鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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二話 カワル想い

 夜。

 

 時間は少し遡り、クラス対抗戦の開催を千冬が告げた日の前日の夜になる。

 

 中国の代表候補生である鈴はその所属している中国の大臣からお叱りの言葉を通話でいただいていた。

 

『あの無様な戦いは何!? 我が国の最新鋭の技術の集大成である甲龍が、日本の欠陥機、それも男なんかに負けるなんて! あなた、代表候補生としての自覚がちゃんとあるわけ!?』

 

「はい」

 

 激昂し、声を荒げる大臣のありがたいお言葉を鈴は聞き流す。そんなことを言われずとも、自身が負けたことは十分理解している。

 

 しかし、大臣は男に負けたというところが気に食わないらしく、やたらと男、男と連呼する。

 

「(欲求不満かって感じよね)」

 

『あなた、ちゃんと聞いてるの!?』

 

「はいはい、聞いてますよ」

 

『なに? 反省してるの? 男に負けたのよ? 尊厳を踏みにじられてるのよ? もっと悔しそうにしなさいよ!』

 

 いったい何の尊厳だというのか。確かにあの試合は負けたものの、その理由もあって、鈴は大臣の言い分をすんなりと受け入れることは不可能であった。

 

「(あーうるさいうるさい。中身がないくせに長いのよね)」

 

 うんざりとした顔をする鈴。ルームメイトであるティナも同情の目で鈴の方をを見ていた。

 

 ノイローゼになりそうなヒステリックな声を聞き続けている鈴は疲れ切っていた。

 

「(あたしだって、どうかしてるとは思うわよ。別に、好きじゃないのに、いや、嫌いでもないけど、一夏より、氷雨のこと考える時間の方が多いし、でも会ったら何か悩んでることがパッと消えちゃって、あれ? あたし、どうしたんだろう……)」

 

 纏まらない思考がぐるぐると頭をかける。それだけならともかく、視界もぐらつき始めたのだ。

 

『ちょっと、聞いてるの、凰! 凰!?』

 

 通話越しの大臣も様子がおかしいことに気づく。そして鈴はベッドに座っていられず倒れ込む。

 

「! 鈴!?」

 

 横にいたティナが近寄り、鈴の額に触れる。

 

「熱がある! だ、大丈夫、鈴!」

 

 眩む視界、虚ろになる意識。そんな中で頭に浮かんだのは誰だっただろうか。

 

「(……わからない)」

 

 その答えは誰かに与えられるものではない。自分で辿りつかなければならないものであった。

 

 頭が回らなくなり、鈴はそのまま眠りに着いた。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 昼休み。

 

 二組。

 

「鈴ちゃん、ご飯だよ! 今日の日替わり定食は、酢豚だよ!」

 

 日課のように元気よく飛び込む僕に二組の人はもう驚きもしない。むしろ、それが日常の一部のように当たり前のものになっている。

 

「って、あれ? 鈴ちゃんがいない?」

 

 いつもなら、うるさいと注意しつつ立ちあがるはずの鈴ちゃんなのに、今日はその言葉が聞こえてこなかった。

 

「あ、ティナさん。鈴ちゃんどこ行ったか知らない?」

 

「え、あ、え~と、う、ううん分かんないな~」

 

 ? なんでそんな反応するんだろう。

 

「鈴なら今日は休みやで」

 

「熱出して、寝てるって、フヒヒ、心配」

 

「浅はかなり」

 

 え、熱出して休み?

 

「ああ! それ、篠ノ之くんには言っちゃダメって言ったじゃない」

 

「え、なんで僕に言っちゃダメなの?」

 

 ティナさんに僕は聞く。そんな一大事を秘密にする理由、それ相応のものじゃないと僕はちょっと怒っちゃうよ?

 

「うう、鈴に言われたの」

 

「え、鈴ちゃんに?」

 

「うん。篠ノ之くんが知ったら授業サボってでも来そうだからって」

 

「あ、せやったわ」

 

「ひひっ、わざとばらした」

 

「浅はかなり」

 

「もー」

 

 鈴ちゃん、そんなこと考えていたのか……。けど、鈴ちゃんはちょっと僕のことを見誤っているね。

 

「僕は授業サボったりしないよ?」

 

「え、そうなの?」

 

「当然だよ。うちの担任は千冬さんだからね。サボったら後でどんな目に合うか……」

 

 考えただけで背中からいやな汗が噴き出しちゃうね。

 

「そ、そうだよね~。いくら篠ノ之くんでもさぼったりは……」

 

「だから堂々と早退するよ!」

 

「結果は変わらない!?」

 

 そう言うわけだから、二組の皆さんバイバイ!

 

「ああ、ちょっと!」

 

 音を置き去りにするかのごとき速さで、僕は職員室に向かった。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 職員室。

 

「早退します!」

 

「理由は」

 

「多分、お腹が痛いんです」

 

“スパン”

 

「多分とは何だ、馬鹿者」

 

 い、痛い。頭が痛い……。

 

「だ、だって、ナノマシンで健康過ぎて、仮病が使えないんだもん……」

 

「知るか。で、本当の理由はなんだ」

 

 う、流石にお見通しですね、千冬さん。

 

 

「鈴ちゃんが熱を出してるからです」

 

「……それとお前の早退に何の関係がある」

 

「大ありですよ、千冬さん!」

 

“スパン”

 

「織斑先生だ」

 

 あ、頭が割れる……。どんな叩き方したら出席簿でここまでの威力が出せるのか知りた……くはあんまりないかな。

 

「ね、熱を出して寝てるときって心細いじゃないですか。だから、僕が行ってあげないと、鈴ちゃんが寂しくて死んじゃうんですよ」

 

「あいつはウサギかなにかか」

 

「ウサギよりかわいいです」

 

「そうか……」

 

 なんで呆れ顔?

 

「はあ、お前は本当に馬鹿だな」

 

「それが取り得って箒に言われました」

 

「よく分かってる妹だな」

 

 肯定された!?

 

「思った通りに行動できる奴はそこまでいない。大体のやつはいらん思考が邪魔して、本当にやりたいことをないがしろにしてしまう」

 

 千冬さんはため息をひとつつく。それは呆れているというより、諦めたような感じだ。

 

「お前のその一途さはなによりの武器だな」

 

「僕の武器……」

 

 そんなこと言われたの初めてだね。

 

「で、早退したいんだったな」

 

「はい。でも、その理由が……」

 

「今、どこか痛むとこはないか?」

 

 痛む所なんて……はっ!

 

「頭……頭が割れるように痛いです」

 

「そうか。なら、部屋に戻って療養に努めろ。良いな」

 

 どの部屋かも、誰の療養かも指定しない。流石、千冬さん。

 

「ありがとうございました」

 

「お礼を言うところではない。早く行け」

 

「はい」

 

 千冬さんに促され、僕は職員室を後にした。

 

 

 

 

 

「織斑先生」

 

「山田先生。どうかしましたか」

 

「見てましたよ。私感動しました」

 

「……何のことか分かりませんね」

 

「またまた~。甘いのは一夏君だけじゃないんですね」

 

「山田先生、昼食は済ませましたか? 食後の運動に少し付き合ってもらいたいのですが?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 二人は仲良しです。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 鈴の部屋。

 

 部屋の中には布団の中で眠る鈴がいた。

 

 不意に目を覚ますと、額にひんやりとした感覚があったので、何だろうかと鈴は確認する。

 

「……タオル?」

 

 時計を見ると時刻はまだ授業時間を指していた。

 

「(ティナが心配して来てくれたのかな)」

 

 そんな風に考えるのは当然であったのに、不意に視界に現れたのは全く予想外の人物であった。

 

「あ、鈴ちゃん、起きた?」

 

「! ひ、氷雨!?」

 

 驚いて身体を起こそうとするも、それは氷雨の手によって妨げられる。

 

「ごめんね、驚かせちゃったね。でも、まだ寝てなきゃだめだよ? 熱は少し下がってるけど、まだあるからね」

 

「あ、あんた、どうして……」

 

 ティナには口止めしたはずだ。氷雨が知ったら必ず来るだろうと思ったから。今は氷雨に来てほしくなかったから、それを防ぎたかったのだ。

 

「あ、うん。ティナさんは何も言ってないよ? 他の子から聞いただけ」

 

 そんな風に氷雨は先回りして答える。

 

「あ、タオル換えるね」

 

 そう言って氷雨は鈴の額のタオルを取り、汲んできたであろう水に浸し、絞ったタオルを再び鈴の額に乗せた。

 

「ありがとう……」

 

「いえいえ」

 

 そう言うと、氷雨は黙った。

 

 いつも騒がしいだけの氷雨が黙ることに鈴はなんだか新鮮だった。氷雨は彼なりに考えて、鈴の療養を邪魔しないように静かにしている。それが、なんだか鈴は気持ち悪かった。いつもと違う一面を見せられると、なんだか鈴の氷雨に対する気持ちが変わってしまいそうで、不安になるのだ。

 

「氷雨……」

 

「なに?」

 

 いつもと違う、穏やかで優しい声。こんな声も出せるのかと少し驚く。

 

「何か、しゃべってよ」

 

 そう鈴に言われて氷雨はしばし思案顔になる。

 

「この前の映画は面白かったね」

 

「あんたのリアクションがね」

 

「え、な、なんのことかな? ぼ、僕は静かに映画見てたけど?」

 

 わざとらしく泳ぐ視線に鈴はくすりと笑う。

 

「まさか、ホラーが苦手だったなんてね」

 

「そりゃ、ホラーってジャンルは人を怖がらせるためのものだもん。むしろ、怖がるのが正解で、QEDだよ」

 

「あはは、確かにそうかも」

 

 そんな他愛のない会話が、弱っている鈴には心地よかった。

 

「また、行きたいね」

 

「ホラー映画に?」

 

「違う違う」

 

 氷雨は笑いながら否定する。

 

「遊びにだよ。鈴ちゃんと遊びに行くの、すごく楽しかったもん」

 

「はいはい」

 

 いつものべた褒め。それが本心であることは鈴も分かっているが、氷雨がそれに対するリアクションを要求しないので、鈴も気楽に受け取る。

 

「だから、早くよくなってね」

 

 氷雨は再度タオルを取り換える。

 

「弱った鈴ちゃんも可愛いけど、やっぱり元気な鈴ちゃんが一番だからね」

 

 そう言って微笑みかける氷雨。その笑顔に鈴は顔を赤くする。

 

 それは鈴が弱っているからという一因もある。弱っているときに、氷雨の一途でまっすぐな心配する気持ちはなかなかにくるものがあり、鈴は不覚にもドキリとしてしまった。

 

「? 鈴ちゃん、また熱がぶり返した?」

 

 そう言ってタオルをどけると、氷雨は片方の手を鈴の額に、もう一方を自身の額に当てる。氷雨の手が触れることによって鈴の顔はさらに熱を放つ。

 

「う~ん。上がったかもね。ごめんね、僕が寝てるところ邪魔しちゃったからかな」

 

「う、ううん。そ、そんなことないわよ」

 

 なんで必死に否定しているのだろう。そんな疑問がふって湧かないこともないが、鈴はそれを否定しなければと思っている。

 

 それはなぜか。それが分かれば、鈴は苦労していないのだ。

 

「じゃあ、僕は水を変えて、食堂に氷を貰ってくるけど、鈴ちゃんは寝てるんだよ?」

 

「い、言われなくても分かってるわよ」

 

 退出する間際、氷雨は笑顔で手を振っていた。鈴は紅い顔を半分布団で隠しつつ、それに手を振り返すのだった。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 夜。

 

 次に鈴が目を覚ますと、そこには氷雨の姿はなく、時計は7時くらいを指していた。

 

「あ、鈴、起きた?」

 

「ティナ。……あいつは?」

 

 目を覚ました鈴は部屋を見渡し、氷雨の姿が見当たらないことに気づく。

 

「篠ノ之くんなら、私が帰った時に後はよろしくって出て行ったよ」

 

「そっか……」

 

「え、なに? 一緒にいてほしかったの?」

 

「ばっ。そんなわけないじゃない!」

 

 ティナの言葉に反応して突然起き上ると、頭がくらくらした。

 

「ああ、ごめんごめん。冗談だから」

 

「ったく」

 

 ふと視界の端に机の上に置かれた小さな鍋が現れた。

 

「あれは?」

 

「あ、そうそう、これ氷雨くんが置いて行ったおかゆだよ。食欲あるなら食べる?」

 

「うん」

 

 そう鈴が答えると、ティナはトレイごとおかゆを持って来る。

 

 ふたを開けると、見るからに冷めているおかゆ。あの氷を取りに行った時に持ってきたのだろうか。

 

「……」

 

 これを誰が作ったのか、食べなくても分かった。

 

『鈴ちゃんLOVE』

 

 海苔で書かれたその文字に、メイド喫茶かよと突っ込みを入れたくなった鈴であったが、その文字を崩しつつ、蓮華でおかゆを口に運ぶ。

 

「おいしい」

 

 弱っていたから、一時の気の迷い、そんな言い訳もあるかもしれない。でも鈴は、気付いてしまった。向けられた好意に自分はどう感じていたかを。

 

「早く元気にならなきゃね」

 

 呟いた言葉は鈴の心に自然な形で吸い込まれていった。

 

 

 




エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア

いやいや、まだ気が早かったですね!
でもやっとこさここまで来れました
これもひとえに皆様の応援のおかげです!

ご愛読、ありがとうございました!

―完―


氷雨「……え? 続くよね
うん、続くね


実はこの話、鈴の体を拭いてあげると言うイベントを作るつもりでしたが、そこから先は有料らしく無理でした

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