鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
ドイツ。
軍の内部ではいつものように作戦会議が繰り広げられていた。
「う。うわあああ、心が、心がピョンピョンしない!」
「副隊長! ごちうさはもう終わりました! 立ち直ってください!」
「ふ、副隊長、報告です!」
「どうした。今副隊長は発狂中だ」
「そ、それがごちうさの二期製作が決定したとの情報が入りました!」
「なにっ!」
部隊員の言葉にクラリッサは即座に反応する。
「そ、それは本当か」
「はい。情報源はツイッターですが、写真に合成跡も見られず、事実だと思われます」
スマホの画面をクラリッサに向け、その写真を示す。
「……この帯、きんモザの帯じゃないかぁ!」
「ええっ!」
よく見ると帯には思いっきりきんモザの作者の名前が書かれていた。
「私のウサギは……いない」
「お姉様ぁああ!」
ちなみに、こんなクラリッサであるが、面倒見がよく、部下からの人望に厚く、親しみを込めて部隊員は『お姉様』と呼んだりもしているが、日本のアニメカルチャーが関わると駄目になる。だが、部隊員にとってはそこも愛嬌なのだ。
と、そんなことをしていると、通信が入ってきた。
流石に副隊長、部隊を任されているだけあって、切り替えは早いらしく、すぐさま凛々しい顔つきになり回線をつなぐ。
「こちらクラリッサ・ハルフォーフ大尉」
『こちらラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ』
通信の相手が隊長であることで部隊に緊張が走る。ラウラが定時連絡以外の通信をしてくるということは、何かしらのアクシデントがあったからだろうと考えたからだ。
「何でしょうか、隊長」
『……その、今まですまなかった』
その予想もしなかった言葉に部隊の一同は驚きを隠せない。
「それは、どういう意味でしょうか」
『私は、私が強くなること、教官のように成ることに必死で周りが見えていなかった。そのせいで、部隊のことに気を配ることを怠り、クラリッサに部隊のことをまかせっきり……。隊長としての自覚が足りなかったと、反省している』
その紡がれる謝罪の言葉に、クラリッサは嬉しそうな顔になる。
成長したのだと、まるで保護者の様な感想を抱いてしまう。それは部隊員たちも変わらないようで、自分たちより一回り小さいラウラが成長したことを喜んでいた。
『本当にすまなかった』
「……いえ、私たちはそのようなこと気にしていません。隊長は隊長なりに頑張っていらしたことは皆が知っています」
ラウラはその言葉にありがとう、と感謝の言葉を述べた。
「それで、どうなさったのですか? まさか、それだけということもないでしょう」
『ああ。相談したい事がある』
クラリッサはどんな相談が来るのかと身構える。
『気になる相手ができた』
その言葉にクラリッサはピクリと反応する。そう、クラリッサのセンサーが反応したのだ。
「それは、男性ですか?」
『ああ』
クラリッサセンサーとは、日本の少女漫画を読みふけることによる擬似体験から形成された根拠のない恋愛センサーである。
『だが、私はこれがどういった感情なのか分からない。だから、どうすればいいのか分からないのだ』
「では、私の質問に答えてもらえますか?」
クラリッサはラウラに問う。
「その男性のことをいつも考えてしまいますか?」
『ああ、(その強さがどこからくるのか)考えている』
「その男性のことを目で追ってしまいますか?」
『そうだな。(どんな動きをしているのか)目で追っていたな』
ここまでの質問でクラリッサはすでに確信していた。
「最後に、その男性のことを思うと、胸がドキドキしますか?」
『……』
その質問への解答にラウラは時間をかけた。その余韻が、クラリッサをさらに確信させている。
『そうだな。鼓動が早くなるのを感じる』
ラウラは学年別トーナメントのあの戦いを思い出す。あの時の氷雨の鬼神の如き攻めは思い出すだけで、ラウラの胸を高める。
「それは……」
クラリッサの目は輝きを増す。
「それは恋です!」
『恋……』
「そうです。相手をいつも考えてしまい、つい目で相手を追ってしまう。決定的なのは、相手を思うと胸がドキドキする。これらから、隊長の感じているものは恋であるにちがいありません!」
そう私のバイブルに書かれています、と心の中でクラリッサは付けたす。
『な、ならば私はどうすればいいのだ』
「それは、今からお教えしましょう。長くなるので、ゆっくりできる場所に移動してから、再度通信を繋いでください」
『分かった』
そう言い、通信は途切れる。
「皆、よく聞け!」
その声に部隊員は整列し、姿勢を正す。
「ごちうさは終わり、私たちの心は長らくぴょんぴょんしていなかった」
その言葉に何言ってんだこいつと首をかしげる者はいない。
「だがしかし、我々は再び心をぴょんぴょんさせることができる」
クラリッサの熱弁は終わらない。
「隊長という可愛い黒うさぎが我々のもとには帰って来たのだ!」
その言葉に歓声が上がる。
「これより、我ら『シュヴァルツェ・ハーゼ』は隊長の支援に入る!」
そして、クラリッサの恋愛相談が始まるのだった。
◇ ◇ ◇
休み時間。
午前の授業が終わりを告げ、隣ではぐったりと机に突っ伏す一夏がいた。
「……放課後は特訓の前に勉強会の方がいいかもね」
「いやいや、これでも結構勉強してるんだぜ?」
それは同じ部屋なので知っている。置いて行かれないようにと、晩御飯が終わると僕がテレビを見て笑っている横で復習をしたりしている。まあ、一夏が勉強を始めると流石に僕もそっと部屋を出て行き、鍛錬したりしている。
「でも、新しいところに来るとやっぱり一回じゃ理解しきれないんだよな」
「一回で理解できるほど簡単な内容じゃないからね」
そんなことを言いつつ、僕は後ろを振り返る。ラウラの席は空席だ。やはり昨日の今日、学校には来られないのかな?
とか何とか思っていると、教室の扉からラウラが入ってきた。
「あ、ラウラ」
良かった、元気そうだね。怪我とかしてるかとも思ったけど、そんなこともなかったんだね。
つかつかと歩みを進め、その進路は一直線に僕の方に迫っていた。
「?」
そのまま言葉を発することなく、僕の席の前に立つと、いきなり顎に手を回され、ラウラの顔が近づいてくる。
って、今回もこういう感じなのか!
「緊急回避!」
ギリギリのところで顔を背ける。しかし、ラウラの方は止まらないわけで、柔らかい温もりが頬に伝わる。
「お、おいっ!」
そんな一夏の驚きの声を封切りに、クラスは騒然とする。
ざわつくクラスメイトなんて眼中にないかのようにラウラは僕の方を見据える。
「な、なに?」
「お前を……」
あ、このセリフ聞いたことあるような気がするぞ。
「お前を、私の嫁にする!」
その衝撃的な言葉に静まり返る教室。そしてワンテンポ遅れてそれに対する反応は現れる。
「「「はあっ!?」」」
クラス一同、同じ反応でなんとも一組の団結力を感じるね!
て、そうじゃないそうじゃない。
「ラウラ、その嫁って言うのはおかしいと思うんだよね」
「なぜだ? 日本では気に行った相手を自分の『嫁』と言うと聞いたぞ」
おのれ、クラリッサ。日本の文化を間違って教えて……ないね! その通りだね! 鈴ちゃんは僕の嫁!って僕も前世で言ってたからね。
「だから私はお前を嫁と呼ぶ」
そう言って腕を組むラウラ。フンスと鼻を鳴らしそうなくらい堂々としてるね。
「いや、駄目だよ」
そう言って僕は立ち上がり、ラウラの肩に手を置く。
「僕のことは……」
その前置きにクラス一同は息をのむ。
「お兄ちゃんと呼びなさい!!」
僕の言葉に、教室が再び静かになる。しかし、またしても反応はワンテンポ遅れてやってきた。
「「「はあっ!?」」」
「天丼だね!」
そんな中、ラウラだけは神妙な顔つきになる。
「……お兄ちゃん。なるほど、了解だ、お兄ちゃん」
あ、これいいね。なんだか新鮮だよ。
「ちょっと待て!」
そう荒々しく立ち上がるのは我が妹、箒だった。
「箒もお兄ちゃんって呼んでみて?」
「氷雨は黙っていろ!」
うぅ、辛辣な物言いだよ……。実の兄になんて物言いなんだ……。
僕は沈み込んで机に突っ伏した。ああ、ひんやりして気持ちいいな~。
「なんだ」
「なんだではない。嫁だとか妹だとか訳の分からないことを言って……氷雨の妹は私だ!」
え、デレた?
「ふん、貴様には関係のないことだろう。私はお兄ちゃんに話している」
「だから、そのお兄ちゃんと言うのをやめろ!」
う~ん。このまま箒とラウラの関係がこじれるのは避けたいけど、ラウラの呼ばせ方を変えることはできるのだろうか。……原作で散々一夏がやめろって言っても止めなかったし、それは難しいか……。
「ラウラ、こういうときはこう言うんだよ」
僕は上目遣いで箒を見る。そして……
「お姉ちゃん」
精一杯可愛いと思われる声を出してみる。
「気持ち悪い」
『反吐がでます』
しかし、箒の反応は淡白なものだった。ペイルライダーの反応はいつも通りの様な気がするけど。
「こ、こうか?」
そして、ラウラは僕の真似をして上目遣いに箒を見つつ、
「お姉ちゃん?」
そういった瞬間、クラスの全員のラウラに対する印象が変わる。
それまではあの高圧的な物言いや鋭い眼光から「怖い」という印象を受けていた一同であったが、今この瞬間、それは変化した。
「「「(か、可愛い)」」」
そうして、ラウラは畏怖の対象ではなく、愛でる対象へと変化した。
そんな印象を受けたのは箒もだったらしく、なんだか頬がぴくぴくと震えており、にやけそうなのを我慢しているのが丸わかりだ。
その顔をニヤニヤとして眺めていると睨まれました。
「ま、まあいいだろう」
いいんだ。
いや、その方がありがたいけどね。
こうして、ラウラが妹になったんです。
◇ ◇ ◇
夜。
廊下。
昨日買いに行く暇がなかったからドクペ飲めなかったんだよね。だから禁断症状がでそうで怖いんだよね……。
『その飲み物に中毒性の強い成分は含まれていないはずですが』
「そんな科学で解明できるものじゃないんだよ、ドクペはね」
『そういうものですか』
「そういうものですよ」
廊下を進み、自販機のある休憩室へ向かう。
「あれ?」
そこにたどり着くと見慣れた人物が先客にいた。
「千冬さん?」
「ん、氷雨か。どうした、お前もこれか?」
そう言って千冬さんが自分の手に持っているドクペを見せる。それに僕は笑って頷く。
「ですね」
僕の答えを最初から分かっていたのか、千冬さんはもう一本を取り出し、僕の方に投げる。それを僕は顔で受けとめてから拾い上げる。
「……すまんな」
「いや、僕が疲れてるだけなんで大丈夫ですよ」
自販機の前にあるベンチに千冬さんが腰掛ける。なので僕も隣に座る。千冬さん、横に並ぶと分かるけど、意外と大きいのね。あ、背丈の話しだからね。あっちは意外でも何でもないからね。
「感謝している」
「え?」
いきなり切り出されたその言葉に僕は心当たりがなくて戸惑う。
「ラウラのことだ」
「あ、ああ」
ラウラね。
「あいつは私がドイツ軍にいた時の教え子だった」
「あ、その話長くなります? ドクペ飲んでていいですか?」
ペットボトルで頭を小突かれた。
「構わんさ」
「構わないなら殴らないでくださいよ……」
キャップを捻り、口を付ける。ああ、この医務室にいるかのような味が安心するんだよ。
「その時のこともあり、あいつは私に依存していた。それがこんな結果になるとは思わなかったがな」
「ごくごく、ぷはぁ。それは千冬さんのせいじゃないですし、誰も咎めようとはしないですよ」
悪いのはそんなシステムを積んだ技術者たちですよ。
「そうかもしれない」
千冬さんも一口ドクペを飲む。
「ラウラはお前を好いてるらしいな」
そんなことをいきなり言い出す千冬さんに違和感を覚える。
「聞いたぞ。妹にしたらしいな」
「ぶほっ!」
口に含んでいた分のドクペを吹き出す。な、なんでもう千冬さん知ってるんですか!
「ラウラが直接いいに来たぞ。よほど嬉しかったのだろう」
「いやいや、そんな嬉しがるようなことでもないでしょ?」
「少なくとも、ラウラにとっては嬉しいことだったわけだ」
……そうかもしれない。だって家族なんていないもんね。いままでのラウラには千冬さんとの繋がりしかなかったもんね。
「だとしたら、軽率だったかな」
「なに。お前なら上手くやるだろう」
「結構無責任に信頼してくれますね」
でも、千冬さんにそう言われたら、心強いね。
「ところで、昨日ドイツのある研究所が潰れたらしいぞ」
「へえ。物騒な世の中ですね」
「ドイツ軍の報告によれば、死傷者0人。にもかかわらず、研究所はその機能を完全に破壊された」
「それはなんとも手際がいいですね」
「その襲撃者を見たものはこう言ったらしい」
もったいぶる様に、そして試すように千冬さんは僕を見る。
「蒼騎士が来た、と」
「………」
こっちを見据える千冬さんにニコニコと笑顔を返す。
「ラウラのこと、感謝してるぞ」
「さっきも聞きましたよ~」
笑顔を崩さない僕に千冬さんはなぜか呆れ顔だった。
「頼んだぞ」
「当然ですよ。だって……」
飲み終えたドクペをゴミ箱に投げる。外れたので立ち上がり、千冬さんを見下ろす。
「お兄ちゃんですから」
はい、長々とした学年別トーナメント編はこれにて終了です!
読んで下さった皆さん、お疲れ様でした
あとがきは色々書きたいのでまた夜にでも活動報告に上げます
あ、次回更新はお気に入り1000記念短編をお贈りします
そんなこと言ってたらもう2000近いのですが……