ロマリアより遥か北の大地。
深い森の中にあるカザーフと言う小さな村から西に遠く外れた平野の果てに建てられた塔があった。
とても人が寄り付きそうも無い何も無い場所。
今や何のために建てられたのか不明の寂れた塔をカンダタ盗賊団は寝ぐらにしているらしい。
らしいと言うのは、ライアスが捕らえたカンダタの一味とは別の賊から釈放と引き換えに手に入れた情報だと言っていたからだ。
見張りがいる様子はなくただの廃れた塔にしか見えないが、戦士達は気付いてるらしかった。
「間違いない。塔の中に居る」
「すっげー殺気だよ。まだ中に入ってないってのに」
「盗賊ってのはコソコソするもんだろ。それがなんだあの隠そうともしない気配は…」
「投降する気はないってことか。カンダタってのは相当自信もってやがるぞ」
「それはこちらとて同じ。怖気付く必要などない。行くぞ」
兵士長ライアスを始め、50人の戦士達は臆することなく塔を登り始める。
僕らは最後尾から彼らの後を追った。
塔の中は50人で登ろうと窮屈に感じることもないくらいに広かった。
魔物も住み着いてはいたが鍛えられた兵士達は造作もなく倒し進むこと3F。
開けたフロア。
そこに賊達が待ち構えていた。
しかし数は十人に満たずそしてこちらの戦力との差を感じたらしい。
ただの下っ端の賊なのか貧弱な声を上げながら次々に戦わずして上層に逃げて行く。
「なんだあ? これが名高いカンダタの賊共かよ」
「そりゃそうだろ。俺らロマリア国精鋭50人だぜ。立ち向かってくる奴がいたらそいつは余程命知らずなバカだろう」
「おい待ているぞ。その命知らずなバカってのが」
一人だけ残っていた。
しかし見たところ盗賊のような風貌ではなかった。
拳法着を身につけ黒髪を団子に丸めた武道家の少女だった。
ただ一人こちらをじっと睨みつけるようにしばらくの間全員を見回した後に言葉を発した。
「何? 何の用? そんなぞろぞろ引き連れて。今稽古中だったんだよ」
「君は盗賊の仲間か?」
ライアスが一歩歩み出る。
「私? 私はフォウ。フォウちゃんって呼んでいいよ。盗賊じゃなくてフォウちゃんは武道家だよ。カザーフ村で育ったんだよね。武道の村でみんな強いんだよ」
年端も行かないようなあどけさの残る声。
50人の戦士を目の前にしてフォウと名乗った少女はあっけらかんとした態度だった。
「カンダタの仲間かと聞いている」
「ボス? ボスに用があるの? ボスは上に居るけど止めといた方がいいよ。死ぬよ。見たところみんな。」
「いるんだな?」
「何するのサ。他にすることないの? 魔物やっつける方が先じゃないの? 世界中のみんなは今も魔物に苦しめられてるんだよ。ボスに構ってるヒマあるならさっさと魔物やっつけてきなよ。フォウちゃんはみんなを応援するよ」
「ちっ」
一人の戦士が焦らを切らして少女の先にある階段の方へと向かって歩きだした。
「あぁもうういい。いいだろ兵士長。こんな小娘と話してもらちあかねえよ。行こう。邪魔する気がないなら通して貰うぞ」
苛立たし気に剣を肩に担ぎ少女の横を通り過ぎようとする。
少女に、戦う意思というか、緊張感の抜けた場の雰囲気に次の瞬間何が起きたのか理解するのに僕は数秒かかった。
その数秒で起きたのは、先に行こうとした兵士が飛び膝蹴りを受け崩れ落ち、少女が言葉を発した後だった。
「これ以上登ってきたらみんなこうなるから! ボスはフォウちゃんみたいに優しくなんかないからすぐ死んじゃうよ! 絶対登って来たらダメだよ!! 」
そのまま一人蹴っ飛ばした勢いで上の階へと駆け上り姿を消した。
倒れた兵士も警戒していたはずだ。
しかし、少女の動きはその想像をはるかに超えていた。
完璧に顔面の中心部を捉えられ一撃で気を落としてしまっていた。
ライアスが小さく呟く。
「50人では足りないかも知れんな…」