P3 in IS   作:ティターニア

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ようやく、鈴ちゃん登場。

そして、いつもより長くなった。


16:転入生は中国から

「…なんか騒がしいね。」

「おう、そうだな。」

 

朝、教室に入って感じたのはそれだった。

おそらくクラス対抗リーグマッチまで一週間を切ったからなのだろう。

昨日の放課後、掲示板にリーグマッチに関する記載事項が貼られ、優勝クラスにはなんと1ヶ月食堂のデザートが無料になるらしい。

女子にとってこれは見逃せないものであろう、…勿論僕にとっても。

いやぁ、昨日はテンション上がっちゃったなぁ。

どれぐらいかと言われれば、お手上げ侍並みに。

しかし、教室の様子を見るに騒がしい理由はそれだけでは無いようだ。

 

「おーい、皆なに騒いでるんだ?」

「あっ、織斑君に神名君、おはよー。」

「聞いた?転入生の話。」

「転入生?こんな時期にか?」

「そうらしいよ。

しかも中国の代表候補生ですって!」

「ふ〜ん、そうなんだ。

中国っていえば、あいつ元気にしてるかなぁ。」

 

と、話を聞いた一夏は転入生よりも自分の思い出に浸っている。

確かにこの時期に転校生というのは少し妙である。

しかも代表候補生、何か目的があるのだろうか?

 

「ふふ、おそらくわたくしの存在を今更危ぶんでの転入かしら。」

 

セシリアは何やら自慢げなポーズをしている。

君のその自信はどこから来るんだい?

 

「おい一夏、そんなことよりお前はリーグマッチに集中しろ。」

「そうだよ織斑君!私達の為にも頑張って!!」

「目指せ!デザート食べ放題!」

 

箒が話題を変えたことで一夏への声援が飛び交う。

 

「おう、任せとけ!」

「頼むよ一夏、デザートの為に。」

「Yes,sir!!」

 

僕の言葉に一夏はピンと背筋を伸ばし敬礼する。

一夏の謎の行動にみんなが戸惑う。

実は、昨日テンションが上がっちゃった僕が一夏に勝ってもらうために精神攻撃を行った結果なのだが、内緒にしておこう。

 

「…ま、まあ今のところ専用機を持っているのは1組と4組だけだから余裕だよ!」

「そうだよ!私達の勝利は決まったようなもんだよ!」

 

と、微妙になった空気を無理矢理変えて再び盛り上がり始める。

 

「…その情報、古いよ。」

 

その時、盛り上がる僕達に水を差す声が。

声のした方を見ると、教室の前側のドアの所に腕を組み仁王立ちで立っているツインテールの女の子がいた。

 

「2組も専用機持ちであるあたしがクラス代表に変わったの。

そう簡単には優勝出来ないから。」

「…お前、鈴か?

なんでこんなところに?」

「中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)

2組のクラス代表として、今日は宣戦布告しに来たのよ。」

 

と、凰は胸を張る。

そんな様子を一夏はしばらくぼーっと見ていたが、

 

「どうしたんだ、鈴?

すげぇ似合わないぞ。」

「なっ!?」

 

軽く突っ込みを入れられ、凰はガクッとなる。

そんなやり取りを見るに、一夏と彼女は知り合いなのだろう。

おっと、一夏を見る箒やセシリアの迫力が凄まじいものになってるぞ。

それにも気付かず一夏は、一方的に怒っている凰と笑いながら喋っている。

しかし、そろそろSHRが始める時間だ。

凰も戻らないと………、

 

「あ。」

「?何よあんた、間抜けな声を出して。」

 

遅かったみたいだ。

 

「凰さーん、後ろ後ろー!」

「てゆうかあんた誰よ?後ろが何なの___」

 

と、振りかえったところで凰の頭に出席簿が振り下ろされる。

正体はもちろん我らが1組担任、織斑先生である。

 

「ち、千冬さん……。」

「織斑先生と呼べ。

もうすぐSHRだ、さっさと戻れ。」

「は、はい…。」

 

織斑先生の前には、中国代表候補生も子猫の様に見える。

 

「い、一夏!また後で来るからね!

覚えておきなさいよ!」

 

代表候補生は同じようなことしか言えないのか。

入学当初に聞いたことのあるような捨てゼリフを残して、凰は去っていった。

 

「一夏、どういうことなのだ!」

「そうですわ!あの方は一体誰なのですか!」

 

と、途端に箒とセシリアが一夏に詰め寄る。

 

「席に着け、馬鹿ども。」

 

が、織斑先生の出席簿によって、強制的にこの話は終了となった。

…なぜか一夏も叩かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「一夏さんのせいですわ!」

 

食堂へと向かう道すがら、横で一夏は箒とセシリアに文句を言われている。

彼女達が怒っている理由はわりとどうでもいい。

朝の凰と一夏のやり取りが気になってしまい、授業中に何度もぼーっとしていて出席簿を食らっていたからである。

なかなか理不尽である、というより自分達が悪いだろう。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

その問題の凰はカウンターの前で一夏を待っていた。

 

「とりあえず注文したいからそこ退いて欲しいな。」

「えっ、あ、うん。」

「それにその置いてあるラーメンは多分君のでしょ?

じゃあ早く食べないと、麺が伸びて美味しくなくなっちゃうよ。」

「え、ええ、それもそうね…。」

 

一夏ではなく僕が先に話しかけてきたので戸惑ってしまったようだ。

僕の言葉に素直に応じて、彼女はラーメンをテーブルへと運んでいった。

 

「理すげぇな、鈴が素直に応じるなんて。」

「ご飯は美味しく食べないと。」

 

そんな事を言いつつ、僕達は昼食を受け取り凰が座っているテーブルへと向かう。

凰の隣に一夏が座り、2人の向かい側に箒とセシリアが座った。

僕はセシリア達の横に座った。

 

「それにしても久し振りだなぁ、鈴。

ちょうど一年ぐらいになるのか。

元気にしてたか?」

「ふん!あんたも相変わらずね。

ちょっとは怪我病気したらどうなの?」

「なんだよそれ?」

「てゆうかほんとにびっくりしたわよ。

テレビ見てたらあんたの顔が出てきて、思わずお茶吹いちゃったんだから!」

「あはは、鈴のその姿見たかったなぁ。」

 

と、一夏と凰は楽しそうに会話を続けている。

…僕の横から漂ってくるオーラがどす黒くなっていく。

 

「…えっと、一夏?

そろそろ紹介して欲しいかな。」

「理の言う通りだ!

いい加減どういう関係なのか説明しろ!」

「そうですわ、一夏さん!

…まさか、こちらの方と付き合っているというわけではありませんよね!?」

 

僕の言葉に2人が賛同して一夏に詰め寄る。

 

「なっ!?べ、別にあたしは付き合ってるわけじゃ…。」

 

何やら凰は顔を赤くしている。

セシリアの言葉に対する反応なのだろう、彼女も一夏に惚れているようだ。

さすがだね、一夏!

 

「いや、なんでそんな話になるんだ。

ただの幼馴染だぞ?」

「…………。」

 

しかし、空気を、というより乙女心を読まない一夏。

凰の目が鋭くなっていく。

さすがだね、一夏!

 

「幼馴染は私であろう!」

 

一夏の言葉に憤慨する箒。

せっかくの幼馴染(ステータス)を自分だけのものに確立したいのだろう。

 

「あー、えっと、箒が転校してったのが小4の終わりだったろう?

で、小5の頭に鈴がやって来たんだ。

言うなれば、箒がファースト幼馴染で鈴がセカンド幼馴染だな。」

「ファースト幼馴染…。」

 

結局幼馴染みポジションは独り占め出来なかったが、自分が一番というので満足している様子だった。

 

「鈴、こっちが前によく話してた小学生の時に俺が通ってた剣術道場の娘で、箒って言うんだ。」

 

一夏の紹介で凰と箒が向かい合う。

 

「ファースト幼馴染の篠ノ之箒だ。」

「セカンド幼馴染の凰鈴音よ。」

「「よろしく。」」

 

2人の間に火花が散っているのが見えるような気がする。

お互い、一夏への好意を悟ったのだろう。

 

「で、そっちのあんたは誰なのよ。

さっきもあんたの言葉に思わず従っちゃったけど。」

 

と、凰は僕の方を見て言う。

まあ今朝から二度も水を差してきているのだから、気になってしまうのだろう。

 

「ああ、鈴、こっちは理って言うんだ。

2人目の男性操縦者だぞ?」

「…ああ、あんたが。

そういえばそうよね、IS学園にいる男子って時点でそうなるわよね。」

 

一夏の言葉に凰は納得したような顔をしている。

 

「神名理です。今後ともヨロシク、凰さん。」

「鈴でいいわよ。あたしも理って呼ぶから。」

「僕の事知ってたみたいだけど?」

「上からこっち来る前に言われてたのよ。

話の内容ぐらいあんたなら察せるでしょ?」

 

そう言われて僕は頷く。

前にも言ったが、僕は今無国籍なのである。

そんな僕を放置しておくわけがない。

どの国も自分のものにしようとしていると、織斑先生から聞いている。

鈴も大方、友好関係を築きあわよくば僕を中国のものにという話をされたのだろう。

 

「全くイライラするわ、そういうのは。」

 

鈴はウンザリした顔をしている。

 

「あたしは別に男だからとか打算とかで友達を選ばないわ。

あんたとは仲良くなれそうだから、国の思惑とかそんなの抜きでよろしくね。」

 

と言って、鈴は笑いかける。

彼女は恋愛以外ではわりと良い性格らしい。

思ったことはハッキリといえるタイプだろう。

しかし、ツンデレのようだ。

 

「ン、ンン!わたくしのことを忘れて貰っては困りますわよ?」

 

と、今まで空気だったセシリアが声を上げる。

自分も恋のライバルである事を認識させたいのだろう。

 

「………誰?」

 

が、あっさりとスルーされる。

 

「なっ!?イギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!

まさかご存知ないの!?」

 

ああ、そういえばセシリアも代表候補生だったな。

だとしたら、セシリアも入学する前に僕の話をきいていてそうだけどなぁ。

その時はまだ情報がまわってなかったのかな?

 

「うん。あたし他の国全く興味無いし。」

「なっなな………!」

 

鈴のどうでもいいという態度にセシリアが顔を真っ赤にする。

セシリアはどうもすぐに乗せられてしまうらしい。

 

「い、言っておきますけど、わたくし、貴女のような方には負けませんわ!」

「あっそ、でも戦ったらあたしが勝つよ。

悪いけど強いもん。」

 

と鈴は笑っているが、その目から彼女の言っている事がハッタリでないとわかる。

彼女は自分に自信がある。

そしてその自信は、簡単には折れないものだろう。

しかし先程性格が良いとは言ったが、神経も図太いというかなんというか…。

遠慮という言葉が無さそうだ。

 

「そんなことより一夏、あんたクラス代表なんだって?」

 

と、まだ怒っているセシリアを放っておき、鈴は一夏に話しかける。

 

「おう、まあ成り行きでな。」

「ふーん、あんたそんなに強いの?」

「いやぁまだまだだな。

セシリアにも理にも勝ててないからな。」

「そんなんで大丈夫なの?」

 

鈴は何やらモジモジし始めた。

 

「あ、あのさぁ。なんだったらあたしがISの操縦見てやってもいいけど…?」

 

彼女は勇気を振り絞って、一夏と2人きりになるチャンスを切り出した。

しかし、前の2人が簡単に許すはずもなく。

 

「一夏に教えるのは私だ。

私が頼まれた。」

「それに、貴女は2組でしょう!?

敵の施しは受けませんわ!」

 

机を叩きながら、箒とセシリアが立ち上がる。

恋愛絡みになると、この2人は怖い。

 

「あたしは一夏に言ってんの。

関係ないのは引っ込んでて。」

「関係ならある!私は理から一夏を頼むと言われている!」

「わたくしだって理さんから頼まれておりますわ!

わたくし達は信頼されていますの!」

 

そこで僕に振るんじゃない!!

箒に任せるといったのは剣術の話だし、セシリアに至っては任せると言った覚えはないぞ!

 

「そうなの、だったら理!

あたしが教えてもいいわよね?」

「駄目だぞ理!そいつの言うことに耳を貸すな!」

「そうですわ理さん!わかってますわよね!?」

「「「理(さん)!!!」」」

 

だから僕に振るな!!!!

どうして僕はいつもいつもこんな役回りなんだ!!?

 

「……まぁこの話は保留でいいわ。」

 

と、僕の心を読み取ったのか鈴はあっさりと引いた。

ここは譲らないと思っていたが、彼女は箒達よりは少し大人のようだ。

 

「保留でなはく、だから無理だと___」

「箒、鈴が引いているんだ。

ここは君達も引かないと。」

「で、ですが理さん___」

「2人とも、これ以上は見苦しいよ。」

 

僕がそう言うと、2人は渋々といった感じで席に着く。

 

「ISの操縦の話は別にして、一夏、今日の放課後時間ある?

あるわよね、久し振りだし何処かで話さない?

ほら、駅前のファミレスとか。」

「ああ、あそこは去年潰れたぞ。」

「そうなんだ…。

じ、じゃあさ、食堂でもいいから。

積もる話もあるし…。」

 

鈴は何とか一夏と話をする機会を作ろうとしている。

これに関しては別にとやかく言う謂れもない。

そもそも1年ぶりに会うのだから話ぐらいするのは当たり前だろう。

むしろ、邪魔する方がおかしい話である。

 

「生憎だが、今日は私達とISの特訓をするんだ。

放課後の予定は決まっている。」

「そうですわ。

リーグマッチに向けて特訓が必要ですの。

特にわたくしは専用機持ちですから、一夏さんの訓練には欠かせない人材なのです。」

 

しかし、そんなことお構い無しな2人組。

これは流石に看過できない。

 

「そうだね。

だから、それが終わった後ならいいよ。

6時ぐらいまで第3アリーナでやってるから。

一夏との時間を作っておくよ。」

「「理(さん)!!?」」

 

箒とセシリアは裏切られたような顔をする。

 

「わかったわ、ありがとう理!

じゃあ一夏、また後でね!」

 

鈴はそう言うと、空になった器を持って行ってしまった。

当然、横の2人が詰め寄ってくる。

 

「理!一体どういうことだ!?」

「理さん!どうしてあの方に肩入れなるのですか!?」

「肩入れって何?

2人は一夏に1年ぶりに会った友人と喋るなっていうの?」

「いや、そんなわけでは…。」

「べ、別にそういうことでは…。」

 

僕が少し怒っているのを感じてか、2人が怯む。

 

「箒は最初、僕と喋っていた一夏を連れていったよね?

自分はよくて、他の人は駄目なの?

それは自分勝手じゃない?」

「…………。」

「セシリアも鈴の言った事で怒ってるのはわかるけど、だからといってそれはどうなの?

自分がそんな事されたら嫌じゃない?」

「…………。」

 

2人共、無言で俯いている。

何だ、僕は学校の先生か?

 

「2人共焦るのはわかるけど、もう少し大人になるべきだと思うよ。

第一、そんな事されて一夏が何とも思わないわけがないでしょ?」

「……ご、ごめんなさい。」

「……申し訳ありませんでした。」

「いや、僕に謝られても。

一夏、どう思う?」

 

このままでは埒があかないので、一夏に採決を委ねる。

 

「えっ?えっと、理がなんで怒ってるか分かんないけど、謝ってるから許したらいいと思う。」

 

と、何とも的外れな事を言っている。

まあ、彼はある意味関係ないのだから仕方ない。

ハァ…とため息を吐きながら頭を掻く。

僕はどうも人間関係の間で立ち回りをせざるを得ない定めのようだ。




神名くんもかなりの苦労人です。
その分、世渡り上手です。

神名君がまとめ役みたいな感じになってますね。

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