北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『消えた時計台を探せ』 作:カムラー
時計台消失事件も解決し、カムイちゃん達の傷もほとんど癒えた四月中旬。札教学園名物ジンパ(ジンギスカンパーティーの略)が、学園の敷地で行われていた。
利羅主導の下、打ち上げはこれしかないと開かれた。
が、
「寒い」
「ちょっと時期が早いニャ~」
本来、ジンパは早くて五月末に開かれるものなのだ。五人は草むらにシートを敷き、中央にドーム型の鍋を置いて、寒さに震えていた。
「誰か、せめてマフラー貸してくれね?」
コートを失った西宮は、鍋に手をかざして暖を取っていた。あまりに不憫な姿に、カムイちゃんは紙コップに温かいお茶を入れて差し出す。
「でも、いいんでしょうか?」
透が心配そうにしているのも当然で、ジンパは問題が起きないよう学生のモラルや常識だけでなく、学園側の許可も求められる。
「心配ないニャ。生徒会長の利羅がいるんだから、許可なんて楽勝だったんだろニャ?」
と、率先して肉や野菜を焼いている利羅は、
「え? 無許可だよ」
その言葉が聞こえたかのように、道の向こうから生徒会の面子が怒涛の勢いで走ってくる。それを見た利羅は、焼けた肉を口の中にかきこめるだけかきこんで。
「モグモグモグモグモグモグ(じゃ、後は四人で楽しんで)」
脱兎の勢いで走って行った。
生徒会の人達はカムイちゃん達を注意することもなく、利羅を追いかけていった。
一連の流れに唖然とし、駆け抜けていった人達を見送り、しばし野菜が弾ける音だけが場に落ちた。
とりあえず、せっかく用意されているのだからと、寒さに震えながら四人はジンギスカンを食べきった。
「ところでカムイ。いつ帰るんだ?」
後片付けをしながらの西宮の質問に、透と翡翠は驚いたような顔を上げる。
「なに? 二人とも帰ってしまうのか?」
「そりゃ帰るだろ。時計台の事件が終わったんだし、なあ」
西宮がカムイちゃんに窺うと、他の二人もカムイちゃんに顔を向ける。
そしてカムイちゃんは――
「帰るって、どうやってニャ?」
クリンと小首を傾げる。
……………………(とんぼ)。
「ど、どうやってって」
引きつり気味の顔で、西宮は困惑していた。
「いくら私でもキューブがないと帰れないニャ。そのキューブは見事にぶっ壊しちゃったしニャ~」
と、答えるカムイちゃんは、鼻歌混じりにゴミ袋に分別したゴミを入れていく。そのあまりに能天気そうな態度に、西宮の方は深刻に慌てふためく。
「い、いや! ちょっと待て! 帰れなかったらカムイは仕事とかこまっ――……あ~も~! そうか~!」
そこで気づいた西宮は、大きな声を出して頭を抱えた。
ニヤリとカムイちゃんは腰に手を当て、平らな胸をはる。
「にゃふふふふ、そうニャ。私はラジオやイベントに出る際は、向こうの人間に憑依しているニャ。私の意識は次元や空間、時間に囚われないニャ。だから、こっちにいても向こうの仕事に影響は出ないニャ~」
なんという反則技。これが北乃家の選ばれし者の力なのだろうか。
そのカムイちゃんの言葉に喜色を露わにしたのは、
「じゃあカムイちゃんはずっとこっちにいてくれるんですか!?」
透だった。キッチンペーパーで鍋を拭いていた手を止めて、カムイちゃんに駆け寄る。
「そうだニャ。まあ当分はいるかニャ。これからもよろしくしろ、透」
そう言って差し出されてきた手を、頬を染めた幸せそうな顔で掴んだ。
そして、シートを畳んでいた翡翠は、
「……西宮。とりあえず、サッポロ市民の登録をする役所まで、後で案内してやる」
「…………あんがとね」
彼女の気遣いとかけてくれたマフラーがなまら温かかく、西宮は涙が出そうだった。
「…………はぁ、これも様式美っちゃ様式美か」
そして、カムイちゃんはアイドル笑顔でピースサインを見せた。
初めてのweb投稿で拙い作品でしたが、最後まで読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白いと感じてくれたら嬉しいです。
それでは、「したっけにゃ~」
北乃カムイのもにょもにょ異世界(仮)『伝説行事!応援合戦遊戯会』に続く。