勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

20 / 25
随分と時が経ってしまいました。

あの頃の「僕」ではなくなってしまいました。

崩壊しています。あったもんじゃありません。

それでもよかったら。


再開
新1話。


カンダタは僕の想像よりもなんというか、話の分かる奴だった。

 

現れたと思ったら左手に既に金の冠を持っていてすぐに、問答も何も無く間も無くこちらに返してくれた。

 

右手には斧、人を斬り殺すのに丁度良さそうな片手斧を持っていたが振り回すことなく、それを地に下ろした。

 

かと言って降伏した様子でもなく、普通だった。

 

よう、どうした?

 

そんな具合だ。

 

「朝ご飯は何がある?」

 

と部下に聞いていた。

 

「サンドイッチがありやす」と部下が用意よく差し出す。

 

カンダタは常人の倍以上ある手でサンドイッチを3つ程わし掴みにし、それを口に入れた。

 

どうやら寝起きらしかった。

 

「フォウが作ったんだよ」と嬉しそうに武道家少女フォウが可愛げのある声で可愛らしく話す。

 

「そうか。うまいぞ」とカンダタは言った。

 

「チーズもあるよ! フォウの村で作ったチーズ!美味しいよ!」

 

子供みたいに、はしゃいでいる。

 

と言うか子供だった。僕より幾つか若いと思う。

 

おいてけぼり。

 

僕らはおいてけぼりをくった。

 

これから死の戦場になると思っていたものが、日常と化していた。

 

しかし「このまま貴様らを返す気は無いけどな」とカンダタは言った。

 

さらに「一人残らず殺す」そう言った。

 

サンドイッチをムシャラムシャラと頬張りながら。

 

「だけどまあ、待て。待てよ。お前らが俺様の首を取りたがっているのはよく分かる。だが、待て」

 

とカンダタは遠巻きにしている50人の討伐隊に向かってそう言った。

 

「飯は大事なんだよ。俺様の体を見ろ。お前らの5倍はあるぞ」

 

とカンダタは上半身裸の身体を見せつけている。

 

どう、考えても5倍は誇張しすぎだが4倍はあると思った。

 

4.35倍はあるぞ。と僕は目算する。

 

隆起した筋肉は病気みたいに膨れていた。

 

「この身体を保つために俺様は1日6食、キロにして30。体に取り込まねばならない。分かるだろう?」

 

「うむ」と我らが兵士長ライアスがうなずく。

 

ライアスもカンダタの半分くらいの厚さの身体だったがそれでも維持をするのに同じ様な苦労をしているらしかった。

 

「すごいな……」と僕の隣にいる戦士ポポタがつぶやく。

 

ポポタは痩躯だった。

 

食に関してさほど気にしていないらしかった。

 

痩躯でも無駄な贅肉は一切身につけておらず彼の身体も筋肉のみで出来ているらしかった。

 

それに対して僕には少なからず贅肉があった。

 

別にたるんでいないしどちらかと言うと痩せだ。

 

程よくレベルアップし、筋力も敏捷も結構乗ってきている、と自負している。

 

さまよう鎧ならサシで勝てる。

 

そんな能力。

 

見たとこ一人じゃカンダタには勝てない。

 

でも僧侶のアイドル、マゴットちゃんがいるし、魔法使いのツンデレツインテールのアメリアがいる。

 

ツンデレツインテール。響きがいい。

 

だから僕は勝てると思っていた。

 

何より50人にもなる有象無象の戦士がいたし時期ロマリア国王候補のライアスがいれば百人力になる。

 

この場合、五十人力なのだけど僕は百人力だと思った。

 

「ダメね……」とアメリアがつぶやく。

 

「え?」と僕の中でスイッチが切り替わる。

 

「勝てる気がしない」とアメリアが小さく僕に囁いた。

 

「マジで?」

 

僕は驚く。

 

それまで楽観的にこの状況を分析して高みの見物的気分だったのに、アメリアは、真面目な顔をして

 

「状況を見て、逃げた方がいい」

 

そう言った。

 

「5対50でも?」

 

「数が問題じゃない、問題なのは迂闊。」

 

アメリアが低めのトーンで話す様子にマゴットちゃんが僕の背中の服をぎゅっと握ってきた。

 

ドキドキ。

 

「それじゃあ、そろそろやるか?」

 

カンダタが斧を手に取った。

 

雰囲気が変わる。

 

それまで子供の様に無邪気な笑顔を見せていた武道家少女フォウが真剣な顔付きになる。

 

周りの賊も、ただの賊でないことは瞬時に伝わってきた。

 

「今日と言う日は何度夢に出てきたことか」

 

とカンダタは言った。

 

「今日は、負けねぇぜ」

 

とカンダタは続ける。

 

今日?

 

何を言っているんだろうか、と思った。

 

「悪いが、俺達をあの時と一緒だと思わないことだな」

 

「覆してやるぜ! この作られた世界! やれ野郎共!」

 

カンダタが叫ぶと同時。

 

手下の賊3人が一斉に呪文を放つ。

 

「ピオリム!」

 

「スクルト!」

 

「バイキルト!」

 

弾かれたようにフォウとカンダタが飛び出す。

 

50人が50人、数も合い待ってコンマ数秒レベルで対応が遅れていた様に見えた。

 

ゴミの様にフォウの回し蹴りで蹴散らされる雑兵。

 

ライアスもしかり。

 

カンダタが振り投げた斧が、空気を高音を立てて裂きライアスの鋼鉄製の盾と鎧を一撃で粉砕する。

 

カンダタの、豪腕。

 

僕が見たのはそれまで。

 

僕の横で声が聞こえる。

 

「一目でわかった。貴様が勇者だな」

 

カンダタが僕を見下ろしていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。