勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

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15話。予兆

 

 

「僕…ちょっと強くなったかなぁ」

 

ロマリア地方では評判の身の硬さを持つと言われる巨大カニのモンスターの甲羅を僕の鉄の刃が真っ二つに切り裂いた。

綺麗に裂けた甲殻からグロテスクな蟹味噌が溢れている。

 

「武器がいいだけでしょ。周り見なさいよ。別に普通なことよ」

 

戦いには参加せずの高みの見物を気取ったアメリアが50人の剣闘士と魔物の群れとの戦いを見ながらに言った。

 

現在ロマリア平野を北上中。

絶賛モンスターに襲われ中でもある。

 

「いや、まあそうだけど、この人たち精鋭だもん」

 

彼らも相当な実力だった。

 

鍛えられた戦士達の群衆を前にして、それでも臆せず襲いかかってくるモンスター達を彼らは赤子の手をひねるかのように一撃で倒していった。

巨大イモムシや群れをなす巨大ガニ、さまよう鎧と呼ばれる傀儡モンスターのバラバラになった残骸が次々に転がった。

 

「勇者様も負けてないと思います! 冒険に出たあの日から勇者様はどんどん強くなっていってますからっ」

 

マゴットちゃんが鉄の槍を振り回しながらにそう言った。

槍初心者には見えない良い動きだ。

回復役より攻撃参加の方が向いてるんじゃないか。

 

 

戦闘終了後、最先頭を歩く兵士長ライアスが僕らのところへわざわざ近寄ってきた。

 

「どうだアリアハンの勇者よ。我ら剣闘士達の強さは」

 

自慢げだった。まるで自分が作り上げたみたいに。

 

「皆強いですね。これじゃ盗賊団も今の戦闘みたいに一瞬でカタが付きそうだ」

 

「そうだろう。賊ごときにつまづくわけにもいかんのでな。まあ今回は初陣だ。丁度良いお気楽な討伐と言えよう。」

 

もう既にその先の魔王軍との戦いを見据えてるようだ。

 

「でもこんな大勢の目立つ集団じゃ盗賊団に見つかって逃げられちゃうんじゃ?…ってアレ」

 

「うむ?」

 

言ってるそばからまたモンスターの襲撃だ。

パーティが多すぎるとモンスターどもも発見しやすいんだろうか。

 

「ああ。戦闘は彼らに任せておけばいい。で、話の途中だったな。実はだな。賊の居場所は既に割れているのだ。捉えた別のグループの賊から釈放と取引に聞き出せたのだ。奴らに逃げ場はない。」

 

「こっからどれくらいの距離?」

 

「3日とかからんだろう。途中にはカザーブという村もある。そこで休息も取れるはずだ」

 

たいして休息も必要ないと思うけど。皆強いし。ダメージすら受けないよこれ。

 

現に、先ほどの戦闘と同じくあっという間にモンスターが片付いていく。

 

あと残る一体。

 

さまようよろいだけだ。

 

3人の剣闘士に囲まれる。

 

なす術なく終わっちゃうんだろうな。

こんな多勢に戦いを挑んでくるモンスターってのは考えなしなのかな。

 

 

「あのモンスター……何か違う」

 

「え?」

 

アメリアが険しい表情を見せた。

 

僕がアメリアのその表情を見たほんの僅かな時間だった。

 

囲まれて逃げ場のない筈のさまようよろいの姿が一瞬のうちに消え失せていた。

 

「な!? どこへ行った!」

 

「いた!! そっちだ!!」

 

叫び声が上がるも既にさまようよろいは付近の茂みに飛び込み姿をくらましてしまっていた。

 

後を追う剣闘士達をライアスが呼び止めた。

 

「なぜ止める兵士長!? 相手はたかが一体!! ただのさまようよろいじゃねえか!!」

 

一人が突っかかる。

 

「まて。落ち着け。 あれはただのさまようよろいなどでは無い。奴は間違いなく手練れだ。相当のな。お前はどう思ったナオヒコよ。」

 

突然僕に振られた。

 

「ごめんなさい。よそ見してました」

 

「バカなの?」

 

アメリアが横からツッコむ。いや、お前のせいでもあるんだけど。

 

「まあよい。つまるところ慢心による油断だ。私も含めてな。気を引き締める必要がある。ロマリアを一歩外に出たら戦場だということを忘れていた。敵は賊だけではない。」

 

「兵士長いいか?」

 

「なんだ?」

 

「俺らが追う盗賊団の連中は全身を甲冑に身を包んだ奴らと聞いている。今のがそうだったんじゃないか?」

 

相見えた一人の剣闘士がそれを否定した。

 

「いや。今のは間違いなく中身の無い傀儡だった。戦ったのは間違いなくさまようよろいさ」

 

「あんなさまようよろいいるかよ!? すげえ身のこなしだったぞ!?」

 

「だから、ただの油断だろ。それか戦ったコイツが弱すぎたんじゃねーのか」

 

「なんだと!?」

 

4、5人で言い争いが始まった。血の気の多い人たちばかりだ。

だがそれも次期ロマリア王のライアスが一蹴し収まった。

 

 

「……変わり種かな」

「なに? 何か知っているのかナオヒコよ」

 

「スライムだけどね。外見は全く同じなのにやたら強いのがいたんだ。呪文も使ってたし。スカラとルカナンだったかな」

 

今の実力なら勝てたかなーとは思うけど。

 

「ふむ」

 

「そう言えば俺も出会ったことがある」

 

ポポタだ。

 

「俺の故郷のムオル地方には腐った死体と呼ばれるゾンビの魔物がいるんだが、殺しても殺してもなかなか死なないとんでもないタフな野郎がいたな」

 

「なるほど。稀に強力な変種がいるというわけだな」

 

「で!? どうするんだ兵士長!」

 

未だ興奮から醒めきってない一人の男が声を荒げた。

 

「どうするとは?」

 

「闘るのか闘らないのか!? ってことだ! このまま逃がしていいのか!?」

 

「そうだな。闘おう。だが次は油断するな。相手は一体だろうと総力で叩き潰せ。我らは互いに剣を交えた仲間なのだからな。強大な敵に挑むには協力が不可欠だ」

 

 

どうやら、お気楽な討伐とはいかないかもしれない。

 

 


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