鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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七話 激昂する

 指導室。

 

「不正はなかった」

 

『ありませんね』

 

「早すぎないか氷雨!?」

 

 ふふふ、馬鹿にしないでもらおう箒。本気を出せば、一時間で一本分書ききる男だよ僕は。……ただし、内容如何は問わないけどね。今回の場合も要約『ごめんなさい』だからね。起承転結いらずだからなにも考えなくていいしね。え、いつも起承転結ないだろって? あ~、ノーコメントで。

 

「じゃ、先に帰ってるよ、箒」

 

「ちょっと待て、凰に謝りに行くのではないか?」

 

 そうは言っても時計を見る。昼から書き続けて四時。三時間ほどかかってもう放課後だ。鈴ちゃんがどこに行ってるかも分からないし、明日で直した方が賢明だよね。箒もまだまだ終わらなさそう……。

 

「て、まだ十枚も書けてないの?」

 

「し、仕方ないではないか。私は口下手なんだ」

 

 まあ、確かに小さい頃からそういうのは苦手だったよね。でもやっぱりそれじゃあ箒を待っての謝罪は無理だね。

 

「まあ、時間もかかりそうだし、凰さんも遅くに来られたら迷惑だろうから、明日にしようよ」

 

「う、うむ。そういうことなら仕方あるまい」

 

 そういうことで、僕は箒を置いて部屋を出た。

 

 

 

 

「……いや待て、やっぱり早すぎないか!?」

 

 氷雨の執筆速度に疑問を覚えた箒であった。

 

◇   ◇   ◇

 

 廊下。

 

 職員室を出る。反省文を千冬さんに渡した時、「お前の反省文は出だしが一緒だな」と、少し疑いの目を向けられたけれど、「僕ってマニュアル人間じゃないですか~、人科だけに!」という渾身のギャグをかまして、千冬さんに可哀想な目を向けられながらもなんとか切り抜けた。

 

 ふう、ペイルライダーが書いたってばれたら、また一から書き直させられるところだったよ。

 

 あ、ギャグの解説はね、人科の動物、つまりアニマルであるところからとってマニュア――。

 

『最近は急に冷え込んできましたね』

 

「11月だしね。秋はどこ行ったのって話しだよね~」

 

 ……ん?

 

「いや違う。まだ五月だから。これから暖かくなっていく頃だから」

 

『そうですか。失礼しました』

 

 別に良いけどさ。こういうメタ発言も好まない人いるかもしれないからやめようね。

 

「あ、そういえば自販機にドクペがあるのって珍しいよね?」

 

『そうですね。某アニメで脚光を浴びましたが、それでもマイナーではあります』

 

 あの高笑いしながらバナナをレンジに突っ込む人だっけ?

 

「そうそう。でね、なんでそんなマイナーな飲み物が学園の自販機に配備されてるか知ってる?」

 

 しばしの沈黙が知らないというペイルライダーの意思表示であると判断した。

 

「実は千冬さんが直々に学園に要望したらしいよ」

 

『あのブリュンヒルデがですか』

 

「そうそう」

 

 ちなみに束さんも好んで飲んでいるらしい。

 

「というわけで、今から自販機へ向かいたいと思います」

 

『どういうわけですか』

 

 どうもこうもないよ。中毒者だからです。某スナイパーさんも飲んでいるらしいけど、これ書いていいのかな? 事後承諾しておきましょう。

 

「イケメン死すべし」

 

『いきなりどうしたんですか』

 

「深い意味はないよ?」

 

 そんな会話をしつつ、僕の足はアリーナの方にある自販機に向かう。

 

 ああ、そういえば昨日、あそこで鈴ちゃんに会ったんだっけ。なんだか昔のことのように感じられるけど……具体的には二週間くらい。

 

 そっか、昨日なんだね。

 

「ひっく……ぐす」

 

 ん? なんだか声が聞こえる? 自販機のある休憩室の方かな?

 

 廊下を進み、角から覗くとそこには小さく休憩室のベンチに座る一人の生徒の影があった。

 

 そのリボンにツインテールの可愛らしい髪型は間違いなく鈴ちゃんであると確信する。

 

 丁度よかった。今なら周りに人もいないし、聞かれる心配もないだろうから今度こそ謝ろう。

 

運良く見つけることができた鈴ちゃんの背後に近つく。僕の足音に気付いた鈴ちゃんだったが、振り向くことはなかった。

 

 それは足音の主が僕であると分かったからだろうか。それでも関係ない。僕は押し付けでもいい。まずは自分の気持ちを鈴ちゃんに聞いてほしいんだ。

 

「あの、凰さん」

 

 僕が声をかけると鈴ちゃんがピクリと身体を揺らす。

 

「そのままでもいいから、聞いてほしいんだ。僕の気持ちを……」

 

 その言葉に鈴ちゃんはなにも返事をせず、背を向けたまま黙っている。それを肯定と取っていいのか。少なくとも、この場から立ち去らないということは、話しだけは聞いてくれるのだろう。

 

「昨日は、凰さんの気持ちも考えず、分を弁えない領域にまで立ち入ってごめんなさい。昨日の僕の発言は初対面である人が踏み行っていい域を超えていたと反省してる。誰にだって、触れられたくないところはある。僕自身もそういうところがあるから分かっていたはずなのに、何も考えず凰さんを傷つけた。本当にごめんなさい」

 

 鈴ちゃんは見てないけど、それでも僕は頭を下げる。え、くの字? いやいや、そんなんで収まるわけないでしょ? 土下座に決まってるじゃないか。

 

 土下座をしている状態。僕の視界は地面しか映らないので、鈴ちゃんの様子を見ることはできない。でも、立ち去る音は聞こえないから、まだ僕の言葉は聞いてもらえている。

 

「初対面で告白したのは……本当に気持ちを抑えられなかったからだけど、デリカシーにかけていたとは後から思ったよ。でも、初めての経験でどうしていいか分からなかったんだ。それは、許してもらえると……ありがたいです」

 

 告白は間違いだったとは口が裂けても言えない。だって、本当の、心からの僕の気持ちなんだもん。

 

「お昼も、箒がいきなり来て、迷惑かけてごめんなさい。凰さんからしたらいい迷惑だよね。箒のは理不尽な怒りだもの。僕が振られたのは自業自得だし、凰さんには一切の非はないのにね。妹が迷惑かけてごめんなさい」

 

 それでも、鈴ちゃんに誤解してほしくないことがある。

 

「でもね、箒、あんなんだったけど、本当はいい子なんだ。ちょっと感情に流されやすくて、乱暴な言動になったりすることもあるけど、他人を気遣ったり、本気で心配したり、自分のことじゃないのにいつも全力を出したりさ。なんというか……不器用なだけで、本当はすっごく優しいんだ」

 

 鈴ちゃんに届いたかな? 箒のいいところ。まだまだあるんだけど、これ以上言ってもブラコン気持ち悪いと思われてしまいそうで怖いからやめておこうと思う。

 

「だから、今日のこと、ありがとうって鈴ちゃんに言いたかったんだ」

 

「はぁ?」

 

 小さい声、本当に小さかったけど、鈴ちゃんから疑問の声が漏れた。

 

「箒が斬りかかってきても、反撃しなかったんだよね。木刀を見て分かったよ。削れた部分が物打に当たる辺りしかなかったからね。これって、鈴ちゃんがずっと受けに回ってくれてたからだよね?」

 

 返事はなかった。でも、それは肯定だと思う。

 

「だから、ありがとう。理不尽な箒の暴力だったのに、箒に……僕の妹に反撃しないでいてくれて」

 

「……」

 

「ありがとう」

 

 心から感謝している。もし鈴ちゃんが普通に反撃していたならば、IS装甲が箒の骨なんて軽く砕いていただろう。

 

「やめてよ」

 

 鈴ちゃんから絞りだすかのような弱弱しい声が聞こえてくる。おかしい。これはいつもの快活な鈴ちゃんの声ではない。

 

「凰さん?」

 

 心配になって頭を上げる。僕の目には肩を震わす鈴ちゃんの姿が収められ、咄嗟に立ち上がる。

 

「優しい言葉なんてかけないでよ……惨めじゃない」

 

 その震える声はどう考えても泣き声のように聞こえた。泣いている? また僕は相手の気持ちを考えずに鈴ちゃんを傷つけてしまった? そんな言葉が頭をぐるぐると回る。

 

 そうして思考を投げだした僕のとった行動は、そう!

 

「ごめんなさい!」

 

 ゴンッ!

 

 土下座である。

 

 鈍い音を響かせる。そんな音にさすがの鈴ちゃんも驚いたのか。

 

「え、ちょ、ちょっと、大丈夫なのあんた!?」

 

 そう心配してくれる。

 

「大丈夫だよ。僕はこう見えても頑丈だから」

 

 そう言いつつ頭を上げると鈴ちゃんは僕の目の前にしゃがんで、僕の様子を窺う様に覗きこんでいた。

ち、ちち近すぎませんか、鈴ちゃん!?

 

「あ、あれ? 泣き止んでる?」

 

 はっ! として自らの言葉を顧みる。そして、自らの言葉に後悔する。うわああ、またそういうこと正直に言っちゃってるよ僕ぅうう! 学習してぇえ! そうやってまた頭を打ち付ける。

 

 そんな僕を見てか、前方の鈴ちゃんから大きなため息が漏れるのを聞きとる。

 

「驚きすぎて、涙なんか止まっちゃったわよ」

 

 そういう鈴ちゃんの顔はなんだか笑っているような、投げやりになっているような……そんな、今にも消えそうな笑顔だった。

 

「……あのさ」

 

「なによ」

 

「こんな、最低な人間な僕だけどさ、何があったか話してみてくれないかな?」

 

 鈴ちゃんが傷ついているのを見るのは辛い。

 

「僕は、凰さんの力になりたいんだ」

 

「……」

 

 一時の静寂が辺りを占める。それに耐えきれず、僕は言葉を紡ぐ。

 

「ほ、ほら。話してみたらすっきりする事ってあるでしょ? そ、その役に僕が適任かは甚だ疑問ではあるけどさ、凰さん辛そうだから……だから」

 

 そんな僕を見て、凰さんはくすりと笑う。

 

「必死すぎよ」

 

「あ、ごめん」

 

「別に謝ることじゃないけどさ。それ、普通なら引かれてるわよ?」

 

 そう言うと、鈴ちゃんは立ち上がり、ベンチに戻って先ほどの位置に腰掛ける。そして、こっちに顔だけ向ける。

 

「だいたい、あんたのせいでもあるんだから、愚痴らせてもらうわよ」

 

 それは、僕に話してくれるということだろう。少しでも鈴ちゃんの気を晴らす助けになれる、そう思うと嬉しくなって、僕は急いで立ち上がった。

 

「あ、何か飲み物いる? 僕がおごるよ!」

 

「じゃあ、紅茶で。午後の方じゃなくて、花伝の方ね」

 

 そんなところにこだわりがあったとは。

 

 ドクペと紅茶を購入した僕は、鈴ちゃんと対面のベンチに腰掛け、紅茶を渡す。そして、鈴ちゃんの愚痴を聞き続けた。

 

◇   ◇   ◇

 

「……え」

 

 聞き終えた僕の心は驚くほど冷え切っていた。

 

 自身の胸を渦巻く感情は、ただの怒りとしておくには大分に冷たく鋭い。矛先が誰であるかは分かりきっているが、この感情をどう処理すべきかの答えが容易には浮かんでこなかった。あるいは心のどこかでその答えを僕が見つけることを妨げているのかもしれない。

 

 ただ、一つ分かるのは、鈴ちゃんが八割の僕への愚痴と一割の一夏への愚痴と後一割の自分自身への反省を零すうちに流れていた涙がこの感情を増大させたということだ。

 

 鈴ちゃんは目元をぬぐい、やりきった顔になる。

 

「悪かったわね。こんなこと聞かせて」

 

「いや、それを望んだのは僕だから……」

 

 ああ、理解した。これは怒りじゃないね、殺意だね。うん、そうだ、間違いないわ、これは一夏の喉元に突き立てるべき鋭い感情だね、きっとそう。

 

 それを理解したら僕はベンチから立ち上がった。

 

「? どうしたのよ」

 

「ああ、うん。ごめんね。ちょっと僕、箒を叱ったのに……だめだなあ。同じ立場になった途端これだもん」

 

 鈴ちゃんは不思議そうな顔をしている。

 

 僕がしたいことによって、鈴ちゃんが喜ぶわけがないということは分かるんだけど、やっぱりそれを理解した所で止まれるような感情ではないんだ。例えこれが僕のエゴだとしても……テンパに「それはエゴだよ!」って言われたとしても!

 

「この、氷雨・篠ノ之が粛清しようというのだ!」

 

「は?」

 

 呆ける鈴ちゃんを残し、僕は全速力で駆けだした。

 




事後承諾
自宅警備するわんこ君様へ
本話において、ドクペネタにてそちらのスナイパーくんを引き合いに出しちゃいましたが、大丈夫でしょうか?
何か不都合がありましたら、メッセ飛ばして下さいm(_ _)m


さてさて、本編に入ってからの氷雨君にいいところはありませんでしたが、
ここで挽回できるのでしょうかね?

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