心の軌跡~白き雛鳥~   作:迷えるウリボー

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26話 浮遊都市リベル=アーク②

 

 

 オリビエとの話を終えたカイトは、探索への決意を新たにしてエステルとジンに元へ向かった。そしてヨシュアの準備が終わるのを待って、一同は改めて探索を開始した。三十分ぶりのヨシュアの顔に浮かぶ疲労のようなものを指摘したエステルだが、ヨシュアは『細々とした補充に時間がかかった』というだけだった。彼の性格から少しばかり気にもしたが実際動きには何も変わっていないため、咎めることもなく話題は切り替わった。

 アルセイユから出た空間は、恐ろしく荘厳で浮世離れしていた。人が住むような空間でなく、むしろ公園のように憩いの場のような印象を受ける水路と木々の数々。これだけでもかつて栄えた文明を感じさせ、その禁断の領域に入り込むような重圧を感じた。

 白亜の大理石のトンネルを抜けると、大きな水路とその中に点在する小島のような構造の、公園区画。観光名所のような雰囲気だ。

 ブライト姉弟が、呆気にとられたように呟く。

「なんか、ここが空の上にあるっていうのが信じられないんですけど」

「古代ゼムリア文明、単に技術が発達していただけの文明じゃないみたいだ」

 声には出さずとも、カイトも同じ気持ちだった。ここが空の上で、千年以上前に封印された都市であることが信じられなかった。

 ジンが自らの戸惑いを消そうとするかのように言った。

「……だが、目の前にある以上どうしようもなく現実なんだ。大崩壊以前のゼムリア文明、そういったものが確かに、この大陸には眠っている」

 水路の小島をつながれた橋で渡っていくと、やがて小規模な祭壇のような空間の中心にある黒い円盤が見えた。円盤の周囲にのみ無意味な柵のような光が出ているが、一同は王都地下で経験したエレベーターシャフトのような印象を受ける。

 ブライト姉弟の姉と孤児院の姉弟の弟、単純頭よりの二人が呑気に喋る。

「これ……降りていくのかな?」

「そうだと思う。古代の人たちは、どうにも地下が好きみたいだね──!?」

 四人全員が向かった円盤の上に立った瞬間、円盤は浮遊し、四人の視界は見る見る間に上へ登って行った。

 ヨシュアが周囲を警戒しながら言う。

「惜しかったね、カイト」

「笑うなヨシュア!」

「だがカイト、腰が引けているぞ」

「真逆だったから驚いただけですジンさん!」

 賑やかに上昇を続けていく円盤と探索班。やがて、円盤は上層に浮遊する建造物に到達して、道をつないでから停止した。

 カイトは恐る恐る、他の三人は悠々と新たにできた道を行く。高いところが苦手、というわけではないのだが、上層は予想外すぎておっかなびっくりになってしまった。

「うわぁ……」

 すでに先を見ていたエステルが、信じられない、というような声を漏らす。その声の原因見たさにようやく意を決して、カイトは彼らへ近づく。

 降り立った構造物は中央島にある大きな台座を除けば、それらの端から二つほど橋がつながっているが、そのどちらも目に見える近さで先が途切れており、その用途は判らない。

 台座の近くからは、高さゆえに見晴らしのいい景色が広がっていた。浮遊都市の大半を見渡せるような景色だ。

「……圧倒的な光景だな」

「……すごい」

 ジンは感嘆して、カイトは知性を感じない一言しか漏らせなかった。

 先ほどカイト自身がアルセイユの上で見た地上は、自然の緑が広がるのみ。対して目の前の景色は、生命の営みを感じる水の青と、人類の繁栄を裏付ける大理石の白亜。その二つが眼前に途方もなく広がって、圧倒的な威容を感じさせている。

「こんなに大きな都市だったんだ……」

「さすがに、人が住んでたりはしてないよな?」

 カイトの乾いた笑いは、もはや誰も一笑しない。ここまで清冽に文明が保存されていると、どこかに生きている人間がひょっこりと現れて挨拶をしてもおかしくないように感じてしまう。

 ヨシュアが言った。

「異次元に封印されたとき、住民のほとんどは退去したと思う。たぶん、リベール国民のルーツはその人たちなんじゃないかな」

 その言葉に、この四人の中で確実にリベールの血が流れているエステルが驚いた。

「それって、あたしたちのご先祖様がこの都市に住んでいたってこと!?」

 ヴァレリア湖上に浮かんでいた浮遊都市。そこから退去した人々が、リベール人となり地上での営みを広げていった。おかしい話ではない。これだけの大都市という住処を失くしてしまえば、代わりに落ち着ける場所が必要だ。

 ジンが補足した。

「リベールに限らず、大崩壊以前のゼムリア文明の痕跡は本当に少ない。俺たちが判るのだって、せいぜい古代遺物の存在くらいだ」

 先ほどオリビエとの話に出てきた伝承でさえ、あれは大崩壊以後の伝承でしかない。この七耀暦が始まる以前、古代ゼムリア文明の足跡は、未だ多くの歴史学者や考古学者たち研究者が情熱を注ぎ、それでもたどり着けない神秘に満ちた茨の道だ。

 父親探しや、義姉との生活。そんなちっぽけな出来事から始まったこの旅の終末は、そんな浮遊都市だった。

 四人は改めて探索を開始する。一先ずこの展望台のような場所でできるのは、中央にある台座、そこにある端末を調べることだけだった。

 端末のスイッチらしきものを恐る恐る調べると、急激に文字が表れていく。膨大過ぎて眩暈がしそうになったが、何とか追えた文章はいくつかあった。《レールハイロゥ西カルマーレ駅》というこの場所の名称に《ゴスペルによる市民IDの認証》という興味深い文章、そして《リベル=アーク市》というこの浮遊都市の名称。

 まず、《レールハイロゥ》という存在について。ヨシュア、カイト、ジンがそれぞれ声を上げる。

「レールハイロゥ……何かの交通機関みたいだね」

「ジンさん、西カルマーレ《駅》ってことは……」

「ああ。俺たちが考えているもので概ね間違いはなさそうだ」

 ただ一人判っていないエステルは、少しむくれて説明を待った。

「ちょ、ちょっと、三人だけで納得しないでよ」

 カイトは帝国を旅してきた。ヨシュアは帝国の出身だった。ジンは共和国の人間だった。それは、大陸横断鉄道に乗車した経験があるか、あるいはよく知っているということになる。

 《駅》という名がある以上、この場は鉄道が通るための道、ということだ。どこにそんな道があるのかは判らないが、一先ず駅を起動だけさせて、一同は次の言葉に注目した。

「この都市の名は《リベル=アーク》というらしい。響きから察するに、《リベール》の語源かな」

 やはり、先ほどのヨシュアの言葉は正解だったということだろう。この都市の人間の血が、リベール人には流れている。

 最後に気になった、《ゴスペル》という因縁の導力器。

「ここの市民にとっては馴染みのあるものだったみたいだ」

 ゴスペルによる認証という文章、それはゴスペルがあれば何らかの権限が与えられることを意味する。身分証を兼ねた携帯端末……今まで一同を苦しめ続けてきたものがそんな日常的なものだったとは、常識が崩れていく音を感じた。

 そうして端末をいじる内に、地下道へのゲートロック解除のボタンを押していたことに気づく。レールハイロゥの列車は空の道をたどってきたことに驚くも稼働せず、一先ずは地下道で地道に探索を続けることにした。

 上ってきた円盤に乗り込んで、今度は心地よい風を受けながら降下していく。元の高さに戻るころには、端末が示していた地下道へ続く建造物を発見できた。

 一同はそのまま地下道へ。距離的には、まだアルセイユからほとんど離れていなかったのだ。

 地下道もまた、訪れた四人に現実離れした印象を与えた。光の届かない空間だが、いかなる機構か導力による光は絶えず供給されており、探索に支障をきたすことはなかった。襲い掛かる未知の魔獣を苦戦しながらも払いのけ、時折発見した古代の武具に助けられながら、長い道のりを進んでいった。

 久々に地上へ出ると、その景色は一変していた。

「まぶし……」

「久しぶりの地上だ……」

 先に太陽の下に出たエステルとカイト。遅れて出たジン。

「ここは、アルセイユ周辺の場所とは随分違う感じだな」

 自然にあふれていた公園区画とは異なり、数段の広場を中心にいくつもの建造物が軒を連ねている。人がいない影響か相変わらず魔獣が徘徊しているが、どこか生活感を感じる区画だった。

 最後尾を行くヨシュアが、少し考えてから言った。

「古代人が暮らしていた場所なんだろう。不時着地点よりは、多くの情報が集められそうだ」

 西カルマーレ駅のような端末が他の場所にもある可能性は高い。人はいなくとも、そうした痕跡をたどって行けば、判ることもあるかもしれない。

 今度はカイトが号令をかける。

「どうしてこんな立派な街がもぬけの殻なのかも、判るかもしれない。探索を進める必要もあるし、さっそく探索してみよう」

 今度の探索は、建造物の数が多いために二手に判れて行われた。義姉弟コンビと帝国旅コンビに判れ、地道に内部を調べていく。

 一般市民の家らしい場所にはベッドにも似つかないカプセルのようなものがあり、食材を保存するための大きな縦長の箱があり、アルセイユで見た巨大なスクリーンがあった。

 多くのイスとテーブルにワインが並べられていた娯楽施設には、暗い天井に星空を模した映像が投射されていた。

 巨大ビルの受付のような雰囲気を持った建物には、たくさんの用途が判らない機械や窓口があった。

 いずれの施設内部にもあったのは、やはり西カルマーレ駅でも目にした端末。大きなものや一般人向けの小さなものもあるが、変わらず導力演算器の要領で調べることができた。ただし、携帯端末であるゴスペルがないために利用できる権限は限られていたが。

 一つの区画の探索を終えて、四人は再び集まる。

「どう? 何か手掛かりは見つかった?」

 エステルの問いかけにカイトは答える。

「うーん、すごい、っていうほどのものはなかった。例の《駅》に行くためのリフトもなかったし」

「どうやら、この区画には駅はないみたいだね。諦めて別の区画まで行ったほうがよさそうだ」

「なら、あの階段を上った先に別区画への案内板があったぞ。そのまま進めば、新しい場所へも行けるだろう」

 男三人の報告を待って、エステルは次の場所へ行くことを決める。

 新たな区画への入り口は、階段を上った上層にあった。それだけでもなかなかの距離を歩いた。

 居住区画は多くの建造物と、その中心にある小規模な広間という造りになっている。新たに赴く区画もまた同じようで、四人は変わらず無人の閑散とした空気に迎えられるのだと思っていた。

 ただ、実際は違った。四人を迎えたのは、馴染みのない導力銃の銃撃と四体二種の人形兵器、そして野生味あふれる迷彩柄の飛空艇《山猫号》、そして一人の少女。

「ヨシュア、あれって!」

「うん、どうしてこんな所に……」

 ブライト姉弟にとって、その褪せた青の髪の少女は馴染み深いといってもいい存在で、そしてカイトとジンにとっても、初めて見た顔というわけではなかった。

「あれ? 確か、武術大会で……」

「ああ、空賊団のお嬢ちゃんか」

 人形兵器に追い詰められていた、飛空艇を守ろうとする少女。それはかつてボース地方で飛行船を強襲し、その後は王都の武術大会で市民を沸かせ、クーデター後はヨシュアと行動を共にしていたカプア空賊団の紅一点、ジョゼット・カプア。

 彼女は今、結社の人形兵器に蹂躙されろうとしていた。

「ヨシュア!」

「うん、承知したよ」

 義姉弟の判断を否定するような先輩と後輩ではない。全員が得物を構え走る。カイトもまた双銃を構え、短い集中の末ダークマターを放った。空間を重力に任せ圧縮するアーツは人形兵器すべてに後ろへの警戒を与える。

 人形兵器が一斉にこちらを向いてきた。四つ足に車輪を三体の哨戒用小型兵器と、一体の浮遊し幾多の車輪を回転させる拠点防衛用兵器《レオールガンイージ》。

 事態の転回に驚いたジョゼットは、四人を見て驚くばかりだ。

「ヨ、ヨシュア! それにノーテンキ女!?」

「だ、だれが能天気よ!」

「話はあとだ、まずはこの場を切り抜けるよ!」

 エステルもさすがに空気を読まない人間ではない。それを聞くだけのジンとカイトは苦笑して、攻撃を開始した。

 ヨシュアが戦場をかき乱し、哨戒用を傷つける。カイトのダイアモンドダストが炸裂し、あっという間に三体を機能停止させた。空いた隙をエステルは見逃さず、棍を用いて円を描いて幾度も突撃。少女に向いた敵の狙いをジョゼットの銃撃で逸らし、最後にはジンの雷神掌がレオールガンイージを破壊した。

 人形兵器の爆音があたりを轟かせると、居住区画は再び静寂に包まれる。

「ふぅ……なんとか片付いたわね」

 エステルは突然の出来事に息を吐き、対してヨシュアは一時期道中を共にした少女に声をかける。

「とにかく、本当に無事でよかった。でも、なんで君たちがここにいるんだい?」

「う、うん。ボクたち、あんたたちと別れた後、国境ちかっくに潜伏してたんだけど……」

 ジョゼットは語りだす。実際のところ、カイトとジンはこの空賊少女との縁をほとんど持っていなかった。必然、まだ新人だったころに因縁を持ったエスエルとヨシュアが、よく話を聞くことになる。

 ジョゼットとブライト姉弟が最後に会ったのは、エステルが結社に捕まりグロリアスに連れてこられ、そしてヨシュアと再会し脱出する際だった。奪った結社の飛空艇で逃げるヨシュアたちに対して、結社の強化猟兵たちは同じく飛空艇を駆使して追ってくる。その状況に介入したのが、ジョゼットたちカプア空賊団が乗りこなす山猫号だったのだという。

 その後山猫号は、この浮遊都市の出現に際して調査を行おうと近づいた。零力場発生器を持たない山猫号が墜落するのは、誰の目から見ても明らかなことだった。

「それで飛空艇が墜落したのか」

「そういえば、あんたのお兄さんたちはどこ行ったの? 姿が見えないけど、どこかに出かけちゃったとか?」

 エステルの気さくな問いかけに、ジョゼットは肩を震わせた。

 両者は出会う度にいがみ合っている。けれどそれは大抵どちらかが馬鹿にするからであって、今の言葉はそんな喧嘩を引き起こすような言葉ではない。

「な、なんなのよ?」

「ジョゼット、落ち着いて。ゆっくりでいいから事情を話してもらえるかい?」

 予想外のことに慌てふためくエステルをよそに、ヨシュアは理性的だった。生来の優しさも合わさって、落ち着いた声色はついにジョゼットの涙腺を決壊させた。

「ヨシュア……ヨシュアああ!!」

 次の瞬間には、ジョゼットはヨシュアに抱き着いていた。ジンはともかく、カイトとエステルが盛大に目を見開く。ヨシュアは朴念仁の名に相応しく、変わらずジョゼットの次の言葉を待っていた。

 そして混沌とした状況の中、ジョゼットは言った。

「結社の連中に兄貴たちが捕まったんだ! ボクは……ボクは、どうしたらいいの!?」

 

 

 

 

────

 

 

 

 不時着した山猫号のクルーすなわちカプア一家は、浮遊都市に辿り着いた経緯や目的こそ違うものの、結果的に機体を整備しなければならないという点ではアルセイユクルーたちと同じ状況になっていた。

「ご、ごめん。ボクとしたことが、取り乱しちゃって……」

「本当よ。色々な意味でびっくりしたワヨ」

 居住区画、誰とも知らぬ家の机と椅子を借り、ジョゼットを含めた五人は休憩している。そうして、ジョゼットは自分の身に起きたことを四人に明かしていた。

 この浮遊都市に不時着した後、備蓄していた食料を消費しながら機体修理に精を出していたカプア一家。そんな中、ジョゼットは周囲を警戒していると、結社の哨戒用人形兵器が現れた。多くを考えずにジョゼットはその人形兵器を銃撃とアーツで倒した。

 その直後だったという。結社の飛空艇が山猫号の下へと現れ、ジョゼットを除いたカプア一家メンバーを拘束したのは。

 親兄弟が結社に連れ去られたというのは相当にショックな話だろう。大切な存在を比べられるものではないが、エステルが連れ去られた仲間たちよりもその悲しみは大きいものかもしれない。

 それを察したからか、ジョゼットと犬猿の仲であるはずのエステルは、いつものような悪口を口にはしなかった。

「ああ、もう。そんな悲しそうな顔するんじゃないわよ!! 捕まってるんだったら助ければいいだけじゃない!」

「え……」

「いくら犯罪者といえど、不当に監禁されているんだったら遊撃士の保護の対象だわ。どうせ結社とも決着をつけなきゃいけないし……ついでにあんたのお兄さんたちも助けてあげるわよ」

 ジョゼットは今まで敵だったエステルに言われたことに驚いているようだ。

 しかしここに来るまで、仲間たちはエステルのお節介ぶりを何度も見てきた。その輝きは、いつだって仲間たちを救ってきたのだ。それがたまたまこの少女に向いているというだけ。

 この場にいる協力者は、全員が遊撃士だ。支える籠手の名にかけても、先ほどのエステルの方針は満場一致で賛成だった。

 ジョゼットはその申し出を突っぱねる。

「どうしてボクたちが遊撃士なんかに助けられないといけないのさ!?」

 どうやら遊撃士たちに仮を作りたくはないらしいし、性格もあるのだろう。だが残念ながらこの場には味方はいなかった。支える籠手というのは、ある意味正義の押し売りでもある。この場に至って、自分の正義に疑念を抱く人間はいても、自分の正義をあきらめる人間はいなかった。

 エステルは言う。

「だったらあんた、自分一人で助けられるわけ?」

 エステルにとっては彼らカプア一家に借りもある。それを返したいがための、エステルの意地悪な発言だ。

「ジョゼット、エステルの言うとおりだよ」

 ヨシュアは冷静に状況を見極めて、優しく諭す。

「君がここに一人でいたって、何の解決にもならないはずだ。それは判るよね?」

「……」

 ジョゼットは黙り込む。カイトは心の中でヨシュアの言うことなら突っぱねずに聞くのか、と呑気なことを考えた。

「しばらくの間、アルセイユで待っているといい。キールさんたちは《グロリアス》に捕まっているはずだ、停泊している場所を探し出したら、必ず君に伝えるから」

「……判った、ヨシュアがそういうなら」

 沈黙の末ではあるが、やはり大人しく従うジョゼット。カイトは続けてやはりそういうことなのか? と予想をつける。

「でも、ただ世話になるのはカプア一家の名折れだからね! 探索だろうが船の修理だろうが、きっちりと協力させてもらうよ!」

 彼女なりの礼なのだろう。だが彼女は空賊団の紅一点でもあるし、仕事はきっちりとこなしそうだ。

 方針は決まった。ジョゼットを仲間に受け入れ、新たにグロリアス探索という目的も加えられた。

 少女二人は、やいのやいのと言い合いを続ける。

「あーはいはい、本当に素直じゃないんだから」

「どこかのお人好しみたいに単純に出来ていないもんでね」

「あ、あんですってー!?」

 そこへヨシュアが火を注いだ。

「ふう、まったくもう。何が原因か知らないけど、少しは仲良くできないのかな」

 それに対して、少女二人は言い合いをピタリと止めて、少年を見ていた。今までのジョゼットの様子から彼女とヨシュアの関係性を予想していたカイトは、ようやくそういうことかとあたりをつける。

 沈黙した少女二人は、犬猿の仲なのが信じられないほど高度な連携で少年を追い詰めた。

「あのねえヨシュア」

「あんたがそれを言う?」

 謎の重圧にたじろぐ少年。蚊帳の外であるジンとカイトは、それぞれ二人らしい感想を思った。

(ははは、どうやら踏んでしまったようだな)

(…………朴念仁)

 カイトとしては、エステルとジョゼットと、そしてクローゼの中心にヨシュアをおいてじっくりと観察したかったりもする。理由は単純。

(少しは恋がらみの苦しみってものを味わえ、朴念仁)

 単なる嫉妬からだった。

 少年の度を越した鈍感さにやる気のなくなった少女二人は、停戦を提案して納得した。

 一同は改めて居住区画を探索し、一度アルセイユに戻ることとした。

 全ての建物を訪れたわけではないが、五人はやっと駅と地下道への入り口を見つける。いかなる理由か現時点では地下道のゲートロックを解除することはできなかったが、それでもレールハイロゥを起動することで西カルマーレ駅へ瞬時に戻れるようになった。

 アルセイユへ戻った一同は得られた情報を仲間たちへ伝える。犯罪者であるジョゼットの合流には面をくらった者もいたが、それでも歓迎され、新たに仕事に就くことになる。

 浮遊都市リベル=アークの最初の探索は、一人の仲間を得ることで終わった。


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