勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

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1話。

街の城壁を抜けるとそこにあるのは、ただただ広い草原だった。

いつまでも同んなじ景色だ。

どこの田舎だ。大自然すぎるだろ。

 

そんな中を僕は歩きながら、かたや優雅に馬に乗っておられるお嬢様が一人。

「おい。自分ばっかなんで馬に乗ってるんだよ。僕も乗せろ。」

「いやよ。平民なんか一緒に乗せたら私の品位が落ちちゃうじゃない」

「僕は勇者だ。いずれ世界が敬うことになるんだぞ」

そりゃもう世界救っちゃったらアレだ。ハーレム作るよ。

「今はただの平民よ」

「今に見てろ」

「なによ。足腰鍛えられていいでしょう。それにあんた馬に乗れるの?」

「乗ったことはない」

「ほらね。やっぱり平民は徒歩がお似合いよね」

現代っ子に歩き続けることは無理に等しいのですよ。

まあそんなんで勇者やるってんだから笑わせる。

しかし、みんながみんな僕を勇者として疑わないわけだが

僕がここで目を覚ますまで勇者やっていた奴はどこへ消えたんだ。

 

「以前の勇者の名前もナオヒコのようだが?顔も同んなじなのか?」

「? 意味わかんないこと言わないで」

「僕と君との付き合いはどのくらいになる?」

「はあ?」

「僕は一般人のナオヒコであって勇者ナオヒコではない」

「それはわかる」

「いいや、わかっていない。その勇者ナオヒコとは同一人物ではないと言ってるんだ」

「あんたぶたれたいの?蹴るわよ。パトリ。」

ヒヒーン。馬が僕の方に近寄って来る。やめろ。馬に蹴られたら死ぬだろ。 この白馬はパトリというそうだ。

少女より先に馬の名前を知ってしまった。

 

「僕は君の名前も知らないし、この国の名前も知らない。名前どころか何もかも知らないんだよ。」

「私のことからかってるの?」

「本気で言ってる。」

「はあ。どうしてこんなわけわからない奴と旅に出ることになったのかしら」

少女は眉間にシワが寄っていてつり上がった目がより強い力を放っていた。

正直怖い。けど美人なんだろう。そんな表情で顔を崩しても不細工にはならない。僕は美人はあまり好きではない。可愛い子は好きだが。

 

「君は僕のこと…勇者ナオヒコのことは知らないのか」

「…名前は知ってたわよ。そりゃこの国で一応勇者として認められたわけだし?会ったのは半年前。一緒に旅にでることが決まった時にあなたが挨拶にきたわ」

「それだけか?」

「そうね。その時のあなたはもっと礼儀は知っている風だったけど、まさか別人っていうの?」

うなづく。

「入れ替わっちゃったんだろうか。今日起きたら勇者の家だった。そこの母親らしき人は僕を息子と疑わないし」

「容姿一緒だし。」

「僕は別の世界の人間だ。」

 

信じられないという風に少女は僕を見た。

僕は僕の育ってきた世界のことを話す。とりあえずこの世界にはないIT関連を語った。

少女は僕を疑ってはいたが話は聞いてくれた。案外いい子なのかもしれない。

「今の話を信じるにしてもね。だったらなんであんたは冒険に出ちゃってるのよ」

「だって出たかったんだもんよ。男のロマンみたいなもんだよ」

「ナニソレイミワカンナイ」

「恥ずかしいからわかんなくていいよ。」

 

問題なのは戦える人間なのか戦えない人間なのかということだ。

もし後者なら、ほんとね。なにしに来たんだろうってなる。

だから戦えるはず。やってやるです。

 

「私帰るわ。」

「いや、おいまてよ。」

「待たない。あんたじゃ魔王を倒せるわけないでしょ。勇者じゃないんだから。私死んじゃうもん」

「やってみなきゃわからんだろう!」

「さっき私の膝蹴り一発でのされたの誰かしら。それもか弱い魔法使いの一撃で。これは揺るぎ用のない事実。さよなら 」

 

彼女は去って行った。

名前も知らず。

この世界のことも知らず。

何もかも知らない僕を残して。

やっぱりいい子なんかじゃない。

僕のオアシスは僧侶のマゴットちゃんだったんだ。

 

 

とりあえず帰ることにした。

いや違うな。迎えに行くと言い換えよう。

 

街へと向かって広い草原をまた歩きだす。

だいぶ街は小さくなっていた。足も疲れて来たしこりゃ戻るのに1時間はかかりそうだ。

なにしてんだ僕。ちくしょう。あの金髪め。ツインテの髪を手綱のように引っ張って馬乗りにしてやるんだからな。

 

ぶつぶつと愚痴をこぼす。

そこへぴょんぴょんと跳ねてくる小さい青い物体が現れた。

 

「お!おおおお!!!お前!!!スライムじゃないか!!!ドラクエのスライム!!!そうだろ!?なあ!?」

 

目の前に現れたのはスライムだった。

不気味な笑みを浮かべてぴょんぴょんと跳ねている。

なんだか僕の心もぴょんぴょんしてきた。

 

背中に納めていた銅の剣を取り出す。

「見てみ。これ。銅の剣やで。これからお前さん切っちゃうんやで。覚悟しーや!!」

斬りかかる。

ぐしゃりと切れたというか潰れたというか。スライムは形が崩れて動かなくなった。

「ほらみたことか!!死んだ!!死んだんだぞお前!!どうだ!!僕は戦える!!」

 

ひゃっほおう!!

有頂天に走り出す。疲れもどこかへ行った。

僕はマゴットちゃんの待つルイーダの酒場へと一直線に走った。

 


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