鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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始まる想いと終わるモノ
一話 始まりを告げる


 深夜。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは先日、クラリッサとの作戦会議で言われたことを実行に移そうと動いていた。

 

『妹……ですか』

 

 クラリッサの声は困惑というよりはなるほど、とどこか納得したようなものであった。

 

『さすが隊長が見込んだ男性ですね』

 

 そうして始まった会議の結論はこうだ。

 

 夜に枕を持って兄の部屋に行き、『一緒に寝てもいい?』と、言う。

 

 だが、この寮ではそれは難しい。なぜなら、ここを管理するものが千冬であるからだ。故に、行動を起こすのは千冬が自宅に帰ってからである。

 

 氷雨の部屋の前にたどり着く。むろん、扉には鍵がかかっているが、ラウラは難なく開錠し、侵入する。

 

「(お兄ちゃんは……ここか)」

 

 氷雨の姿を認めると、ラウラは布団の中に潜り込む。

 

「(暖かい……)」

 

 温もりを感じ取り、目を閉じる。すると、不意に氷雨の手が動きラウラの頭をそっと撫でた。

 

「(ん……。起きているのか?)」

 

 そう思い顔を伺うも氷雨は気持ちよさそうな寝顔を見せるだけであった。

 

 氷雨の手を不思議に思うも、ラウラはその手に安心感を覚え、眠りについたのだった。

 

◇   ◇   ◇

 

 朝。

 

 朝が覚めると布団の中にラウラがいた。夜のうちに入ってきたのはうっすらと気づいたけど、追い出せなかった。だって、枕を抱いて布団にもぐりこんでくるんだよ!? 誰がそれを無下にできるっていうのさ!

 

「ほら、ラウラ。朝だよ」

 

 布団の中で丸くなるラウラの頭を撫でつつ呼びかける。すると、ラウラは僕の声に反応するように身を震わせる。

 

「んん……」

 

 眠たそうに目を擦り僕の方に焦点を合わせる。まだうっすらとしか開いていない目は僕の後方辺りに焦点が逸れている。

 

「おはよう、ラウラ」

 

「おはよう、お兄ちゃん……」

 

 声からも寝起きの感じが伝わってくる。僕は立ち上がり、洗面所へ向かう。ラウラもそれに追従するようについてくる。

 

 二人で顔を洗うと不意にラウラが懐から何かを手渡してくる。

 

「これは……」

 

「お兄ちゃんが私にくれた櫛だ。梳いてほしいのだが……」

 

 窺うようにラウラの瞳は僕を捉える。

 

「いいよ、座った方が楽だから、ベッドの方に戻ろうか」

 

「うん」

 

 僕の提案に頷くと先にベッドの方へ駆けて行った。

 

「一夏起こさないようにね~」

 

 小さな声で注意するも、熟睡している一夏の寝顔を見てその心配はなさそうだと安心する。

 

“パシャリ”

 

「何をしているのだ、お兄ちゃん」

 

「ん? 一夏の寝顔写真をってるんだよ」

 

「それに何に意味が?」

 

「需要と供給だよ。これのおかげで、暴走を抑えてるんだよ」

 

「何の暴走かは分からんが、必要なら仕方がないな」

 

 もの分かりのいい妹で助かるね。

 

「じゃ、座って」

 

「うむ」

 

 僕の隣をポンポンと叩いて、そこに座ることを促したつもりなんだけど、ラウラは何故か僕の膝の上にちょこんと座った。

 

「ラウラ? なんで僕の上に座ったの?」

 

「ん? この方が梳きやすいだろ?」

 

 なるほど。なんとも合理的である。僕も別段それを止めさせる理由もないのでそのままラウラの髪を梳き始める。

 

「ラウラの髪は綺麗だね」

 

「そ、そうか?」

 

 カーテンからこぼれる朝日に照らされ、キラキラと光る銀髪はなかなかに美しいものだった。

 

「櫛もすーって通るし、櫛要らずだね」

 

「そ、そんなことはない!」

 

 なぜか僕の褒め言葉に過敏な反応を示すラウラ。あれ? 髪を褒められるのは嫌いだったかな?

 

「お兄ちゃんからもらった櫛が必要ないはずがない」

 

 語気を強め、僕にそう主張してくる。ラウラの言いたい事が分かり、僕は嬉しくなって頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「嬉しい事言ってくれるね、ラウラは」

 

 目を細め、気持ち良さそうにするラウラ。しかし、折角櫛をかけた髪は台無しだ。

 

「あ、ごめん。髪、くしゃくしゃになっちゃったね」

 

「いい。お兄ちゃんに梳いてもらう時間が増えただけだ」

 

 何故か嬉しそうにするラウラ。そんなもんかな?

 

 女の子の髪は安易に触ると嫌がられるみたいだけど、ラウラはそう言う感じじゃないのかな?

 

 そうして、ラウラの髪を梳き続けていると、一夏がもぞもぞと動きだす。

 

「一夏、おはよう」

 

「んん……氷雨、おはよう……ってあれ? なんでラウラがここにいるんだ?」

 

 目を擦り、僕の方を見た一夏はラウラがここにいることに疑問を覚える。

 

「貴様に説明する必要はない」

 

「こら、ラウラ。なんでけんか腰なのさ」

 

 知ってはいるけれど、ラウラは千冬さんの経歴に泥を塗った一夏のことをあまりよく思っていない。だけど、その傾向は以前よりはずっと弱い。千冬さんに依存するということを止めたからだ。

 

 まあ、そんなことを言ってもやっぱりきっかけがないと態度は改まらないようで、一夏に対しては厳しめの口調になることがしばしばある。

 

「私はまだ、こいつを教官の弟と認めていない」

 

「認めるも何も、それを決めるのはラウラじゃないでしょ」

 

「しかし……」

 

「それ以上言うと、もう髪を梳いてあげないよ?」

 

 そう脅し文句を言うと、ラウラは少しうめいた後、恨めしそうに一夏を睨みつけた。

 

「はは、なんだかほんとの兄妹みたいだな」

 

「ふん、当然だ」

 

 何故か誇らしげなラウラ。

 

 僕はちらりと時計を見る。時間に余裕はあるものの、そろそろ朝ごはんに行かないと混んでくる頃だろう。

 

「さ、朝ごはんに向かうよ。ラウラは一旦部屋に戻って着替えてきてね」

 

「問題ない。着替えなら、この部屋に常備している」

 

 そう言ってクローゼットを開けると、そこにはラウラのカスタマイズされた制服が出てきた。

 

「いつの間に……」

 

「流石軍人ってところなのかな?」

 

 一夏共々唖然とするも、僕は来ている服に手をかけたラウラを素早く止める。

 

「む、どうした、お兄ちゃん。早く着替えるべきではないのか?」

 

「いやいや、ここで着替えるのは遠慮しようね。僕はともかく、一夏もいるんだから」

 

「さらっと自分はセーフになってるあたり、もうほんとに兄だよな」

 

 兄妹だし、その辺は良いよね? え、だめ? まあ、僕も鈴ちゃん以外の着替えに興味はないけど。

 

『自重しましょう』

 

 うおぉ、あ、頭が痛い。そ、そんなこともできるの、ペイルライダー!? これ、危ないってレベルじゃないよ!?

 

「朝から騒がしいな。氷雨らしいけど」

 

 そんな朝から、一日は始まりを告げた。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 HR前の休み時間。

 

「さて、セシリア。今日もやってきたね」

 

「ええ。訓練ですわ。今日こそ、織斑先生にバレないで悪口を言って見せますわ!」

 

 これ、別にバレてもバレなくてもいいんだけどね。セシリア的にはバレないように言う事が目的になっちゃってるのかな?

 

「まあ、バレないに越したことはないけどさ、重要なのはそこまでの精神的緊張ってことを忘れないでよね?」

 

「わ、分かってますわ。チキンを鍛えるんですわよね? 本日食べるものですわ!」

 

「あ、うん。それは別次元の話ね」

 

 今は五月ですよ。

 

「それじゃあ、早速だけど始めていこうか」

 

「ま、まだ心の準備ができてませんわ」

 

「準備して落ち着いちゃったら意味がないんだけど」

 

 まあ、悪口の準備ってことかな?

 

「い、いきますわ」

 

「うん、今回は悪口期待してるからね!」

 

 セシリアは一息つき、深呼吸をする。そして、意を決したようにきりっとした顔つきになるも、これからするのはただ悪口を言うだけだ。

 

「アリーナ付近の自販機にあるあの飲み物を好んで飲むなんて、味覚音痴ですわ!」

 

 飲み物の名前すら覚えてないの!?

 

“スパン”

 

「い、痛いですわ……」

 

「ああ、案の定聞かれてたね」

 

「全く。美味い不味いは人それぞれの好みだ。貴様に言われる筋合いはないぞ」

 

「す、すいません」

 

 ……ん? ちょっと待って、アリーナ付近の自販機?

 

「ひょっとしてセシリアが言ってる飲み物ってドクターペッパーのこと?」

 

「あ、それですわ! シップのような味がすると評判の飲み物ですわ」

 

 千冬さんの方を見る。

 

 千冬さんは僕のアイコンタクトで察したのか、何も言わず出席簿を手渡す。

 

「セシリア……」

 

「なんですの?」

 

“スパン”

 

「いたっ」

 

 無言でひっぱたいて僕は出席簿を千冬さんに返還する。セシリアはなぜ殴られたのか分からず、「えっ? えっ!?」と、僕と千冬さんの顔を交互に見ていた。

 

「俺はそうは思わん。ドクペこそが人間の可能性なのかもしれん」

 

「どういうことですの……」

 

「口は災いの元と言うことだな、オルコット」

 

 今日も一組は平和です。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 HR

 

 教卓の前に立つ千冬さんから連絡事項があるらしい。

 

「前回延期になったクラス対抗戦が来週行われることになった」

 

 その連絡事項に僕は「えっ」と声を上げた。

 

「先生、それはどういう意図でしょうか?」

 

「意図も何もない。だが、学年別トーナメントがトラブルにより中止となってしまった今、実戦を積ませる行事は早急に行うべきと判断したのだろう」

 

 とはいっても、前回の中止理由は専用機持ちが一人しかいないという理由じゃなかったっけ? あ、もしかしてかんちゃんの専用機出来上がったのかな?

 

「クラス対抗戦に際して、二組のクラス代表が変更された。篠ノ之、お前の予想通りの人物だ」

 

「あの、なんで僕、名指しされたの? え、僕=でつないでいいの? やったー」

 

 千冬さんに認められるって、ほとんど公認じゃないですかー。

 

「馬鹿は放っておくが」

 

 え、馬鹿って言われた? 僕が? ははは、その通りですよ。

 

「このクラスにも専用機持ちが増えている。よって、再度代表を選出してもいいが、誰かいるか?」

 

 その千冬さんの問いに立候補する者はいなかった。ああ、よかった。

 

「ふむ、居ないか。おい、篠ノ之。いい加減その殺気をしまえ」

 

「え? あはは、やだなー、殺気なんて出してませんよ」

 

『クラスメイトの心拍数、発汗量、共に上昇してます』

 

 科学的に証明された!?

 

「……とまあ、そう言うわけだ。篠ノ之、代表として恥かしくない戦いをしろよ」

 

「承知しました」

 

 こうして、クラス対抗戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 しかし、これがあんな悲劇を生むとは、今の僕は想像もしていなかったのだった……。

 

 

 

『セルフ死亡フラグは止めましょう』

 

「そうだね」

 




やっと本編か……って読者も思っていると思いますが、私も思っています

というかですね、本編やばい。書きやすくてやばい
書いててとっても楽しかったです


リクエストくれた方には申し訳ないですが、やっぱり条件付きの短編よりも自由に書ける分楽しいんですよね
もちろん、短編は短編で勉強になるので良いのですが、やはりまだまだ力不足な所が多いのが実情ですたい


え、会長編後篇? クリスマスの続き?

……何のことかな?


あ、嘘です
また書き終わり次第更新します

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