いざないの洞窟。
アリアハン大陸の外れにあるその洞窟へやってくるのに僕達は2日かかった。
深い森と山の中を歩き、生息しているサソリの尾を持った巨大蜂などのモンスターとの戦闘を切り抜け、夜間は野宿を行い明くる日到着した。
その間に村や街は一つ無く、この世界の人間の生活している区域はあまりにも狭いことを実感する。
目に映るものは大自然とモンスターしかない。
鳥や小動物なんて滅多に見なかった。
モンスターに襲われて生息数を減らしているんだろう。
そんな魔物が我が物顔で闊歩している深い森の中に人工的に作られた洞窟がひっそりと姿を現した。
「ここね。ナオヒコ。魔法の玉貸して」
「ほらよ」
洞窟の内部へ入るとすぐに壁に阻まれていた。
レンガの様に石で固く積み上げられたただの壁に見えたが、どうやら魔法がかけれているらしく持ってきた玉でしか壊せないとアメリアが言った。
壁にちょうど魔法の玉がすっぽりと収まる窪みがあり、アメリアはそこに玉をはめ込んだ。
ゴゴゴゴゴ……。
壁と玉が共鳴する様に光ったかと思うと10年にも及び魔法力で支えられていた壁はいとも簡単に崩れ去った。
「もうここから先はアリアハンの監視外。私たちの一歩が歴史を刻んでいくことになるのよ」
「それって、つまり僕史人になるのかな!?」
「なるでしょ。世界を救うんだもの。まったく…。あんた自覚なさすぎよね」
アメリアが呆れている。
けど僕はこういう人間だ。ファンタジーな世界にちょっとばかり憧れを持ってるだけの人間なのです。
「わ、わたしもその一人になれるでしょうか……」
マゴットちゃんが不安そうに呟いた。
僕が声をかけようと思ったらアメリアが先に口を開く。
「あなただって平和を取り戻す為にルイーダの酒場に登録したんでしょ? それにもうこの仲間の一人なんだから。あとは努力すればいいと思うわ」
励ましたのかな。
マゴットちゃんは両手を握りしめて「そうですよね!私精一杯頑張ります!」と前向きな表情を見せた。
「でも一番努力が必要なのはナオヒコあんたよ。勇者のくせに魔法の知識もないし、それに剣の振り方も滅茶苦茶。 何考えてんの? 死ぬの?」
急にプンスカ怒り始めてアメリアは僕につっかかってきた。
僕の戦い方がよっぽど気に入らないんだろうか。
しかしなんでこんなすぐ沸騰するんだろうか。
あれか。火の呪文ばかり使ってるからすぐ熱くなってしまうのかもしれない。
冷却系の呪文を覚えて冷ましてやらないとだな。
「そのうちなんとかなるって。僕だって死にたくないし」
「強い敵がでてからじゃ遅いのよ。というかこの間ナジミの塔で死にかけてるじゃない」
「てへへ」
「てへへじゃないわよ!」
アメリアが殴りかかってきたのを僕はすんでで避けた。
うん。僕やっぱり強くなってるじゃん。
しかしすぐに手をあげる子だな。困った子だ。どうしてくれようか。
「素直に殴られていればいいものを……。わかったわ。今この先に強い魔物が襲ってくることも考えてこの場で鍛える必要があるわね」
アメリアがイバラの鞭を取り出した。
「なんでや! こんなところで無駄な体力使ってる場合か!?」
「死にはしないわよ。ホイミがあるじゃない」
「ホイミだって有限だっての!うわっ!」
ヒュンッ!!
「避けるんじゃないわよ!」
しなる鞭から逃れる様に僕は洞窟の奥へと走った。
どんなモンスターが巣食ってるかもわからないってのに何でこんなことになってんだかな。
前方にアリクイのモンスターが現れた。
アリアハンに生息していたものとは違う。一回り大きいし爪も長い。
10年の月日で凶暴的に進化したのかそれとも別種か。
僕を見るなり向こうも突進してきた。
爪より鞭のが怖いので僕も構わずアリクイ目掛けて突っ走る。
ドガッ!!
駆けながらに僕は銅の剣で獣の厚い肉の塊を叩き伏せた。
一撃KOだ。
切り裂けないのが悔しい。
銅の剣ってのは本当切れないな。くそ重いし。良い武器作れないのかなアリアハンは。
弱い魔物しか生息していないからかもしれないけど平和ボケしすぎじゃないか。
「剣の振り方が滅茶苦茶だって!? 余裕で勝ってんじゃん! 勇者のレベルアップは凄いの! 今に見とくんだな!!」
銅の剣を振り回し、僕は突き進んだ。