焼け焦げた匂いと黒すすだらけになった部屋で僕は盗賊の鍵を探していた。
もうね。さっきから手が真っ黒。鍵も一緒に燃えちゃったんじゃないのかなってくらい何も残ってない。
しかしすごい魔法だった。一瞬のうちに部屋全体が火の海。
石塔じゃなければ今頃崩れ去っててもおかしくなかった。
この魔法使いの子威張ることだけはある。
今も腕組みながら「まだ見つからないの!?」とか言ってる。
そういやこの子名前なんて言ったっけ。
……確か酒場でちょろっと誰かが名前言ってた気がするけど。
「アメリア?」
「何? その疑問形。 スライム倒せたのは私のおかげなんだから。それでも私のせいにしたいのかしら?」
おお。この子の名前はアメリアなようだ。ツンデレ・アメリア。
「いや。違うよ。全然違うよ」
「だったら何? だいたいなんなのその鍵。その鍵で何開けるのよ?」
「いや。僕もよくわからないんだ」
「あんたバカ?」
ツリ目ながらにジト目が怖い。マゴットちゃんとは正反対だ。
つかそんなバカじゃないぞ。僕がここへ来た理由はただ強い化け物と戦ってみたかったんだ。
弱いくせに。とか言われるのがオチなので言わない。
「あの…」と、マゴットちゃんが代わりに説明してくれた。
盗賊の鍵を使って手に入る魔法の玉という代物は、別の大陸へと繋がる道を塞ぐ壁を破壊するための物だそうだ。
「……わかったわ。それじゃレーべの村へ行きましょ」
「え? いや、鍵見つけないとだろ」
「いいわよもう。ない物は無いの。燃えた物は燃えた。ほらさっさと戻るわよ。夜になっちゃうじゃない」
塔の最上階から外を眺めつつアメリアは日没の心配をしていた。
いや、鍵の心配をしてくれ。
鍵なくちゃどうもならんだろ。
そう言うと僕の方を振り向き、まだ分からないの困った勇者ちゃんね、という表情を見せた。
「どうにでもなるのよ。魔法で。」
なんでもありなようだ。前に言っていた玉抜きの魔法も本当にあるのか。とビクビクしながらレーべの村に戻った。
「……ふーん。そうね。この程度ならすぐに開けられるかも」
村に戻った僕らは、まだ陽も落ちていなかったので魔法の玉が保管されている建物へとやってきた。
アメリアは鍵のかけられた扉の鍵穴を眺めながらに明日には開けられると言った。
「明日?」
「そうよ。だってそんな泥棒みたいな呪文なんて覚えてないもの」
「え?まさかこれから覚えるのか!? 一日で!?」
僕が驚いた表情を見せるとアメリアは、「ふふん」と偉そうに胸を張った。
こいつよく胸を張るな。ないくせに。
「余裕に決まってるわ。私のこと誰だと思ってんの?」
いや誰だよ。
確か国王の次に偉い家だっけ。
まぁ良いところ出の容姿はしているか。
魔法使いの格好である身につけている黒の帽子や外套も高級そうだ。
態度もデカイし。
「今から宿を借りるわ。これ読まないとだから」
そう言いながら腰のポーチから分厚い魔法書だか魔導書を取り出した。
読めば呪文を覚えられるのか? と思い見せてもらう。
「……ほほう」
蟻みたいに小さい文字が埋め尽くされている。何語かわからない。
「読みたかったら後で貸してあげるわ」
「うむ……」
本を返し、宿屋へ向かう。
途中マゴットちゃんが小声で話しかけてきた。
「勇者様勇者様」
「どうしたの?」
マゴットちゃんの柔らかい声に僕は落ち着く。
アメリアのキンキン声は疲れるようだ。
「アメリアさんって本当に凄い人ですよ」
「ん?ああ偉い家系なんだよね」
「え?あ、いやそのことじゃなくて、アバカムですよアバカム!」
おっとりマゴットちゃんが珍しく少し興奮していた。
「アバカム?」
「さきほど覚えるって言ってました呪文ですよ! 普通じゃ一日なんかじゃ覚えることなんか絶対出来ませんから」
「そうなの? でも簡単な鍵穴って言ってたから?」
「いくらなんでも無理です。アバカムは上級呪文に分類される程難しい呪文なんです。それが私と同じくらいの年頃なのにたったの一晩で覚えられるなんて……」
どうやら、アメリアは天才的な魔法使いのようだ。
「それに比べ私なんて…」
今度は落ち込み始めた。 こんな差を見せつけられたらそりゃ凹んじゃうかなぁ。
「マゴットちゃんもあの本読んでるの?」
「いえ。私はもっと初歩の簡単な書です。あれは私にはまだ理解出来ません…」
一応呪文扱えるマゴットちゃんでも理解不能なのか。
どんだけ化け物なんだよあいつ。
「そうだマゴットちゃん。今晩呪文のこと教えてよ。僕も使えるようになりたいんだけど、ダメかな」
「え!? でもそれならアメリアさんの方が…。私なんてホイミしか出来ないですよ?」
マゴットちゃんがぶんぶんと手を振って無理ですと言う。
「呪文覚えてる真っ最中に邪魔できないし、教わるにしても怖いからスパルタだろうし耐えられないと思う。下手すりゃ殺されるよ」
「さすがに殺されは……でも、わかりました。勇者様がそうおっしゃるなら、私も上達出来るように一緒に頑張りましょう!」
最初から呪文を覚えていなくて本当に良かったと思った。