鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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十五話 死を司る第四の騎士

 

「篠ノ之、凰、聞こえるか」

 

 そう問いかけるも、二人からの返事はない。どうしたのかと再度問いかけるもやはり返事はない。

 

「電波妨害か」

 

 アリーナ内部の二人と連絡が取れない状況に千冬はそう結論づける。おそらくそれを起こしているのはアリーナに侵入してきた奴らだろう。

 

「山田先生、アリーナからピットへのハッチを開放、中の二人の避難を促してください」

 

 そういわれ、真耶はハッチを開放させようとパネルを操作するも、その操作は受け付けられなかった。

 

「お、織斑先生! ハッチが外部からロックされてるみたいで開放できません」

 

「……」

 

 そこまでするのかと千冬は眉をひそめる。

 

「IS部隊に告げろ、早急にハッチを壊して突入しろ。侵入者の鎮静化より、二人の安全確保を最優先としろ」

 

「せ、先生! IS部隊から通信が入りました!」

 

 真耶は青ざめた顔で千冬の方を向く。その表情に千冬は嫌な予感がした。

 

「ISが……ISが起動しません!」

 

 その言葉に千冬は目を見開く。

 

 とっさにアリーナ内部を映すモニターに視線を向ける。するとそこには危惧していた通りの状況があった。

 

「凰のISが解除されている……」

 

「え、あ!」

 

 千冬の言葉に真耶も気が付く。それがどれほど危険な状態か分からない二人ではなかった。

 

「織斑先生!」

 

 切羽詰まった声で呼びかける真耶に千冬は立ち上がり、答える。

 

「山田先生、ここは任せました」

 

 そう言い踵を返し、外へ出る扉の方へ向かう千冬に真耶はどうしたのかと振り返る。

 

「お、織斑先生? どうするんですか?」

 

「ハッチを開けてきます」

 

 真耶の質問に対し、そう答えると、千冬は部屋から出ようと扉に向かう。

 

 しかし、廊下へとつながる扉は開こうとしなかった。

 

「……はあ」

 

 千冬はため息を一つ吐き、スライド式のドアを蹴り開けた。

 

「束、今の私は虫の居所が悪い。こんなもので止められると思うなよ」

 

 そうつぶやく千冬を見送った真耶はISが起動しない今千冬がどうやってハッチを開けるのか、真耶には想像もつかなかったが、しかし、開けられない千冬というのも想像できなかった。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 ペイルライダーの機体表面が紅く染まり、それは粒子状になり機体に纏わりつく。展開装甲の一種なのだろうか、その紅い粒子はビームブレードまでを覆い、通常ピンク色をしたその武装を赤黒く染めていった。

 

『HADESシステムにより、機体の反応速度、および情報量のセーフティが解除されます』

 

 なるほど。HADESは機体の性能の上昇じゃなくて制限が解除されるのか。それに情報量のセーフティ? っていうのも解除されると。ふむふむ。

 

「それやばくない?」

 

『そうですね。搭乗者の処理能力を超える情報量には制限がかけられていますが、HADESシステム使用時にはそれが無くなり、より詳細なデータが脳に送信されます』

 

 その言葉が事実であることを示すように、ゴーレムから放たれた粒子砲の軌跡の予測、着弾時間なんかの様々なデータが脳に直接情報として流れ込む。その情報をもとに僕はそれらを弾いていく。

 

「おお! これ凄いじゃないか!」

 

『ですが、これには搭乗者への負荷が多大に掛かります』

 

「そんなこと、この状況で僕が気にするわけないで、しょっ!」

 

 迫るビームを一本一本弾き落とす。敵の挙動から粒子砲が放たれる前に予測軌道を算出し合わせてビームブレードを振る。幾本の閃光と交差する真紅のピンク棒。その一連の動きに伴う思考回路の負担に少し頭が痛むも、背後にいる鈴ちゃんを思えばこの程度の痛みわけないね。

 

 しかし、僕はここであることに気付いてしまった。

 

「……ペイルライダー」

 

『なんでしょうか』

 

「さっきからロックオンアラートが鳴ってないのはどうしてかな?」

 

『……』

 

 それにペイルライダーはすぐに答えはしなかった。ただ一つ言えるのは否定もしなかったということ。つまり、ロックオンされているならばアラートはなるはずなのに鳴らないのは不具合ではなく、事実ロックオンされていないからということだ。

 

 それはつまり……。

 

『狙いは鈴であると推察します』

 

 薄々感じていたその回答に寒気を感じた。

 

 このゴーレムは束さんが送ってきたものだ。そのシステム系の設定はもちろん束さんが行ったもの。それに加えてさっきの信号。

 

 つまり、束さんはISを展開できなくなった状態に追い込んでから鈴ちゃんに攻撃をさせようとしていた。これはどう考えても明確な殺意が現れている。

 

「何考えてんだよ、束姉……」

 

 湧き上がる怒りを抑えることができず、ビームブレードを握る手に力が入った。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 某所

 

 モニターに映る光景を見つめ、篠ノ之束は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「いいよー、ひーくん。予想通りのデータが取れてるよー」

 

 ゴーレムを通して収集された赤黒く発光したペイルライダーのデータが束の頭に流れ込む。

 

「表面装甲を粒子化しての擬似展開装甲、それに加えての搭乗者の神経伝達速度の向上。うんうん、やっぱり理論通りの性能になってるね」

 

 そうして満足そうな束の隣でクロエは少し不思議そうな顔をする。それに気がついた束は流れ込む情報の処理をしながら、クロエの方を伺った。

 

「どうしたの、くーちゃん」

 

「HADESシステムは使用者の負担が大きかったはずですが、氷雨に使用させてよかったのですか?」

 

 それは当然の疑問だった。束の氷雨に対する溺愛っぷりを幾度となく見てきたクロエにとって、束がその氷雨にリスクのあるシステムを使用させるなどということがおかしなことに感じたのだ。

 

「そうだねー。HADESは無理やりリミッターを外すものだからねー。それ相応のリスクは負っちゃうんだよね。でも、それに見合うだけの性能はあると思うけどね」

 

 その答えになっていない回答ではクロエは納得しきれなかったが、ただ束が氷雨に使用させていることに何も感じていないことだけは分かった。

 

 再び束はモニターへ視線を戻す。しかし、その向ける表情は先ほどと打って変わって不機嫌なものであった。

 

「ひーくんを色香で騙したチャイニーズはまだ死なないの? さすがひーくんって言いたいけど、今回はそういうの期待してないんだよねー」

 

 そうして、束は目の前に現れた空間投影タイプのディスプレイに指を滑らせる。すると、モニターの向こうのゴーレムの攻撃が目に見えて激しくなった。

 

「中国ごときがハニートラップでひーくんを籠絡できると思うなよ」

 

 その鋭い目はもはや氷雨を見てはいなかった。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 アリーナ。

 

 迫る粒子砲の雨を全て払いのけ、僕は背後の鈴ちゃんを守り続けた。いつか背後のハッチが開き、外から救援が来ると信じて。しかし、その時は何時まで経っても訪れない。その事実に僕は焦り始め、嫌な汗をかき始める。

 

 おかしい。いくらなんでも遅すぎる。普通ならすでにIS部隊を編成してここに到着してもいい頃合だよね。ハッチが開かないと言っても、外部からならいくらでも手段はあるはずだ。それでも現時点でここに来ていないということは……。

 

 もしかして、あのコアネットワークを通じてきた命令信号って、僕と鈴ちゃんにだけじゃないのかもしれない。というか、当然だよね。早々に救助が来たらHADESのデータ収集も満足にできないし、それに……何のつもりか知らないけど、鈴ちゃんを仕留めきれないだろうしね。

 

「絶対許さないよ」

 

 怒りに声が震える。

その時、その囁くような声に反応するかのように脳内に描かれる粒子砲の軌跡が全く異なったものになった。眼前に広がる予測軌道は数十本の粒子砲がすべて異なる曲線の軌跡を描く偏向射撃に変化したのだ。

 

「なっ! ……ぐっ」

 

 その増加したデータの処理に脳は悲鳴を上げる。その痛みに歯を食いしばり耐え、すべての軌跡にビームブレードを合わせる。

 

「氷雨っ!」

 

 目に見えて増えた粒子砲の数に背後の鈴ちゃんが心配そうに声を上げるが、安心させるための言葉を紡ぐ余裕すら今の僕にはなかった。

 

 降り注ぐはまさに雨。小さい頃に雨降る外に出て雨を全て避けて走ろうとしたことがあった。今、僕が成そうとしていることはまさにそれと変わらないようなことだ。つまり、無謀。

 

 ISから送られる情報の全てに意識を集中しても、握るビームブレードの剣先に全霊を込めても、導き出される解には必ず着弾が存在した。それが僕の脳の処理能力の限界だと突きつけるように横を通り抜けようとする一閃。もはや振り切ったこの手では間に合う術がない。なら、選択肢は一つしかないよね!

 

「させるかぁあああ!」

 

 痛みを咆哮で紛らわし、僕は体を傾け鈴ちゃんに覆いかぶさる。それはもうなりふりを構わない捨て身の行動だった。瞬間、背中に衝撃が伝わる。それは僕の意識を飛ばすのに十分すぎるものだったが、唇を噛み切り、意識を保つ。それでも視界は霞み、額には冷汗が浮かぶ。そんな僕の正面には瞳に涙を溜め、必死の形相で僕を心配してくる鈴ちゃんの姿があった。

 

 絶望的だった。

 

 流れ込む情報量が多すぎて頭が痛い。その痛みは脳を錐で直接穴を開けられているかのように鋭い。体を動かす気力を根こそぎ奪う様な痛みに、僕の意識は薄れていく。

 

 だめだ、限界だ。僕の体がそう訴えかけてくる。これ以上無理をすれば、間違いなく何かが壊れてしまう。それを理解して僕の体は僕にやめろと訴えるんだ。

 

 分かっている。僕の体だもん。僕自身がそれを理解していないわけがない。でも、ここで無理をしなくても、失うものはあるんだ。確かに自分の身は大事だ。でも、自分の身を案じるばかりにもっと大事なものを失うわけにはいかないんだ。

 

 ここで僕が諦めてしまえば、鈴ちゃんは助からない。そしたら、僕はどうなるだろう……。何一つ欠けることのなかった体に、ぽっかりと穴の開いた心を伴って……。そんな状態で僕は助かったと言えるのだろうか。僕は後悔をしないのだろうか。僕は……前を向いていられるだろうか。

 

 遠のく意識を引き戻し、霞む視界を精一杯広げる。目の前には何かを必死で語りかけている鈴ちゃんの姿が映る。僕の身を案じてくれているのだろう。僕なんかより、自分の方がよっぽど危険な状態なのに、それでも目の前の僕のことを心配してくれる。……嬉しいなぁ。その気遣いだけで僕の心は温かい気持ちでいっぱいになる。やっぱり、僕には鈴ちゃんが必要だよ。僕の存在はもう鈴ちゃんに依存してしまっている。鈴ちゃんを失うということは、すなわち僕の存在を揺るがすことだ。

なら、僕の体が壊れるなんて些細なことだ。僕はビームブレードを握りしめる。

 

「……鈴ちゃん」

 

 渇いた喉を弱々しく震わせる。それが声になっていのか、自分の声が鈴ちゃんに届いているかもわからない。鈴ちゃんを守るために聴覚情報は必要ないからだ。

 

「ありがとう。僕と一緒にいてくれて」

 

 すべてが終わった時、また鈴ちゃんと一緒に居られるようにと、願掛けの様に僕は呟く。

 

「僕は……これからも一緒に居られるように……行ってくるよ」

 

 だから、これは別れの言葉ではない。また一緒に居たいから紡ぐ、約束の言葉だ。

 

「またね」

 

 絶え間なく背にぶつかる衝撃に耐えながら僕は口を開く。

 

「ペイルライダー」

 

 呼びかける僕の声に彼女は返事を返さない。

 

「もう、僕の意識は必要ない」

 

『氷雨……』

 

 その声は機械的なはずなのに、どこか僕を心配しているようにも聞こえる。

 

「僕の脳のすべてを……情報の処理に回して……」

 

 迫る衝撃を顧みず、立ち上がり、鈴ちゃんに背を向けゴーレムの方に向き直る。

 

「鈴ちゃんを……守れ」

 

『……了解しました』

 

 そこで、僕の意識はブラックアウトした。

 





大切なものを守るためには戦うしかないんですね

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