ラブライブ!~金色のステージへ~   作:青空野郎

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STAGE.2 音ノ木坂学院

俺は今、春の陽気を浴びながら自転車をこいでいる。

高校生になってからはたまに自転車を使って通学するようにしたからだ。

俺の通う国立音ノ木坂学院は長い歴史と由緒正しい伝統を誇る進学校だ。

学校教育法上は国立学校として分類されているが、学校法人が設立、運営する私立校に近い性格を持つ学校のため全国でもトップレベルの偏差値をたたき出している。

ちなみに、設立当初は女子高だったらしいが、数十年前に共学へと切り替わったという話を聞いたことがある。

元が女子高だったためか、今現在も男女の比率は3:7と女子側に大きく傾いている。

学院自体は自転車を使えば自宅から約20分程度で通える距離に位置しているため通学はそこまで苦ではない。

通学路を進むにつれ、全身で感じる春の風が心地いい。

通学路の所々に植えられた桜の木が見事な花を咲かせている。

風に煽られ、舞い散る桜の花びらを眺めながら自転車を走らせていると、やがて学院が設けている専用の駐輪場にたどり着く。

自転車を止め、視線を向ける先―――駐輪場のそばにある階段を上った先に学院がある。

まだ時間に余裕があるな。

のんびりと階段を上っているとたくさんの生徒たちに追い抜き追い越されが繰り返される。

期待に胸を膨らませる者、新たな環境に不安を過らせる者、友人同士で談笑するグループなど様々だ。

ようやく階段を登り終え校門をくぐるころには荘厳な桜並木が出迎えてくれた。

登校初日に桜が咲いていると、やはりうれしいものがあるな。

そしてその奥に立派な佇まいの音ノ木学院の校舎が見える。

町の真ん中の位置に、象徴のように聳える校舎を見上げると自然と背筋が伸びる。

さて、とりあえずまずはクラス分けの確認だな。

新鮮な空気をめいいっぱい吸い込み、俺は生徒玄関を目指した。

 

                      ☆

 

すでにクラス分けの掲示板の周りにはたくさんの生徒たちでごった返していた。

俺もすぐに確認したいが、わざわざ人ごみの中に入り込むというのも気が引けるな。

とりわけ急ぐ必要はないし、さて、どうしたものか。

 

「おはよう、清麿くん!」

 

軽く考え込んでいると、不意に後ろから声をかけられた。

振り向くと3人の女の子がこちらに歩み寄ってくる。

俺も軽く手をあげて挨拶を返した。

 

「ああ、おはよう3人とも。久しぶりだな」

 

「きーくん、おはよう」

 

「おはようございます。しばらく会っていませんでしたがお元気そうでなによりです」

 

「そっちこそ元気そうで安心したよ」

 

高坂穂乃果、南ことり、園田海未の3人の元気な姿に笑みがこぼれる。

3人ともこの音ノ木坂学院でできた新しい友達だ。

ショートカットのサイドテールで括り、活発そうな印象を受ける穂乃果、黒髪のロングヘアで大和撫子を思わせる海未に長い髪を同じようにサイドテールでまとめ癒し系を連想させることり。

三者三様の彼女たちは幼馴染だとか。

ちなみに、ことりの『きーくん』とは俺のあだ名のようだ。

 

「清麿くんはもうクラス分け見たの?」

 

「いや、まだこれからだ」

 

「そっか、二年生になるとクラス別れちゃうけど、どうせならみんな一緒のクラスになれるといいね」

 

この学院は一年が1クラス、二年が2クラス、三年が3クラスという風にクラス分けが少し変わっている。

1クラスしかないとはいえ去年同じクラスで過ごした仲間としては、やはり別々のクラスに分かれてしまうの寂しいものだ。

 

「まあ、こればっかりは運次第だからな。なるようにしかならんだろ?」

 

「そうですね。………あれ、穂乃果は?」

 

海未に釣られて辺りを見渡すと、なるほど、先ほどまで一緒にいたはずの穂乃果の姿が消えていた。

 

「おーい、みんなこっちこっち!ここからならクラス表が見えるよ!」

 

声のした方へと視線を向けた先に穂乃果が大きく手を振って俺たちを呼んでいた。

確かに、今穂乃果がいる場所ならここよりずっと近くで確認できるだろう。

 

「穂乃果ちゃん、待って~」

 

まったく、いつの間にと思っていると、ことりが穂乃果の元へと駆け出していく。

そして残された俺と海未の2人。

やれやれと肩をすくめると海未と目が合った。

困ったよう見小さく笑む様子から、どうやら俺と同じこと思ったらしい。

 

「しゃーない、行くか?」

 

「そうですね」

 

ここにいても何も始まらない。

俺も早くクラスを確認するとしよう。

ことりの言うとおり、今年もみんな同じクラスになれればいいな。

クラス表に近づいた俺はとりあえず2年1組の欄から自分の名前を探す。

高嶺、高嶺………お、さっそく見つけた、2年1組だな。

さて、あの3人組はどうなったのかなと様子をうかがうと、目の前で3人ともそれぞれが手をつなぎあい嬉々とした声を上げていた。

 

「その様子だと3人とも同じクラスだったみたいだな」

 

「うん、私たち揃って2年1組だったよ!清麿くんは?」

 

どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。

 

「俺も2年1組だ」

 

「本当!?やったね清麿くん!」

 

喜んだ穂乃果が俺の手を掴むや否やその場で跳躍する。

同じクラスになれたことで内心安堵している俺が言うのもなんだが、いくらなんでもはしゃぎすぎじゃないか?

ほら、周りの連中が好奇な視線を向けてきてる。

 

「これで心置きなく勉強でわからないところ教えてもらえるよ!」

 

「それが本音かい!」

 

思わずツッコんでしまった。

まったく、素直すぎるというか裏表がないというか。

まあ、それがこいつのいいところではあるんだがな。

ただ、穂乃果気づいているか?

今の発言を海未も聞いていることを……。

 

「ほ~の~か~?」

 

「――――ハッ!」

 

あ、手遅れだな。

穂乃果の後ろに素敵な笑顔を浮かべる海未がいる。

あいつは根が真面目だから横着は許せないんだろう。

なんとか言い訳を考えようとアタフタする穂乃果にさらに詰め寄っていく海未。

かわいそうな気もするが自分で蒔いた種だ、ドンマイ。

ことりはというと2人のやり取りを止めることはなく、ただ楽しそうに眺めていた。

ああ、また今日からにぎやかな日常が始まるんだな。

そう思うと不思議と笑みがこみ上げてくる。

 

「まあ、ともかく、今年もよろしくな」

 

仲裁がてらの俺の言葉に、3人とも大きく頷いてくれた。

ガッシュ、とりあえずは今年も退屈せずに済みそうだぜ。

 

                      ☆

 

始業式のあとHRも済ませ、本日の予定は滞りなく終了した。

 

「清麿くん、よかったらこれから一緒に帰らない?」

 

配られたしおりやプリントを鞄にしまい、帰り支度をしていると再び穂乃果たちに声をかけられた。

屈託のない笑顔で誘ってくれるのはうれしいのだが、残念ながら俺はこの後予定が入っている。

 

「悪い、この後生徒会で集まりがあるんだ」

 

そう、いま俺は音ノ木坂学院の生徒会に所属しているのだ。

付き合いたいのはやまやまなんだが、これからすぐに生徒会室に向かわなければない。

俺の言葉に穂乃果は少し表情を陰らせた。

海未と小鳥もなんだか残念そうにしている。

ほんと、申し訳ない思いでいっぱいになる。

 

「そうなんだ、新学期早々大変なんだね」

 

「もう慣れたさ。ほんとゴメンな、また今度誘ってくれ」

 

「うん。じゃあね、また明日!」

 

「ああ、またな」

 

片手をあげる俺に穂乃果に続き、海未とことりも、それでは、バイバイ、と一言残して教室を後にした。

3人を見送り、俺もさっさと生徒会室に向かうとしよう。

 

                      ☆

 

「失礼しまーす」

 

扉を開け、生徒会室をのぞけばすでに2人の女子生徒が作業を進めていた。

 

「いらっしゃい、清麿。久しぶりね」

 

「久しぶりって、昨日の入学式の手伝いで一緒だっただろ……」

 

最初に俺に話しかけてきたのは生徒会長の絢瀬絵里。

きれいなプラチナブロンドの髪を後ろで束ね、アイスブルーの瞳をこちらに向けている。

整った容姿から外国人かと思いがちだが、実際はロシアのクォーターの日本人らしい。

 

「やあ、ようやく来てくれたね。待っとったよ、キヨちゃん」

 

「希、頼むからその名前で呼ぶのはやめてくれないか?」

 

キヨちゃん、とふざけたあだ名で俺を呼ぶのは生徒会副会長の東條希だ。

普段から関西弁まじりの独特な口調で会話を行い、のほほんとした雰囲気を醸し出している。

絵里と希は親友同士で、2人とも3年の先輩だ。

2年の俺がなぜ先輩に対してタメ口をきいているのかというと、2人ともそれでかまわないと言ってくれたからだ。

さすがに他の人がいれば正さざるをえないんだがな……。

冷めた視線で注意するが希はさらに意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「え~、ウチとキヨちゃんの仲やろ?あ、ならマロちゃんならどう?」

 

「余計に悪いわ」

 

ことりの『きーくん』はただ純粋な気持ちで使っているのだが、希の場合は完全に俺をからかうために使っていやがる。

今も俺にニヤニヤと悪意のある笑みを向けている。

完全に確信犯だな、こいつ。

嘆息しながらとりあえず希の隣の席に腰を下ろし、他のメンバーを待つ間絵里に確認する。

ちなみに、俺の役職は会計だ。

 

「なあ、今日の会議の議題ってなんなんだ?よくよく考えればまだ内容を聞いてなかったんだが?」

 

「全員そろえばすぐにわかるわ」

 

あらら、バッサリと切り捨てられてしまったよ。

彼女の視線は俺ではなく手元の資料プリントに向けられている。

あれが何か関係してるのか?

というより、今日の絵里はなんだか様子がおかしい。

なんだか彼女の周りの空気がピリピリしているような気がする。

 

「なあ、絵里の奴何かあったのか?」

 

「さあな、ウチにもさっぱりや。理事長室から帰ってきてからずっとあんな調子なんよ」

 

親友の希でさえ知らないとなると完全にお手上げだな。

無理やり聞こうとすれば絵里の機嫌を損ねかねないが、本当何があったんだ?

ここは素直に全員そろうのを待ったほうがいいのかもしれない。

そうこうしていると、ぞろぞろと他の生徒会メンバーが集まりだす。

 

「さて、全員そろったところでさっそく会議を始めるわよ」

 

席から立ち上がる絵里の号令でいよいよ会議が始まる。

 

「今回の議題は我が校の現状についてです」

 

俺たちの視線をものともすることなく絵里は口火を切る。

議題のテーマが学院の現状か、これはまた意外だな。

漠然とした議題に最初は気にも留めていなかったが、絵里の話を聞くにつれて事態は俺の思っていた以上に深刻なものだった。

要約すると現在の音ノ木坂学院は昨今の少子化に加えて、周辺の進学校に生徒が流れ、まとまった数の入学者が確保できず、全校生徒数は減少の一途をたどっているということ。

淡々と話しを進める絵里の様子には鬼気迫るものを感じ、同時にどこか切羽詰っているようにも見える。

 

「生徒たちへの発表は来週の全校集会になりますが………」

 

ここで絵里はしばし間を置いた。

そのわずかな間が妙に重く感じられた。

そして意を決したように絵里が口にする。

 

「我が音ノ木坂学院は来年の入学希望者が募集人数を下回った場合、3年後に統廃合することが決定しました」

 

…………は?

絵里の言葉の内容に思わず俺は自分の耳を疑った。

新学期早々、とんでもない事態になってしまったようだ。

 




っしゃあッ!
長らく停滞していたクウガと同時に第2話更新!
いまさらだけどこの作品は他の半分くらいだからもしかしたら更新早いかもしんないと気づいた俺。
とりあえず感想………オナシャス!

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