「そこに座れ」と王は言った。
アリアハン王。
髪は白。髭も白。蓄えた口髭を弄りながら玉座に肘を着いて、まるでゴミ箱を漁る老人を見つけたみたいに僕を見ていた。
「お前は死んだ」と言った。
「僕は死んだ」
「なぜ死んだ」
「カンダタに殺された」
ふん、と王は一つ鼻で笑った。
つまらなそうに指弄りをしてから僕を軽く一瞥した後に、さらにあくびを加えた。
王服を王は着崩し、着慣れた感じで僕を侮蔑する。
「お前は一度目、挨拶にも来なかった」
「なぜ知っている?」
「聞いているのは俺だ。俺の質問に答えろ」と王は言った。それから「カスの分際で」と付け加えた。
端から端まで全力疾走で16秒、いや今の僕なら12秒くらいかかりそうな空間で「カス」と言う言葉は偉く響いた。
「なぜ、一度目、挨拶に来なかった?」
「別に」と僕は言う。「重要なことではないと思ったから」
「カスの分際でか?」と王は言った。
「そうです」
「カスならば仕方あるまい」と王は頷く。うむ。と深く頷く。
「まあいい。これで分かったと思うが貴様が生き返ったのは俺のおかげと言うわけだ」
「感謝してます」と僕は言った。
感謝している? 誰が? 僕が?
「次に死んでみろ。俺がお前を殺すぞ」と王は言った。
「でも生き返らせてくれるんですよね」
「そうだな。生き返らせて、殺す」と王は頷く。深く、頷く。
「なぜ時間が遡っているんです?」
「はあ?」
「さきほど、僕はルイーダの酒場へ行き、また一から仲間と出会うことになりました」と説明する。
一度目と同じ、出会いかた。
「気にすることではない」
「気にします」
「俺は気にしないぞ」と王は言う。それから
「朝起きたら、昨日と同じ日だった、なんてことはよくあることだ。カスには難しいか?」と言った。
「非現実的過ぎます」
「それはお前の世界の物差しで物事を測っているからだ。違うか?」
「……」
「お前の世界で魔法はないだろう?」
王は肘を着いていた顔をどけて、空けた手のひらから火を放った。
宙に燃え上がった後に、消えた。
「行ってこい。カスにしか出来ないことがある」
「そんなこと言われて世界を救いに行くと思いますか?」
「好きなようにしろ。なにもお前だけが世界を変えようとしているわけではない」
「他に誰が?」
「貴様のようなカスに言う必要など全くもって有りはしない。カスならカスらしく、生きろ。もがけ。話はそれからだ」
と王は言った。
「なるほど」と僕は頷く。
「カスの分際で」と王は言った。
「ああ。後な。貴様が生き返ったことと、俺の存在。それだけは他言はするな」
「なぜです」
「ちっとは自分で考えろカスが」
王の口癖は僕を萎縮させるには十分な言葉だった。