鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
虚像は疑問を抱き始める。
戦況は自身が押している。それは明らかであった。傷一つない自身の専用機がそれを物語っている。
だが、疑問の原因はそこではない。そう、往々にして疑問というものは自分自身から湧いてくるものであるが、この場合も変わらず当てはまる。目の前の自分(氷雨)への攻撃が、次第に通りづらくなってきているのだ。理由は分からない。だが、氷雨が虚像の攻撃に対応しだしていることは事実である。
「行きますっ!」
何度押しのけても、何度切りつけても、数歩下がった後、再びこちらに迫ってくる。その様に圧倒的に優勢なこの状況でも不安を覚えるのは当然だろう。
そして、その不安が最高に達する瞬間が来た。
「っ!」
全ての剣戟を合わせられ、捌き切られたのだ。
「や、やった!」
しかし、それを喜んだ氷雨が隙を作ったので虚像はその腹部に強烈な蹴りを放ち距離を作り出した。
どういうことなのか、疑問を抱えたまま、虚像は対峙する。
◇ ◇ ◇
「やった! やりましたよ! ついに虚像の攻撃を捌き切りましたよ!」
『よかったですね』
そんな風に喜びを共有しようとペイルライダーに語り掛けるも、彼女の言葉はそっけなく、軽くあしらわれてしまう。
「こんなに頑張ったんですから褒めてくれてもいいじゃないですか」
『ずうずうしいです』
「私のせいではありませんよ? 氷雨の人格が悪いんですよ」
『記憶が戻ったら覚えておいてください』
「その言い回し面白いですね」
そんな風に冗談を言い合えるようになったのもどこかしら氷雨の記憶が戻りつつあるからなのでしょう。少なくとも、昨日の私ではこんなやり取りはできなかったはずです。
もしくはあれでしょうか、もうすぐ自分は消えてしまうということを悟っているが故にはっちゃけているのかもしれません。少なくともこれが私の素であるとは思いたくないです。
「じゃあ、もう一度、いきまっ……す……か?」
力を入れようとした足から崩れ、倒れ込む。あ、あれ? おかしいですね。確かに踏み込んだはずなんですが……。
『精神を削りすぎたことが原因だと思われます』
あ、ああ。せっかく目前まで来たのに、後一歩足りなかったということですか。
視線を虚像に向ける。虚像は何ともいやらしい笑みを浮かべる。なるほど、氷雨が笑うとあんな顔になるんですね。あれのどこに凰さんは惹かれたんでしょうか。皆目見当もつきませんね。
勿体ぶる様に虚像がこちらに近づいてくる。その姿はどこまでも小者っぽいもので多分勝利を確信している死亡フラグを纏ったラスボスのような存在なんでしょう。
首筋にビームブレードを突き付けられる。熱輻射によって若干ダメージを食らっているので継続的に精神が削られて辛いから口上は短めでお願いしたいですね。じゃないと、聞き終わる前に意識が飛びそうです。
「やはり、お前じゃ鈴ちゃんは守れない。これではっきりしたでしょ?」
「はい、そうですね。私では助けることすらできません。ましてや、その後の守ることなんて、無茶でしょうね。後、首がとても暑いのでちょっとビームブレード離してもらっていいですか?」
私の言葉に嬉しそうに笑う虚像。これが氷雨だというなら、体を返すのは少し躊躇われますね。あ、ビームブレードは放してもらえました。
「そう、そうだよ! 僕じゃないと鈴ちゃんは守れない! いや、僕であっても、ここじゃなきゃ鈴ちゃんは守れない。守り続けることができない!」
その言葉を聞き流すことに私は少し抵抗を感じた。
「確かにそうかもしれませんね」
「そうでしょ!」
「でも……」
私はそれに同意はしない。それの一部は事実かもしれない。でも私は氷雨が凰さんを守り続けられていないとは思わない。
「彼は記憶を失う結果になろうとも、凰さんを守ろうとした。そして、今も凰さんを守り続けようとしている」
その言葉に虚像は嘲笑を浮かべる。
「いいや、守れてなんかいない。現に氷雨はここに居ない」
「いいえ、ここに居ます。氷雨は凰さんを守ろうと、ここに居ます」
倒れている間ずっと呪詛が飛び交っていたんだから確信できます。
私はどうにか立ち上がった。幸か不幸か、呪詛のおかげで意識ははっきりしている。少しの頭痛と引き換えですけど。
「氷雨が守り続けようとしている……その証明が!」
最後の力は纏うペイルライダーの装甲を紅く灯らせる。
「この! 私だぁああ!」
『HADESシステム、レディ』
剥離した表面装甲が羽のように後方へ吹き荒れる。それを推進力にして私はビームブレードを振りかぶったまま、前方に突貫する。
かなりの至近距離にいた虚像は対応が追い付かず、衝突する。しかし、勢いはそこで止まらない。そのまま加速し、後方の凰さんの元へと迫る。
「や、やめろ。後ろには、鈴ちゃんがいるんだぞ!」
その言葉を聞いて僕は笑った。
「知ってるよ?」
十分な加速を得てから、後方の真紅の粒子を振りかぶったビームブレードの方に移動させ、纏わせる。
「僕は僕を信じてる」
「っ! お前、まさか!」
虚像が何かに気づき、驚愕を顔に浮かべる。
「鈴ちゃんを大事に思う、僕の気持ちを信じている!!」
僕は振りかぶったビームブレードを勢いに任せて虚像に叩きつける。虚像は鈴ちゃんを縛る鳥かごに叩きつけられ、鳥かごと共に粒子となって弾ける。
僕はペイルライダーを解除する。少し低くなった視界は上空へと流れる粒子で埋められていたが、はっきりとその奥にいる人影を認識していた。
僕は光の中を進む。その距離は近いようで、途方もなく遠かったような気がする。
いつも近くにいた。いつも側にいた。それが当たり前だったのに、離れていた期間が長すぎた。なんて言えばいいだろうか、この気持ち。これ以上の想いを僕は知らない。どんな言葉もこの想いに劣る。だから、これをカタチにするのは難しい。
だから、伝えたいことは言葉にしない。
光の中に影を見つけた。その影が誰であるかを認める前に、僕の足は駆け出していた。
「氷雨っ!」
僕を呼ぶ声に応えるように僕の腕はその華奢な体を包み込んだ。抱きしめたその温もりに、僕は込み上げてくる涙をこらえることができなかった。
戻ってきたらかっこよく決めるつもりだったのに、こんなにくちゃくちゃな顔じゃ、どんなセリフを吐いたって決まらないよね。
だから、変に着飾った言葉はいらない。僕の気持ちは鈴ちゃんを抱きしめる腕が、体温が、そして、心臓の鼓動が……コアの中だから届かないけど、それでも伝わっているはずだ。
ただ一つ、伝えたい言葉があるとするなら、それは……
「ただいま、鈴ちゃん」
「お帰り、氷雨」
僕は今、鈴ちゃんの元へ帰ってきたんだ。
◇ ◇ ◇
後日。
「少し風があるね」
「そうね」
僕は鈴ちゃんに呼び出され、屋上のテラスに来た。放課後の空は少しずつ紅く色づいていき、僕らを照らす。あ、テラスと照らす、で上手い感じだね。
『……』
なぜ無言を伝えてくるのか、ペイルライダー。
鈴ちゃんに呼び出されたのはいいんだけど、鈴ちゃんは何やら横目でこちらを伺ってばかりで一向に要件を話そうとしなかった。そう言えば、用事って何だろうか。もしかして、プレゼントとかかな? 記憶が戻った祝いに何かくれるんじゃないだろうか。
そう思って鈴ちゃんの方を見るも、どうやら手ぶらのようでプレゼントを持っているようには見えない。
むむむ、となるとどうして呼び出されたんだろうか……。屋上に来いだよね、屋上……。はっ!
「もしかして、決闘!?」
「はぁ!?」
鈴ちゃんが驚いた顔をする。お、これはもしかして図星かな?
「確かに、前回の戦いはゴーレムの乱入で決着がつかなかったもんね。負けたほうが勝った方のいうことを聞く、その雌雄をここで決するということだね!」
そこまで僕が言うと、鈴ちゃんは何やら呆れ顔になって大きなため息をついた。あれ? 何か僕は的外れなことを言っていたのかな?
鈴ちゃんの意図を測りかねていると、僕の方へ鈴ちゃんは歩み寄ってきた。まさかここからの先制攻撃が?
少し身構えてみるも、不意に鈴ちゃんの顔が近づく。
「えっ」
それに戸惑う間もなく、僕の頬に温もりが伝わった。それは一瞬のことだった。気づいた時にはすでに鈴ちゃんは離れていて、そこに悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「えっ、ちょっ、ちょっと待って。鈴ちゃん、い、今何を……」
もうショート寸前で頭の中が真っ白になっている僕に鈴ちゃんは恥ずかしそうに何かを呟く。
「氷雨!」
「はいっ!」
鈴ちゃんが僕の名を呼ぶ。
「あたし、あんたのこと、好きだから」
紅潮したに笑みを浮かべて、鈴ちゃんは僕に想いを紡ぐ。
「大好きだから!」
どこか吹っ切れたような宣言に、僕の頬は自然と緩む。抑えようとしてもダメだ。この嬉しさは人間の理性を遥かに凌駕している。
「ぼ、僕も……」
僕が鈴ちゃんに抱いている想いの何十、いや何百分の一も表現できないかもしれない。
「僕も!」
けれど、やっぱり声にしたい。それを鈴ちゃんに聞いてほしい。それはただの六文字じゃない。僕がこれまでに抱いた全ての気持ち……。
「愛してるよ!」
これが僕の精一杯の拙い愛の言葉。これから二人でツナグミライの初めの一歩だった。
はい、というわけで無事完結いたしました
ここまで長かったですね
主に私の筆の遅さが原因ですが、お付き合いいただいた方、ありがとうございました
色々書きたいこととかあるんですが、それは活動報告の方に移動したいと思います
とりあえずの連絡としては、お気に入り2000記念と、3000記念のリクエスト短編を書こうと思うので、活動報告にでもリクエスト書いてもらえると嬉しいです
というわけで、お疲れ様でした!