その少年の名前は〈キリト〉といった。
βテスターだった彼はこのデスゲームの開始とともに街を飛びだし、一番乗りでホルンカの町についたのであった。
β時代に学んだ知識を糧にここまで30分とかからずついた。
急いできたのにはいろいろ理由があったが、その一つに《アニールブレード》という片手用直剣が報酬のクエストをうけるというものがあった。
《クロムブレード》という片手用直剣を手に入れることも出来たがこちらのほうがステータスがわずかに高いのだ。
しかし、クエストはもちろんリスクが高いものとなっている。
そんな、クエストをクリアし早速、アニールブレードを強化しようと鍛冶屋を訪れたところ、少女に遭遇した。
そうリナツだ。
泣いている彼女をみてキリトは驚き、慌てた。
そんな、キリトの様子にリナツはかわいらしく笑い、驚かせてしまったことへの謝罪と自己紹介をした。
「驚かせてしまい、すいませんでした。えっと、リナツって言います。よろしくお願いします。」
「あ、俺はキリト。その、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ちょっと思い出しちゃって。」
キリトはリナツに理由を聞こうか考えたが初心者プレイヤーをおいてここまて一人で駆けてきた自分に人と関わる必要がないと思い、理由は聞かなかった。
キリトはリナツに一礼すると鍛冶屋の店主の元へといき、アニールブレードの強化を頼んだ。
リナツはどこに行くという目標も何もなかった。トーマとだったからこそここまで来られたのだ。仮に攻略を目標に前に進んだとしても、初心者同然の自分にとても進めるとは思えなかった。
キリトはアニールブレードを+2まで鍛え終え宿に戻ろうと振り向いた時、リナツがまだそこにいることに驚いた。
立ち去ろうとも考えたが、こんなにかわいい少女をおいてすたこら逃げるように帰るのも気が引けた。
しょうがなく、理由を聞いてそれから立ち去ろうと決めた。
「どうしていつまでもそこにいるのか、なぜそんなに悲しそうな顔をしているのか教えてくれないか?」
リナツは少し戸惑ったが別に隠すようなことでもないと考え、キリトにゆっくりと話した。
ここまでどうやってきたか。
トーマとクエストをしていたこと。
トーマが突然消えたこと。
「私、どうしていいかわからないの!トーマもいないしβテスターでもない。これからどうやって生きていくのかわからないの!!」
リナツは完全に混乱していた。
そんな姿を見てキリトは自分がどうして、知識があるのにそれを他人に使おうとせずここまで来たのかということを自問自答した。そして、結論を導き出した。せめて、彼女だけでも守ろう助けようと。
「リナツ・・・・・さん、俺はここに来るまで自分だけが強くさえなればいいと思っていた、だけど君のおかげで気付いたよ、誰かと助け会うことも大切だってね。だから、俺はここで困っている君を見捨てることはしてはいけない。俺が君を強くする。」
リナツはとても驚いた。ナンパかとも一瞬思ったが彼の目は真剣だった。
そして、リナツの前にパーティー申請の文字が映し出された。
「よろしくお願いします!」
リナツは迷わずYesのボタンを押した。
二人の出会いはそんな、ドラマのよう出会いだった。
しかし、この出会いこそが、リナツをのちに《絶空の鬼人》と呼ばせるほど強くさせるのである。
1ヶ月後
第一層ボス攻略会議が行われるという情報が第一層最後の街〈ダイジェスト〉に広まっていた。会議に出るため黒い革装備の男と顔が見えないゴツい兜をかぶった小柄な人が街を歩いていた。
もちろん、キリトとリナツだ。
リナツは体は革の軽装備なのに頭は鉄の騎士がかぶるような兜をかぶっているため大変目立つ。
「キリト~、今日の会議大丈夫かな?」
「ん?どうして?」
「いや~、人が大勢集まるのってこれが初めてでしょ?なんか起こりそうだなぁ~って。」
「ま、大丈夫だろ。」
キリトも内心は不安だった。情報屋のアルゴからこれまでの死者の数を聞いて、これがどれ程の命をかけた、会議か知ったからだ。
現時点での生存者は8103人。実に1897人もの人が命を落としたのだ。
その1897人のためにも第一層は確実にクリアしなければならない。
会議の場所に設定されたのはこの街で一番広い広場だった。
もうすでに人が40人ほど集まっている。
リナツとキリトは広場の一番後ろにある椅子に座り、会議が始まるのを黙ってまった。
一人の青髪の青年が壇上にたち辺りを見回した。
「よし、じゃそろそろ始めます!!」
イケメン顔のイケメンボイスで彼はいった。その声に反応し、集まった人たちは青年の方見た。
「まず、自己紹介から、俺の名前はディアベル。気分的にナイトやってます!」
職業のないこの世界でナイトと名乗った彼を集まった人々は口々に彼をからかった。ざわつく人を片手で静止させ本題に入った。
「昨日、俺達のパーティーがついにボス部屋を見つけた。偵察もだいぶ済ませた。ついでに皆の知っての通り、β時代の攻略本もある、後は作戦さえ立てればもう、いつでも出発できる状態だ!!」
あまりにも整いすぎている状況にリナツとキリトも驚きを隠せなかった。
「じゃまずここにいるのは・・・・・45人か、じゃあ7人パーティーが6つ残り3人が組んでくれ!でわ、開始!」
ディアベルがパンと手を叩くと同時に皆、パーティーを組みはじめる。
リナツとキリトは既にパーティーを組んでいるのであと一人探さなければいけない。わたわたと焦っているところに茶色フードをかぶった顔が見えない人が来た。
「あの、パーティー組みませんか?」
その声はまさに女性の声であった。
おそらくリナツと同様の理由でフードを被っているのだろう。
リナツはそんな彼女に金属兜でくぐもった声で いいよ、よろしくねといい、パーティー申請のメッセージを送った。
すぐに視界の左上に表示されているHPバーが一つ増えた。
「えっと、Asuna(アスナ)・・・さん?よろしくな。」
キリトは短く挨拶をした。それに応えるためアスナも挨拶をした。
「よろしくね。リナツさん、キリトさん。」
三人はニコッと笑い、会議を聞くためにまた静かになった。リナツとアスナはフードの下でだが。
パーティーを全員が組み終わり、さぁ作戦会議をしようと言うところで、一人の男が声をあげた。
「ちょっとまてや!わいに言いたいことがある!!」
ディアベルの方を向いていた全員が後ろを振り返った。
そこにいたのはサボテンのように尖った頭をした、20代後半かそれ以上の男だった。
ディアベルはその男に問い掛けた。
「あなたも攻略に参加するのかい?」
「ああ、そうや!だから、言わせてもらうで。ここにおる元βテスターの連中や!今まで溜め込んだアイテムやら装備やら全部だしてもらおうか!理由はもちろん、死んでいったニュービーたちへの詫びそして、わいらへの謝罪や!このデスゲームが始まってから一ヶ月、元βテスターの連中はうまいクエストや狩り場を独り占めしてホイホイ強なっとる。それも、左も右もわからないニュービーをおいてや!こんなことが許されるか!?」
男はそういうと近くにあった椅子にどっかりと腰掛け、反応をまった。
ディアベルが戸惑っていると、口々に会議に参加している人たちもβテスターへの不満をいい、謝罪しろといった。
男は自分の思いが伝わり勝ち誇った笑みを浮かべた。
だんだんと騒がしくなり、ついにはβテスターを探す怒鳴りあいになった。
ディアベルは止めようとするがどうにもならない。
怒鳴り会う男たちにアスナはため息をついた。キリトはやっぱり問題が起こったか、という顔をして黙って見ている。それに対してリナツは・・・・
「おぉぉぉーーい!!!!!!」
突然聞こえた馬鹿でかい声にキリトとアスナはビクッと飛び上がった。
それと同時に広場の騒ぎも一瞬にして静かになった。
しーんとなった広場に金属兜でくぐもった変な声でリナツは話始めた。
「あんたらさぁ!!何がしたいわけ!?ホントに攻略する気あんの!!??βテスターは確かにニュービーを見捨てたかもしれない!でも、βテスターを吊るし上げてどうするわけ!?人数減らしてボスを倒せると思ってんの!?ばっかじゃない!?しかも、β時代の攻略本、これβテスターだった人たちが書いたものだよ!?βテスターだった人たちだって人間、命がかかってる状況で他人を守っていられるぐらい強靭な精神力、もってるわけないじゃん!!どうなの!!??」
リナツの言葉は長々とまくし立てた後元凶の男の方に顔を向け指を指した。
男はリナツを睨めつけると立ち上がりどかどかと近寄った。
「だからなんや!!死んでいった連中はもう戻ってこないんや!!そんな兜かぶってなめとんのか!?面見せろや!!」
男はリナツの兜に手をかけ一気に引っ張った。
リナツは突然のことに反応できずなすがままに兜を剥ぎ取られた。
バッと髪が垂れ下がりその美しき顔がさらけだされた。
広場にいた、キリト以外の全員が息をのんだ。もちろん、兜が取られた事にも驚いたがそれよりも、兜の下の顔の美しさに息をのんだ。
もちろん、剥ぎ取った本人も驚いた。そして、後悔した。
リナツは兜を剥ぎ取られた事により完全に覚醒した。
「あんた、女性が身につけているものをいきなり剥ぎ取るなんて、言い度胸ね。」
冷酷な響きを帯びて発っせられたその声に男はひるんだ。
そして、リナツは腰に吊るしてあるクロムブレードに手をかけ、一気に引き抜いた。
「泣いて詫びなさい。」
冷く言い放ち、鬼のような表情でリナツは剣を肩に担ぐように構えた。クロムブレードに赤い光が燈り、次の瞬間には、男の体へと吸い込まれていった。
宿に戻った3人のうちリナツだけがニコニコと笑っていた。
あのあと、ボコボコにされた男、名はキバオウはリナツに土下座して謝罪した。
キバオウは後から来たので入るパーティーがなく、しょうがなくリナツ達のパーティーに入った。これにはアスナもキリトも顔をしかめた。
そのあとの作戦会議はリナツに怯えて特に揉め事もなくスムーズに進んでいった。
リナツ達のパーティーはボスを攻撃するアタッカーに選ばれた。それはリナツの鬼のこどし表情を見たディアベルの恐れからであったからかもしれない。
結果、ディアベル、リナツパーティーともう一つはボスのアタッカー、タンク(壁)パーティーが二つ、残り二つがボスの取り巻き殲滅となった。
「いやーそれにしても、キバオウのあの顔は最高だったね!ね、キリト!」
「え?あ、ああ、そうだな!」
あれ以来リナツがあんなに怖いと知り、キリトは若干怯えていた。
「さっ!ご飯ご飯!明日は遂にボス攻略だからしっかり食べとかないとね!」
アスナはリナツが女だったことが嬉しくてご飯の最中はずっと、リナツに話しかけていた。
キリトは楽しそうに話している二人を見てただただ黙って見ているのであった。
そして、翌日遂に第一層ボス討伐が開始された。それは、ほんとのソードアート・オンラインの幕開けへの第一歩だった。
簡潔にまとめすぎているところもあり申し訳ないです。
どうぞ、今後も読んでいただけるのなら、原作との違いをお楽しみください。