勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

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新4話。勇者

「お前はまずこの世界で長く生き延びろ」

 

とアリアハンの王は言っていた。

 

「慣れろ。慣れて、馴れろ。お前には特別な力が与えられている」

 

「特別な力?」

 

「この世界をぶち壊す力」

 

「壊しちゃまずいだろう」

 

「それくらいの力が備わると言う意味だ。本気で破滅させたら、俺が貴様をぶち殺す」

 

どれだけ王は強いんだよ。と思った。

 

「だったらあなたが世界を救ったらいい」

 

「残念ながら、俺に出来ることは限られている。知ってるだろ」

 

「知ってるわけがない」

 

「じゃあ、悟れ。お前が死んだ分だけ世界は狂う。俺はその調整係だ。王様は忙しいのだ。悟れ、そして下がれ」

 

 

王様とのほとんど解読不能なやりとりをどうにか記憶の片隅にぶち込みながら僕は最初の街、アリアハンを出ることにした。

 

アリアハンは他の国、まあロマリア地方しか知らないのだが、その国と比べて全くと言っていいほどに魔の手が及んで居ない良い街だった。

 

平和な顔をした人々が平和そうに暮らしていた。

 

ここでのんびりと暮らしてしまえばいいと思ったけど、マゴットちゃんは言った。

 

「家族が、殺されました」

 

そうだった。そんなに、平和では無い。

 

「あなたが勇者? 期待なんかしてないけど、あなたが居れば便利にことは運ぶから。せいぜい遅れない様に着いて来ることね」

 

とアメリアは言った。

 

パーティは、僧侶マゴットと魔法使いのアメリア。

 

僧侶のマゴットちゃんはホイミを、ほぼ完全に習得していた。

 

「どうやって覚えた?」

 

「頑張って、覚えました」

 

「いつ?」

 

「最近……だったと思います」

 

最近で、記憶が曖昧だった。

 

「他の呪文は?」

 

「まだ……です。でも、これから頑張って、覚えて……勇者様のお役に」

 

「うむ」と僕は偉そうに答える。

 

「ツンデレツインテールはどうなのだ?」と僕はツンデレツインテールに向かってそう聞いた。

 

「次にもう一回その言葉を口にしたらそうね、二度と口に出来ない様に灰にしてあげるわ。灰にして、廃にする」

 

と僕を脅かした。

 

似ている。さすが王族の血を引いているな、と思った。

 

「私に、唱えられない呪文なんてないわ。まだ、必要が無いから覚えていないだけ」

 

と金髪のご自慢のツインテールを右手で払い上げ彼女はそう豪語した。豪気なやつだ、と思った。

 

「この地域はメラ、ギラで十分でしょ。暇だったから一応ベギラマも覚えたけど」

 

「なるほど」と僕は言う。

 

「でも熱いから嫌。冷たいのはもっと嫌だけど、熱いのは嫌。汗かいちゃうから嫌。出来るだけ使いたくないから、あなた頑張りなさいよ」

 

とワガママ属性を発揮していた。

 

「僕にはまだ魔法が使えない」

 

「呆れた。とんだ勇者ね。呆れて飽きれるわ」

 

「一言、いや二言くらい煩いな」

 

「本当に勇者なの?」

 

「本当に勇者だ」

 

でなくては困る。

 

「大丈夫です勇者様、私と……、私が勇者様が魔法を唱えらるように一緒にお手伝いします」

 

とマゴットちゃんは優しい人属性を発揮していた。

 

「ありがとう」

 

でも前回は全く覚えられなかった。

 

王が言っていた言葉を嫌々思い出した。

 

「それはお前の世界の物差しで物事を測っているからだ。違うか?」

 

「その通りだ」と僕は言う。

 

「何がその通りなのよ?」とアメリアが言った。

 

「僕は、勇者だということ」と繰り返した。

 

 

気持ちの切り替えは、そうそうに行われた。

 

そして僕の中で、この世界を心から楽しんでみようという気持ちが生まれた。

 

この世界には、この世界のルールがあるのだ。

 

ルールと言うと縛りがあるように見える。

 

でも違うんだ。僕はそれを知らなかったから死んだ。

 

カンダタに、殺された。

 

ルールは僕を変えてくれる道標になるかもしれない。

 

前の世界のルールを捨てる。

 

忘れる。置き去りにする。

 

新しく、物事を生まれさせて、僕は銅の剣を手にして、前に、いや前ではなくて新しいところへ進むことにした。

 

それは難しいことではなかった。

 

ゲームのキャラクターやスーパーマンを思い浮かべればいい。

 

彼らは重力を無視して二段ジャンプやら、それどころか空まで飛んでしまうのだ。

 

敵を殴れば遙か彼方まで吹き飛ばしてしまうし、どれだけ骨を折られようが口から内臓破裂による吐血をしようが、彼らは立ち上がるのだ。

 

それに気が付いた時には、イメージは既に自分の物になっていた。

 

ナジミの塔、最上階にそいつは現れたがもう立ち止まるほどの問題ではなくなっていた。

 

強スライム。

 

身を強固にするスカラ系の呪文と相手の守備力を奪うルカニ系の呪文をやはり唱えてきた。

 

「一丁前だな。スライムのくせに」

 

と僕は言った。

 

確かに見た目はスライムそのものだが、格段に漂う強さを測る気配はスライムの百倍はあった。

 

だが百倍。その程度。

 

「所詮スライムだな。諦めろ。僕は勇者だ」

 

その一言で僕は自らに暗示をかけるようにしてから、銅の剣を抜く。

 

抜き去る。置き去りにする。

 

スライムどころか背後の壁に切り穴を付けた。

 

僕はこの世界で生きていける。

 

そう思った。

 




狂い始めた世界。

作者は抗い、完結を、目指します。

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