小島に浮かび立つ様に建てられたナジミの塔へは地底の洞窟を通って行かなければならなかった。
地底と言うか海底だ。
僕らの今歩いている真っ暗闇な地下通路の上は海というわけだ。
片手に松明を灯し、もう片手は暗闇の恐怖におののくマゴットちゃんの手を握りしめ…たかったのだが
残念ながら突然のモンスターの出現に備えて銅の剣を握りしめたまま進まなければならなかった。
それにマゴットちゃんの手にも棍棒と皮の盾が握られていてマゴットちゃんの手を引きたくても引けないのだ。
盾なんか買わなきゃよかったかな。
「すみません勇者様。魔法使いの人なら暗闇を明るく照らす呪文があるのですが……」
「そんなのあるんだ。でも松明でじゅうぶんだよ。余裕余裕」
照明の呪文か。あの魔法使いの子なら使えたのかな。
まぁいい。僕はマゴットちゃんを選んだのだ。
これはマゴットルートだ。ハーレムルートなんて必要ない。
やがて、光が差し込む石壁のフロアへとたどり着いた。
どうやらナジミの塔に到着したようだ。
狭っ苦しくて真っ暗な地下洞窟と違って、視界の効くフロアは実に楽だった。
曲がり角から急に、一角ウサギが突進してこようが予想の範疇。
松明から持ち替えていた皮の盾でツノをさばいて銅の剣を叩き込む。
勇者の身体能力に慣れてきたのかそれとも少しづつ自分がレベルアップしているのか昨日より体が良く動く。
サクサク進んだ。
怪物?出るなら出てこい。サクサクたおしてやる。そんな気分だった。
「ん?なんだこの部屋?ベッド?」
狭い部屋。階層からして間違いなく最上階。
床には絨毯が敷かれ、本棚があり人が休むためのベッドがあり明らかにここで誰かが生活していたと思われる部屋だった。
だがどれもボロボロ。朽ち果てている。人が生活していたのはもう何年も前のことのようだ。
この部屋のどこかに盗賊の鍵が埋れているのか?
「勇者様っ。アレ」
マゴットちゃんが指を差す。
そこにいたのは、スライムだった。スライム一匹。
いつもと変わらぬアホづらな笑みを浮かべてこちらをじっと見ていた。
「なんだスライムか。この最上階で暮らしてんのかな?いいご身分なことで」
スライムなんてもう何十匹も倒した。
見ても何も感じない。
例えるなら「あ、野良猫がいる。またにゃー」そんなもんだ。
「盗賊の鍵見つけたら帰るからいい子にしててな」
「もう勇者様ったら。怪物があのスライムだったらどうするんですか?」
なんて、冗談交じりにマゴットちゃんが言ったんだろう。
「ははは。まさか」
そのまさかだった。
さっきまで絨毯の隅っこの方で僕らをただ見つめていたと思ったらなんの動作もなく消えた。
次の瞬間、僕の眼前に青い物体が現れる。
衝撃。
避ける暇などなく僕は頭から吹き飛ばされる。
一回転。
続く衝撃。
今度は体全面。勢いのまま壁に打ち付けられたようだ。
「勇者様!!」
マゴットちゃんの叫び声に反応し僕は全身に駆け巡った痛みをこらえすぐに体を起き上がらせる。
戦う姿勢を取らなければ。早く身構える体勢を取らなければ。
僕はスライムに殺される。