鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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完全なセシリア回


星合の七夕祭り その3

 鈴ちゃんと二人で他のみんなを待っていると、向こうの方から手を振りながら駆け寄ってくるシャルとラウラの姿が見えた。

 

「遅れちゃってごめんね」

 

 息を整えながらシャルが申し訳なさそうに手を合わせる。集合時間には遅れているが、別に祭りの時間には間に合っているので咎めることもない。

 

「全く。私の用意は終わっていたが、シャルが存外に手間取ってな。すまない、お兄ちゃん」

 

「いやいや、全く問題ないよ。それと、ラウラの用意はシャルと僕がやったんだから偉そうにしちゃだめだよ」

 

「そうか、それもそうだな」

 

 ラウラが僕の言葉に素直にうなずくと、隣で見ていた鈴ちゃんとシャルが少し笑う。

 

 何か面白いところでもあったかな、と思ってそっちを向く。すると、二人は弁解するように口を開いた。

 

「ああ、いや。その、ほんとに姉妹みたいだねって思ってさ」

 

「姉妹じゃないよ!?」

 

 なんで僕が姉になっちゃってるんですか?

 

「良いじゃない。どっちでも大して変わらないでしょ」

 

「変わるよ、主に性別が! 生物として一番大事な一線を越えちゃってるからね!?」

 

「それこそあんた曖昧じゃない」

 

「いやいや、僕くらい男らしい男もいないと思うよ? ほら見てよ、この惚れ惚れする上腕二頭筋を!」

 

「細いわね」

 

「うん、スタイルが良いって近所のおばちゃんによく褒められたよ」

 

「それ男らしいって言わないわよね?」

 

「確かにね」

 

 鈴ちゃんの鋭いツッコミに論破されていると、シャルが再び笑い出した。

 

「二人の息もぴったりだね」

 

「夫婦漫才か何かか、お兄ちゃん」

 

「そうだよ!」

 

「違うわよ!」

 

 夫婦という単語に反射的に肯定してしまったら、鈴ちゃんが真っ赤になって否定してきました。これは、悲しくて涙が出ちゃうね。

 

『だって女の子だもん、ですか』

 

 いや、そのネタは古すぎる。それに女の子じゃないから、漢だから。

 

『男の娘という人種も存在します』

 

 うん、あるね。……だから?

 

 そんなことをしていると、そろそろお祭りの開始時間となっていた。そんなギリギリの時間にセシリアと箒はやってきた。

 

「おーやっと来たね」

 

「すまない。少し用意に手間取った」

 

 そう謝る箒に僕らは全然気にしていないと言った。そうして大体が集まったのだが、肝心の一夏が来ていないことを箒が指摘する。

 

「一夏は……来ていないのか?」

 

 どことなく残念そうな表情と声色に僕はにやけるのを抑えてその問いに答えた。

 

「うん、ちょっと会場の手伝いでくたびれちゃったみたいで遅れてくるらしいよ」

 

「そ、そうなのか……」

 

 やはり残念そうな顔をする箒。当然だよね。箒が容易に手間取ったのも、多分一夏に綺麗に着飾った自分を見てもらうためだったんだろうし。

 

「まあ、束さん特製の目覚ましをセットして来たからすぐに起きるだろうけどね」

 

「なんでしょう。その篠ノ之博士の特製というのがすごく引っかかりますわね」

 

 セシリアがそういうのも一理あるね。だってあの束さんの作った目覚ましだよ? 普通なわけないよね。ちなみに、僕はもらった後、怖くて使ったことはないです。だから、一夏があの時計の第一犠牲者ってわけだね。

 

「南無……」

 

「手を合わせるって、どれだけ危ないのよ、その目覚まし」

 

 僕は後数分後に叩き起こされるであろう一夏を想像し、手を合わせたのだった。

 

     ◇   ◇   ◇

 

 グラウンド

 

 学園の大きなグラウンドでも、全校生徒が集まるとなるとなかなかに狭く感じる。ステージが組まれ、各部活が運営する屋台が立ち並んでいる。どこもかしこも高いレベルの屋台で、学内限定で開催するのがもったいないくらいだ。

 

「というか、もうこれ学園祭のレベルじゃないの?」

 

「IS学園は行事がお祭りごとが好きなのかもしれんな」

 

 どことなくそわそわして落ち着きのない箒がそう言う。その様子とセリフだけ見たら、箒の方がお祭り大好きに見えるけど、その実ただ一夏がいつ来るかとそわそわしているだけなのが丸分かりだよね。

 

 うーん、ここはお兄ちゃんとして一肌脱ぐのがいいかもしれない。

 

『公衆の面前での露出は捕まりますよ』

 

 物理的に脱ぐんじゃないからね!?

 

 あ、いいこと思い付いたよ。じゃ、この袋に鍵を入れて……っと。

 

「箒、これ僕の部屋の鍵ね」

 

 そう耳打ちしながらこっそり箒に袋を渡す。箒はどういうことだ、と不思議そうな顔になる。

 

「僕がみんなを連れていくから、僕の部屋に行って一夏を起こしておいで」

 

 そう再び耳打ちすると箒は驚いた顔で僕の方を見てくる。僕はそれに微笑みかけたのち、再度耳打ちする。

 

「別に合流しなくていいからね」

 

「氷雨……」

 

 言いたいことを言い終えると、僕は合図を送るようにウィンクする。

 

「気持ち悪いぞ」

 

「おい」

 

 そうして、事を実行に移した。

 

「あ、セシリア、射的があるよ」

 

「射的ですか。なるほど、景品を落として遊ぶものですわね」

 

「これで偏向射撃の特訓しようよ!」

 

「できるわけないじゃありませんの!」

 

「いやいや、できないことはないだろうさ。ね、シャル?」

 

「え、僕? いや、無理じゃないかな? 偏向射撃ってBT兵器特有の技能だし……」

 

「いや、そこはこう、こう根性というかサイコキネシスというか」

 

「もはや偏向射撃でもなくなってるわよ、それ」

 

「ワイヤー付きで射出すればあるいはできるかもしれんな」

 

「有線サイコミュかー、あれにはロマンをひしひしと感じるよね」

 

「あれ? 箒がいないよ?」

 

 シャルがそれに気づく。

適当な話に持ち込んで人ごみの中を移動してたら、うまいこと箒ははぐれたふりをすることができたようだね。

 

「ああ、さっき方向を変えてどこかに行ったぞ。トイレではないのか?」

 

 ……ラウラには気づかれてたみたいだけどね。

 

     ◇   ◇   ◇

 

 会場の外

 

 氷雨に言われたとおりに皆からはぐれ、会場の外に出た箒の心臓は激しく高鳴っていた。原因は走ったからとかではなく、間違いなくこれから一夏のもとへ行き、二人っきりで会えるからというものだろう。

 

 今日という日は箒にとって特別な日だ。そんな日には一夏と二人きりで出かけたいという乙女な願望もあったものの、あいにく学園の行事がかぶってしまったことにより、それは断念するしかなかった。

 

 しかし、まさかあの……あの氷雨の計らいによりそれが実現できるなんて、夢であれば頬を抓って正気を確かめるところだ。

 

 そう感謝をしつつ渡された袋を見る。どうしてこんな袋に鍵を入れていたのか疑問ではある。それは可愛らしい柄のついた紙の袋であった。普通ならお土産物などを入れるような包装であったが、それを氷雨はカギだと言って渡してきたのだ。

 

 そこに少し疑問を抱いて開けてみると、そこに入っていたのは鍵だけではなかった。

 

 袋を傾けて手の上に中身を出すと、鍵の他に琥珀でできたかんざしと一切れの紙が入っていた。

 

「氷雨の奴……」

 

 大体を察した箒はその紙に書かれた文字を読む。

 

『誕生日おめでとう、箒。今日は七夕だね。箒の彦星様と会えるといいね』

 

「ふふっ。いらん世話だ。……ありがとう」

 

 そうつぶやくと箒はその紙を丁寧に折りたたみ巾着に仕舞う。そして手元に残ったかんざしを髪にセットし、兄である氷雨のことを少し見直しながら、一夏の部屋へ向かうのだった。

 

     ◇   ◇   ◇

 

 会場

 

「決まった……」

 

「まさか……ありえませんわ」

 

 そう。ここは射的屋。僕はしたり顔で銃を構えたまま綺麗な星空を見上げる。ああ、あれがデネブ、アルタイル、ベガってね。あの曲は良いよね。不健康そうながはらさん可愛い。

 

「全部外すなんて!」

 

 はいそうですね。僕は射的のセンスはないのですべて外しました。あれだよ? 的に当たったけど落ちなかったっていうわけじゃないよ? グリコのお菓子にもかすりもしなかったよ。

 

「偏向射撃までできるのに何でこれができないのよ」

 

「いや、だってIS乗ってるときはISの補助が付くじゃない? そしたら僕の銃の腕なんていらないじゃない? はい、Q・E・D」

 

「そういうものなのかなぁ」

 

 シャルは笑いながら自身の銃で的を狙う。そして放たれた弾丸は見事にぬいぐるみの眉間を打ち抜き、撃墜させる。

 

「はい、氷雨あげる」

 

「わーい、ぬいぐるみだーって、なんでやねん!」

 

 男の僕にぬいぐるみが似合うと思うの? しかもこんな、抱きしめられるくらいの大きさのトトロが?

 

「え、いらないの?」

 

「ううん、嬉しい。ありがとう!」

 

「えへへ」

 

 なんというか、ぬいぐるみってぎゅっと抱きしめると安心するよね。まあ、大の男がやったらモザイク必須なんだけどさ。

 

 そんなことをしてたら、ラウラと鈴ちゃんにぬいぐるみを抱きしめているシーンを端末のカメラで撮影されてしまった。

 

「ちょっ! 何してるの!?」

 

「いや、あんたがあまりにも似合ってたからつい」

 

「ついじゃないよ! というか、似合ってないからね!」

 

「ラウラ、あとで送ってもらっていい?」

 

「任せろ、シャル」

 

「そこ、取引しない!」

 

 ああ、何たる失態。あんな痴態を後世に残すことになってしまうとは……。

 

「? ……あ、別に女装の時点で手遅れか」

 

「そこに自分で気づくなんて、氷雨さんも成長してますのね」

 

「ありがとう。嬉しくない賛辞だよ」

 

 まったく褒められている気がしないセシリアの賛辞を流す。鈴ちゃん、シャル、ラウラはなんだか僕の写真の話題で盛り上がっている。あそこに突っ込むのはやめたほうがよさそうだね。

 

「そういえば、セッシー。今日は七夕だけど願い事とか決めてるの?」

 

「セッシーってなんですの」

 

 そういった後にセシリアは少し思案顔になる。

 

「こういう行事ではあまり深刻なことは言うものではありませんわよね」

 

「なんでさ。こういう所だからこそ本当の願いを書いておかなきゃ。こんなとこですら偽ってたら、いざという時本当の気持ちを吐けなくなるよ?」

 

 その言葉にセシリアは少し笑う。

 

「いつも本音で語る氷雨さんがいうと説得力ありますわね」

 

「えっへん。……今度はちゃんと褒めてるよね?」

 

「ええ。わたくしからの褒め言葉ですわ。ありがたく受け取ってください」

 

「ははー」

 

 少し大げさにありがたがると、やっぱりセシリアは笑顔を浮かべる。

 

「わたくしの願いは、家名復興ですわ」

 

 セシリアの願いは思うよりも大きなものだった。両親を失ってから、セシリアは家を守るために頑張って勉強したんだっけ。そうして守ってきても、やっぱりセシリアだけの力ではどうにもならないところがあったってことなんだろう。

 

「貴族に生まれたのですから、家を守ること、家名を上げることが当主たるわたくしの役目ですもの」

 

「セシリアは強いね」

 

 その言葉にセシリアは目を丸くする。そして自嘲するような笑みをうかべた。

 

「そんなことありませんわ。弱いから、守れていないのですもの」

 

「いや、そんなことないさ。本当に弱かったら、逃げ出すもん。家名とか、そういうものを投げ出さず戦おうとしてるセシリアは強いし、偉いよ」

 

 それが僕の素直な感想だった。でも、その言葉を聞いたセシリアは少しして涙を浮かべたのだった。

 

「え、ええ! あ、ご、ごめん。なんか悪いこと言っちゃった? ごめんね」

 

 僕は慌てて巾着からハンカチを取り出してセシリアに手渡す。ああ、やっぱり鈴ちゃんの言うとおりかも、僕が思ったことをそのまま言ったら良いことなんてないね。

 

 そんな僕らの様子に気付いた鈴ちゃんたちが僕を責めるように見る。

 

「あんた、なに泣かしてんのよ」

 

「セシリア、大丈夫? もう、氷雨、また余計なこと言ったでしょ」

 

「お兄ちゃんはおとめごころ? というものが分かっていないな!」

 

 そう責められて僕は素直に頭を下げる。でも、ラウラ、分かってないなら無理して使う必要ないんだよ?

 

「ち、違いますわ。氷雨さんは何も悪くありませんわ」

 

 そんな中でハンカチで目元を抑えながら、セシリアが弁明してくれる。

 

「ただ、そんな風にわたくしのことを言ってくれたのは氷雨さんが初めてで、少し……お、驚いてしまっただけですわ」

 

 そう言いながら落ち着いたのか、ハンカチを目元から放し、僕の方を見つめる。まだ赤い目が僕を捕えるが、それは僕を責めているわけではないようだ。

 

「なんだか、今日は満足してしまいましたわ。わたくしは少し一人になりたいので、別行動させてもらいますわ」

 

「え、ええ! や、やっぱり怒ってるの? そうだったらごめんね。何でもするから、許して」

 

「ふふ、なんでもですわね?」

 

 あれ? なんだか不敵な笑みでセシリアさんが笑ってらっしゃるぞ? 嫌な予感しかしないんですが……。

 

「ではまた後日お願いしますわ。ハンカチ、感謝しますわ。これは洗って返しますわね」

 

「え、あ、うん」

 

 なんだか、圧倒されて僕はそう答えるしかなかった。

 

 そうしてセシリアは離れていった。その後ろ姿がなんだか嬉しそうに見えて、僕は少し安心する。

 

「で、あんた何言ったのよ」

 

 そんなセシリアを見送った後は当然の如く鈴ちゃんたちに問い詰められるわけで。しかし、勝手にセシリアのお願いとかを話すのはどうかと思ったわけで。

 

 最終的に僕は三人にかき氷をごちそうすることで決着がついたのだった。

 




これなんですけどね
実はこんな風になるなんて考えてなかったわけですよ
ただみんなの願いを聞いていく話にしようってことしか考えてなかったんですがね
……まさか、セシリアが氷雨くんに惚れるような展開になるとは

ほんとにこれは予想外でした。適当に書いていたらこうなったので氷雨くんのチャラさに驚きです
氷雨「ちょっ!


しかし、セシリアはヒロインにならないのでどうにも申し訳ない気分になりました
けど、セシリアが救われる話も書きたいと思っているので、それの伏線になったかなーとは思います

あとその3くらいで終わると思っていましたが、その4でも終わりませんでした(驚愕

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