ルイズ:ハルケギニアに還る   作:ポギャン

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 11日ぶりの更新になって申し訳ありません。

今回もお楽しみ下さいね。




8話:ヴァリエール家に還ってきたルイズその二 A

 

 各種の用事すべてを片付け終えて、時間が少しの間できたヴァリエール公爵家執事長ジェロームが池の畔にやって来て見たその光景は………シンプルな装いをしたピンクブロンドの十代前半に

なると思われる美少女を公爵夫人カリーヌが涙を流しながら抱きしめている事と、自分の仕える主のヴァリエール公爵が空にむかって始祖ブリミルに感謝の言葉を大きな声で叫んでいた。

 

更に警備隊副隊長のポルトス・ド・レイノーは感極まって涙ぐんでいるみたいだし、周りにいる警備隊員たちもも(一名除く)何故か解らないが落ち着きがなくそわそわしたり等としている姿を間近で目撃したせいなのか、頭がくらくらと軽くめまいがして思わず空を見上げた後に小さな溜め息をついたジェロームで有ったが、いつまでもそうしている訳にもいかないので周囲にいる人物の中で一番冷静に対処ができる判断力があると思えるカリーヌのところへ向かい、これからの事をどうするのか指示を仰ぐために10年ぶりに帰還した公爵家第3公女ルイズへのあいさつも兼ねて歩いていく。

 

「おはようございます。カリーヌ奥様」

 

カリーヌへむけてジェロームは恭しくあいさつする。

 

「おはよう。ジェローム」

 

近頃ではとても珍しいことに、満面の微笑みでジェロームへあいさつを返すカリーヌである。

 

「カリーヌ奥様。お隣におられる方はもしや、ルイズ・フランソワーズお嬢様でございますでしょうか」

 

ジェロームは自分の目の前にいてヴァリエール公爵家夫人カリーヌ様の隣で笑顔を浮かべて佇んでいる美少女が10年前に行方不明になっていた公爵家第3公女のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールである事を100%間違いないと、確信はしていたのだったが、執事長の職務上ゆえに失礼になるとは考えながらも訊ねずにはいられなかった。

 

「………久しぶりね……ジェローム…………10年ぶりになるのかしら? ………ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……本日無事に成長した姿でヴァリエール公爵家に還って来ましたわ。これからは以前と同様によろしくお願いするわね」

 

そう言ってルイズはカリーヌに代わって応え、更に顔をすこし下げ膝を軽く曲げてスカートを摘まみ上げる華麗なあいさつをしてみせた。

 

ルイズのこの年代の少女がするには上等で完璧なあいさつをうけたジェロームは感銘してお世辞抜きの本当に心からの言葉をルイズに述べ始めていた。

 

「ご立派なあいさつでございまする。このヴァリエール公爵家へご無事に成長した姿でお戻られになられまして、このジェローム嬉しく思いまする。これからは使用人一堂、ルイズ・フランソワーズお嬢様に誠心誠意。仕えさせて戴きまする」

 

ルイズの事を思いやる言葉をかけた執事長ジェロームの真摯な態度にカリーヌは喜色満面の顔で労いの言葉をかけていた。

 

「ジェロームのルイズを想っていてくれるその言葉。娘を持つひとりの母として大変うれしく思います」

 

「これから、アカデミーにおりますエレオノールの所とフォンティーヌ館のカトレアの所へ、大至急に梟便を送り出しなさい。それから今日の晩餐はいつもより少しくらい豪華にするように厨房の料理長へ命じるようにしなさい」

 

カリーヌはテキパキト矢継ぎ早に執事長のジェロームへ、ルイズが10年の時間を経てきれいに成長した姿でヴァリエール公爵家に無事戻ってきた関係で、今日当日の予定していた事以外に急遽発生したいろいろな用事を素早く適格に判断を下して命じていた。

 

「はい、全て承りました。僭越ながら申し上げまするカリーヌ奥様。今日の朝食はいつもの様に館のテラスでお召し上がりになられますでしょうか……それとも小食堂でお召し上がりになられますか? 」

 

執事長のジェロームは普段なら二者択一するような進言をカリーヌにする事は無かったのですが、今日に限ってこのような物言いをしたのはようやく10年ぶりに無事な姿を見せたルイズの存在があるので、解放間溢れる外に面したテラスよりも館の中にある落ちついた雰囲気のあったヴァリエール公爵家、家族専用の小食堂で久し振りの会話を親子3人で語り合う選択も視野にいれて進言したのが忠誠心溢れる老執事長のお節介な考え方であった。

 

だけど、執事長のヴァリエール公爵家家族の事を思うその親切心は規律と同じくらい毎日の習慣を重視するカリーヌに通じるハズも無く。何時もと同じ場所での朝食用意を命じていた。

 

「いつもと同じテラスで用意しなさい。勿論ルイズの分もです」

 

カリーヌに朝食準備を命じられた執事長ジェロームは“畏まりました”と言って恭しく頭を垂れた後、この場を辞するようにして足早に去っていく。

 

本来なら嬉しい事なのであったが、まさか今日急に愛してやまない愛娘がヴァリエール公爵家に還って来るとは夢にも思ってなかったので、全く何も考えていなかったルイズに関してこれからどうしていけば良いのか、思案していたカリーヌが先ずやると決めた事は先ほどから、空にむかって始祖に意味不明な言葉を連発していた。長い間行き方知れずであった溺愛していた末娘がきれいに成長して無事な姿を見て、普段の寡黙で威厳に満ちた姿も何処へ消え失せてしまったのかと思えるくらい浮かれまくりの情けない姿を晒している自分の夫を叱り飛ばして元の正常時に戻すことであった。

 

「あなた! 何時まで始祖様に感謝しているのですか! そんな事よりも、大事な娘のルイズのこれから先の事をもっと真面目に考えてください! ……………まったく、これですから男親は肝心な時に役に立たないと言われるのよ! 」

 

カリーヌにすれば、始祖へ感謝を捧げるより今は大切な娘ルイズの将来を考える方が余程大事な事柄なのであった。

 

「……済まんカリーヌ、儂とした事が浮かれ過ぎていた。テラスで朝食を摂りながらルイズのこれからの事を真剣に考えていこう……」

 

そう言って、邸内に向かって行こうとしていた公爵を急な声を発して呼び止める公爵夫人カリーヌだった。

 

「少し待ちなさいあなた。ルイズに訊ねますが……この奇妙な乗り物と荷車はいったい何なのですか? 」

 

母親のカリーヌの指摘に対してこの事態を的確に予想していたルイズはテキパキと素早い口調で説明を始める。

 

「これ等の品々は異世界地球と呼ばれている場所から持ってきました、私の大切な荷物と母さま、父様……姉様たちへの大事なお土産の品々ですわ………」

 

ルイズの適切な説明をうけても、あまり良く解らなかったカリーヌとヴァリエール公爵の夫婦でした。

 

テラスで嬉しい表情をうかべながら、これからの事を話し合っている最中のルイズと公爵夫妻の3人だった。

 

「ルイズ……10年前、いったい何が有ってお前が今まで何処でどういう暮らしをしていたのか、この儂とカリーヌに詳しいことを話してくれるかい」

 

ヴァリエール公爵は10年前に何が原因でルイズがこの館から忽然と消え失せて今まで何処でどう生活して来たのかを、語ってほしいと目の前に座って食事中の娘にやさしい声で要請していた。

 

「……えぇ、父様と母さまにはこの10年の間私に何が有ってどう今まで生きてきたのか……すべてお話しますわ……」

 

ルイズがヴァリエール公爵夫妻に語った話の内容はハルケギニアの常識の範囲を逸脱するくらい、聴いている者たちにとっては信じられない事の連続なのでした。

 

最初はまだ幼いルイズが偶然に覚えたとある呪文(使い魔召喚儀式に使用されるサモン・サーヴァント)を唱え成功して有頂天になった結果。石に躓き召喚の鏡に手が触れた途端に吸い込まれ一瞬後には見知らぬ異世界地球は日本国に飛ばされていた事であったと、事の始まりが自分自身の不注意だったせいで少し恥ずかしそうにルイズは述べていた。

 

それを聴いていた公爵夫妻は、少しだけ呆れてその後は苦笑している様でした。

 

何時までもそうしている訳にもいかないから、中断している話を先に進める事にした公爵だった。

 

「ルイズが言う、その異世界地球とは何なのか、それにこの10年間のお前がどう暮らして生きてきたのかも、この父に教えてくれないか」

 

「今から詳しい事を言います……私が異世界地球でこの10年の間どう成長してきたかのか……」

 

鏡に吸い込まれて気づいた先が異世界地球の日本国と呼ばれる国のとある場所に居たのだと。

 

その場に居合わせていた敷島 礼次郎博士がルイズを引き取り養女として

 

今まで育ててくれて、学校に通わせてくれて更にに各種知識等の習得をさせてくれたうえになに不自由ない暮らしをさせて貰った事や敷島博士が持っていた高等知識に日本国での常識に各種マナーなど、全て(この時はまだ早瀬 平八郎に師事して剣術を始め各種武道を修練していたのを黙っていた事。更に才人と恋人関係になって乙女の純潔を捧げていたことは流石のルイズも両親に絶対言えなかった)教えてくれた事等。

 

話の最後に敷島博士が各種知識や実際ルイズの失敗魔法を見て詳しく調べて検証して出した結果上の助言でルイズの魔法の系統が今のハルケギニアでは失われて久しい伝説の虚無であった事実が解り。

 

敷島博士の試行錯誤の指導の元、この10年間魔力制御を磨いてきてその力を使用して、ようやく10年ぶりにハルケギニアのヴァリエール公爵家に還って来れた事などを述べ終えていた。

 

「………ル、ルイズ。お前は……その地球と言う異世界で育ってきたのか……」

 

「……それに、ルイズが始祖ブリミルと同じ伝説の虚無であると言う事もですわね……」

 

ルイズの語った驚愕の事実に公爵は最初は理解が及ばなかったが、少し時が経ってようやく意味が解るとその内容のスゴさに大変驚いていた。

 

「……私たちが理解できないくらい遠く隔たった名前も聞いた事もないほどの異世界に居たのですから、ルイズをハルケギニア中隅々まで捜しても見つけられなかったハズですわね。あなた……」

 

「うむ……カリーヌの言う通りだな……」

 

ルイズ自身の説明により、あれだけハルケギニア中を捜索した娘が今まで見つからなかった理由が解って、ヴァリエール公爵夫妻はようやく納得した表情になっていた。

 

更に小さい頃魔法を失敗ばかりしていたルイズの真の系統が失われて久しい。始祖ブリミルと同じ伝説の虚無であり、コモンマッジクなら全て使える事が解ると喜びのあまりルイズを抱き締め上げたヴァリエール公爵に、母親のカリーヌも娘が失踪する10年前に魔法を失敗ばかりしてあれほど自分に心配をかけさせていたルイズが偉大な始祖と同じ系統の虚無だったのを知ると嬉しさのせいで、何処までも澄んでいるきれいな瞳から一筋の涙が自然とこぼれ落ちていた。

 

公爵夫妻は喜ぶと同時に愛しい娘が王国の宮廷に蔓延る。普段、平民たちから重税を取立てたり商人からは平然と便宜をはかった見返りに莫大な賄賂を貰い、更に自分たちの気に入らない真っ当に国の事を思って働く有能で誠実な人柄を誇る下級貴族出身の官吏たちを悪意をもって陰湿で陰険な罠に嵌めて排除していた悪辣非道な宮廷法衣貴族どもや、悪辣非道さではこれらの宮廷法衣貴族たちをも更に上回るくらいの海千山千の妖怪どもがいるブリミル教の総本山。“ロマリア連合皇国”に寄生している神官たちにルイズが伝説の虚無である事が解ったら、政治や金儲けに陰謀。それにエルフから聖地を取り戻すための聖戦となる戦争等に利用されたあげく、邪魔になれば簡単に使い捨てにされると考えて利用されない様に家族5人だけの秘密にする事をヴァリエール公爵は決めた。そのために朝食の用意が終るとすぐにこのテラスから使用人を下がらせ念のため“サイレント”の魔法を用いるくらいの用心をしていた。

 

「ルイズのこれから先の事について、どうしたら良いと思うカリーヌ……」

 

10年の月日を経てようやく無事に公爵家に還ってきた大切な娘ルイズの将来に関することを奥さんのカリーヌに真剣な面もちで相談する公爵なのでした。

 

「……正直な気持ち、私としては10年ぶりにこのヴァリエール公爵家に還って来たばかりの娘にこの提案をするのはあまり気が進まないのですけど……このまま当家に居ると悪意ある宮廷貴族たちが何かを有ること無いこと噂話を世間に広めるかと思いますと、一人の母として心配なのです……だからルイズにとても頼りになる婚約者を決めたいと思っているのです」

 

妻カリーヌの突如の提案に右手で真っ白な顎髭を弄りながら得心した表情のヴァリエール公爵はとある人物の名前をルイズの婚約者候補として挙げていた。

 

「ルイズの婚約者に相応しい独身で将来有望な若者と言えば……我が家の隣の領主で昔から親交のあった。ワルド子爵が良いと儂は思うのだが……カリーヌはこの事をどう考える? 」

 

「ワルド子爵とはあの魔法衛士隊グリフォン隊隊長にこの前就任した私が昔からよく知っています“ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド”でしょう……確かにあのジャン坊やでしたら風のスクウェア・メイジであの若さで魔法衛士隊隊長になるくらいの実力者なのですから、私としては異論は有りませんが……肝心のルイズの気持ちを訊かない事には賛成できませんから、先ずはルイズ自身の気持ちを訊きたいのです……ルイズはワルド子爵との婚約も含めて、これから先どうしたいと考えているのですか? 」

 

母親から真剣な表情で婚約者とこれから先の事に関して問われたルイズは暫くの間、空の彼方を見つめながら真面目な表情で考えている振りをして頭の中ではいろいろな事を目まぐるしく思っている最中だった。

 

(……ワルド子爵って、幼い時分に何時も私にやさしくしてくれたあの男性よねえ……そのワルド子爵様と婚約なんて出来るハズなんて無いわよ! 既に純潔の乙女じゃないし……それに99.9%の確率でサイトの赤ちゃん宿してるハズなんだから、念のため妊娠排卵剤を飲んでるから絶対確実にこのお腹にサイトの子がいる私が、誰かに身を委ねるなんて出来ないわ! 何とかしてこの婚約話をうやむやにして無かったことにしないと………そうだわ! 魔法学校に行きたいのを母さまと父様に頼めば良いわ……どうせ後からお願いするつもりだったから、丁度良かったわ……)

 

「ルイズ、もう考えは纏まりしたか? 」

 

ようやく結論が出たような顔つきの娘に、婚約者やこれからの事に関する答えを求める言葉を聴かされたルイズは………。

 

「 ……せっかくの婚約話だけど……今はその気が無いからお断りします……それよりも、母さま、父様、私! 学校に行きたいのです。どうしても……」

 

「学校と言うのは魔法学院の事なのかな? 」

 

婚約話を丁重に断った直後、娘から魔法学院に入りたいと突拍子もない言葉を聞いたヴァリエール公爵はルイズに問い返していた。

 

「はい! トリステイン魔法学院の事ですわ。父様」

 

父親に対して力強く元気に返事をするルイズなのでしたが………当のヴァリエール公爵は難しい顔して暫くの間、黙ったままでいた。

 

「あなた、魔法学院の今年の入学式はもう一月も有りませんわ……今から申し込んで間に合うのですか? 」

 

「……はっきり言って無理だろう。今から申込書を届け出ても、断られるのは間違いないハズだ」

 

カリーヌの問いかけに対して、無念な表情でそう答えるしかなかった公爵だった。

 

今から魔法学院入学は無理だと思っている両親に、最後まで諦めないルイズは真摯な態度で更に何度も頼み込んでいた。

「ルイズ、何故そこまで真剣な考えをしてトリステイン魔法学院へ行きたいと思うのかね……」

 

父親の公爵に無茶を押し通してまでして、魔法学院へ入学したい理由を訊ねられたルイズは少しの時間、無言になっている間に心内ではとある事を考えいた。

 

(……本当の理由なんか、父様に言える訳無いわ……それはアレの事があるから、この館にずっといたらまずいのよ! 超危険日を狙ってサイトの子種を仕込んだから、十割近い確率で父様、母さまの孫をこの身に宿してるなんて後の事を考えると恐ろしくて口が裂けても言えないのよ……だから、此処に居てもしバレた場合……母さまの考えは解らないけど……父様なら世間に秘密が漏れない内に水の秘薬で赤ちゃんを強引に流せられるハズだから、その事態を阻止するために人目のある学院に入ったらそんな事はできないことになるから……何としても魔法学院に入るのよぉぉぉ、私は! )

 

本当の真実は言えないルイズは、両親には上手くごまかす事にしていた。

 

「母さま、父様、私は! 今日ハルケギニアに還ってきたばかりだから、他家の貴族の子女たちに比べたら教養などがかなり遅れていると思っています。それも理由の1つでもあるけど……それよりも重要なのは学校で高度な知識と卓越した技量を持った教師の方々にいろいろな魔法を学んで練習して、それらを身に付けてヴァリエール公爵家の第3公女として何処へ出ても恥ずかしくない立派なメイジに成りたいのです……異世界地球では小さい頃から今までのあいだ、堂々と人前で魔法を使用できなくて隠れて練習していたから他の子達に比べて遅れていると自分でも思っているから……だから一刻でも早く他家の子たちの水準に追い付きたいのです。それが今年度にトリステイン魔法学院へ入学したい、私が考える偽りもない理由なんです……」

 

ルイズが内心を押し隠して表面上、トリステイン魔法学院へ行きたい理由と自身の初心表明を真摯な態度で両親に対して述べ終えると。今日10年ぶりに再会した溺愛する末娘の立派に成長した姿で堂々とした言動に感激して歓喜をあらわす父親のヴァリエール公爵ピエールに比べて、母親の方は表情が硬くなっている理由がルイズの話の中に一人のメイジとして聞き捨てにしておきたくないとある事実があったことに気づいたカリーヌは…………。

 

「ま、まさかと思いますが、ルイズが今まで居ました異世界地球にはハルケギニアでは常識であるハズの魔法が無かったというのですか!? 」

 

娘が語った言葉が真実じゃないと祈るような気持ちで、カリーヌはルイズにそれが事実なのかと問い掛けていた。

 

「はい、そうですわ母さま。それどころか異世界地球では王様はいましても、名誉だけの貴族はいても所領持っている貴族は殆どおりませんでしたわ」

 

ルイズの言葉に公爵夫妻は驚きのあまり、暫く言葉を発する事も忘れるくらい唖然となっていたけども……ルイズが

 

「……父様、母さま、あの、私の言葉に驚くのも無理ないけど、大丈夫ですか? 」

 

と両親を心配する娘の呼び掛けに、さすがは“烈風のカリン”と呼ばれる二つ名を持つカリーヌは再起動を果たすと直ぐに、まだ隣でフリーズ中の夫であるヴァリエール公爵ピエールに対し

 

「早く元に戻りなさい、あなた! 」

 

とこう言って、一喝すると

 

「……あぁ、済まなかったカリーヌ」

 

と呟くとすぐに利き手である右手に力を集めて握りこぶしを作り身体全体がシャキッとなるとルイズにとある重要な問い掛けをする。

 

「異世界地球では、魔法も無く貴族逹も居なくて食料や衣類に身のまわりの品々に薬もない状態で、どうやって生活や政治をしていたのだ! 」

 

「それは……先に政治の方から言いますけど、大勢いる平民の中からこの者が良いと思った人を何百人も集めて、その中から何人かを皆の代表として選んだ者たちに政治を任していましたわ……生活は科学と呼ぶ魔法とだいたい同じ様な事ができるシステムを使って何事もなく普通に日々を暮らしていました……その証拠に私が異世界地球から持ってきたお土産にも、科学を使った物が有りますから、後ほど見せますから」

 

ルイズの一通り簡単な説明を聴いてすぐに、「ふぅ」と公爵は小さな溜め息をつく。

 

「……そんな貴族も居ない魔法も無い異世界地球に10年もの長い間暮らしてきたルイズが焦って早く魔法学院へ行きたくなるのも無理からぬ話だ……この件に関しては父である儂が何とかしよう。10年ぶりに逢えた可愛いルイズの為だ! 」

 

 

そう言って、右手で軽く胸を叩き任しておけと言うような自信満々な顔付きで語るヴァリエール公爵だった。

 

(……なんか父様ったら張り切ってるけど……私がかなり省いて話した地球世界の事を魔法と貴族が無いだけで、不便で野蛮に満ちた遅れた辺境だと思っているわね、あの顔は……地球世界の発達した科学文明について父様、母さまに本格的に説明するにはちょっと無理なのよねぇ……日本でもテレビの仕組みを知らない人たちに説明するのと同じくらい難しい事だから……だって、ハルケギニアじゃ足算、引算、掛け算、割り算に、あと分数、整数は有っても。円周率や微積分に円錐に一次、二次方程式に因数分解に化学式の存在じたいを知らないから詳しく説明できないし……それに弾道学も無いわよねぇ……知っていたら風メイジのスクウェアの母さまが使ってる魔法の威力でこのヴァリエール城どころか、トリステインの王都トリスタニアを一撃で数十キロ……違ったわね、数十リーグ先から葬りさる大魔法が撃てるハズなのに……今のところ最強術が、たったの130メイルくらいの空飛ぶ木造戦列艦一隻を叩き潰すくらいの威力しかない“カッター・トルネード”なんだから、呆れちゃうわよね……これじゃ地球の古代に存在してた。ギリシアやローマ文明にも劣るなんて、やっぱり魔法重視主義の弊害と貴族制度の行き過ぎが原因で科学が発達しなかったのよね……このままじゃハルケギニアのルネッサンスが訪れるのもまだまだ先みたいね……でも、母さまに各種科学知識教えて万が一理解してそれを魔法に応用したら、たぶん空気砲弾というか気化砲弾にレールガンすら実現化して、このハルケギニアを火の海にする事も簡単にしちゃうかも……母さまなら有り得るから、恐ろしいわ……絶対母さまにだけは地球の科学知識は教える訳にはいかないわ……)

 

ルイズは心の中で、ハルケギニアの特殊事情のせいで科学が殆ど発展してない事を嘆き、または自分の母親のカリーヌに間違っても絶対に地球の進んだ科学知識を教えるのはハルケギニアのHEIWAのためにも出来ないといろいろと考えていた。

 

「あなた、ルイズにそんな安請け合いして、本当に大丈夫なのですか? これでルイズの将来が決まってしまうかもしれないのですよ! 」

 

妻カリーヌの安請け合いして、本当に大丈夫かといった物言いにも平然としていた公爵である。

 

「なに、結構な額の入学金に3年間の授業料は無論の事。寄付金も通常の2倍……いや、3倍も積めば良いだろう。それでも駄目ならばこの儂自身が直々に魔法学院へ乗り込み、オールド・オスマンに直接会い、直談判すれば、それでルイズの入学が決まるだろう」

 

自信満々の父親のその言葉を聴いてルイズはものすごく喜びに溢れた声でヴァリエール公爵に駆け寄り

 

「父様大好き! 」

 

と言って公爵に抱きつくのでありました。

 

「……あなただけ、ルイズに抱きつかれて狡い……デ・ス・ワ・ネ……」

 

(……これ、まずいわね……母さまの不機嫌オーラがMaxになっているわ……だから、このままだと父様死んじゃうかも知れないわ……この場面は私が何とかするしか無さそうね……)

 

物凄く不機嫌な表情と声で夫のヴァリエール公爵ピエールにプレッシャーバリバリの言葉を投げつけている状況なので、このままじゃ今すぐ血の雨が降ると予想したルイズがきてんを利かせて、母のカリーヌへ優しい声である言葉を囁く。

 

「……私、母さまの事が大好きだから、そんな顔はしないで微笑んで欲しいの……母さまには……」

 

ルイズが優しい笑顔でカリーヌにそう語りかけると………。

 

「……やはり、私の小さなルイズは幼い頃と変わっていませんね……」

 

そう言って、カリーヌは夫のヴァリエール公爵ピエールに抱きついたままの最愛の娘ルイズに近づきそのきれいな顔をやさしく包み込むように抱きしめていた。

 

こうしてヴァリエール公爵家での両親との楽しい朝食の一時が過ぎて、これから約12時間後にはルイズにとっては10年ぶりになるヴァリエール公爵家での少し豪華な晩餐が始まる予定でありました。

 

 

続く。

 





 にじファンの時に載せていたお話に比べて中身はあまり変わっていないのですが、所々誤字や脱字を直したりおかしな文章を手直ししたりしていますけど……最大の違いは大幅に文章を増やしている関係上、このままだと話数がにじファンに投稿していた話数が最低で60話から最大が80話になり、新規書き下ろしの外伝も含めると90話以上になるから、本編の新規話を執筆出来るのはたぶん早くて5月以降になって、遅れたら8月になりそうなので、にじファンに載せていた分に関しての少しだけネタバレをします。

この後ルイズは無事に二人の姉と再会します。そしてトリステイン魔法学院へ入学していろいろ有って、キュルケ、タバサ、モンモランシーと友達になって地球の知識を使って色んなモノを研究して商品化していきます。

六子を妊娠している事が発覚して、いろいろあったあげくほとぼりがさめる間、魅惑の妖精亭で働き武器屋で例の口悪の魔剣と出逢います。

そして年内を過ぎた頃に待望の赤ちゃん6人の女の子を無事に産みます。

まぁ、だいたいこの様ストーリで進める予定ですので、これからもよろしくお願い致しますね。


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