ボクはマスコットなんかじゃない   作:ちゃなな

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03 それが君の願いの力

 ――ボクと契約して魔法少女になってよ。

 

 どんな無理難題を言われても落ち着いていようと身構えていた梢だったが、告げられた言葉につい顔をしかめてしまった。何をファンタジーな、と言いかけて、この状況が既にファンタジーだと思い直す。歪む風景。爆発。喋る猫もどき。倒れて死にかけている親友。刻一刻と悪くなっていく彼女の顔色に、梢は唾を飲み込み、その言葉を言った。

 

「いいわ。契約する。それで結衣が助かるのなら!」

 

 キュゥべえはピクリと耳を動かす。地面に向かって垂れ下がっていた耳毛が手のように梢に差し出される。

 

「君の想いはエントロピーを凌駕した。……契約成立だ」

「ん……くぅ……っ!」

 

 突然の痛みに梢は呻いた。胸を押さえる。体中の神経がそこに集まっているかのような感覚。手の平が熱い。指の隙間から光が漏れている。ギュッと目を閉じて一度息を呑むと痛みが引いていく。体の力を抜くと、梢はゆっくりと目を開けた。痛みは消えたが、手の平に灯った熱は消えない。梢は開いた手の中に視線を落とした。

 

「解き放ってごらん。それが君の願いの力だよ」

 

 それは、綺麗な卵型の宝石だった。キュゥべえの瞳のような赤瑪瑙。金の台座が付いていて、エッグスタンドのように見える。台座と卵が離れてしまわないように、台座から卵の先っぽに向かって何本か金のラインが伸びていて、天辺には十字架を模した彫刻がワンポイントになっていた。淡い光を放つそれを梢は見つめる。不思議とどうすればいいのかは説明されずとも理解できていた。ド忘れしていた公式をふと思い出したかのような、その感覚。

 梢が宝石を持った左手を前に差し出すと、そこから漏れた光は指先から腕へと上がっていく。光が通り過ぎた後、腕を覆っていたのは黒いドレスグローブだった。そのまま光は梢のセーラー服を包んでミニのワンピースへと形を変える。前で布を重ね合わせたそれは右側の布が上にきて、中心より左側で大きなボタンによって固定されていた。ただ、ボタンはヘソぐらいの位置までしかなく、残りはスリットとしてヒラヒラと揺れている。次は髪をまとめていたシュシュ。下側から上に向けて扇状に布が張り出し、サイドテールという事もあって斜めを向いているが、それはまるでナースキャップのようだった。その中心には黒抜きの十字がプリントされている。最後にスカートのスリットから覗く左脚に十字の形に変化した宝石がくっつき、それを中心にしてリングガーターが太ももを包む。

 一通り変化が終わって光が止み、自身の姿を見下ろした梢は口元をひくつかせた。その顔は赤い。風通しのいい太ももをすり合わせる。長さの違うアンバランスなブーツが落ち着かない。スカートのすぐ下までをカバーしている右のそれとは違い、リングガーターがあるせいか、左は踝が隠れる程度の長さしかないものだった。

 

「な……何これ、ナースのコスプレ? あたし、そういう趣味ないんだけど!?」

 

 確かに変化したシュシュや十字のデザインはナースを思い起こさせる。しかし、黒いブーツに手袋、そして宝石と同じ赤瑪瑙色のミニのワンピースを纏うナースはいないだろう。グイグイとスカートを下へ引っ張って、出てしまいそうになる太ももを隠そうとしながら詰め寄ってくる梢をキュゥべえは促す。

 

「君の願いが"他者の治療"だからかもしれないね。さあ、早くしないと手遅れになっちゃうよ」

「そ、そうよね。格好にツッコミいれるのはいつでも出来るわよね」

 

 梢は頷いて、左手で太ももの宝石に触れた。まだ頬は赤いが、表情は真剣なものになる。石から細長い物が現れて、梢の手の平に収まった。それは見る見るうちに巨大化して一抱えもある大きさの注射器へと形を変える。ピストンを引くと、注射器の中の開いた空間に液体が湧きだした。液体がある程度の量になると、梢は注射針を結衣へと向ける。針先が逡巡するように数秒揺れたが、結衣の浅かった呼吸音が聞こえなくなりそうなのに気付いた梢は唇を噛みしめて横たわる体に針を突き立てた。針が肉に沈み込んでいく感触に、梢は肌を粟立たせる。唇を固く噤む。そして、ゆっくりとピストンを押し込み、中の薬剤を結衣へと注入していった。

 

「……ぅ、ぁ……」

 

 小さく結衣が呻く。眉根が寄っていて額に脂汗が浮いている。苦しそうではあるが、呻き声を上げられるだけ先程よりもマシだと思えた。針を抜くと、結衣の体がビクリと震える。ごっそりと無くなっていた脇腹の肉が断面から盛り上がっていく。ホラー映画で見るようなその様子を梢は正視することが出来ず、顔を背けて腕を振るう。提灯型になった袖の中から出てきた包帯が蛇のような動きで宙を走り、結衣の傷口を隠した。肉が膨らんでいくのに沿って巻き付いた包帯もうねるが、直接見えないだけで随分視覚を襲う不快感は無くなる。その包帯のうねりもすぐに落ち着いた。キュゥべえが結衣の傷口があった所に近付いて顔を近づける。ウエストのサイズは元に戻っているし、顔色も先程に比べれば随分良い。

 

「……随分血を失ってた筈なのに、貧血の方も大丈夫そうだね。その薬剤、造血効果でもあるのかい?」

「その時々で必要な薬剤を作り出せるみたいね」

 

 落ち着いた結衣の呼吸に梢は息をつく。キュゥべぇは視線を結衣から彼女へと移した。

 

「さあ、これで一先ずこの子の命の危機は脱した。次はこの結界を作り出している魔女を倒してキミ達の危機を脱しよう」

「魔女…… まあいいわ。その話、長そうだし。でも、後で説明してもらうわよ」

「もちろん」

 

 キュゥべぇは頷いた。それを横目で確認した梢は手に抱えたままだった注射器を改めて構える。

 

「んじゃ、やってみますか。えぇっと……」

 

 言いながら、梢はピストンを引いた。再び注射器の中が液体で満たされていく。だが新たに湧き出た液体は、先程結衣に注入した薄青のものではなく、紫色をしている。先程のは傷を癒す為のものだったが、今度のは相手を害する目的で調合されたもの。違う薬品なのだ。梢は、注射針を突き刺す対象者を探して辺りを見回す。だが、行動は相手の方が早い。爆発音はいつの間にか聞こえなくなっていた。既に相手は行動を起こしていたのである。

 

「あいたっ!? 何っ!?」

 

 突然の鋭い痛み。梢はその痛みの発生源を見下ろした。リングガーターと短いブーツの間。むき出しの左脚に金属の牙が噛みついている。サメの顎の標本のようなそれは、梢の血に塗れて鈍く銀色の光を放っていた。上顎と下顎の繋ぎ目には小さなおもちゃのような羽が付いていて懸命に羽ばたいている。

 

「な、何これ!?」

「トラバサミに似ているね。罠の中央に獲物の足が乗ると、バネの仕掛けで金属の板が閉じて足を挟み込んで動けなくする…って罠だよ」

「解説はいい!」

「そうかい?」

 

 思わず叫んだ梢に、キュゥべぇが落ち着いた声で答えた。確かに梢の足に噛みついたソレはトラバサミに似ている。実物を梢は見たことがなかったが、罠にかかった動物を助ける場面が出てくる本を読んだことがあったので、どういうものかは知っていた。

 問題は、普通トラバサミは上を通った相手を捕獲する道具であって、自ら噛みついてくる物ではないということである。梢は大きな注射器を落とさないように小脇に挟んだまま、何とか噛みついていたトラバサミの口を開けさせることに成功した。魔力で腕力を強化して繋ぎの部分を破壊する。初めて使う魔力という力だったが、宝石を使っての変身と同じように自然に扱い方は理解できていた。梢は壊れたトラバサミを地面に叩き付けるように投げ捨てる。問題を一つ解決したことで息が漏れた。そして顔を上げて顔を引き攣らせる。

 

「ちょ……っ、いっぱい飛んできた!?」

 

 梢の視界に映ったのは、複数のトラバサミ。両手の指程多くはないが、片手の指では確実に数えきれない。それらが一斉に梢に向かって飛んでくる。梢は注射器を振り回す。だが注射器は一抱えもあるサイズなので、動きはそれほど早くない。それで捉えられたトラバサミはほとんどいなかった。小さな羽で器用に旋回して避けて回り込んでくる。注射器にぶつかった個体も致命打には程遠い。後ろに飛んで衝撃を殺したのかすぐに体勢を立て直して再び飛び掛かってきた。

 

「痛っ、痛いって!!」

 

 左手で注射器を抱き締め、右手を振り回す。注射器で前面は守れたが、他は金属の歯形が増えていく。

 

「きゃあっ!! こ…んのぉ……!」

 

 上で振り回していた右手に噛みつかれて、梢は叫んだ。そして痛みに涙目になって柔肌に牙を食いこませたトラバサミを睨み付ける。そのトラバサミに真っ白な包帯が巻き付いた。結衣に巻き付いた時と同じように袖口から伸びている。包帯は無理矢理トラバサミの頤を開かせて梢の腕を解放させると、思い切り振り回した。包帯に掴まれたトラバサミと羽ばたいていたトラバサミが空中で衝突事故を起こして繋ぎ目が壊れてバラバラになって地に堕ちる。

 仲間の最後を見て怯んだのか、トラバサミの動きが鈍った。それを見逃さず、幾筋もの包帯が伸びて捕獲していく。捕獲したトラバサミは先程のようにお互いをぶつけたり、注射器を叩きつけたりして破壊する。いくら空を飛び意志を持っているかのように攻撃して来たり怯んだりするとは言っても、材質は金属。注射器の中の薬剤は残念ながら役には立たない。

 最後のトラバサミが地面に捨てられる。残骸は跳ね返って空気に溶けるように消えていった。マーブル模様だった風景が正常なものへと変化していく。

 

「……逃げた?」

「そのようだね」

 

 辺りに顔を巡らせた梢にキュゥべぇが答える。トンネルのように覆っていた指の屋根が街路樹に戻り、日差しが戻ってきていた。結衣や自身をこんな目に遭わせた相手にやり返してやりたい気持ちはもちろんあるが、それより結衣の方が優先順位は高い。梢はホッと息をつくと、結衣のそばに駆け寄って膝を付いた。軽く体を揺する。

 

「結衣、結衣! 起きて!」

「う……ん……梢、ちゃん……?」

「そうだよ! もう大丈夫だから!」

 

 反応は程なく返ってきた。薄く目を開けた結衣に、梢の表情が輝く。腹部に巻かれた包帯に沁み込んだ赤色が痛々しいが、結衣の顔色は悪くはない。問題なく梢の使った薬剤が効いている証拠だった。

 状況をすぐさま把握できないでいるらしい結衣がキョロキョロと辺りを見回している所にキュゥべぇは声をかける。

 

「とにかく、ここを離れないかい? 結界が解かれたから、いつ人が来てもおかしくないし」

「そうね。さっきのバケモノとかの説明してもらわなきゃだし、結衣も休ませたいしね。結衣、動ける?」

 

 驚いた表情でキュゥべぇを見ていた結衣は、梢の声にハッと我に返って、立ち上がった彼女にならって身を起こした。足に力が入らずによろけたところを梢に支えられる。結衣は梢を見上げて礼を言うと、今度こそ自分の足で体重を支えた。

 

「えっと……確かに何が起こったのか説明欲しいし、休憩もしたいし動けるけど……」

 

 少し赤くなった顔で目線を逸らし、口ごもる結衣に梢は首を傾げる。

 

「結衣?」

「その……この格好で歩き回るっていうのは……」

「え? もちろん、こんなコスプレ衣装で歩き回るつもりは…………あ」

 

 梢の視線は結衣の腹部へ。脇腹がごっそり無くなるような怪我で服が無事なはずもなく、素肌こそ包帯に巻かれて見えたりはしないが、結衣の姿はかなりあられもないものなのだった。

 

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 薄い板の扉と天井の隙間から差し出された白乳色の塩ビ袋に結衣は手を伸ばした。触れた感触が分かったのか、扉の向こうの手が袋を離す。重力に従って落ちてきたそれを、結衣は抱きしめて確保した。

 

「ありがと」

「いいよ。結衣が怪我したのは、あたしのせいなんだし。……あたしも、ありがとう」

「それこそ、いいよ」

 

 礼を言うと、扉の向こうからも礼が返って来る。結衣はくすぐったそうに小さく笑うと、袋の中をチラリと確認して蓋を閉めた便座の上に置いた。ここは、二人が歩いていた並木道の道中にある公園の公衆トイレの一室。狭いが、プライバシーは守られる。

 結衣は衣服として体裁を保てなくなってしまったセーラー服に手をかけた。血が固まってしまっていて苦労したが、何とか脱ぐ。だが、勢い余って肘が扉にぶつかってしまった。大きな音と衝撃に結衣は首をすくめる。邪魔になった服をトイレタンクの上に置いて、打った肘を擦った。ある程度痛みが引いたら、次は便座の上の袋に手をかける。袋には安さが取り柄の量販店のロゴが印刷されていた。ロゴに書いてある量販店で梢が買ってきた代わりの服である。中学生である彼女たちの所持金の事情で服を一式用意しようとしたら少し離れているが、その店しかなかった。

 

「さて、揃ったし、そろそろ始めようか。ユイは着替えながら聞いて」

 

 洗面台に座ったキュゥべぇが唯一閉ざされた扉の向こうへと声を上げる。自己紹介は梢が量販店に行っている間に済ませていた。同じように梢も洗面台に腰かける。この公衆トイレの洗面台は木の長い天板に白い陶器製の洗面ボウルがいくつかちょこんと乗っかるように取り付けてあるというデザインで、更に人一人腰かけてもビクともしないくらいに頑丈で、スペースもあった。キュゥべぇは梢を見上げる。その梢の肌には、散々噛みついてきたトラバサミの歯形は既にない。治癒を祈りとした彼女は、変身を解く前に自身に治療を施していた。

 

「何から聞きたいかい?」

「……あたし達を襲ってきたヤツの事から。魔女って言ってたわよね?」

 

 キュゥべぇからの問いかけに、少し考える素振りを見せてから梢は答える。キュゥべぇのしっぽが波打つように上下に一度だけ揺れた。

 

「じゃあ、そこから話そう。キミ達を襲ったのは、魔女。呪いから産まれ、絶望を撒き散らす存在なんだ。ボクは、その魔女を倒す事のできる素質を持った少女を探してる」

「それが魔法少女ってわけ?」

「そうだよ。ボクは願いを持った少女の所を訪ねて、その願いを叶える。その代りに魔女退治をお願いしているんだ」

 

 まっすぐ梢を見上げながらキュゥべぇは言う。梢は目の前に翳した手の甲を見た。中指にシルバーのリングが嵌っている。これは、魔法少女になった時に梢の手の中に現れた宝石が形を変えたものだった。

 

「それはソウルジェム。魔力の源で、魔法少女の証だから失くさないようにね」

「身分証みたいな?」

 

 梢は小さく笑う。指輪にはいぶし銀加工で模様が入っていた。一定間隔で並ぶそれは文字のようにも見える。事実、それは文字だった。何処の国の物にも当てはまらない文字。だが梢には読むことが出来た。魔力の使い方と同じように自然に。魔法少女になること。それがトリガーなのかもしれない。ここに来る前に結衣に見せたが、彼女には読めなかった。"KOZUE"。指輪にはそう書かれている。これを知っている者に見せれば、自身が梢という名前の魔法少女だと証明できるという事だろう、と梢は結論付けた。

 指輪から視線をずらす。指輪が嵌っている指の爪に模様が描かれている。これも、魔法少女になるまでは無かったものだ。赤瑪瑙色のその模様は十字。卵型の時のソウルジェムの先端についているワンポイントによく似ていた。扉の向こうから衣擦れの音と結衣の声が聞こえてくる。

 

「何か、アニメの中の話みたい…… キュゥべぇは、いわゆるマスコットなの?」

「マスコットって何だい?」

「あー、アニメとかじゃ大抵小動物が魔法少女のサポートをしてるのよ」

 

 首を傾げるキュゥべぇに、梢は頭を掻きながら答えた。実際、アニメで見る魔法少女物には必ずと言っていい程可愛らしい小動物や妖精がサポートしてヒロインに付いている。白猫に似ているキュゥべぇなら確かにピッタリだろう。

 

「なるほど。その認識は間違っていないね」

 

 我が意を得たりといった様子でキュゥべぇが頷く。梢は翳していた手を下ろしてキュゥべぇを見下ろした。

 

「絶望を撒き散らすって具体的にはどういうことなの?」

「怒りや憎しみを過剰に増幅させたり、不安や猜疑心を煽ったり…いろいろだよ。そういった災いの種を人々に植え付けるんだ。結果、対象が自殺したり、殺人を犯したりする。原因不明のそういった事件は、大抵魔女の呪いが原因なんだ」

 

 洗面鏡は天板の長さを全てカバーできる大きなものが取り付けられている。顔をしかめた梢はより深く腰を掛けて鏡にもたれかかった。現実の梢と鏡の中の梢が背中を預け合う。梢は行儀悪く片膝を立て、そこに肘を置いて頬杖をついた。

 梢が魔女のもたらす呪いに付いて憤っているのはキュゥべぇにも感じ取れる。ピクピクとキュゥべぇは耳を動かす。この様子なら、彼女はきちんと魔女と戦ってくれるだろう。

 

「でも、どうして誰もそれに気付かないの? あんな異常な事を体験したら話題に上りそうだけど」

「普通は生きては帰れないからね」

 

 そんな事を思っているキュゥべぇに、納得のいかなそうな声で梢が尋ねる。キュゥべぇはあっさりとした口調でその問いに答えた。

 

「今回は偶然ボクがキミ達に気付いて、さらにキミ達に素質があったから魔法少女になることが出来て相手が逃げたけど。それに、キミ達が飲み込まれたあの異常な空間。あれは魔女の結界と言って、魔女はその奥に隠れ潜んで人前には決して姿を現さないんだ」

「ちょっと待って。"キミ達に素質"? 結衣もなの?」

「そうだよ。彼女にも素質がある。ボクの姿が見えるからね。素質のあるなしはそれで分かるんだよ」

 

 驚いたように梢が鏡から背を離す。それに大きく頷いてみせる。

 

「だからね、ユイ。キミもボクと契約して魔法少女になってよ!」

 

 キュゥべぇは閉じた扉へと視線を投げかけた。結衣の姿は扉の向こうなので、もちろん表情は見て取れない。それでも衣擦れの聞こえなくなったそこからはその言葉を考えているような雰囲気が伝わってくる。

 

「だ、だめよ、ダメ!」

 

 それを遮ったのは梢だった。詰め寄るように天板に腰かけたままキュゥべぇに近付いて身を乗り出す。

 

「魔法少女になったら、その魔女と戦わなきゃいけないんでしょ!? 結衣が戦えるわけないじゃん! あたしが戦うから。それでいいでしょ?」

 

 自分の胸に手を当てて、"あたしが"という事を強調して言う梢に、キュゥべぇは首を傾げる。

 

「でも、一人より二人の方が戦いやすいんじゃないかな?」

 

 言葉に詰まる梢。彼女にも分かっている。先程、殆ど敵にやられるだけだった自分は、あまり戦闘には向いていないという事を。だけど、そんな自分より戦いに向いていないだろう結衣を戦わせる事は許容できそうになかった。

 カチャリと金属が触れる音がして、ゆっくりと扉が開く。そこには心配そうな表情の結衣が立っていた。大人しげな、落ち着いた色のワンピースを着て、扉に触れていない方の手には白乳色の塩ビ袋を提げている。それが少し膨らんでいるのは、今まで来ていた制服が入っている為だ。

 

「梢ちゃん……」

「いいの。もう結衣に怪我させたくないんだから」

 

 呟く結衣に、梢はキッパリと告げる。キュゥべぇはやれやれといった様子でしっぽを揺らした。

 

「そう……なら仕方がないね。でもユイ、忘れないで。キミには素質がある。願い事さえ言ってくれれば、いつでも魔法少女にしてあげられるからね」

「……うん」

 

 結衣は小さく頷く。話を断ち切るように、ことさら機敏な動きで梢は天板から降り立つと、結衣の姿を上から下までチェックする。

 

「うん、似合う似合う。あたしの見立てに間違いはなかったね」

「そ、そうかな。ありがとう」

 

 ワンピースは安物ということもあって地味ではあったが、それでも結衣は嬉しそうに少し顔を赤くして俯く。

 

「じゃあ、帰ろうか」

 

 それに梢も嬉しそうに微笑んで、天板の上に壁にもたれかからせるようにして置いていた学生鞄の内の一つを差し出した。




ようやくあらすじ公開分まで書けたwww
あらすじの中身なんて、注意書き除けば二行しかないのに。
ネタバレ有りとは言え、原作未見の人にも分かるような文章を心がけてます。
一話目からあれだけネタバレしてるのにまど☆マギ知らない人がここまで読んでいるかは不明ですが。

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