鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
氷雨くんがしょうもないことで悩みます!以上、終わり!
アリーナ
試合が始まって数分の時が過ぎた。
観客席は男性操縦者見たさというのもあり、予想通りの活気を見せていた。剣と剣のぶつかり合い、肉薄する二人の剣技の応酬による白熱した試合展開。傍から見れば接戦、そう見えるのだろう試合だった。
しかし、当事者である鈴の感じ方は全く異なったものだった。
確かに氷雨と自分の実力の差がどれだけあるかは分からないと言った。だが、それでもこの打ち合いで感じるものはあった。それは氷雨の捌き方が劣等感を感じるほどにうまいということであった。自分の振るった双天牙月が空振ったかと錯覚するほど、完璧に鈴の攻撃を逸らされていた。そして、そうして捌かれるということはその後の鈴は隙だらけになってしまうということなのだ。
ならば、なぜ二人は傍からは接戦に見えるのか。その答えは単純なものだ。氷雨が初撃以来鈴に対して反撃をしていないからだ。
「(なんなのよ……)」
鈴にしてみればそれは解せないことだ。生じた隙に付け込まない。聞こえはいいかもしれないが、意味するところは真剣に勝負していない、勝とうとしていないという姿勢を意味してる。
この試合に勝った方は負けた方に言うことを聞かせることができる。氷雨はその権利を放棄しているということだ。それに鈴は一抹の寂しさを感じる。変な話ではあるが、氷雨には鈴に求めるものがないという捉え方もできるのだ。そう感じてしまうのは毎日のように会っていた氷雨から距離をとった反動であろうか、それともこの一週間で氷雨が自分に愛想を尽かしたのではないかという不安からか。
いずれにしても、鈴は氷雨が真剣に戦っていないことに気が付いていた。
◇ ◇ ◇
鈴ちゃんに刃向けて何とも思わなかったとか、シャレにならないよ!
なに? ISは絶対防御があるから大丈夫とかいう考えが根底に植え付けられちゃった感じなの? 僕もISの常識という非常識に毒されてきちゃったのかな……。
鈴ちゃんの振るう双天牙月を両手に握るビームブレードで捌きながらも頭の中は僕自身の気持ちへの疑問で埋まっていた。
躊躇うことなく振り下ろせたのは、本当は鈴ちゃんが好きじゃないから?
違う。僕は鈴ちゃんのことが好きで、それは紛れもなく僕の本当の気持ちだ。
なら、僕が好きなのは本当に目の前の鈴ちゃんなのか?
確かに僕は初め、キャラクターとしての鈴ちゃんを好きだったのかもしれない。でも、今はそうじゃないはずだ。僕の中には二つの感情があるはずだ。そう思っていた……。
ではなぜ僕は、僕の手は鈴ちゃんに刃を向けることを躊躇わなかったんだろう。もしかして、僕は本当は……。
『警告、龍咆着弾三秒前』
「えっ」
集中していなかった僕はその警告に反応できず、龍咆の直撃をもらう。
「うわっ!」
その衝撃に踏ん張ることができず、僕は後方へ飛ばされる。何とか姿勢を建て直し、着地する。それに鈴ちゃんは追撃することなくその場で僕の方をただ見つめていた。
「なんで反撃してこないのよ」
その震える声は僕を責めているようだった。僕の数メートル前方に佇む鈴ちゃんからの鋭い視線は怒りの色だけでなく、どこか悲哀の色も内包しているように思えた。
「い、いやー、鈴ちゃんの攻撃が激しくって、そのタイミングがなかったっていうか、なんというか……」
自分でもよく分かっていない感情を鈴ちゃんに伝えるわけにもいかず、僕は誤魔化そうと言葉を紡いでみるも、鈴ちゃんは僕の嘘を見抜いているようにじっと僕を見つめていた。
「勝つ気がないわけ? あんたはあの約束なんてどうでもいいって思ってんの?」
「え、いや、そういうわけじゃないよ」
そりゃ、鈴ちゃんに勝って、一緒にご飯食べたり、遊びに行ったりしたいけど……。でも、今のこのもやもやした気持ちを放っておいていいわけはないと思う。
「じゃあ、なんでよ!」
鈴ちゃんは怒りをあらわにし、大きな声を出す。観戦している人たちには何を言っているかは分からないだろうけど、それでもこの剣幕な雰囲気だけは伝わっているだろう。
「なんであんたは真面目に戦わないのよ!」
鈴ちゃんは答えを求めている。これを有耶無耶にするのはできないだろう。僕の中ですら出ていない答えを、鈴ちゃんに言うのは気が引ける。でも、きちんと伝えよう。僕がどう考えているかを。じゃないと、鈴ちゃんは納得しないだろうし、それに僕だけじゃ分からないこの気持ちの答えを、鈴ちゃんなら知っているかもしれない。
「僕自身、まだ分からないんだ」
鈴ちゃんは僕の言葉に耳を傾ける。まだ睨んではいるけれど、話そうとしている僕の言葉を遮りはしなかった。
「僕は鈴ちゃんのことが好きだ。大好きだ」
そんな前置きに、鈴ちゃんはビクリと体を震わせ、顔を紅くする。
「でも、試合が始まって、鈴ちゃんと交戦するって時になって、僕は何も考えず剣を振り下ろしたんだ」
そう、あの時僕は何も疑問を抱かなかった。
「でも、それっておかしいよね」
僕は鈴ちゃんに同意を求める。鈴ちゃんは僕の意図するところが読めなかったのか、返事はなかった。
「だって、僕は鈴ちゃんのことが好きなんだよ? それなのに、僕は鈴ちゃんに剣を向けた。容易に、何の葛藤もなく……。それって、本当に好きってことなの?」
鈴ちゃんはその言葉に反応し、表情を変えていく。
「それで、あんたはあたしのことが好きだから、攻撃してこないってわけ?」
僕は鈴ちゃんの言葉に頷く。そこまで来ると、鈴ちゃんは明確な怒りを示した。
「ふざけないでよ!」
その怒声に僕は少し驚いて、そして後悔した。また鈴ちゃんを怒らせてしまった。
「あたしはそんな理由で手を抜かれたくないし、そんなので勝ってもちっとも嬉しくないのよ!」
鈴ちゃんが怒るのはもっともだ。僕は真剣勝負に水を差したんだ。そりゃ怒るよね。
しかし、鈴ちゃんはいきなり、悲しげな表情になる。
「好きになるって……そういうことじゃないでしょ」
鈴ちゃんは震える声でそう言う。そんな鈴ちゃんを見て、真剣勝負に水を差したことに怒っているわけじゃないことに気が付いた。
「そりゃ、傷つけたくないとか、大切に思ってくれるのは嬉しいわよ。でも……今のあんたはそうじゃない」
今の僕は違う? その言葉を僕は理解できない。攻撃したくないっていうのは、鈴ちゃんを大切に思ってるからじゃないの?
「あんたはあたしを見下してる。あたしを、守るべき弱者に見てる」
「っ! ちがっ……」
「違わないわよ!」
否定しようとした僕の言葉は鈴ちゃんに遮られる。
「あたしを対等に見てたら、攻撃したくないなんて思わない。あたしと向き合うことを投げ出そうとなんてしない」
向き合うことを投げ出す……。
「そんなんだったら、好きになってほしくなんかない。あたしは……氷雨と対等でいたいの!」
その言葉に僕は気づかされた。
そうだよ。僕と鈴ちゃんは対等なんだよ。あの頃とは違う。ただ一方的に愛でるだけの対象じゃない。僕が言葉を投げかければ、鈴ちゃんはそれを受け取って、鈴ちゃんの言葉を返してくれる。そんな対等の関係になったんだ。
だから、あの時の僕は鈴ちゃんと戦うことに疑問を持たなかったんだ。鈴ちゃんは守るべき存在じゃない、一緒に競い合う対等な存在だから……。
「そうだよ。僕は何を的外れなことを悩んでたんだろう」
鈴ちゃんのことが本当に好きなのかどうかなんて、誰よりも一番僕自身が分かってるはずじゃないか。
「ごめんね、鈴ちゃん。僕はやっと理解できたよ」
僕は鈴ちゃんが好きだ。でもそれは、鈴ちゃんを人形のように愛でていたいという欲求じゃない。一緒に手をつないで、同じ歩幅で、同じ道を歩きたいという、そんな対等の存在であるパートナーになってほしいというものだったんだ。僕は男だから、鈴ちゃんよりもできることが多いかもしれない。だから、結果的には僕が鈴ちゃんの前に出ることは多くなるだろう。けれど、それは鈴ちゃんを弱いと思っているからじゃない。僕は僕に出来ることを鈴ちゃんのためにするだけ、ただそれだけなんだ。
だから、この気持ちは間違っていない。
「僕は鈴ちゃんが好きだよ」
キャラクターとしての? それとも実在する人物として? そんなの全部ひっくるめて僕は鈴ちゃんが好きなんだ。
「だから、僕は全力で戦うよ」
片方のビームブレードを収納し、ジャイアントガトリングを展開する。
「だって、僕と鈴ちゃんは対等の存在だからね!」
そう言って、鈴ちゃんに笑いかけると、つられて鈴ちゃんも笑顔になる。
「そうよ。氷雨のくせに、無駄に悩んでるんじゃないわよ。似合ってないよ」
「ひどい!」
そんなことを言ってまた僕らは笑う。
試合中とは思えない緊張感のない笑みに僕らはお互いの気持ちを確かめ合った。
「じゃ、行くよ?」
「来なさいよ。ほんとに反撃できないくらいボコボコにしてやるわよ」
僕らは得物を構え、向き合う。真剣な目つきになって見つめ合う僕らの間に緊張した空気が流れる。そして、僕が先に仕掛けようとジャイアントガトリングの銃口を鈴ちゃんに向けた。
その時、轟音が響き渡り、アリーナ全体を揺らすほどの衝撃と共に、砂煙を巻き上げ、何者かが内部に侵入してきた。
突然のことに観覧席は騒然とし、アナウンスでは落ち着いて避難してくださいとも流れてきた。
「……まさか」
僕は知っている、この事件を。それは原作では一巻に起こるはずだったイベント。
「無人機の襲撃……」
砂煙の中に無人機のものであろう影が三つ見られる。
……え? 三つ!?
もう引っ付いたらいいよ(呆れ