皆様ありがとうございます!
お待たせしました。4話です。
Side 月村忍
この状況は何なんだろう。
「誠に申し訳ございませんでした御主人様。」
「済まなかった。なのは。」
目の前の自分の彼氏と狐の耳と尻尾を生やした女性が謝っているのは、
「二人とも怪我したらどうするの!」
と、涙目で膨れっ面をした幼女。
うん。どうしてこうなった?
というか、なのはちゃん。無事で何よりだわ。
倉庫中には犯人とおぼしき連中が、縛り上げられているのだけど、恭也がやったとは思えないからあの女性がやったのかしら?
「女性」という所でまたか?またなのか?といった感情がわいてくるが、その辺の事情聴取はあとですることにするとして。
「なのはちゃん、良いかしら?」
取り敢えず、助け船を出す事にしましょう。
Side Out
「しかし、なのはが無事で良かった。」
何とか、なのはに機嫌を直してもらい、月村家に犯人を託してから恭也が安堵しながら呟く。
一時は、誘拐犯達が余り利口ではないタイプの犯罪者だった事もあり、最悪の事態が何度も頭に過ったのだが、こうして無事であることを喜ぶ事が出来た。しかし、まさか自分達以外の存在に救出されているとは思わなかった。
「だが、なのは。どうしてこんな遅くまで外で遊んでいたんだ?」
だがまずは兄として、家族として、どれだけ心配したのか幼い妹に伝えようとする。
「・・・ごめんなさ・・・」
「そこまでです。今の御主人様は大変お疲れです。先ずは休ませてあげて下さいまし。」
すると、なのはの言葉を遮りキャスターが口を挟む。
「む・・・だが」
「そうね。桃子さんも心配してるし、早く戻りましょう。だけどその前に貴女は一体何者なのかしら?」
忍が、当然の疑問を尋ねる。自分達よりも先になのはを救出し、そして互いの勘違いとはいえ衝突し、恭也を圧倒した。決してただ者ではない。
「私ですか?ワタクシは御主人様のサーヴァントであり、妻であるキャスターと申します♪」
「つ、妻!?」
「・・・ほう?面白い冗談だ。」
「にゃあああ!?違うの!!」
返答もただ者ではなかった。
「え、ええとキャスターさん?でいいのかしら?」
「ええ、キャスターでも若奥様でも構いませんよ♪」
「ほう!だが、なのはは渡さん!」
「だから違うの!!」
そうして取り敢えず迎えの車に向けて歩き出す。
「それでサーヴァントというのは何かしら?従者ってわけ?」
「そうですね。大体その様な認識で構いません。御主人様と共にあり、時に剣となり、時に盾となり御主人様をお守りするものですが、まぁ詳しくはまた明日にでも。今日は御主人様もお疲れですし、どこか落ち着いたところでお話出来ればと。」
「そうね。私も一緒に聞いて良いかしら?」
「御主人様がよろしければ大丈夫かと。ええと・・・」
「ああ、私は月村忍。忍でいいわ。で、あっちが高町恭也。なのはちゃんのお兄さんね。」
と改めて自己紹介しながら、後ろで騒ぐ兄妹をさす。
「なのは、俺は認めないぞ。お前が結婚するにはまだ早すぎる!」
「だから違うの!!まだ結婚してないの!!」
「『まだ』だと・・・そもそもアイツは女だろうが!」
「にゃあああ!?話が通じないの!!」
「しかもこんな所にタトゥーまで!左手に印だと!?婚約指輪の代わりか!?お兄ちゃん許さんぞ!?」
「違うの!!よく分からないけど浮かんできたの!!というかお兄ちゃん落ち着いて!?婚約指輪の代わりにって何!?」
半ば錯乱しながらなのはに問い詰める恭也。
「うっわ・・・重度のシスコンですね。」
「いつもはあんなじゃないけどね。ってゆうか貴女の発言のせいでもあるからね?」
流石に見かねて、止めにかかるキャスターと忍。
「まぁ落ち着いて下さいまし、お義兄さん。」
「お義兄さんだと・・・貴様にお義兄さんと呼ばれる筋合いはない!!」
「何で火にガソリンかけること言うの!?というかお兄ちゃんも何でわかるの?」
「ああもう落ち着きなさい恭也!!」
「グハッ!?」
取り敢えず忍により気絶させられ車に向けて引きずられる恭也。
「なんというか個性的なお兄様ですね。御主人様。」
「キャスターさんに言われたくないと思うの・・・」
そうして車に向かうなのはの背中に
「マスター。あんな風に、如何に家族といえ、言わなければ伝わらないこともあるのです。ご家族の為に我慢するのも大事ですが、マスターはまだ子供で居ていいのです。御自分の気持ちを素直にぶつけることも大切なことですよ?」
と、キャスターが声をかけた。
「え?キャスターさん?」
「大丈夫。御自分のご家族を信じて下さいませ。」
ふと、なのはの頭にある考えが過る。
「・・・キャスターさん。もしかして・・・」
「ささ、御主人様。お車に乗って下さいませ。」
言葉を飲み込んで車内に入り込むなのは。そんななのはの耳に
「・・・声が届かなくなってからでは全てが遅いのですから。」
そんな呟きが聞こえた気がした。
暗い夜道を車がまばらに走る。時刻は既に夜の10時を過ぎ、辺りは街灯の灯りだけという程の暗さの中、二人の女性が連絡を受け玄関に立っていた。
車のヘッドライトを見るたびにハッとした表情でそちらを見、違うと分かると目を伏せる。
それを何度繰り返したか分からなくなった頃、一台の車がその家の前に近付いてきた。
目の前に車が止まり、中から息子が降りてきたのを見ると、彼女――高町桃子は息子に駆け寄った。
「恭也!!怪我はしなかった!?なのはは?なのはは大丈夫なの!?」
「恭ちゃん!なのはは!?」
「ああ、大丈夫だ。大した怪我はしていないよ母さん、美由希。なのはも無事だ。」
そうして車からなのはが降りてくるのを見ると
「お母さ―――」
「なのはッ!!」
駆け寄り胸に強く抱き締めた。
「お、お母さ―――」
「大丈夫?大丈夫!?怪我はしていない!?」
「うん。大丈夫だよ。あの――」
「ごめんなさい!ごめんなさい!一人にしてゴメンね!寂しい思いをさせてゴメンね!怖い思いをさせてゴメンね!なのは―――!!」
必死で、泣きながら愛娘をさらに強く抱き締める。
事件を聞いた時、生きた心地がしなかった。愛する夫だけでなく愛娘までと思い、全身から血の気が引くのを感じ、周りの人の声すら遠くに感じた。
その後に来るのは後悔、なぜなのはを一人にした?なぜ一人で外で遊ばせた?
なぜ――寂しそうな顔をしながら必死で堪えていたあの子を、仕事と忙しさを言い訳にして一人ぼっちにした?
「なのは!なのは!なのは!なのは!なのは!!」
「お母さん・・・」
「ごめんなさい!一人にしてごめんなさい!」
「・・・う・・・」
「なのは!!」
「・・・う・・・うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「なのは!!」
「寂しかった!寂しかった!寂しかったぁ!!」
「・・・ッ」
「怖かった!怖かった!怖かったよう!」
「なのは・・・すまん・・・すまなかった・・・!」
「なのは・・・おねえちゃんも気付けなくてゴメン!」
「一人はやだ、一人はもうやだ!みんなといっしょがいい!一人はやだ!!」
「なのは!!」
「うわああああああああああああああああああ!!」
その日――少女の泣き声は、彼女が泣き疲れ、眠るまで続いた。