北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『消えた時計台を探せ』   作:カムラー

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この前金曜日に更新していきたいと書いておきながら、火曜に更新するという混乱させるようなことをしてしまいました。いや、更新するのが楽しくって筆の進みがよかったので……とりあえず、楽しんでください。


札教学園生徒会

 放課後になり、座学を終えたカムイちゃんは自分の席で伸びをする。

 

「話を聞いてるだけだとダルくって仕方ないニャ~。少しは体を動かしたいニャ~」

 

「必要な情報だろ、しっかり聞いとけ。それよりこの後だけど……」

 

 隣の席に座る西宮が話してくるが、カムイちゃんは教室のドアの所がざわついているのに気づき、そちらに視線をやる。

 

 よく見ると、どうやら誰かが人だかりに囲まれているみたいだ。ポケ~っと見ていたカムイちゃんと、人だかりの中心にいた人物の視線が一瞬合った。

 

「透ニャ!」

 

「え、何で?」

 

 人だかりの中心から、今にも埋もれそうな弱々しい手が上へと伸ばされた。

 

 カムイちゃんは急いで救出しようと走り出し、

 

「こんな所に集まって騒ぐな!」

 

 一喝する厳めしい声が場に響き、人だかりの動きとカムイちゃんの動きを止めた。

 

 全員の視線が声の方に向けられると、そこには白衣姿の不機嫌な荒谷先生がいた。

 

「おまえ達と違って優秀な東屋は忙しいんだ。どうでもいい興味本位で邪魔をするな」

 

 荒谷先生は自分の受け持ちの生徒達をそう言って追い払うと、人がいなくなってから透とカムイちゃん、西宮を見やって、

 

「しかし東屋、友達は選んだ方がいいぞ。そいつらに付き合っていたら、いつ巻き込まれて変質者に襲われるか分かったものじゃないからな」

 

 そう勧告して去っていった。

 

「むっか~にゃ」

 

 頭の天辺から蒸気を噴き出して憤慨するカムイちゃんは放って、

 

「何であんなに囲まれてたんだ?」

 

 西宮がカムイちゃんを挟んで向こう側にいる透に聞く。

 

「え、えっと~、それは……」

 

 何やら言いにくいのか、頬を染めて恥ずかしそうに口ごもる。

 

「あ、よかった。まだ教室にいましたか」

 

 そこへ、クリュー先生が歩いてきて三人に笑いかける。

 

「クリュー先生、何か私達に用かニャ?」

 

「ええ。時間があるようでしたら三人とも生徒会室に来ませんか? 私、四月から生徒会の顧問をやっていて、生徒会の人から皆さんを誘ってきてくれないかと頼まれていたんですよ」

 

「へ~、生徒会かニャ。ちょっと行ってみたいニャ」

 

「カムイ」

 

 誘いにのろうとするカムイちゃんの腕を引っ張って、西宮は彼女に小声で話す。

 

(時計台の情報を得るため、新聞部の繭さんの所に行こうと思ってたんだけど)

 

(生徒会も悪くないって思うけど、情報だけじゃなく優秀そうだしニャ)

 

 カムイちゃんの小声の答えを聞き、西宮はなるほどっと納得し、透もカムイちゃん達が行くならと反対しなかった。

 

 

 クリュー先生の案内の下、三人は生徒会室に足を踏み入れた。

 

 一か所を覗いて整然とした明るい部屋で、中々に広さもあった。

 

「皆さん、東屋さんと噂の異世界の人達を連れてきましたよ……アレ、会長は?」

 

 クリュー先生が室内を見回し、在室する四人の中に生徒会長の姿がないことに気付く。

 

「会長ですか? 死んだと思います」

 

 書類に目を走らせ、たまにペンで書き込みをしていた女生徒が答えた。

 

『えっ!?』

 

 彼女はニコッと微笑んで、部屋の上座の席、この部屋で唯一物があふれかえっている机を見て、

 

「だって、生きているならいないはずがないですよ。会長なのに仕事をばっくれて遊んでいるなんてありえないですよ。だから、逆説的に考えて死んでいるんです。そうです。そうに違いないです」

 

 笑顔で話す彼女を見て、カムイちゃん達の背筋にゾクッとしたものが走った。

 

「すみません、誘っておいてなんですが会長が不在で……でも、ゆっくりしてください」

 

 クリュー先生は会長がいないことには慣れたもので、三人に席を勧める。

 

 席を勧められても、忙しそうな雰囲気に恐縮し、

 

「お邪魔じゃありませんか?」

 

 透が気遣わしげに尋ねる。

 

「そんなことないよ。これが今期の生徒会の通常営業だから。君が中等部で『札幌』の称号をもらった東屋さんでしょ? あまり強そうには見えないのに、すごいね」

 

 ニコニコと優しい顔の男子学生が手の仕草で三人に座ってと言い、三人は席に座る。

 

「称号って何だ?」

 

「札幌ってどういうことだニャ?」

 

 首を傾げる西宮と、頭に人差し指をつけて傾げるカムイちゃんに、

 

「初等部から高等部まであるこの北海道札教学園では、一目置かれる生徒には称号が与えられる。その称号の中で、札を使った戦闘で認められた人には『札幌』という称号とマントが送られるんだ」

 

 メガネをかけた男子学生が説明をする。

 

「あ、だからさっき人に囲まれたのかニャ、羨ましいほどの人気だニャ~」

 

「と、とんでもないです。そんなことないです」

 

 透は感心した目で見られ、恥ずかしそうに俯く。透が自身で人に囲まれた理由を説明しにくそうにしていたのは、おそらく自慢になってしまうと感じて気恥ずかしかったからだろう。

 

「今年高等部に上がった中にもう一人、称号を持つ人がいるよ。南川 翡翠っていう子」

 

 ニコニコ学生が、三人の前にお菓子が入ったお茶請けを置く。

 

「透の幼馴染ニャ」

 

「もしかして彼女に会ったのかい? 彼女の称号は『石狩』。フィールドで鉱石や鉱物、宝石の類を主に狙う人で、特に実績が高い人の一部に与えられる称号なんだよ」

 

「ただ、よくない噂も耳にするがな。狙った獲物を手に入れるために手段を選ばず、他人が手にしたものを奪い取ることもあるらしい」

 

 メガネ学生がメガネを指で押し上げながら、説明を付け足した。

 

「君のペンダントとか、パッと見珍しそうだから狙われるかもね」

 

「それは困るにゃ」

 

 ニコニコ学生に言われて、カムイちゃんは胸元のペンダントを守るように手で隠す。

 

「中等部の時に称号をもらう人なんて中々いませんからね。東屋さんと南川さんは注目の的ということです」

 

 お茶をいれたクリュー先生が、三人の前にティーカップと砂糖を置く。

 

「ところで、俺達のことも噂になっているんですか? 昨日来たばかりなのに」

 

「ジンクスがあるんでえ~す!」

 

 それまで黙っていた女生徒の一人が、いきなり声を上げたことに西宮はビックリした。

 

 三つ編みグルグルメガネの女生徒は、

 

「異世界から人がやってくると、『大通公園』に良いアイテムや珍しいモンスターが出るっていうジンクスがあるのでえす。だから、すぐ噂になるんです」

 

 いきなりテンションが上がった彼女についていけず、西宮は答えてもらったが強張った顔で生返事をすることしかできなかった。

 

「そうですね。だから今日フィールドの見回り当番の先生は大変でしょう。生徒がたくさん来るでしょうから……私と荒谷先生は昨日で本当によかった」

 

 クリュー先生は口では今日見回る先生に同情的だが、表情は助かった的な笑顔で溢れていた。

 

「君達がいた世界はどういう世界だったんですか?」

 

 クリュー先生がティーカップに口をつけ、カムイちゃんに話題を振る。

 

「私達はこことほとんど同じ札幌から来たニャ」

 

「噂に聞くあの世界か。異世界から来る人の十人に一人はあそこから来るな」

 

 メガネ学生の言葉にニコニコ学生も同意して頷く。

 

「でも、時計台がないのにはビックリしました」

 

 何気ない感じで、西宮が時計台に話題を移す。

 

「あれか……一体犯人は何を考えているんだろうな、時計台なんか消して」

 

「何の意味があるんだろうね?」

 

(うまいニャ、西宮)

 

(夢中で菓子食っているカムイとは違……菓子の話じゃないよな……)

 

 西宮はお茶請けのお菓子を一人で食べているカムイちゃんとアイコンタクトを交わした。

 

「朝のニュースで定点カメラの映像見たけど、本当にパッと消えてたね」

 

「こっちの世界では、人やものが瞬間移動することは普通なんですか?」

 

 西宮は話を聞きながら、質問でこっちの世界の常識を確認する。

 

「いや、そんなことはない。そんな効果がある札なんて存在しないからな」

 

「この世界は異世界と繋がりやすいけど、人為的に異世界間移動したって話も最近聞かないからね。建物がって話なら前例もないんじゃないかな」

 

 ニコニコ学生の話を聞き、驚いて西宮はカムイちゃんを見るが、彼女は反応を見せない。

 

「ふふふふ、私の考えによりますと、フィールドが怪しいですねぃ」

 

 三つ編み女学生は皆の視線を集めて、人差し指を立てる。

 

「パッと場所を移動する。それはフィールドに移動する時に見られるものと酷似しているでえす。ですから犯人は、何らかの方法で時計台をフィールドに移動させたのかもしれないです」

 

「なるほどな。一理あるが……フィールド移動にはキューブが必要不可欠だ。資料館のキューブは盗まれていないぞ」

 

「でも、フィールドの一丁目近辺では謎のキューブの目撃情報もあるし、資料館のキューブじゃない可能性もあるよ」

 

「道警も一応フィールド『大通公園』を探索しているようですが、手掛かりはないみたいですよ」

 

「お~なるほどニャ~」

 

 お菓子を全部食べ終わったカムイちゃんが、お茶でのどを潤して返事をする。自分のことじゃないのに、西宮と透は遠慮のない彼女がちょっと恥ずかしかった。

 

「それより、あなた達に関係があるのは、異世界の人が襲われているという事件の方だと思いますよ」

 

「あ~、何か荒谷先生が警護のために俺達を学園に置いてるとか……」

 

 クリュー先生に言われて、西宮は思い出して声に出す。

 

 クリュー先生は一つ頷いてから、

 

「老若男女関係なく異世界から来た人が襲われています。数十件あった全てで被害者は大きな怪我はしていませんが、激しい脱力感を訴えています。襲われて気を失っている間に何かされたみたいです」

 

「犯人はまだ捕まってないんですか? 目撃情報とかは?」

 

「一切ない。モンスターと戦っていた所を後ろから、夜道でいきなり札による攻撃で襲われたとかで、被害者も含めて目撃者がゼロなんだ」

 

 西宮の質問に、メガネ学生がすぐに答えた。

 

「犯行現場以外、周辺にも痕跡が何一つ残っていないようです。ですから、夜に一人で出歩くことがないようにお願いします。何をされるかわかったものじゃありません」

 

「危ないのは確かだよ。昨日だけでさらに二件起こったらしいからね。道警が時計台の方に専念していると思って大胆になっているのかも」

 

「まあ、だから君達を学園で保護するという話もすんなり通ったようだがな」

 

 話を聞いて、カムイちゃんは身震いをして両腕で自分を抱きしめる。

 

「不安だニャ~。私なんて美少女だから人一倍気をつけないとニャ~」

 

「カムイ。人並みで十分だと思うぜ」

 

「なめとんのか、こら~!」

 

 カムイちゃんの顔面パンチツッコミを、西宮はサッと避けた。

 

「まあ、お二人には東屋さんがついていますから大丈夫だとは思いますけど」

 

 クリュー先生が視線を透にやると、借りてきた猫の様に静かな彼女は、その視線に気づいてティーカップを持ったまま頬を染めて俯く。

 

「ちょっと失礼します」

 

 一言断って、西宮が立ち上がる。

 

「トイレかニャ?」

 

 尋ねてくるカムイちゃんに、

 

「カムイ、まだ学園内に不慣れだからついて来てくれ」

 

「アイドルはトイレなんか行かないニャ」

 

「そんな昭和言ってないで、いいから来い」

 

 西宮はカムイちゃんの腕を取って、強引に引っ張る。仕方なくカムイちゃんも立ち上がり、二人連れだって生徒会室を出て行こうとする。

 

「あ、私もついていきましょうか?」

 

 透が立ち上がりかけるが、

 

「あ、透はここにいていいよ。すぐ戻ってくるから」

 

 西宮は言葉早く透に断りを入れ、サッサカと部屋を出てドアを閉めた。

 

 一人生徒会室に残された透は、しょんぼりとした顔で見送った。

 

 

 西宮はトイレじゃなく、人気がない場所を探して建物を出て裏手に回る。

 

 近くをサクシュコトニ川が流れる場所でカムイちゃんは西宮と向き合う。

 

 強引に人気のない場所に連れてこられ、カムイちゃんは、

 

「ごめんなさいニャ。西宮のことは友達としてはともかく、恋人には見れないニャ」

 

 いきなりフラれた西宮は、ガクリと肩透かしを食らって倒れそうになる。

 

「愛の告白のために引っ張ってきたわけじゃねえよ!」

 

 西宮の絶叫ツッコミに、カムイちゃんは目をパチクリとさせる。

 

「あれ? そうなのかニャ」

 

 能天気な返しをするカムイちゃんに、脱力した西宮は訝しげな視線を送る。

 

「カムイ……ホントに俺達の残り時間が少ないって分かってんのかよ」

 

「あ、あ~そっちの方かニャ。もちろん分かっているニャ。私のやる気は増しこそすれ、減ったり消えたりすることはないニャ」

 

 カムイちゃんは笑顔で断言する。

 

「……じゃ意見交換だ。カムイは生徒会の人達が言った話を聞いてどう見る?」

 

 西宮に意見を求められ、カムイちゃんは真剣な顔で腕を組む。

 

「そうニャ。時計台がフィールドにあるんじゃないかって話は参考にしていいと思うニャ。こっちの世界の人が消えた感じが似ているって言うのならそうなんだろうしニャ」

 

 カムイちゃんの話を聞いて、西宮は神妙な顔で頷く。

 

「俺もフィールドに目星をつけて探すのは賛成だ。時間も無いことだし、ある程度希望的観測でも決めつけでいった方がいいと思う。その方が思い切って動ける」

 

「うん。二日後までに時計台を取り戻さないといけないから、迷っているヒマなんてないニャ。間違って後悔するのは三日後にするニャ」

 

「それでも真逆に突っ走ってたら怖いものがあるけどな」

 

「その時はその時ニャ。光速ダッシュで地球一周してくればいいニャ」

 

「そこは素直にスタート地点に戻ろうぜ!」

 

 力強く笑顔で言い放つカムイちゃんのボケにツッコんだおかげで、西宮の顔から少し力が抜けた。

 

「……しかし、フィールドだからな……俺達だけじゃきっと入れない。だから、先にキューブについて調べようと思う」

 

「キューブって、フィールドに行くためのアレかニャ?」

 

 西宮は頷いて返事をする。

 

「もし生徒会の人達が言うように時計台がキューブによって消えたんなら、キューブについても調べないと」

 

「何でニャ?」

 

「消した方法が分からないと、元に戻す方法も分からないだろ」

 

「ほう、なるほどニャ」

 

「……ちなみに聞くけど、時計台って誰かに恨みを買った過去とかあるのか? ズバリ、犯人についての心当たり」

 

 北海道について詳しいカムイちゃんは、難しそうに唸って考える。

 

「時計台の歴史にそんな他人様に迷惑をかけたものなんてないはずなんだけどニャ。元々は学生が内戦によって命を落とさないように願って作った演武場だったしニャ」

 

 カムイちゃんにかかれば、時計台に関する知識はスラスラと出てくる。

 

 西宮はその北海道知識の深さに素直に驚嘆する。

 

「よく知ってるな~」

 

「……それに、北海道の名所が誰かに恨まれているなんて、考えたくないニャ」

 

「…………あ~まあ、世の中には訳の分からないことで逆恨みする人間もいるから、そっちは考えても無駄かもな」

 

 カムイちゃんも「変な人はどこの世界にもいるからニャ~」と、疲れたため息とともに呟く。

 

「よし、それじゃまずはキューブについて調べるニャ。スマホでちょちょいだけどニャ」

 

「まあ便利なことで」

 

 得た情報からの意見交換を終え、二人は生徒会室に戻ろうと――、

 

「危ない、カムイちゃん!」

 

 どこからか聞こえた声に振り返ったカムイちゃんの目に、こん棒が迫っていた。

 

「にょわあぁ~!」

 

 すぐさま体を反らしてブリッジしたカムイちゃんの体スレスレをこん棒が通過していき、建物の壁を叩いて亀裂を走らせた。

 

「よかったなカムイ。少しでも胸が大きかったら当たってたぞ」

 

 西宮の心配する声を聞いて力が抜けたカムイちゃんはべシャッと潰れ、起き上がりざま彼の胸ぐらを掴んだ。

 

「いっぺん本気で死んでみるかニャ~!」

 

 掴みかかって激昂するカムイちゃんは、自分達の周りが陰っていることに気付き、後ろを振り返る。

 

 こん棒の持ち主は、筋骨隆々とした肉体に猪の顔を持つ、額に札をはった巨躯のモンスターだった。

 

『見るからに強そうなモンスター(ニャ)!』

 

 二人は絶叫して手に札を持って構える。

 

「モンスターって、フィールドの外でも出てくんのか!?」

 

「分からないけど、目の前にいるんだからしょうがないニャ!」

 

 大振りのこん棒の攻撃を、二人はバックステップでかわす。

 

 不幸中の幸いで、モンスターの動きは鈍重だった。二人はタイミング的には楽々と避けていく。

 

 が、やはりこういったことに慣れていないのか、徐々に息が上がり早くも肩で呼吸をしている。こん棒が振り回されるたびに当たる風圧が、ヒットした時のダメージの大きさを意識させ、プレッシャーを与えているのもあるのだろう。

 

 このままでは、疲れから攻撃を受けるのも時間の問題だ。

 

 札で攻撃しようと思っても、所持している残りが少ないため下手なことはできない。

 

「カムイちゃん!」

 

 頭上から聞こえてきた声にカムイちゃんが振り仰げば、そこに窓から血相を変えた顔をのぞかせている透とクリュー先生がいた。

 

「大丈夫ですか!? 何でそんな所に……すぐ行きますから待っててください!」

 

 カムイちゃんは助かったと思いつつも、透が来るまではまだ時間がかかるだろうと判断し、西宮に視線をやる。

 

 助けが来るなら、それまで時間を稼ぐだけでいい。残りの札で倒すことはできないかもしれないが、時間稼ぎならできる。

 

 考えが一致して二人は頷き合い、西宮は右足に〝跳躍〟の札をはる。

 

「ユナイテッドフロント!」

 

 カムイちゃんが〝蒼炎〟の札をさらに西宮の右足に手ではる。

 

 西宮が屈んでから跳び上がると、軽く三階建ての屋根に届くほどの跳躍を見せた。

 

「群青(ぐんじょう)烈火(れっか)!」

 

 西宮は落下しながら右足を蹴り出した姿勢を取り、モンスターへと向かう。その右足は青い炎で燃え上がり、まるで晴れ渡る空の様な鮮やかさだった。

 

 モンスターはこん棒を持つ右腕を上げ、西宮の蹴りを受けた。防がれたと思ったが、受けた場所を起点として青い炎でモンスターは包まれた。

 

 モンスターから蹴り離れた西宮は、地面に着地して左膝をついて右脚の根元を押さえる。

 

「やばっ、ちょっと股関節が」

 

 まだ全体強化ができない西宮が、肉体を痛めてちょっと涙目だった。

 

「しまらないニャ~」

 

 カムイちゃんの目の前で、モンスターの大きな手で叩かれた西宮が、人形の様に吹っ飛び、地面を転がって倒れ伏した。

 

 いきなりのことで動くこともできなかったカムイちゃんは、ゆっくりと視線をモンスターへとやる。

 

 見ると、煙を上げるモンスターは何事もなかったかのように、再びこん棒を構えていた。

 

「き、効いてないのかニャ……」

 

 唖然(あぜん)としているカムイちゃんに、モンスターの攻撃がくり出される。

 

「そのモンスターは火に耐性がある!」

 

 また聞こえてきた声に動かされ、カムイちゃんは危機一髪のところで攻撃を避けた。

 

「だ、誰ニャ?」

 

 周囲をザッと確認するが、倒れている西宮以外の姿は見えない。

 

「声はすれども姿は見えず……アドバイスするぐらいなら、素直に助けてくれにゃ~!」

 

 と泣き叫ぶが、助けに出てくる人はいない。

 

 後もう少しすれば透が助けに来てくれるはずだが、モンスターの目が倒れ伏している西宮に向けられた。

 

 こん棒を使わなくても人を数メートル吹っ飛ばす力があるモンスターなのだ。その力で振るわれるこん棒を無防備に受けたら――

 

 カムイちゃんは急いで青のバッグから札を一枚。そして、もう一枚取り出す。

 

 二枚の札が、淡い光で繋がれた。

 

 

 駆けてきた透は建物の裏手に回り、目の前の光景に思わず足を止める。

 

 カムイちゃんと西宮が倒れ伏し、モンスターは下半身を氷漬けにされて動けないでいた。

 

 何が起こったのかは分からなかったが、倒れている二人を案じて透はモンスターの背後から手早く倒し、すぐさま手当てのために人を呼ぶ。

 

 何が起こったのか見ていたのは、上の窓にいたクリュー先生と、カムイちゃんの危険を影から知らせてアドバイスをした人だけだった。

 




次回更新は金曜日を予定しております。

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