鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
廊下。
駆け出してからなんだけど、どこに行けば一夏君は居るんでしょうかね?
『氷雨』
ペイルライダーの呼びかけに一旦止まる。
「なに?」
『一度落ち着きましょう。冷静になってから行動しても遅くはないはずです』
「遅くはない? いや、別に早いも遅いももうないよ」
今更時を気にしても、鈴ちゃんが傷ついたことにかわりはない。その事実を覆せるのなら、昨日あんなに悩むわけがない。
『そこまで分かっていながら何故氷雨は感情に任せて走っていたのですか』
ペイルライダーの責めるような言葉を受けるも、僕は改心しない。
「怖いから」
『怖い?』
ペイルライダーは意外な返答に理解できていないようだ。
「そう、怖い」
『いったい何を怖がっているのですか』
「この感情が腐っていくのが、怖い」
僕の中にある負の感情。これは放っておいたら絶対に良くない方向に行く。悩みすぎて、本当は単純なものだったかもしれない事態も、時を置き、いろいろと考えてしまうと、ドロドロと膨らんでいき、他の感情も呑み込んで大きくなり、いずれ制御できなくなる。
思考することはいいことだ。考えなしで突っ走るよりも、ペースを考えた方が完走しやすいだろう。
だけど、自分を腐らせるような感情を抱えた時だけは、どこかに捌け口を作るしかないんだ。
『しかし、それは箒にも言えたことでは?』
「…………」
え? 自分を正当化してるだけだろって?
……そうですけど何か?
「いや、だって、一夏の言ったことは許せなくない!?」
『第三者が介入する事ではありません』
「でも関係者ではあるんだよ? 僕のことを思ってか知らないけど、それで鈴ちゃんを傷つけられたら、怒るしかないよね!?」
『それで解決するのでしたら、箒は咎められてはいません』
い、痛いところをつかれる……。
「でも、だからって、僕はどうすれば……」
『やっと落ち着いてきたのですね』
ペイルライダーの言葉に気づかされる。そうだ。会話に乗せられて、時間が過ぎることである程度の冷静さを僕は取り戻していた。少なくとも、自分がしようとしていたことに疑問を持てるくらいには。
「はあ、ありがとう、ペイルライダー。僕はどうかしていたんだね」
『いえ、いつもどうかしているので、これくらい礼には及びません』
うんうん。……あれ? 地味に貶された?
『それで、どうしたいのですか、氷雨は』
この質問、前もされたね。ペイルライダーはいつも僕のしたいことを聞いてくる。誰かのために動かなければならない、そんな使命感に満ちた行動をペイルライダーは望んでいないのだろう。あくまで「僕の剣」として。
「……一夏をぶん殴りたい」
『あまり頭を冷やした意味はありませんね』
「いや、鈴ちゃんに謝ってほしいとかの目的が消えて、僕のためだけの行動に変わったよ?」
詰まる所ただの憂さ晴らし。
『箒もそうだったのでは?』
「そうかもしれないね。でも、あれは鈴ちゃんに非がない以上止めるしかないよ」
というわけで、行動の指針が決まりました。
「じゃあ、一夏を殴りに行きますか」
『今から一緒に?』
「これから一緒に!」
「『殴りに行こうかぁ!!』」
「おい」
あ、千冬さん。
「ちょっと来い」
いやああああ、いやああ、いやああああ、いやあ、いやああ、いやああ、いやあああああああ。
◇ ◇ ◇
「出鼻ボッキボキに砕かれたんですが……」
『自業自得です』
「ノリノリだったくせに……」
説教を少し(5分)聞かされた後、飲みかけのドクペを差し出すことで解放された僕らはゆっくり一夏がいるであろう自室へ向かった。
「あれ?」
廊下を進んでいると、自室の前に突っ立っている頭の横で括られた髪の束を揺らす、少女、鈴ちゃんが見えた。
「凰さん?」
僕の声を聞き、鈴ちゃんはこっちに振り向く。その顔は真っ赤であった。え、なに? 何があったって言うんですか?
「ど、どうしたの!?」
「……どうしたもこうしたもないわよ」
あれ、語気荒げて……ひょっとして怒ってらっしゃる?
「あんたが物騒な事言って走り出すから、もしかして一夏と喧嘩になってるんじゃないかって心配になって中に入ったら、何事もなくお茶飲んでたじゃない!!」
「ぶふっ!」
その絵を想像して、思わず噴き出してしまう。
「あたし動揺して、一夏大丈夫? って心配までしちゃったじゃない!」
『一夏の呆気にとられた顔が目に浮かびますね』
ペイルライダーの呟きに僕は咽る。
「ちょっと! あんた何笑ってんのよ!」
「ご、ごめん。い、いや、笑ってないよ、全然。も、申し訳ないです、はい」
『しまいには「鈴もお茶飲むか?(一夏の声真似)」って聞いてきそうですね』
「ごはぁあ!」
「ちょっとっ!」
やばい、ペイルライダー合成音使ってるからほぼ本人なんですけど! お、お腹痛いです。
「ご、ごめんな、ふふっ、さい……くふっ」
つぼに入っちゃうと笑いって収まらないよね。今それです。
「こっちはめちゃくちゃ恥ずかしかったんだからね! 喧嘩中だって言うのに、いきなり相手を心配する奴がどこに居るって言うのよ!」
「ほんとにごめんね! いや、途中で千冬さんに捕まっちゃってさ。ほんとは一夏を殴るつもりだったんだけどね」
そう言うと、鈴ちゃんは少し伏し目がちに僕を見据える。
「それは、あたしのためとか言わないでしょうね?」
「勿論最初は頭に血が上ってたからそのつもりだったけどね。諌められてやめたよ」
鈴ちゃんは不思議そうな顔をする。
「僕は僕が腹立ったから一夏を殴ろうと思った」
「へ?」
鈴ちゃんの腑の抜けた声、めちゃ可愛いね!
「だって、凰さんを傷つけたんだもん。そりゃ腹が立つよ」
まあ、僕が言えた義理ではないんだけどね。
「でも……」
殴りに行こうとしてたけど、僕の気は変わった。
「一夏を殴るのはやめにするよ」
「……なんで?」
「だって、鈴ちゃんが本気で一夏の心配してたんだもん」
そんなことしたら、僕が悪者になっちゃうじゃんか。
「なんだか、凰さんも元気になったみたいだし、僕が殴りに行く理由はなくなっちゃったよ」
「あんた……」
鈴ちゃんは笑顔を浮かべ僕を見つめる。う、うわっ、これ凄く照れる。
「意外といい奴なのね」
「あ、あはは。ありがとう」
顔を逸らしつつ答える。直視してられないチキンな僕ですが、さっきまで頑張ってたから許してね。
顔を逸らした僕の視界の端に、鈴ちゃんが手を差し出す姿が映る。逸らした顔を再び鈴ちゃんに向けると、その手は握手を求めているようだった。
「昨日は……あたしも言い過ぎたわ」
「え、いやいやそんなことないよ! 僕が全面的に悪かったって――むぐ」
左の人差し指で口を閉ざされる。
「あたしが言い過ぎたと思ってるんだから、素直に受け取る。わかった?」
鈴ちゃんの言葉に僕はコクコクと頷く。すると、指は離れ、唇は解放される。ああ、なんで僕は名残惜しいと感じてしまってるんだろう。変態なのかな?
「だから、これは仲直りの印ね」
「許してくれるの?」
「だから、そう言ってるじゃん」
優しすぎる!! 貴女が天使か! あ、天使だった。
「うん、じゃあ……改めて、よろしくお願いします、凰さん」
差し出された手を握り返す。
「よろしく、ええと」
「篠ノ之、篠ノ之氷雨だよ。妹の箒もいるからできれば名前で呼んでくれると嬉しいな」
「分かったわ。じゃあ、氷雨! これからよろしくね!」
「はい!」
こうして僕は、何もしてないけど、一つの苦難を乗り越えたのであった。
そんな氷雨と鈴の様子をたまたま目撃した人物が一人いた。
「ふん。女にうつつを抜かしているとはな」
白銀の髪を靡かせ、少女は踵を返す。
眼帯の奥の瞳が見つめる世界は真っ暗だ。
彼女はその中に光を見いだすように、千冬にすがる。
去り際、右目に映った氷雨のアホみたいな笑顔に彼女は何の関心も抱くことはなかった。
終わった!
いやー綺麗(?)に纏まりましたね
自分としてはこれが一番しっくりくる気がします
シリアスに一夏と殴り合うよりも、幻想殺しさんの様な説教を垂れるよりも、
一番氷雨に合う幕の引き方ではないでしょうか?
次回から学年別トーナメント編が始まりますが、プロット書いてないorz
ちょっと待たせちゃうかもしれないですが、お楽しみに