鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
廊下。
「これで良いんだよね」
『何がでしょうか』
人がいない廊下。僕は汗だくの袴のまま、自室に向かっている。
「僕が本気を出しても何も面白いことないもんね」
『私は最近不完全燃焼です』
それは申し訳ないと思うけどね。大体、蒼騎士の頃から全力での戦闘なんて二回しかないしね。
「まあ、もうすぐタッグマッチもあるし、そこで頑張ろうよ」
『ご自由にどうぞ』
「えぇ……」
なんと淡白な返答なんだ。そっちが不完全燃焼だって言ったのに……。
まあ、いっか。
「あ~、早く帰ってシャワー浴びたいよ。汗でべたべた」
この状態で誰かにあったらすぐに臭いって鼻をつままれるだろうね。
「あ、篠ノ之くんだ~」
「袴姿!? 写真撮っていいかな!?」
「有料だよ~」
あと、近づくと臭いよ~。
「い、いくらっ!?」
「いや、冗談だから。なんで財布取り出してるのさ」
別に僕は有名人ってわけじゃないから写真くらいいいんだけどさ。
「でも、今は汗臭いから近づいちゃだめだよ」
「汗のにおい……はあはあ」
「その子、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっと不治の病で」
隣の子が笑いながら答える。
そんな感じですれ違うと、ヘブン状態の子が一瞬ビクンと震えたんだけど……。
「ペイルライダーは僕の今の匂いどう思う?」
『AIに嗅覚はありません』
「ハイパーセンサーでわかるよね?」
『…………』
あ、こいつ遮断してやがる。
強制接続……オン。
『……ぐふっ』
「剣道ってホントに臭い競技だね」
機械すら殺す臭い《マシンキラースメル》ってね。
◇ ◇ ◇
そんな廊下を抜けて、自室の前にたどり着く。部屋の扉を開けると、中には向かい合ってベッドに腰掛ける男と女の二人が姿があった。
「あ、部屋間違えました」
「いや、合ってるぞ、氷雨!!」
「う、うん。間違いないよ!!」
そのまま閉めようとするとする僕を止める二人。あーそっか。今日だっけ、シャルのシャワー覗くやつ。
というより、二人とも待ってましたといわんばかりの歓迎だね。気まずい空気を換えるきっかけを見つけたって感じかな?
「あ、俺、お茶入れるわ」
「ありがとー。僕はちょっとシャワー浴びてくるね」
「ちょ、ちょっと待って氷雨」
シャルが呼び止めてくる。
「なに?」
「ぼ、ぼくを見て驚かないの?」
その恰好はいつものシャツであるが、一夏にばれてコルセットをつける必要がないと感じて、つけていないので、体のラインが分かりやすい服装ってこともあり、胸が強調されて女の子であることを主張している。
で、それが何か問題?
まあでも、さすがにノーリアクションすぎるかな?
「え~と、コルセットきつくなかった?」
「ええっ! う、うん。きつかったけど……僕を見て最初の反応がそれなの!?」
「いや~、何となくそうじゃないかって思ってたからね」
たぶんじゃなくて確信だけどね。
「そ、そうなんだ……」
防具と竹刀を置いてシャワー室に入る。なんだか、シャワーを浴びるからシャルとかち合うんじゃないかと思ったけど、そんなことなかったね。残念。
「あれ? どのあたりで気付いたんだろう?」
シャルは素朴な疑問に頭を悩ませるのだった。
◇ ◇ ◇
シャワーを浴び終えた僕はあるトラブルに見舞われた。いや、この発言だと僕は悪くないみたいに聞こえるかな?
簡潔に言うと、水も滴るいい男(?)状態の僕の手元には一枚のタオルすらなかった。
「あ~……やっちゃった」
何たる失態! 万死に値する!
早く汗を流したい一心でシャワールームに入ったんだけど、着替えはおろか、まさかタオルまで忘れるとは……。
といっても、タオルは備え付けの小さめのがあるからいいけど。着替えはね~。
「一夏~、着替え取って~」
腰にタオルを巻いて、一歩外に出て一夏を呼ぶ。するとどうだろう。シャルと目が合ったではありませんか。驚きで頭がいっぱいなのか、シャルは固まったまま呆然としている。
「キャー!!」
「なんで氷雨が声を上げるのさ! って、胸は隠さなくていいよ!!」
シャルが突っ込む。
「と言っても、見られているのは僕だから当然の悲鳴じゃない?」
「そ、そう言われたらそうなんだけど……。うー、なんか納得いかないよ」
お茶を持って一夏がやってきた。
「なんで裸なんだ?」
「あ、一夏。悪いけど、僕の着替え取ってくれない?」
「なんだ忘れてたのか?」
「うん。早く汗流したくてね」
「仕方ないな」
机にお茶の乗ったお盆を置くと、一夏は僕のカバンの方に向かう……はずだった。なのに、なぜかシャルのカバンを開けた。
「……氷雨、お前」
「いやいや、それ僕のじゃないから。なんで僕が女性モノの下着穿くのさ」
ああ。シャルとベッドを交換した時にカバンの位置も変えたから勘違いしたみたいだね。
「い、一夏!? そ、それ僕の!!」
「えっ! ……う、うわっ、わりい!!」
シャルのものだと気づいて手に取った下着をカバンの中に押し込むようにしまう。けど、少し焦りすぎたかな。逆にその反動でカバンの中から大胸筋矯正サポーター……つまるところ、ブラジャーが飛び出してきた。
というか、男装するならどっちも要らなくない?
「ちょ、ちょっと一夏!!」
「あのさぁ、僕の服……」
「わリい、シャル。焦って……」
「もういいよ、僕がやるから!」
恥ずかしさのあまり大声になるシャル。その横で申し訳なさそうに頭を下げる一夏。その顔は少し赤い。そして、それを眺めるほぼ全裸の僕。
「ふう」
ため息をついて僕は自分で着替えを取り出したのだった。
◇ ◇ ◇
えっと、それでシャルが女だってことを初めて……は・じ・め・て、知ったわけだけども、わざわざ男装してIS学園に来た理由なんかを聞くためにベッドに腰掛け、お茶を飲んでいる。
「はあ、おいしい」
「そう言われると、入れた甲斐があるな」
「そうだねー。……じゃなくて!!」
和やかな雰囲気を掻き消すようにシャルが声を上げる。
「あ、そうだったね」
「もう……」
僕は腰を上げる。
「羊羹出さなきゃ」
「氷雨!!」
シャルに怒られた。ええ~、お茶請けがないことに不満を呈したのはシャルじゃ~ん。理不尽だよ~。
「そうじゃなくて、僕に何か聞くことあるでしょ?」
「え、聞いてほしいの?」
そう返すと、シャルは微妙な顔をする。
「そうじゃないんだけど……でも……。あれ、僕がおかしいのかな?」
「いやいや、シャルルは間違ってないぞ。氷雨が冷静すぎるんだよ」
と言う一夏も、騒動から少し時間がたって冷静になってきている。
「なんで男の振りなんてしていたんだ?」
「それは……その、実家の方からそうしろって言われて」
「え、趣味じゃなかったんだ」
「違うよっ!」
知ってた。
「実家って言うと確か……」
「デュノア社だね。量産ISのシェアが世界第三位のフランスの企業」
とは言っても作っているのは外装だけ。コアが有限だから、IS関連の企業は少しでも技術の進展が遅れれば他社にシェアをすぐに奪われる。それだけリスキーな分野である。
「今は第三世代機の開発に苦労してるみたいだけどね」
「そう。だから、今のデュノア社は欧州連合防衛計画『イグニッションプラン』の次期主力機を選定するトライアルに向けて、第三世代の開発中なんだけど、元々、リヴァイヴも第二世代最後発で、圧倒的にデータも時間も足りなくて、なかなか形にならなかったんだ」
この『イグニッションプラン』って言うのが気になっていたんだけどさ。どこから守る気なんだろう? 世界情勢は分からないけど、どこの国もISの開発を競技のためにやっているわけではなさそうだよね。
「それで、政府からトライヤルで選ばれなかったら、援助を全面カット、その上、IS開発のライセンスも剥奪するって通達が来たんだ」
ISは最先端事業だから、もちろん開発には莫大な資金を要する。だから、国の援助がなければ開発なんてできない。まあ、国も援助することでその開発成果の権利を得ることができるわけなんだけどね。
「……なんとなく流れは分かった。けど、それでシャルルの男装がどう繋がるんだよ?」
「君は実に馬鹿だな~」
ダミ声で言ってみた。決してわさびの方じゃないよ。
「それは……」
「あ、言いにくいなら僕が言おうか?」
「ううん。自分の口から言うよ。あのね……」
言おうとして口を閉じる。唇を噛んで、苛立ちを隠せていない。
「同じ男子なら、特異ケースと接触しやすい。そして、使用機体とその本人のデータを取って来いって……」
「それは、つまり――」
「うん。白式、およびペイルライダーのデータを盗んで来いって言われているんだよ。僕は、あの人……父に」
「なんでそんなことを……親だろう?」
「一夏。僕はね、愛人の子なんだよ」
大企業の社長ともなれば、そういうことも起こるだろうとも思うけど、それを企業のために使うって言うのは最悪だよね。
「母が亡くなった時に引き取られて。その時の検査でIS適性が高いことが分かって、非公式だけど、テストパイロットもしてたんだ」
シャルは顔を落とし、言葉を切る。
「ごめんね、一夏、氷雨」
「何言ってんだよ。シャルは悪くないだろ」
「え、いや、悪くないことはないと思うけど」
僕の言葉にシャルはさらに肩を落とし、一夏は非難の目をこちらに向ける。
「いやいや、一夏、睨まないでよ。別に全部が悪いとは言ってないじゃん」
「シャルは実の親に利用されてただけだろ。何も悪いところなんてないぞ!」
一夏の正義感は固いなあ。
「そうそう。大本はデュノア社だよね。でも、それを止められなかったのはシャルなんだ。まあ、止められるような立場にいなかったのも理解できるけどね」
そう言い終えると、僕は立ち上がる。
「氷雨!」
「ちょっと飲み物買いに行くだけだって。オランジーナが飲みたくなってね」
一夏の耳元に顔を寄せる。
「シャルのフォロー頼んだよ。それは僕にはできないことだから」
「氷雨……」
廊下にでると、僕は歩き出した。口もとにニヤリと笑みを浮かべながら。
シャルは女だったのか!(驚愕
それはいいけど、遅くなって申し訳ありませんでしたぁぁあ!
なんというか、いつもは三千前後で区切るんですが、これ、話の都合上切れるところがなかったんですよね。
次回投稿の九時は……うん。無理