ここは一端引いた方が・・・」
リナツが答えるより先にドラゴンは二人に急速に接近してきた。
「くっ!」
ドラゴンの爪での攻撃を何とか剣で防いだキリトはリナツへと叫んだ。
「逃げろ!!このまま二人で戦っても共に死ぬだけだ!」
「でも、」
「早くしろ!このまま押さえてられるのあと少しだ!」
キリトの必死の叫びはリナツに届いていたがあまりのことに完全にフリーズしていた。
「くっ!どうすれば!」
もし、強いモンスターが出て来た場合は逃げる作戦だったがそれを敵は許そうとはしなかった。
転移結晶をポーチからだす時間さえ与えてくれない。
絶望的な状況だった。
リナツが突然なにかに気づいたように顔をあげた。
「キリト!私が時間を稼ぐからお願い!あれを使って!!」
そういうと共にリナツはドラゴンに向かって投剣を投げつけた。
ドラゴンの注意がリナツへとむきもう突進してきた。
それをリナツはギリギリでよける。
「早く!なにためらってるの!私知ってるよ!!キリトが練習してるとこみたもん。もう、使うしかないの!」
キリトはためいきを払い決意を固めた。
アイテムストレージを開き、一振りの剣を取り出す、それを装備カーソルに持って行き左肩に装備する。
「よし!いいぞ!」
その声を聞くとリナツは突進してくるドラゴンにタイミングをあわせ、体術スキル〈弦月〉を放った。
右足が黄色いライトエフェクトをまとい宙返りするようにしてドラゴンの頭を蹴り上げる。
「スイッチ!!」
キリトはのけ反ったドラゴンにちかずき、二本の剣を構える。
そして、ソードスキルを発動させる。
《二刀流》上位スキル16連撃〈ナイトメアレイン〉
赤黒いライトエフェクトが二本の剣を包み込みそれをドラゴンの体へと振り払う。
重々しい刃が敵に反撃のチャンスを与える前に敵を切り裂き徐々にHPを削る。
ドラゴンは苦痛にも似た叫び声をあげる。
16連撃の刃がすべて放たれたドラゴンのHPは二本あるHPバーの一本目が6割程削れている。
しかし、最低でもあと二回はこの手のスキルを発動させなければ、倒せない。強力な技ゆえにスキル後の硬直(ディレイ)は長い。
硬直したキリトを見るなり、ドラゴンは水中ならではのブレス技、水流で吹き飛ばすという技の発動モーションに入る。
ずらりと鋭い牙が並んだ口が大きく開きそこから激しい水流が吹き出した。
キリトの体は水中にも関わらず、高速で壁へと打ち付けられた。
キリトのHPが半減し、黄色くなる。
「キリト!!」
リナツはキリトが回復するまでタゲを取るべく、前へとでる。
現れたリナツに容赦なくドラゴンは噛み付こうとする。
それをうまく泳いでかわすが水中ではドラゴンの方が有利なのですぐに次の攻撃をしかけてくる。
ドラゴンの猛攻をかわしながらリナツはキリトのHPを確認した。
8割 全快まで残り2割
「く、こうなったら・・・」
リナツの握る剣が黒いライトエフェクトをおびる。そして、ドラゴンの攻撃の一瞬のスキをつき、ソードスキルを発動させる。
黒い斬撃がリナツの左の腰当たりから水平になぎ払われる。そして右に振り払われたその剣を<逆手>に瞬時にもちかえ今度は右から水平に振り払う。さらに振り払われた剣をまた瞬時に普通に握り直し右へと振り払う。そしてまた逆手に握る。その一連の動作を三回行った。
片手反転ソードスキル〈トライブレイク〉
黒い斬撃は一つの線のように見えるが、合計6回のソードスキルの威力が含まれている。
ドラゴンのけたましい雄叫びに連れて、2段バーの1段目のHPが4割削れて残り1段となる。
「スイッチ!キリト!」
キリトはリナツの声に合わせ、ドラゴンへと突撃する。
そして、動きが鈍っていたところにさらなるソードスキルを叩き込む。
〈二刀流〉最上位スキル 27連撃〈スターバーストストリーム〉!
蒼く輝く二本の剣を目にも止まらぬスピードで振り払う。
ソードスキルの威力のおかげか、クエストの難易度が若干低いおかげか、ドラゴンのHPは27連撃の23連撃目で全損し、無数のポリゴン片へとなった。
経験値とコル、アイテムが二人の前に表示される。
「勝ったん・・・だな。ふぅー。」
「そう、だね。勝ったんだよ!」
二人は水の中のくぐもった声でそういった。
「さ、行こうか。」
二人は湖の底にある祭壇へと向かった。
戦闘前と同様にそこにある二振の剣を、二人は同時に引き抜いた。
それを合図にするかのように湖の水が一気に消えはじめた。
水がすべて消えるさまを二人は唖然として眺めていた。
水が消えると、いつのまにか今いるエリアが圏内エリアに指定されていた。
「じゃ、このクエストの目的を果たしますか!」
圏内エリアに設定されたのを確認するとリナツは剣をキリトへと向けた。
「ああ、。」
アイコンタクトで呼吸を合わせ、同時に互いを手にした剣で突き刺した。
もちろん、HPは減らない。
が、
「あれ?キリト、パーティー解消した?」
「するわけないだろ?」
しかし、二人のパーティーはいつのまにか解消されていた。
そして、二人の前にクエストクリアのメッセージが映し出される。
キリトの方には、
クエスト報酬 武器 片手用直剣〈フラッシュバーン〉
そして、リナツの方には・・・・・
You get New ExtraSkill !!
《天翔双剣》
クエスト報酬 武器 片手用直剣〈シャイニングローズ〉×2
「「え??」」
二人して同じ驚きの声をあけた。
キリトの驚きは、単純にエクストラスキル。つまり、特定の条件を達成していないともらえないスキルを自分はもらえず、リナツのみがもらったことに驚いていた。
しかし、リナツの驚きは違った。
先程使ったソードスキル、〈トライブレイク〉はリナツが前にゲットしたが、熟練度の『上がらなかった』スキル《旧天翔双剣》と言うスキルで唯一覚えていたスキルだ。
しかし、そのスキルの名前は習得スキル欄からは消えて新たに《天翔双剣》と言うスキルが入っていることに驚いていたのだった。
「これも、そうだけどキリト!!パーティーが組めなくなってる!!」
「なに?!」
リナツの言う通りだった。
二人のパーティーはただ解消されただけではなく、もう『二度と』組めないようになっていたのだ。
「もしかして、このクエストのせいか?!」
二人は転移結晶を取りだし、26層の教会、あのNPCの元へと向かった。
しかし、教会についた二人を待っていたのは誰もいない教会だけであった。
そう、このクエストはエクストラスキル《旧天翔双剣》を持つものにしか受けれないクエストだった。
そのスキルを持ったリナツだからだったこそ受けれたのだ。
このスキルを持ってないものが受けると湖のヌシも剣も出現せず、永遠にクリアできないのだ。
そして、エクストラスキルと70層レベルの武器の対価に、クエストに参加した二人は二度とパーティーを組めなくなるというものだったのだ。そして、このクエストもたった一度の限定クエスト。クリアしてしまえば二度と挑戦することもできない。
つまり、エクストラスキル《天翔双剣》は、キリトの《二刀流》と同様、たった一人が習得できるユニークスキルだったのだ。
二人は二度とパーティーを組めない。
ここまでコンビを組んできた二人には強い武器にも、ユニークスキルにも変えられないほど、辛いものだった。