勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

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13話。ロマリア城門前にて

 

「勇者? アリアハンから来ただと?」

 

ロマリア城を守る外門は市街地を囲う城壁よりもさらに分厚い石壁で積み上げられた頑丈な物だった。

 

「そなたらが、アリアハンから参った勇者であると証明できる物はないのか?」

 

二人の門兵を立てて僕らはその門の前で入城許可を求めていた。

 

「証明? そんなの、ない」

 

「では通せるわけがなかろう。誰がお前の言葉を信用できるというのか」

 

兵士二人が顔を見合い鼻で笑う。

ガキは帰れと。またそういうことか。わかるよ。

 

「ナオヒコ。あんたアリアハンを旅立つ時に王様へ挨拶に行ってきたのよね? 何か授かった物とかなかったわけ?」

 

アメリアが思いついたように僕に問いかけて来た。

僕は何のことだろうと考え、首を傾げる。

 

「あ……」

 

思い出した。

あの日。

僕がこの世界で初めて目覚めた日。

夢の中だと思ってそれは適当に何も考えずに母の言葉も聞き流し行くことになっていた王の挨拶にも行かなかったんだ。

 

「な、なにも貰ってないです…」

 

「目が泳いでるわよ。白状しなさい」

 

僕は素直に白状した。

 

すると刹那のごとくアメリアの鉄拳が飛んでくるのが見えた。白く小さい手だ。この前は避けた。

 

ガスッ!!

 

「痛い!」

 

「バカなの!?」

 

バカなの!?を頂いたところでアメリアは兵士2人に向かって自分はかの有名なアリアハン貴族だと説明を始めた。

 

僕はその間にマゴットちゃんによるホイミの介護を受ける。

 

「そんなことでいちいちホイミなんか使ってんじゃないわよ!」

 

背を向けて説得中にも関わらず隙をみせずに突っ込んでくるアメリア。

マゴットちゃんがビクッとして謝っている。

僕のせいだ。ごめんねマゴットちゃん。

 

そういやマゴットちゃんのホイミの詠唱時間が早くなった気がした。

 

「昨日もがんばって…勉強しましたから。そのおかげでしょうか。勇者様のお役に早く…立ちたくて…」

 

もじもじと、いじらしく、マゴットちゃんが僕を見る。

マゴットちゃんは実に健気だ。

 

そんなやりとりにイラついたのかアメリアが兵士に対しても怒鳴り始めたので宥める。

 

「落ち着け」

 

「誰のせいよ!! 侮辱!! 侮辱を受けたわ!!貴族に向かって!!ナオヒコ!!あんた責任取りなさい!!」

 

「わかってるけど、どうやって…」

 

「簡単なことよ!実力を見せるがいいわ。あの二人を殺してしまえばいい!」

 

「いや、ころしちゃマズイでしょ」

 

「ねじ伏せろつってんの!」

 

いや、言ってないだろ。

まったくもって相変わらず貴族はプライドが高いことで。

 

と、そういう話になったのか兵士の一人が僕の前に近づいてくる。

 

「そこまで言うのであれば。貴様が本当に勇者であるならば、私など相手にもなろう筈がないが

門兵として確かめなければなるまい。手合わせ願おう。さあ、剣を取るがいい」

 

その兵士は僕よりデカく鍛えられた体をしていた。

兵士が抜いた剣はグラデュウス。もう片手は丸い鉄製の盾。鎧も鉄だ。

 

「私も剣闘士の端くれ。覚悟はある。さあ勇者と言うのであれば剣を抜くのだ!!」

「いや!! ちょっと待て!!人に向かって剣向けられるか!!」

「甘っちょろい勇者だ!!ならば抜かせてみせよう!」

 

避けられない程の間合いだったので僕は向かってくる剣先を盾で防いだ。

 

ズバッ!!

 

皮製の盾が綺麗に裁断され、僕の鼻先を切っ先が走り抜けた。

 

「あぶな!!」

 

「なんだその盾は!! 舐めているのか!?」

 

使い物にならなくなった盾を僕は投げ捨てると、すぐに相手の二撃目が飛んできた。

 

ガキィィン!!

 

金属の擦れ合う音だ。

 

初めて生で聴いた音に少し感動した。

銅の剣はもっと何ていうか鈍い。

しかしこの剣斬れる。皮の盾真っ二つだ。相当厚く舐めされた盾なのに。

こんなんで相手に斬りつけたら本当死んでしまうぞ。

 

「どうした!? かかってこんのか!! 実力を見せなければ通さんのだぞ!」

 

兵士の攻撃を僕は剣で受けながし続けた。

 

大丈夫。見える。攻撃するチャンスも見える。

 

だけど加減がわからない。今までモンスターとしか戦っていなかったから。

そうだ。

 

「タイムタイム!!タイムだってば!!聞け!!」

 

僕は鉄の剣を投げ捨てた。

 

「なんだ!? 諦めたのか!?」

 

「違うよ。ちょっと変えんの。武器」

 

僕は端に投げておいた荷物袋を取りに行き銅の剣を取り出した。

予備に取っておいたのだ。

 

「勇者様っ。大丈夫ですか?」

「うん。全然余裕。見てて」

 

「何躊躇してんのよ!殺せって言ったでしょ」

「やっぱころしちゃうのかよ」

 

見守っていた二人が各々に声をかけてきた。

やっぱわかんのねアメリア。

 

「どうした!? やるのかやらないのか!?」

 

兵士がいきり立っている。

こいつはわかってないようだ。

 

「やるよ。今度は本気で行くからな」

「ふん。強がりを言いおって。だいたいなんだその武器は!? なぜ使い物にもならない銅の剣なんか手に取っている!?」

「こっちのが慣れてるからね。じゃあやろう!再開だ!」

 

僕は一直線に駆けた。

やっぱりね。慣れ親しんだ武器は身体と共鳴するみたいだ。

重いんだけどそれが丁度良いバランスを保てている。

 

ガキッ!!

 

ドガッ!!

 

流れるように駆け抜けると、兵士は僕の方へ振り返り驚いた表情を見せながらその場に崩れ落ちた。

 

 

 


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