鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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十四話 差し伸べられるは誰の手か

 ……………………

 

「すっかり忘れてた!!」

 

『何をですか?』

 

 鈴ちゃん馬鹿にされた所からもうラウラのVTとか、手加減とかポンっと抜け落ちてたよ!

 

 ああ、どうしようどうしよう。う、うわあ、あのかっこよかったシュヴァルツェア・レーゲンがドロドロに溶けてもう跡形もないんだけど……。

 

 形成されるのは千冬さんの動きをトレースした偽物。

 

「ま、まあ? 偽物だし? 数年前の千冬さんの動きだし? い、今の僕の方が数段強いよね~」

 

 そう思っていたら、一瞬で肉薄される。

 

「っ!」

 

 振り下ろされる剛の剣は受けとめられそうもない。

 

「い、瞬時加速!」

 

 横に吹かし、回避したうえで距離を取る。

 

『どうしました?』

 

 無言で手を横に振る僕。

 

「いや無理無理無理無理」

 

 え、あれ、本当に偽物? めちゃくちゃ早いんだけど。

 

「というか、え? 表示ミスかな? ラウラのシールドエネルギーが……」

 

『はい。回復しています』

 

 馬鹿なんじゃないかな?

 

「いや、もうベクターキャノン使えないよね?」

 

『そうですね。砲身の排熱には時間がかかります』

 

「だよ……ねっ!」

 

 会話中にもVTラウラは切りかかってくる。あ、でもモーションだけなら避けられないこともないね。

 

「いや、でもこれじゃじり貧なんだけど……」

 

 増援待つ? それが賢明だよね。

 

『……いや……だ……』

 

 ? 今、声が……。

 

『また……あの頃に……戻るのは……』

 

「! これって、ラウラから!?」

 

『発信源特定。はい、恐らくコアネットワークから直接のようです』

 

 コアネットワーク? つまり、今ラウラはそっちに意識があるの?

 

「ペイルライダー。これって結構まずい状況?」

 

『……防戦に専念すれば増援までは確実に持ちます』

 

「違う!」

 

 振り下ろされる剣にビームブレードを添え、その剣の軌道を僕からずらす。

 

「ラウラのことだよ!」

 

『……普通では起こり得ない状況ではありますが、VTシステムの発動によって彼女の意識が取り込まれているのであれば……』

 

「バックステッポ!」

 

 横に薙ぎ払われた剣を紙一重で避ける。あれは当たってたら絶対防御あっても骨が折れてたね。

 

『時間が経つにつれ、彼女の意識が戻らなくなる危険性は増します』

 

「っ!」

 

 それなら、増援を待っている暇はない。かといって、このエネルギーじゃまともにやり合って勝てる気はしない。

 

 一夏がここに来て一撃で仕留めてくれれば万事解決だけど、これだけ経ってここに来ないということは誰かに止められているのかな?

 

「ペイルライダー、コアにラウラは取り込まれているんだよね?」

 

『意識だけですが』

 

「前にさ、シャルにやったあれ、できる?」

 

『無茶です』

 

「できるんだね」

 

 “無理です”ではなく、“無茶です”とペイルライダーは言った。つまり、危険はあるものの、できないわけではないのだ。

 

『……ですが、接触できなければリンクもできません』

 

「コアネットワークっていつでも繋がってるんでしょ?」

 

『システムの解除にこちらの戦闘システムの制御、どちらもを並行して行うとなると、接触は不可欠です』

 

 なるほど。どちらか片方ならできるということか……。

 

「なら、ペイルライダー、僕の意識をあっちのコアに飛ばしてくれる?」

 

『正気ですか?』

 

 威力を抑えた鋭い連撃が迫る。二刀のビームブレードをその一閃一閃に這わせ、当たらないように弾く。

 

「こっちのシステムを放棄されたら僕の体はひとたまりもないからね。それなら、僕がそっちをやるしかない」

 

『……了解しました』

 

 え、ペイルライダーじゃ、防げないんじゃないかって? 多分大丈夫だと……。

 

 あ、意識が……遠のく。

 

『転送後は、彼女を思いながら進んでください。そうすれば、辿りつきます』

 

 あ、はい。そんな胡散臭い空間だったのか、コア。

 

◇   ◇   ◇

 

 ざぶん。

 

 そんな擬音が似合うような抵抗を全身が受ける。光は届かない。厚い厚い水が阻み、光が失われている世界が広がっている。

 

「ラウラ……こんな世界に、君はいたんだね」

 

 あの頃に戻りたくない。それがここ。千冬さんはこんな所からラウラを救い出したって言うの?

 

 それは途方もない深さだった。僕の体感時間と現実の時間が一緒ではないことを祈りながら、ラウラの元へ急いだ。

 

 そして見つけたラウラは誰かの手を握り、丸まって震えていた。

 

「ラウラ?」

 

 その声に彼女は反応しなかった。聞こえていないのだろうか。しかし、返事の代わりにラウラは呟く。

 

「いやだ……暗い……私は……強い」

 

「ラウラ!」

 

 もっと近づく。もう直接引っ張るのが一番だよね?

 

 だが、それは何者かの手によって阻まれる。

 

 その手の主に目を向ける。光が僅かしか届かないのでうっすらとしか捉える事ができない。だが、よく目を凝らせば見えた。この手は千冬さんの手だ。それも、全身真っ黒の。

 

「ホラーだよ!」

 

 そんな突っ込みを入れつつも、どうやってラウラを連れ戻すかを思案する。

 

「ラウラ、君は十分強い。だから、もうそんな手にすがる必要なんてないよ!」

 

「私が強い……」

 

 お、反応した。

 

「そうだよ。ラウラは強いよ!」

 

「だが、私は負けた。負けたら……また、あの頃に……あの頃に戻ってしまう」

 

「あの頃?」

 

「いやだ……あの目は……もう……」

 

 ここまで追い詰められる、それはどれほどの痛みを伴っていたのか。それでも、その目はここには無い。今のラウラに、そんな目を向ける人はいない。

 

「今は今でしょ!? 昔のことばかり気にしてどうなるって言うのさ!」

 

「私は、教官に憧れ、教官みたいになりたくて……」

 

 助けてくれた、自分を闇から救ってくれた人だから、千冬さんみたいになりたいのは分かる。だからって、こんな形で手に入れても、意味はないよ。

 

「あの時差しのべられた……あの手に……」

 

 ラウラはまた昔に戻ってしまうと、そう思ってまた千冬さんに縋っている。そんな弱みに付け込んだVTシステムがこのホラー千冬さんなのか。

 

「もう、昔に捕らわれる必要なんてないよ。今のラウラにその手は必要ない」

 

 その手はどう見ても悪魔の手だよ。力って言うのはそんなポンっと渡されるものじゃないよ。……て、僕が言っても説得力に欠けるね。転生者だもの。

 

「あの頃を忘れてしまったら……今の私が崩れてしまう……」

 

 痛みを伴った記憶は、いつまでも忘れられない。嬉しいことや楽しいことは綺麗に忘れてしまうのに。……いや、転生者なんて一生分の過去を捨ててますけどね?

 

「大丈夫だよ!」

 

 僕は声を張り上げる。ラウラの弱気をかき消すように。

 

「え……」

 

「その傷は、ラウラが忘れようとしたって消えはしない。消えないで残って、それでラウラの今を支えてくれるんだ」

 

 なんだか自転車を頑張ってこいでいた頃を思い出す。何度もこけて、擦り傷をたくさん作って、それでもまた前に進もうとして……。そうやって乗れるようになったその結果は一生モノなんだ。

 

「それでも、まだ立てないなら、手くらい貸すよ」

 

 僕ができることはそれくらいのもの。黒千冬さんに阻まれつつも、精一杯ラウラの方へ手を伸ばす。

 

「僕の手は千冬さんほど優しくない。どこかに連れて行ってあげることも、連れ出してあげることもできない」

 

 ラウラは僕の手を見つめる。僕の手は千冬さんほど頼もしそうには見えない。それでも、僕は思い切り伸ばす。

 

「でも、進みたい場所に行くための手伝いくらいはできるよ」

 

 引っ張ってはいかない。並んで歩こう。こけそうになったら支えよう。迷ったら一緒に迷おう。それだけしかできないけど、それだけで変わるはずだ。

 

「……その手は、私をまた光の元へ連れて行ってくれるのか」

 

「ラウラが望むなら、僕は一緒にいくよ」

 

 そして、ラウラは黒い手を放し、僕の手を握る。

 

「暖かい……」

 

 僕は握ったラウラの手を手繰り寄せる。

 

「戻ろう」

 

「ああ」

 

 小さなその手は僕の手を強く握る。それに少しでも答えたくて、僕はそれを握り返す。

 

 振り返ると、黒千冬さんが僕らを見送る。それは次の瞬間溶けるように崩れ、一人の少女が現れる。

 

『ラウラちゃんを、よろしく』

 

 声が聞こえた。

 

 誰のものか分からないその言葉に僕は頷いた。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 アリーナ。

 

『流石に千冬のトレースですね』

 

 対面する二人であるが、その位置関係がどちらが優勢かを物語っている。

 

 アリーナの端を背にするペイルライダー。そしてそれを追い詰めるように構える千冬の紛い物。

 

『ここまでのようですね。私としては上出来の時間稼ぎではないでしょうか』

 

 鳴りやまない警告のアラームが、エネルギーの限界を訴え続ける。

 

 このまま攻撃が来れば、搭乗者である氷雨の身体は無事では済まない。

 

 しかし、そんな事情、向こうからすれば関係のないものであり、ただ対象を屠るために剣は振り上げられる。

 

 だが、そんな危機的状態にペイルライダーは焦りもしない。それは別に氷雨の身体がどうなろうと、コアである自分が傷つくことはないとか、そんな考え故ではない。

 

 確信があったからだ。

 

『ええ、上出来の時間稼ぎでした』

 

 そうペイルライダーが言うと、今まで形を保っていた黒い物体にピシリと亀裂が入る。

 

 それは次第に全身に広がっていき、ついには瓦解を始める。

 

『お帰りなさい、氷雨』

 

 帰ってきた主に挨拶をする。おくびにも出さないが、これでも心配していたペイルライダーであり、無事に帰ってきたことに安堵している。

 

「ただいま、ペイルライダー」

 

 ただ返事を返すだけの氷雨も、ペイルライダーが自身を心配してくれていたことに気づいている。

 

「心配した? 心配した?」

 

『うるさいです』

 

 氷雨は自分の手を開いたり閉じたりして、帰ってきたことを確かめる。そして、瓦解を始めているシュヴァルツェア・レーゲンだったものに近付く。

 

 自分を包む闇から解放され、倒れるラウラを氷雨は抱きかかえる。そのぐったりとした少女を抱えたまま、すでに限界であるペイルライダーを解除する。

 

「お疲れ様」

 

 すでにスリープしているペイルライダーから返事はない。

 

「僕も、ちょっと休憩……」

 

 ようやく来た増援を目にし、安心した氷雨はそのまま後ろに崩れ、意識はまどろみに吸い込まれていった。

 





今回の話しはどんな反応が来るのか、本当に怖い;;
つまらない、と一蹴されそうな気がするし、
だらだら長い、と痛いとこ突かれそうだし……


シリアスは書いた後が一番神経使いますorz
チキンなので;;

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