「これは一体何事だ!!扉を開けろ!!」
騒ぎを聞きつけてきたのか5、6人の兵士達がぞろぞろと外門の向こう側に姿を表した。
兵士達の中央に立つ何やら一際目立つ格好をした兵士が周りの兵士達に命令し、門の鉄格子の扉を開けさせるとすぐさまにこちらへ詰め寄って来た 。
「貴様がやったのか!?」
「そうだけど」
随分偉そうな男だ。歳は30くらいか。背は高く鎧は装飾された鋼鉄。
真紅に染まる外套を羽織い、盾には十字の国旗が刻まれたオリジナルと思われる物を手にしていた。
こいつだけ周りの兵士と明らかに違う雰囲気。
「一体どういうつもりだ!?」
威圧した低い声。まるで獲物を狙う獣のような目つき。金に輝く短髪で無精髭を生やしていた。
見るからに強そう。いや絶対に強い。弱いわけがない。
「王様に会いたければ力を見せてみろって言われたからぶっ叩いただけだよ」
「それは本当か?」
その男はここで門兵をしていたもう一人の方に目を向けると、
「は!はい!こ、この者がアリアハンから来た勇者と頑なに言い張るもので!」
と門兵は直立不動になって受け答えをした。
言い張ったのは僕じゃないんだけどね。
後ろにいるアメリアだ。
その男が今だに倒れている(僕が倒した)兵士の容態を調べると、無事を確認したのか再び顔をこちらに向け
「アリアハンだと…? 」
と、訝しげに僕をしばし見下ろしていた。
「……まさかな。お前の名前は何と言う」
「……なんでそんなこと聞く?」
「いいから答えてみよ」
「……ナオヒコ」
男の眼光がさらに鋭く突き刺さる。やっぱ怖い。
「嘘偽りはあるまいな?」
「ないってば」
そう答えると少しの沈黙があった。
もしかして王様に会わせてくれるのかな。
「会って何をしようと言うのだ?」
「え? なんか街の噂でこの街に盗賊団が現れたって聞いて。で、何やらその討伐隊を結成するって話があるらしいからそこに加えてもらおうかと思ったわけで」
「そうか。ならば討伐隊へ入るがいい」
「え?」
兵士はあっさりとそう答えた。
拍子が抜ける。
「王様には? 会わなくていいのか?」
「その必要はない。それならばもう既に果たされているからな」
果たされている?
どういうことだ。
「言い遅れたな。私がこの国の王なのだ。第23代新ロマリア国王。名はライアスと…」
「兵士長!! そのようなことはまだ伏せておくべきでは……」
側にいた兵士が言葉を遮るようにして口を挟むも兵士長と呼ばれたこの偉そうな兵士はさらにその言葉を遮った。
「黙れ。私はもう兵士長ではないと言ったろう。全ての権限は私に委ねると王は仰せになったのだ。誰にも口を挟む権利は既にないぞ」
「ですが戴冠式がまだでは……」
「ぐっ…。その通りだ!! 私が新国王に就くことを一刻も早く世に知らしめなければならないと言うのに!! そのためにもあの賊どもから王の冠を奪還せねばならんのだ!」
熱くなっている。
と言うかこの兵士、国王なのかよ。しかも成り立て?
おっさんかと思ったけど国王ならば逆に若すぎるんじゃないか。
「勇者よ!お前には若き日に出会ったオルテガの面影が確かにある。あの強大な魔王を微塵も恐れぬ勇敢さを思い出すことが出来た!
その血を受け継ぎし勇者ナオヒコよ!存分に期待している!明日同じ時刻に再び来るが良い!明日討伐隊を結成し出発することとする!」
「展開早いなおい!」
そのままの勢いで次の日。
一日が経過した同じ城門の前には大勢の、しかもどれも屈強そうな戦士達が集まっていた。
四、五十人くらいはいるだろうか。
「いっぱい集まってんなー。これ全員討伐隊の集まりだよな。カンダタって盗賊団そんなに強いんかね」
「さあ? ただ数が多いってだけじゃないの? アリアハンじゃ聞いたことなかったし」
アメリアが「むさくるしいわ」と言う隣ででマゴットちゃんが
「私…何だか怖くなってきました……」
と集まってきた大人数の戦士を見てすっかり怖じ気づいてしまっていた。
まあ僕も似た様なもんだな。
カンダタってのがどんな奴か知らないけど。御愁傷様だ。
しかし昨日討伐隊を結成すると言って一日で戦士達をどうやって集めたのか。
疑問に思っていると、
「また会ったな」
と、声をかけて来た男がいた。
革の防具を身に纏った街の城壁の前で会った確かポカナマズだったかを探していた人だ。
端正な顔立ちでまだ僕より少し年上くらいなのに妙に落ち着いた若い戦士。
痩せ型だが筋肉をしっかりつけていてスタイルもいい。
軽装備がよく似合っている。
名前は……
「ポポタだ。もしかして君たちもこの討伐隊に呼ばれたのか?」
「そう。僕はナオヒコ。で、こっちが一緒に旅しているマゴットちゃんとアメリアちゃ…」
思わず続けてちゃんづけで呼ぼうとしてしまい睨まれる。
アメリアはそっけなく、マゴットちゃんは少し照れつつ挨拶を交わしていた。
「ところでどうやって討伐隊に入れたんだ?」
とポポタは疑問を浮かべた顔をしていた。
「昨日ここの門前で力を見せろって言われて兵士倒したらその流れで。ポポタさんは?」
「ポポタでいい。君らと歳はそう変わらないだろうし。俺も君らと同じで認められたんだ。昨日コロシアムで戦った剣闘士を何人か倒したらな。そのまま国王自らやってきて……あれは驚いた」
たいそう驚いた様子で話していた。
やっぱり国王と会話するなんて特別のことなんだろう。
そんなことよりもポポタは予想通りこの国へ剣闘士になるのが目的でやって来たようだった。
そしてやっぱり強い。
「皆の者よく集まった!!」
突然、低音の効いた声が一帯に鳴り響く。
昨日も聞いた迫力のこもった新国王(仮?)ライアスの声だ。
集まった戦士達の私語がピタリと止み発せられた声の方へと視線が注がれる。
「ここに集まった者は精鋭中の精鋭である!! 選ばれし50人の戦士達よ!!日々闘技場で培った力を!!技術を!!今こそ見せる時が来たのだ!!
相手は周知の通りである!! 世界中を好き放題に荒らし回っている盗賊団だ!! その親玉はかつての英雄オルテガと肩を並べるほどの力を持つと言われている!! 相手に不足はないだろう!!
討ち取ったものはさらなる名声を得られるであろう!!さあ、我が国王の前にその勇姿を思う存分に見せてみよ!!」
戦士達の中から歓声が上がった。
どうやらここにいる戦士達は皆コロシアムの剣闘士のようだ。しかも選りすぐりの。
ライアスが何か言うたびに50人の剣闘士達の士気が熱く高まっていくのを感じた。
討伐の幕が開ける。