陽が西へと落ちていく。
大草原を焼け色に染め、次第に暗くなって行く。
この世界も僕のいた地球と同じように太陽は沈み、夜が来るようだ。
星だ。星が輝き始めた。
もしかしたらこの瞬く星のどれかが地球なのだろうか。
地球に帰れたら皆にどう説明したら信じてもらえるだろうか。
難しいよなぁ。
完全な闇に包まれる少し前、僕とマゴットちゃんはようやくレーべの村にたどり着いた。
「おい!? アレ勇者じゃないのか!?」
「絶対そうだ勇者だ!!ついに勇者が来たぞお!!」
「心配しておりましたぞ勇者殿!」
「どれ顔を見せろ!おおお! オルテガ殿にそっくりだ!」
「隣の可愛い子は誰だ!? 彼女さんか! 畜生! 勇者なんか死ねばいいのに!」
小さな村だった。
総出で出迎えてくれた住人達。
どうやらアリアハンから勇者が旅立つ情報が伝えられていたようだ。
「夕食がまだでしょう? ささこちらへ」
宿屋の中に案内される。
夕食の席につき、住人も交えて晩餐が始まった。
なんとシチューだ。牛だ。おもてなしだ。勇者はこの村でも相当期待されているようだ。
「ここまでは順調に来れましたかな勇者どの」
「ん。」もぐもぐ。
「そうですか。では来る途中ナジミの塔には登られましたかな」
「ん。」もぐもぐ。
「そうですか! では盗賊の鍵は手に入れられたのですね?」
「ん。」もぐもぐ。
シチューに夢中の僕に代わって「いえ。まだです。塔もまだです。」と、マゴットちゃんが答えた。
「魔法の玉をお渡ししたいのですが、その部屋は鍵がかけられていまして……」
「その鍵がナジミの塔にあるのですね?」
「はい。何せ魔法の玉はとても危険な代物。保管はこの村でいたしておりますが勝手に持ち出されぬよう
鍵はナジミの塔最上階に納めてありますのです」
「わかりました。勇者様。どうしましょうか」
「ん。」むぐむぐ。
「もう。勇者様ってばぁ。」
並んで座っている僕の腕を捕まえてマゴットちゃんは、ねえねえと揺さぶってきたので流石にスプーンを止めた。
初めてマゴットちゃんに触れられちょっとドキドキ。
「…あっ…」
それに気づいて小さい声を漏らしてパッと手を離したマゴットちゃんも顔を赤らめてしまった。
「じゃあ明日の朝から行こう」
「は、はい勇者様っ」
よく話を聞いていなかったがナジミの塔から盗賊の鍵を取ってくればいいんだな。
「ですが気をつけてくだされ。最近あの塔に強い怪物が住み始めたらしいのです。 好奇心で登った冒険者が何人も犠牲になっていますのです」
「怪物!? 怪物がいんの!?」
「姿はわかりませんが、何せ討伐を試みても皆やられてしまったので……。ですが勇者殿ならっ!」
勇者って言われても今日勇者になったばっかなんだけどな。
返答を迷っていると熱い視線が注がれているのに気がついた。その視線はマゴットちゃんのものだ。
「頑張りましょうね勇者様!! 」
否が応にも怪物討伐のサブクエストも引き受け、少しの不安を抱きながらも僕らは明朝出発した。