……と思っていたら見事な地雷を踏み抜いてくれたので、痛いシーンへ突入ですー。
「くだらない話はここまでにして、そろそろ尋問を始めましょうかー」
そう言った私は、懐からバタフライナイフを出してクルクル回しちゃいます。
気の弱い相手ならこれで大人しくなっちゃいますし、脅しにはもってこいなんですけど……、
「悪いけど、それについて私は何も喋らないわよ」
「やっぱりそうですよねぇ……」
抜け出すためとは言え、自殺を計った真似をした女性提督さんだと、これくらいでは生易しいですかー。
「だってそうじゃない。
もし私が彼女たちの名前を明かしたら、貴方は復讐をしようとするでしょう?」
「……はい?」
いったいこの人、なにを言っているんでしょうか……?
「私に惚れた娘たちは独占しようとするからね。
ましてや仕置人と呼ばれる貴方なら、名前を明かした途端に黒いノートに名前を書いて、全員を心臓麻痺なんかで殺しちゃうかもしれないわ」
「いやいや。
いくらなんでも、死に神からノートを受け取ってはいないんですけど……」
「あらそう?
それなら登場人物が悲惨になる漫画でも描くのかしら?」
「変装したお兄さんがボコられたからって、スケコマシな拳銃使いと一緒に戦おうとはしませんってば!」
ツッコミどころが満載過ぎて、つい大声を張り上げちゃいました。
ううむ、これはなんともやりにくいですねぇ……。
「それじゃあどうして、私の可愛い娘たちの名前を聞こうとするのかしら?」
「それはもちろん、お仕事の内容だからですよー」
「ふうん……。
つまりそれって、上は把握仕切れていないってことよね」
「……まぁ、そうなりますねぇ」
私の言葉を聞いて、女性提督は目をキラリと光らせました。
素直に答えちゃいましたけど、これは失言だったでしょうか。
「ふむ、そうね……」
すると今度は考え込むように視線を下ろしますが、両手は動かすことができないので首を傾げるしかありません。
いちいち動作が大袈裟なように思えてきますけど、そういった性格なのでしょう。
「それじゃあ1つ、取引をしないかしら」
「……自分の立場を分かった上での発言ですかー?」
「ええ。
こんな状況だから……よ」
「……なるほど」
コロコロと表情を変える女性提督さんですが、目の力が若干強くなっている気がします。
つまり、なにかを思いついた……ということでしょう。
「とりあえず、言ってみて下さい」
聞いてみてくだらなければ却下すれば良いですし、時間はたっぷりありますからね。
「簡単よ。
貴方が欲している情報をすべて話してあげるから、変わりに私の安全を確定させなさい」
「………………」
「貴方は私を尋問する手間が省ける。
私は身の安全を確保できる。
これでWinーWinでしょう?」
ニッコリと微笑む女性提督さんの言葉を聞き、私の胸にはイライラした黒い渦が沸き上ってきました。
「確かにそうかもしれませんが、どうしてなんでしょうか……?」
「どうしてって、それが1番だからに決まっているじゃない」
先ほどとは違って気の抜けた顔を浮かべながら頭を傾げた女性提督さんに、私は続けて口を開きます。
「それはつまり、貴方を慕う彼女たちを『売る』ってことですよね?」
「それになんの問題があるのかしら?」
「………………」
言い切りましたね……、この人。
「今ここで私が酷い目にあったら、彼女たちは悲しむわ。
名前を明かすだけで私が助かるのなら、彼女たちは喜ぶのは当たり前じゃない?」
「……その結果、彼女たちが苦しむかもしれないという考えは無いのでしょうか」
「そりゃあ、少しは心苦しいところが無い訳じゃないわ。
だけど私は今、目の前にいる貴方にぞっこんなの」
言って、口元を少し吊り上げながら笑みを浮かべ、パチリとウインクします。
正直に言って、虫酸が走る思いです。
結局のところ自分自身が1番である……と、言っているだけなんですよ。
そしてそのためなら、愛する……いえ、愛していた彼女たちを犠牲にして良いと思っているのですから。
ですが、今私がやらなければいけないのは尋問であり、仕置人として……、
「それに、多少の怪我くらいならバケツで直るから問題は……」
「…………黙りなさい」
聞きたくない……いや、聞いてはいけない言葉を聞き、私は無意識に手を動かしていました。
「……えっ?」
ドス……と鈍い音が聞こえ、いったいなんなのかと女性提督さんは私の手の先に視線を向けます。
そこは、自らの右手。
甲の上に、私のバタフライナイフがザックリと刺さっていました。
「ひ………………いぃぃぃぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
刃と肉の間からドクドクと赤い液体があふれ出し、みるみるうちに提督の標準である白い軍服の袖が染まります。
「痛い痛い痛い痛い痛いーーーーっ!」
「そりゃあそうですよー。
手の甲にグッサリ刺されば、痛くない方がおかしいですからー」
「な、なんでよぉっ!
どうしていきなりこんなことをするのぉぉぉぉぉっ!?」
「だって、尋問ですし」
「わ、私はさっき、取引を持ちかけ……ぎいぃぃぃっ!」
女性提督さんの言葉を遮るため、ぶっ刺したナイフをグリグリと回転させたところ、口から泡を吹き出しながら大きな悲鳴を上げまくりました。
「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「とりあえず、しばらく痛い思いをしてもらいましょうー」
「ぎいぃぃぃっ!
やめでよおぉぉぉぉぉーーーっ!」
「はいはーい。
聞く耳なんて、持ちませんよー」
人のトラウマをえぐった方に、遠慮なんて必要ありませんからねー。
言った本人には事故かもしれませんけど、ちょっとばかり大きな地雷を踏みぬいた挙句に誘爆しちゃったんですから、仕方ないですよー。
「はひ……っ、い……、ぃぃ……、いだ……ぃ、ひぃ……」
目からあふれ出した涙は服の襟をビショビショに濡らし、口の周りは泡だらけ。ちなみに右手の甲は元のように動かせる保障はまったくないレベルまでボロボロになっちゃっていますけど、バケツをぶっかければ直るんですから大丈夫でしょう。
あぁ、そうでした。女性提督さんは艦娘じゃないですから、それじゃあ直らないかもしれませんねー。残念残念。
「どぅ……してよ……ぉ……。
私が……な……にを……したって……いうのよ……」
「罪状はさっき説明したはずですがー」
「なんで……なの……ぉ」
私の声が聞こえていないのか、女性提督さんの口からはブツブツと小さい声が漏れ出しているだけでした。
どうやら痛みで心がポッキリと折れているみたいですが、まだ尋問は終わっていないんですよねー。
「さてさて、それじゃあ本格的にやりましょうかー」
「……ぇ……?」
ピクリと肩を震わせた女性提督さんは、ゆっくりと私の方へ視線を動かします。どうやら顔を動かす気力も無いようですが、地獄に足を突っ込んだ状態からはまだ程遠いんですけど。
「んー……、どれにしようかなー」
憲兵=サンから用意された道具が入ったかカバンに手を突っ込み、どれを使用するか考えます。
五寸釘はナイフと被っちゃいますし、痛めつけた後なので効果は薄そうです。ペンチで歯を抜いて神経を取り出し、グリグリとするのも楽しいですが、これも似たようなモノですからねぇ……。
「あれあれ、こんなモノが入っていましたー」
「……ひっ!?」
カバンから勢い良く出した手に持ったソレに、女性提督さんが目を見開きながら小さな悲鳴を上げます。
「こんな便利なモノがあるなら、どうして使わなかったんでしょうかねぇー」
頭を傾げる私に、女性提督さんは全身をガタガタと震わせます。
私の手に握られたモノ――それは、ごくごく一般の注射器であり、中に透明な液体が入っています。
この流れを聞けば、すぐに浮かんでくるでしょう。もちろんこの液体は自白剤で、尋問を円滑に進めることができる代物ですよねー。
それがカバンの中に3本。どうして私を呼ぶ前に使わなかったのかサッパリ分かりませんが、もしかして自らの手を汚したくなかっただけなんじゃないでしょうか。
そんな根性だから大した尋問もできないんです……と言いたいところですが、一応手を付けた人数が36と分かっているだけマシなんですかねー。
針先のキャップを取り外した私は、プランジャー(薬剤を押し出すための部分)をゆっくりと引き、ギリギリのところで止めます。そして今度は引いたよりも多めに押し込み、針先からピュ、ピュッと薬剤を吹き出させました。
「や、やめ……、やめ……てぇっ!」
「あれれ、どうしてですかー?」
「そ、そんなのを、つ、使わなくても……、しゃ、喋るから……っ!」
怯えきった目を浮かべ、懇願するように何度も頭を下げる女性提督さんですが、どうやら勘違いをなさっているようです。
なので、私はそれをハッキリとさせるために、プランジャーを勢いよく引き抜きました。
「………………え?」
なにが起きたのか分からないという風に固まる女性提督さんですが、私は続けて残り2本の注射器から薬剤を抜きました。
ベシャベシャと自白剤の液は床にこぼれ落ち、3本の注射器が空になります。
「たす……かった……の……?」
勝手に理解した女性提督さんは顔を俯かせ、大きな息を吐きました。
「なにを勘違いしているんでしょうかねー」
「………………っ!?」
「私がやったのはこの注射器を使うために、自白剤を捨てただけですよー?」
「そ、それって……どう……いうい……み……」
シャッキーン。
右手に3本、注射器を指に挟んで持っていまーす。
「ひ、ひ、ひぃ……っ!」
ちなみにプランジャーは刺しておらず、針の付いた筒だけの状態です。
これだと普通は注射器として使用することは難しいですが、実はこういった使い方がありましてですねー。
「はいはーい。
それではまず、綺麗な方の左手に……っと」
プスッ。
「痛ぅ――っ!」
ナイフと比べたら痛みは少ないと思うんですが、すでに心がポッキリなので耐久度が駄々下がりしちゃっているんでしょう。
「どうですかー?」
「い、痛い、痛いから抜いてよぉっ!」
「それじゃあ尋問の意味がなくなっちゃうじゃないですかー」
「だ、だから喋るって……」
「嘘をつかれるのは嫌ですから、心身ともにズタボロになってもらわないとー」
「う、嘘なんて、つ、つかないから……っ!」
「はいはい。
2本目をどうぞー」
「あうっ!」
今度は左腕の三角筋――つまり肩あたりに、ブッスリといっちゃいます。
「ひぃぃぃ……」
涙をボロボロと流し続ける女性提督さんが悲鳴を上げますが、ここで駄目押しですねー。
「さて、ここで質問ターイム」
「……っ!
こ、答えるから……っ、嘘はつかないからっ!」
「今、刺した注射器にはプランジャーが抜かれていまーす」
「……ぇ?」
「その状態で針が刺さっていたら、どうなるでしょうかー」
「………………、……ひぃ!」
その答えを目にした女性提督さんは唇をブルブルと震わせ、全身が大きく揺らぎ始めました。
「あ、あ、ぁあ、あっ、あああっ!」
針を伝って注射器の中に血液が溜まり、プランジャーが無いことで反対側からボタボタと流れ落ちていくのが見えます。
右手をナイフで刺しまくり、更に注射器で血液を抜く。
ただでさえ流血しまくっている状態でこれだと、あとどれくらいもつんでしょうかー。
「だ、だめ、だめぇ、らめぇぇぇ――っ!」
「あははははー。
なんだかちょっぴり、エロいですよー?
この調子だったら、次は『んほおおおっ!』とでも叫ぶんでしょうかー」
「ゆ、許して!
お願い、お願いしますっ!
嘘なんてつかないから、早くこの注射器を……」
「はいはーい。
追加したら良いんですねー?」
プスッ!
「ひいぃぃぃぃぃっ!」
最後の1本を勢いよく首に刺した途端、ビューッ! と血液があふれ出しました。
「ぁうあぅぁぅあぅうぅぅぁああああっーーー!?」
目をグルグルと忙しなく動かし、故障したラジカセのような声を上げた女性提督さんは、
「……っ、………………っ!」
ビクンッ! と大きく身体を震わせた後、だらしなく顔を落としました。
「………………ぁ」
うっすらと目を開け、小刻みに震える唇から声が漏れました。
「ここ……は……?」
力なく顔を上げた女性提督さんが、ゆっくりと辺りを見渡します。
「ひ……っ!」
そして私の姿を見つけた途端、またしても悲鳴を上げました。
まぁ、その気持ちは分からなくもないですけど、まだまだ終わりじゃないですよー?
「遅いお目覚めですねー。
待ちすぎてくたびれちゃったじゃないですかー」
「ひ……い、ぃぃぃっ!」
「せっかく輸血をしてあげたんですから、もうひと踏ん張りしないとですねー」
「や、やめ……、やめて……」
「大丈夫大丈夫。
何度も治療して、いっぱい出しから入れ直してあげますからー」
「お、お願い……、やだぁ……よぉ……」
「修理と補給は大切ですからねー。
あははははははー」
「もぅ……殺して……よぉぉぉーーーっ!」
……とまぁ、こんな感じで尋問しちゃいましたっ(てへっ)。
おかげで女性提督さんは聞きもしない情報をペラペラ喋ってくれましたし、お仕事は完了――と言いたいところなんですが、
やっぱり、本人にちゃんと確認しないといけませんよねー。
女性提督に色々とされちゃったケアも必要ですし、これぞ役得というものです!
憲兵=サンには事実確認のためということで、少し待ってもらえば良いでしょう。
それじゃあ今回はこの辺で。
機会があったらまた会いましょうー。
さようならー。
これにて女性提督がお相手ですはおしまいですー。
久しぶり過ぎる更新でしたが、あまりに開きすぎてキャラ崩壊していないかちょっと不安……(ぇ
機会があれば続きも書けるかな……どうかな……。
艦娘幼稚園も休憩中ですから……ね。
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